構造設計講座(RCマンション編)

 
構造設計スキルをワンランク上げるための取組み 構造設計スキルをワンランク上げるための取組み
著者:建築構造設計べんりねっと
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6.柱、大梁の設計を行う。

①仮定断面作成

 いよいよ、メインフレームの設計です。検討にあたっては一貫構造計算プログラムを使用します。今回、使用するプログラムはストラクチャー社の「ビルディングエディタ」と言うプログラムです。 なんと、フリーソフトです。

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著者:野家牧雄
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 まずは入力・検討のための柱、大梁の仮定断面を決めなければなりません。仮定断面の簡略的な算定方法は『実務から見たRC構造設計』P.85にも紹介されていますが、マンションなどの一般的な建物であれば、いちいち先に手計算で当たって断面を決める人はほとんど居ないと思います。ほとんどの構造設計者は、「だいたい、こんなもんだろう。」と言う感覚や似たような建物の断面を参考にして、仮定断面を決めてしまいます。全て手計算で計算していた昔であればいざ知らず、一貫構造計算プログラムもあり、コンピューターの解析速度も速くなった現在では多少、解析を繰り返す事になっても、ざっくりと断面を決めて計算を始めたほうが手っ取り早いです。
 構造設計を始めて間もない方は、階数や柱の負担面積、梁のスパンが同じような建物を探して、その建物を参考にして断面を決めて下さい。

 さて、それでは仮定断面を決めましょう。

 まずは、Y方向の大梁は耐震壁付きの梁となり、応力は出ないのでRC規準の耐震壁付帯梁の規定に従い、断面を決めます。

<RC規準の耐震壁付帯梁の規定>

  1. 柱および梁の断面積:st/2以上
  2. 柱および梁の最小径:2t 以上のいずれかを満足する事。
    s:壁板の内法h'×L'の短辺の長さ
    t:壁厚


 今回の建物では、①~③通りはR階から2階まで300×600とし、梁せい750mmの小梁が取り付く、④、⑤通りは300×750とします。
 X方向の大梁ですが、A通りとB通りは荷重状態がほぼ同じである事が予想されるので同じ断面としたい と思っています。④~⑤間は①~④間に比べ、スパンが大きく若干きつくなると思われますが、取りあえず、同じ断面で検討してみたいと思います。
 断面サイズについては、最上階と2階の梁を決め、間の階は5cm程度ずつ断面を変える程度で決めます。
 今回は、R階で400×650、2階で450×750としてみました。

 次に柱ですが、外柱と中柱では中柱の方が水平力の負担が大きくなる事が予想されます。また、低層の建物であれば地震時の軸力もそれほど大きくはならないと思うので、外柱は少し断面を絞る形で検討してみたいと思います。
 断面サイズについては、梁と同様に最上階と最下階の柱サイズを決め、間の階は5cm程度ずつ断面を変える程度で決めます。中柱(C1)を4階で600×600、1階で700×700で検討してみたいと思います。

まとめるとこんな形になります。

仮定断面の柱梁符号

・梁リスト

G1 G2G3
R階400×650 300×600300×750
4階450×650
3階450×700
2階450×750

・柱リスト

C1 C2
4階600×600 550×550
3階600×600 600×600
2階650×650 600×600
1階700×700 650×650

②その他準備計算

 次に一貫構造計算プログラム入力のための準備計算を行います。
一貫構造計算プログラムとは、建物形状を入力すると荷重計算、部材剛性計算、応力計算、断面検定、保有水平耐力検討などまでを一連で計算してくれるプログラムの事ですが、どんな形状の建物でもそのまま入力・解析出来ると言う訳ではありません。

 プログラムの種類(メーカー)にもよりますが、例えば、以下のような部分はそのままの形で入力出来ません。

  1. 階段室、EVシャフトなど壁で鉛直荷重を支えている部分の重量。
  2. 設備機器などの特殊荷重。
  3. その他、特殊な形状の部位の荷重。
  4. 部分的に梁のレベルが大きく違う部分。(柱の剛性評価)
  5. その他、特殊な形状の部材

 このような部分は、別途で手計算で算定を行い、“追加特殊荷重”や“剛性計算補正データ”として、入力を行う必要があります。

 一貫構造計算プログラムに建物を入力すると建物形状がグラフィックで確認・出力が出来ますが、大事な事は見た目が実際の建物にあっているかでは無くて、解析・検討にあたってのモデル化・剛性があっているか、荷重が適正に評価されているかです。

 さて、今回の建物では、壁で支えられている階段室、EVシャフト、エントランス廻りの重量を別途手計算で算定し、追加特殊荷重として入力し、評価する事にします。この部分の重量は地震力計算、重心計算に影響します。地震力は建物全体で算出するので全体で算出し、重心計算に対しては個別で算定し、各部の位置に荷重を追加する事により、重心計算が適正に行われるようにします。

 積載荷重がある部分は架構計算用と地震力計算用では追加荷重が違ってくるのでくるので分けて算出します。また、この荷重はこの部分の基礎計算にも使用するので後で基礎の設計を行う時に計算しやすいように算出しましょう。その他、各プログラムの入力方法に合わせた形で算出する事を意識する事も必要です。

【検討結果】特殊荷重、その他準備計算

③プログラムの入力

 一貫構造計算プログラム入力用の準備計算が終わりましたら、いよいよ実際の入力を行います。入力方法は各構造計算プログラムのマニュアルを参照して下さい。
 入力が終わったら、まずは入力した全てのデータを出力し、間違いが無いかをチェックします。入力データが間違っていたら、当然、出てくる結果も自分の思っているものとは違う結果となってしまうので隅から隅までチェックを行います。

 一貫構造計算プログラム入力データ

④解析結果のチェック

 入力が終わりましたら、早速、解析させてみましょう。データに問題が無ければ解析が最後まで行われる(流れる)はずです。しかし、データに問題があると解析が途中で止まってしまったりする事があります。
 さて、ここで重要なのは、解析が流れたといってもその結果が必ずしも完全に正しいとは限らないのです。プログラムのマニュアルにも全ての解析(計算)内容・方法が書かれている訳でもなく、プログラムごとの解析特性もあり、その内容を100%完全に把握する事は出来ません。もちろん、プログラムであるのでバグもあったりします。
かと言って、入力データに比べ、膨大な量の解析結果の出力を全て手計算で確認する事も出来ません。
 ではどうするかと言うと、解析の途中結果を部分部分チェックし、解析結果の妥当性を確認する方法を取ります。チェックポイントは以下のような部分になります。



(1)建物形状(平面、立面)の確認
 一貫構造計算プログラムでは、入力した建物形状がグラフィックで確認する事が出来ます。
 まずは画面で建物形状におかしい所が無いか確認しましょう。

【検討結果】伏図、軸組図グラフィック出力

 プログラムによっては、3Dで出力する事も出来ます。初めて一貫構造計算プログラムを使った時は建物の形状が出来ただけで満足しちゃいます。(笑)でも、設計は未だこれからです。

(2)エラー、ワーニングの内容のチェック
 入力方法に問題(間違い)があったりするとエラーやワーニングのメッセージが表示されますので、この部分に係る部分の入力データをチェックし、修正します。
 また、入力データに間違いは無くとも、やや特殊な使用方法をした場合などは、『注意して下さい。』と言う意味でメッセージが表示されます。この場合はこの入力データに係る部分が問題のある解析結果となっていないか確認します。

(3)解析モデルのチェック
 一貫構造計算プログラムでは、解析モデルがグラフィックで確認する事が出来ます。
 ここでは材端条件(ピンor剛orバネ)、支点の条件、耐震壁の有無、剛域の位置などをチェックします。
 特に開口がある壁は耐震壁になるのかどうかをチェックし、プログラム内においても耐震壁として認識されているかどうか確認しましょう。

【検討結果】構造モデル図

(4)地震力のチェック
 地震力のチェックは、標準せん断力係数(C0)や固有周期(T)、外力分布(Ai)などの確認と各階の単位面積あたりの地震用重量のチェックを行います。地震用重量のチェックは全て手で計算して確認するのでは無く、通常は似たような建物の重量と比較する事で荷重の妥当性を確認します。

【検討結果】地震力

(5)剛心、重心のチェック
 建物の剛心位置、重心位置も平面的にグラフィックで確認出来るのでだいたい自分の思っている位置になっているかを確認します。チェックのポイントとしては、建物の中心に対して、右なのか左なのか、上なのか下なのか、重心と剛心の位置関係はどうなのかと言う所に注意し、妥当かどうか確認する事です。

【検討結果】重心位置・剛心位置

 この建物であれば、重心位置は建物中心(居室部分の中心)に対し、階段・EVホールが取り付いている上側、右側になります。  剛心位置についてはX方向はA通りもB通りも同じ形状であり、Y方向についても同じ形状の耐震壁付きフレームとなっているのでほぼ建物中心になります。(階段、EVホールの雑壁の影響で若干、上側・左側に寄ります。)

6.水平力分担のチェック
 水平力分担は各階の各柱、各耐震壁の負担水平力のチェックを行い、以下のような部分について確認し、解析結果が妥当かどうかを確認します。

  1. 大きい断面の柱ほど負担水平力が大きい。また、長い袖壁などが取り付き剛性があがる柱の方が負担水平力は大きくなる。
  2. 同じ断面の柱であれば、片側のみに梁が取り付く外柱よりも、両側に梁が取り付き回転の拘束が大きい中柱の方が負担水平力は大きい。また、同じ断面の中柱であれば剛性の大きい梁が取り付く柱の方が負担水平力は大きくなる。
  3. 耐震壁が混在するフレームであれば、耐震壁と柱の水平力負担の比率は妥当か。。
  4. 剛心と重心の偏心による各フレームの負担水平力の比率は妥当か。


【検討結果】水平力分担

(7)応力図、変形のチェック
 曲げモーメント図や変形についてもグラフィックで確認出来るので応力・変形の方向、反曲点の位置、応力の大きさなどを確認します。

【検討結果】応力図

(8)その他、計算条件などによる解析結果のチェック
 その他、層間変形角や計算ルートの確認を行います。また、特殊な計算条件などを入力した場合はその部分が想定通りの応力・変形となっているかを確認します。

 このように入力データのチェックのみでは無く、そのデータが解析結果として反映されているかを確認する事が重要です。

⑤柱、大梁、耐震壁の断面検定

 応力が問題ない事を確認したら、柱・大梁・耐震壁の配筋を入力し、断面検定を行いましょう。 断面検定も一貫構造計算プログラム内で設計ルートにあった方法で自動的に行ってくれますが、当然、計算方法を理解しておく必要があります。計算方法は『実務から見たRC構造設計』を参照して下さい。

※梁の断面算定方法   『実務から見たRC構造設計』 P.117~参照。
※柱の断面算定方法   『実務から見たRC構造設計』 P.143~参照。
※耐震壁の断面算定方法『実務から見たRC構造設計』 P.177~参照。

 まずは応力状態が近い部材を同じ符号にまとめ、配筋を入力し、プログラムで断面検定を行い、検定比を確認します。NGとなっていれば配筋を増やし、余裕があり過ぎれば配筋を減らし、再度、断面検定を行います。配筋で調整出来なければ断面寸法の変更を行います。
 このようにして断面・配筋を決めていきますが、ただ応力に合わせ、配筋・断面を決めるだけでは無く、場合によっては断面サイズ(剛性)を変更し、応力を調整する事により、断面を納めていくなどの作業も行います。

  1. NGとなっている部材の断面サイズを落とし、応力を少なくする事により、納める。
     (逆に他の部分の剛性を上げて、当該部材の応力を少なくする。)
  2. 上下の梁サイズを変更し、柱応力の反曲点を調整して納める。
    など。。。

このようにしてまとめた断面はこちらになります。
【検討結果】柱、大梁、耐震壁の断面検定

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