節水は節電に通ず―でも意外に難しい節水―
東京では節水はお金になりません。水道事業は基礎的自治体が手がける事業ですから、各市町村により、設備の規模も料金もさまざまです。なかにはとても高いと実感されるような自治体もあるようですが、こと東京に関する限り、別段高くもないと感じています。東京都水道局は、もともとかつての東京市の水道事業の後身です。その事業区域は本来は旧東京市(現在の23区)に限定されたものですが、都内の他の自治体の水道事業の委託を受けるケースが増え、現在では武蔵野市、昭島市、羽村市、檜原村をのぞく都内全域をカバーしています。
| 5月 | 7月 | 9月 | 11月 | 1月 | 3月 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2013年度 | 12.00 | 9.00 | 10.70 | 9.00 | 14.00 | 12.00 |
| 最大使用量 | 19.49 | 18.97 | 16.57 | 19.00 | 19.12 | 22.74 |
| 最低使用量 | 9.66 | 9.00 | 10.40 | 9.00 | 9.44 | 11.00 |
したがって、東京都水道局から給水を受ける人は、ほぼ日本の1割に相当します。もしその人々の多くが、筆者と同じような考えを持つなら、東京ではお金のために節水する人は存在しないでしょう。まず、安い。しかも多く使ってもそう高くならず、少なく使っても、ある程度は払わないといけない。そういう料金システムですから。
では、東京では節水に取り組む人はいないのかというと、そんなことはないでしょう。
筆者の場合、きっかけは節電同様東日本大震災でした。震災で電力事情の危機が伝えられると同時に、報道のなかにこんな解説があったのです。
「浄水場から給水まで、水道にはたくさんの電気が使われている」
それは電力供給が根こそぎアウトになれば、給水も難しくなるということでもあります。そして同時に、節水を心がけることが節電にもつながるということをも意味するでしょう。
筆者は節水も心がけようと決めました。でも、それは意外に簡単なことではありませんでした。
風呂の使い方の重要さ―湯船とシャワーの大きな違い―
節水に取り組むことが難しかったのは、冒頭で述べたように、お金になりにくい―つまりは自分に与えるエサがない―ということもありますが、それがいちばんの理由であったわけではありません。
最大の理由は、筆者の水道使用量が、東京都水道局を利用する単身者の平均的な使用水量を、すでに大きく下回っていたということです。
「このうえいったいどうしろというのか?」
そんなところです。しかし、機会はやがて訪れました。2013年の秋、ある用事で神奈川県の鶴巻温泉を訪れた筆者は、駅の近くにある、市民のための温泉施設の存在に気づきました。公的機関の運営によるもののようですが、とてもきれいで規模も大きく、複数の飲食店が併設されていました。
「入っていくか」
そう思ったのですが、入湯料を払おうと財布に手を伸ばしたとき、考えが変わりました。
「風呂ならうちにだってあるじゃないか」
筆者はこの数年間、家で湯船につかることはまれでした。多くはシャワーで済ませていました。水道使用量が少ないのも、要はそれが原因でした。かつては湯船に湯を張って使っていた時期もありましたが、ここ数年やめていました。酔って湯につかって寝てしまうということが幾度かあったからです。
「このままではいずれ風呂で死ぬ」
そんな危険を感じたのです。しかしそれからすでに数年が経っています。入湯料の金額を目で追いながら、「風呂の活性化」という言葉が浮かんできました。
筆者はその日を境に、ほとんど連日湯船に湯を張るようになりました。そして、その結果が数字として表れたのが、グラフにある1月分の使用水量です。使用量はこれまでよりうんとはねあがり、平均的な使用量との差はわずかなものになっていました。ちなみに、グラフの上のほうに赤の点線で表示されている最大使用量の月々も、いずれも数年前、湯船につかっていたたころのものです。
入浴のスタイルを変えたことで、節水という目標が新たに生まれたのです。
限界への挑戦―とことん続けるということ―
節水を進める最も簡単な方法は、湯船につかるのをやめ、シャワーに戻すことでしょう。しかし、筆者は一度築いた入浴パラダイスを簡単に手放す気にはなれませんでした。
「人並みに入浴を楽しみながら元の使用水量に近づける」
それが新たな目標となりました。そして考え付いたのが、風呂の残り湯の再利用です。
そんなことは当たり前と思う方もおいでになるかもしれませんが、筆者の場合、シャワーバスですから湯は汚れています。筆者は、以前ガス釜を使った風呂のある部屋に住
んでいたことがあり、そのときには風呂の残り湯を電動ポンプでくみ上げて洗濯に使っていました。でも、シャワーバスの残り湯は、どう見ても「汚水」なのです。そのまま
洗濯に使うなど思いもよりません。なにに使うにせよ、まずは水質を上げることが必要でした。
そこで、洗髪後のすすぎは、となりに設置された洗面台に頭を突き出して行うことにしました。次に、体を洗うのに使ったスポンジタオルも洗面台で洗います。体のほうは、今まで通りバスタブで流すのですから、水が本当にきれいに保てるわけではありませんが、これでだいぶ水質の悪化が防げました。しかし、これを洗濯に使うにはやはり勇気がいる。
結局、この水でも用が足りそうなものと言えば、トイレくらいしか思いつきませんでした。思いついたのですから、やってみるしかありません。実は風呂の残り湯をトイレに流すということは、トイレ設備のメーカーは推奨していません。水の汚れやゴミが、故障の原因となる可能性があるからです。構造の複雑な、温水洗浄便座つきのトイレならなおさらです。そのため、残り湯を流すときには、タンクに流さず便器に直接流すようすすめるメーカーもあるようです。
しかし、筆者のトイレは温水洗浄便座ではありません。それにタンクの汚れもときどき清掃すればなんとかなるのでは、という考えで、残り湯をタンクに流してみることにしました。
最初は洗面器やバケツで流し込んでいましたが、これは水がこぼれたり飛び散ったりするのでやめ、新たなシステムを構築することにしました。電
動ポンプの利用です。以前使っていたものがしまってあったのを探し出し、バスタブからトイレまで管をはわせてくみ上げてみると、使い物になるようでした。現在は、この「新システム」を利用して風呂の残り湯はトイレの水洗に使っています。
問題は、タンクに残り湯を移すたびにタンクのふたを開けないといけないこと、そしてときどきタンクの清掃が必要なことです。こうした問題点はあるものの、目下のところは不具合なく順調に使っています。
そしてその成果は、次回検針日のお楽しみです。
節電と節水―生じる矛盾点―
節水のために風呂の残り湯をトイレに流すことにしたわけですが、ここではそのために電動ポンプを使用しています。その分、当然電気が必要になります。
実は、これに類することはほかにもあります。
たとえば食器洗い機の利用です。食器洗い機は、ため洗い、ためすすぎですから、上手に使うとかなりの節水になることが知られています。筆者が食器洗い機の使用を再開したのは、なによりも便利だからで、必ずしも節水のためではありませんでした。しかし、使い続けるにあたっては、心のどこかに節水に役立っているという意識もあります。
電動ポンプも食器洗い機も、節水と節電の間に矛盾を生じさせています。そういう場合、どうしたらよいのか?
筆者は便利なもの、役立つものは使えばいいと考えています。その分の電気は、有効に利用していないのに出ていく無駄な待機電力の削減でひねりだせばよい。それが節電だと考えているからです。