構造設計講座(RCマンション編)
構造設計講座(RCマンション編)PDF版がダウンロード販売代行サービスBoothより、購入出来ます。(価格:500円)
設計例を書いた本も多数出版されていますが、このサイトでは、解析は一貫構造計算ソフト(フリーソフト)を使用し、注意事項等についても、極力、実際の業務に近い形で説明します。
まずは、RCの共同住宅(マンション)の設計例です。
尚、サブテキストとして学芸出版社『実務から見たRC構造設計』を使用し、説明をします。
【基準階平面図】
【立面図】
※各階平面図(PDFデータ)は、コチラより。
※立面図、断面図(PDFデータ)は、コチラより。
- 打合せを行う。
- 略伏図を作成する。
- 設計用荷重を算定する。
- スラブの設計を行う。
- 小梁の設計を行う。
- 柱、大梁の設計を行う。
- 基礎の設計を行う。
- 保有水平耐力の検討を行う。
- 構造図を作成する。
- 計算書をまとめる。
- 確認申請を行う。
1.打合せを行う。
構造設計の依頼が来たら、まず最初に行うのは意匠担当者との打合せです。意匠担当者から意匠図(平面図、立面図、断面図等)をもらい、建物の説明を受け、設計条件などの確認を行います。
通常、意匠設計もある程度、同時進行で行うので詳細図まで出来ていない事も多いので、思い込みで進める事無く、ここでしっかり確認をしておく事が必要です。
①各部の寸法や納まりの確認
まずは意匠図を見ながら、各部の寸法や納まりの確認を行います。
・部材(柱、梁)の寄り
通り芯=壁芯・柱芯、柱・梁は壁面押えなど以外に、意匠の都合上、柱の寄りの指定があれば確認をしておきます。場合によっては、柱の寄りの指定により、梁幅の制限が出てしまう場合もあるので注意が必要です。
・柱、梁の断面サイズの制限
意匠上の柱・梁のサイズの要望のある箇所があれば、出来るかどうかは別として、要望を確認しておきます。逆に中途半端な寸法では、後で増し打ちしたりと納まりが悪くなってしまうので、この寸法にして欲しいと言う事もあるので確認が必要です。
また、設備スリーブが設置される梁は、スリーブ径の3倍以上の梁せいを確保しなければならないのでスリーブが通る可能性がある部分は確認しましょう。
・壁及びスラブの厚さ
デベロッパーによっては、壁やスラブの最低厚さを指定している所もあるので確認が必要です。特になければ、構造の方で決めると言う事で良いでしょう。
・階高の押え及び床下がり範囲
矩計図に、はっきりと表示されていれば良いのですが、断面図のみである場合は階高の押えは仕上げ天端なのか、コンクリート天端なのか確認します。仕上げ天端の場合は、仕上げ厚さの確認を行い、コンクリート天端レベルの確認を行います。構造階高に係る部分なのでしっかりと確認する事が必要です。
また、バルコニー・廊下などの床下がりレベルやその他スラブを下げる必要がある箇所があれば確認をします。床下がり範囲は梁の配置計画にも影響する所になります。
・開口寸法、壁長さの確認
ほとんどは、図面にスケールを当て、計ってしまう程度で、開口の大きさによっては、耐震壁になるかどうか微妙な箇所は開口サイズの確認が必要です。
・その他の寸法
エレベータのピット深さ及びオーバーヘッドの寸法やその他、不明な箇所の寸法の確認を行います。
②仕上げ及び用途の確認
仕上げは固定荷重、用途は積載荷重に係る部分なのでしっかりと確認しましょう。仕上げ表や矩計図がある場合はそれを元に確認を行います。
・各部(各部屋)の床及び壁仕上げ
まず、床及び壁仕上げの確認を行います。フローリングやプラスターボード等であれば、それほど影響はありませんが、コンクリートの増打やモルタル下地なとは重量も大きいので厚さの確認が必要です。特に屋上などは水勾配を増し打ちで取る場合もあるので注意が必要です。
・積載荷重
住居部分については、通常の住宅の積載荷重で問題ありませんが、屋根については歩行用とするのか、非歩行用とするのかは確認が必要です。その他、倉庫・機械室なので特殊な積載荷重の設定の有無を確認します。
・その他の荷重の確認
その他、機械や高架水槽などの重量物がある場合は、重量を確認しておきます。
③その他、仕様などの確認
・その他の建物仕様
避難ハッチ・点検口・人通孔の有無など構造に影響があると思われる部分の仕様及び位置の確認を行います。
・地盤調査データの確認
地盤調査データについては、計画建物を設計するにあたり、十分なデータがあるか、また、配置図のベンチマークから地盤調査の孔口標高のレベルがおえるかどうか確認を行います。
④業務上で確認が必要な事項
・建物の一般事項
工事名称、建設地の住所、延べ面積などの一般事項は、構造設計概要書にも記入が必要なので確認をします。また、建築確認を申請する確認審査機関も聞いておきましょう。
・設計基準の有無の確認
設計事務所・ゼネコンやデベロッパーによっては、独自の設計基準を作っている所もあるので設計基準の有無の確認を行います。また、図面表現についても指定がある場合があるので確認しておきましょう。
・納期及び業務範囲の確認
最後に納期及び業務範囲の確認を行います。最終的に意匠とすり合わせが必要になるので仮納品、最終納品の確認をします。また、工事監理の有無など業務範囲の確認もしておきましょう。
打合せ事項としては、だいたいこんな所だと思いますが、打合せをした事項については議事録をまとめ、渡しておくと間違いがありません。
【資料1】打合せ議事録
【資料2】エレベータ資料
【資料3】ボーリング柱状図
【↑ページ先頭へ】
2.略伏図を作成する。
柱、大梁及び小梁等の位置を決め、略伏図の作成をします。構造計画と言うべき作業であり、最も重要な作業です。
①柱、大梁、耐震壁(メインフレーム)の配置を決める。
まず、柱を配置します。基本的には意匠図にあわせ、柱を配置しますが、構造的に追加が必要な箇所があれば追加をし、逆に意匠図にはあるが、不要な柱であれば無くします。(柱を追加または無しにする場合は、意匠計画にも大きく係る部分なので早めに意匠担当に連絡が必要です。)
次に柱と柱を繋ぐように大梁を配置します。又は柱から大梁にかけたり、片持ち形式にて配置します。
また、耐震壁とする部分を決めます。開口がある耐震壁であれば、開口の大きさ・形状を良く確認し、耐震壁と出来るかどうか確認します。
※耐震壁となる開口率『実務から見たRC構造設計』P.179参照
柱、大梁、耐震壁位置を計画する時は、以下の点がポイントです。
- 鉛直荷重を支えられているか。
- 平面的、立面的な剛性のバランスは悪くないか。
また、RC造の場合は階段室やエレベーターシャフトなどをRC壁のみにて鉛直荷重を支える形式とする事もあります。
今回の建物では、意匠図通りに柱を配置し、柱間の各方向に大梁を配置します。バルコニー及び廊下については片持ちスラブとします。階段については、中央に設けた壁からの片持ちスラブ形式とし、エレベーターシャフト及び1階のエントランス部分も壁で支える形式としました。
②基礎及び地中梁の配置を決める。
地中梁の配置を決めるには、まず、基礎をどこに設けるかを考えておく必要があります。基礎、地中梁位置の計画についても上部架構と同様にまず、鉛直荷重を支えられているかを考えましょう。
今回の建物では、基礎については各柱の下及び階段壁の下、エレベーターシャフトの中央、エントランスの出隅部分に基礎を設ける形と考えています。この部分を支点とした場合にエントランス部分の鉛直荷重を支えられるように地中梁を配置しました。⑤通りについては片持ち梁形式としています。
エレベーターシャフトやエントランス廻りは、梁天端が下がる事になるので取り合いが悪くならないように梁レベルを考えながら、計画する事が必要です。
(一般部地中梁は、人通孔600φを設けるので梁せいは、3倍の1800mmとなります。)
③小梁位置を決める。
小梁の位置を決めるには、まず、スラブがどのくらいの大きさまで、もつかを考える必要があります。スラブ厚さは15cmで考えていますが、目安としては以下の大きさくらいが良いでしょう。
- スラブの面積 25㎡以下
- スラブの短辺長さ 4m以下
スラブがこの大きさ以下になるように小梁位置を計画します。と言っても階高と天井高の関係で梁形が天井から出てしまう場合は、部屋の真ん中に配置しては照明が取り付けられなくなったり、圧迫感も出てしまうので小梁は意匠的に邪魔にならない間仕切り壁に沿った位置に設けなければなりません。
床下がり範囲は段差処理がしやすいように床下がり部分に沿って、高い側に小梁を配置します。また、床下がり部分をまたぐように梁を配置するとレベルが高い部分では上側を増し打ちしたりと納まりも悪く、不経済であるので極力避けましょう。
その他、小梁の配置計画には以下のような点に注意しましょう。
- ユニットバスの上部に梁を設けない。(梁があたってしまう場合がある。)
- PSやスラブ貫通配管がありえる部分には梁を設けない。
そして、当然、構造的な配慮も必要です。
基本的にはスパンの短くなる方向に小梁をかけた方が有利ですし、同じスパンであれば単スパンよりも連続スパンとなったほうが応力も小さくなります。また、この建物のようにY方向が耐震壁付き梁となる場合は応力的に厳しくなるX方向の大梁に対する長期荷重の負担が少なくなるようにY方向の大梁に小梁をかけるほうが望ましいでしょう。
階段踊り場部分については、階段壁からの片持ち梁を設け、支える計画としました。
このようにして計画した略伏図が以下になります。
【検討結果】略伏図
この略伏図は、この後で特殊荷重配置図に利用したり、計算した部材の符号を記入したりなどで使用するのでとりあえず、何も記入しない形で作っておきます。
構造計算書には、略伏図の添付も必要ですが、この建物では特に架構が複雑になる箇所も無いのであとで作成した構造図をそのまま添付する事にします。
【↑ページ先頭へ】
3.設計荷重を算定する。
構造計算に使用する設計荷重の算定をします。
①床固定荷重(D.L.)
床固定荷重は、用途及び仕上げ、躯体重量(スラブ厚さ)が異なる部位ごとに算定します。室内の軽微な仕上げ(カーペット敷きやフローリング)などの違いは躯体重量の大きいRC造ではあまり影響しないので分ける必要はありませんが、スラブ厚さが変わると思われる箇所については同じ用途、仕上げでも分ける必要があります。
この建物では、片持ち形式となるバルコニーと廊下は根元部分のスラブ厚さをスパンの1/10を目安とし、それぞれ150mm、180mmと仮定し、分けて設定しました。
※片持ちスラブの厚さ『実務から見たRC構造設計』P.101参照
各部位の仕上げ重量は、仕上げ表及び矩計図をもとに算出していきます。
床固定荷重は仕上げ及び躯体の単位重量に厚さをかけて、それぞれ算出し、合計します。仕上げ、躯体、下階の天井と上から順番に書いた方が後で見たり、他の人が見た時にわかりやすいでしょう。
軽微な仕上げは厚さの表記はなしでもかまいません。また、軽微な間仕切り壁などは、単位面積あたりに均して算出してしまいましょう。
各仕上げ材の重量などは、日本建築学会の『建築物荷重指針・同解説』を参考にして、算定します。その他、不明な材料などはその材料のカタログなどを調べて、算出します。
根元と先端のスラブ厚さが違う片持ちスラブの躯体厚さは平均厚さで算定します。基本的には根元の方が厚くなるのでスラブを計算するにしても安全側になります。(まれにある先端の方が重くなるような片持ちスラブは注意しましょう。)
階段については単位面積あたりの平均重量となるように算定します。
②積載荷重(L.L.)
積載荷重は部屋・部位の用途ごとに算出します。特殊な機械室や倉庫なのではない限り、基本的に施行令85条の数値で設計します。床・小梁計算用、柱・梁・基礎計算用、地震力計算用と分けて算出し、後の計算がしやすいように床固定荷重と足し合わせた総荷重(T.L.)を算定し、表にします。
この建物は、居室部及び廊下などは、住宅用の1800、1300、600N/㎡とし、屋根は通常は人が使用しない非歩行屋根なので住宅用の1/2の900、650、300N/㎡とします。
※積載荷重『実務から見たRC構造設計』P.73参照
③壁固定荷重
壁の固定荷重も仕上げ表及び矩計図、平面詳細図もとに算出していきます。躯体重量の大きいRC造では重量の影響が少ないサッシなどは無視してかまいません。
④その他の荷重
その他、パラペット、RC手すり、機械荷重など重量を算定します。
このようにして作成した設計荷重が以下になります。
【検討結果】設計荷重
地震力は一貫計算プログラムで計算しますのでこの部分での算定は不要です。また、低層のRC造では風荷重で部材が決まる事は無く、また、一般地域では積雪時で部材が決まる事もないので風荷重及び積雪荷重の算定も不要です。
【↑ページ先頭へ】