構造設計講座(RCマンション編)
- 打合せを行う。
- 略伏図を作成する。
- 設計用荷重を算定する。
- スラブの設計を行う。
- 小梁の設計を行う。
- 柱、大梁の設計を行う。
- 基礎の設計を行う。
- 保有水平耐力の検討を行う。
- 構造図を作成する。
- 計算書をまとめる。
- 確認申請を行う。
4.スラブの設計を行う。
さて、これから構造計算を始め、各部位の断面・配筋を決めなければならない訳ですが、まずはスラブから計算します。何故かと言うと、スラブがもたなければ小梁の配置やスラブ厚さ(床固定荷重)を変えなければなりません。先に小梁や大梁・柱を計算してしまっては、場合によっては設計条件が変わり、手戻りになってしまいます。
まあ、ベテランの設計者であれば、そんな事はありえないのですが、構造設計を始めて、間もない方は、スラブ→小梁→大梁→柱→基礎と荷重が流れる順番で設計していきましょう。
①四辺固定スラブの設計
まずは最も一般的な形状である四辺固定スラブの設計をします。長方形形状で四辺が小梁又は大梁で囲まれている形状のスラブです。
スラブの部材決定、安全性確認には以下の項目の検討を行います。
- 曲げ応力に対する検討(スラブ配筋の検討)
- せん断応力に対する検討
- 変形、振動に対する検討討
- 建築学会RC規準の必要スラブ厚の検討
→ 『実務から見たRC構造設計』 P.102 (4.1)式
断面の検討を行うには、まず、応力計算をしなければならない訳ですが、長方形スラブの応力は下の図のように非常に複雑になります。
一般的には短辺方向と長辺方向を比べれば、短辺方向の方が大きくなる。中央と端部を比べれば端部の方が大きくなる。隅部は最も小さくなる。それも連続的に応力が変化していく。
それぞれの部分に対して、配筋を計算し、図面で指示しても良いのですが、それでは施工が非常に煩雑になり過ぎてしまいます。(鉄筋を少なくしたコスト減よりも手間が増える事による施工費の方が増えてしまう事が多いようです。材料費が高く、人件費が安かった昔が違ったようですが。私が昔、現場に居た時の事ですが、鉄筋屋さんからこのような配筋に対して、材料の増加費用は要らないからモチアミ配筋にさせてと言われた事があります。)
一般的には、スラブの配筋は以下の部分で配筋を分けます。
短辺方向上端筋、短辺方向下端筋、長辺方向上端筋、長辺方向下端筋
よって、応力も 短辺方向端部、短辺方向中央、長辺方向端部、長辺方向中央の4箇所の算定を行います。応力の算定は、『実務から見たRC構造設計』P.103のように計算図表によっても良いのですが、以下の略算式によっても算定出来ます。
スラブの配筋はピッチで表現するので、応力も単位長さあたりの応力で求めます。スパンは、内法スパンで良いのですが、後でどこの計算をしたか判りづらくなるし、若干の寸法の調整でも計算書を変更しなければならないので基本的に梁芯間や壁芯などとし、寸法が図面で簡単に追えるスパンで計算しましょう。
告示第1459号では『使用上の支障が起こらないことを確かめる事』として、スラブの厚さが短辺スパンの1/30以上で無い場合は、計算した弾性たわみに変形増大係数“16”をかけた値がスパンの1/250以下である事を確認しなければならない事となっていますが、
『実務から見たRC構造設計』P.102 (4.1)式は、この事と同じ意味の式です。(RC規準参照)
それでは、一つ計算してみましょう。
【検討結果】四辺固定スラブの計算例(基準階居室部分の①~②通り間の一番の下のグリッド)
ここで一つ注意事項ですが、一番上の配筋になる短辺方向上端筋ですが、必ずD13の鉄筋を混ぜるようにして、最低D13とD10を交互に並べたD10,D13@200としましょう。
これは、鉄筋屋さんがスラブを配筋した後、大工さんやコンクリート工さん、監督さん、その他の人がスラブの上を歩く訳ですが、細物のD10だけだと配筋が乱れてしまうからです。まあ、現場が不慣れな人がスラブの上を歩けば、どう配筋しても乱されてしまうのですが。
配筋検査などでスラブ筋の上を歩く時は、上端筋が交差している部分の主筋(短辺方向の配筋)に足をかけるようにしましょう。配力筋(長辺方向上端筋)に乗ると結束線が切れてしまいます。
これは、設計の注意事項じゃないですか。(笑)
その他、スラブの設計には以下の点に注意しましょう。
- 極力、隣合うスラブは短辺長辺の方向を合わせる。
隣合うスラブで短辺長辺を逆にすると梁の上で鉄筋が重なりすぎて、かぶりが取れなくなってしまう事があります。また、三角の部分などを作ると更にひどい事になってしまいます。(しょうがない事も多いですが。。。) - 最低、主筋は200ピッチ、配力筋は250ピット、スラブ厚は150mm以上とする。
スラブの中には電気配線用のCD管を通す事が多いのであまり薄いとひび割れ、たわみの原因となる事があります。
②片持ちスラブの設計
次に片持ちスラブを設計してみましょう。
片持ちスラブは、四辺固定スラブなどに比べれば、応力は単純です。
ここで一つ注意する点として、片持ち部分(突出部分)は鉛直震度(局部震度)の影響を考えて、応力を1.5倍して検討をします。告示第594号では、2m以下の場合は考慮しなくても良いとなっており、また、鉛直震度分であれば1.33倍でも良いのですが、通常は1.5倍します。
その他、注意点としては、非難ハッチなどの開口部は主筋が切れてしまうので通常のスラブ開口補強筋では足りなくなる事があります。開口周辺は主筋を増やす、鉄筋径を上げるなどの措置を図面で指示しましょう。
【検討結果】片持ちスラブの計算例(基準階廊下部分)
同様に他の部分のスラブの設計し、略伏図に符号を記入します。
※残りは面倒なので『RCチャート』と言うソフト使って計算書を作成しました。一般的にも手計算では無く、ソフトを使用して設計する事がほとんどです。
【検討結果】スラブの計算書(一式)
【検討結果】スラブの符号配置
※スラブ計算のフリーソフトはコチラから
【↑ページ先頭へ】
5.小梁の設計を行う。
①応力計算方法
通常、小梁の設計応力はRC規準による小梁応力で算定します。以下のように端部についても支持する梁のねじれ剛性を評価して応力の算定を行います。
但し、この設計応力はスパンや荷重状態が同じ程度である連続梁である場合に限ります。そうで無い場合は固定モーメント法で算出した方が良いでしょう。また、単スパン梁の場合もスパンが長い場合やその小梁断面に対して支持する梁の断面が、あまり大きく無い場合やスパンが長い場合も端部の固定度が落ち、
中央の応力が大きくなってしまうので単純梁で算出した方が良いでしょう。
梁に対する四辺支持となるRCスラブの荷重の流れ方は下図のようになります。この荷重の流れ方の形を“亀の子”と言います。この形に合わせ、C、M0、Qも台形分布荷重、三角形分布荷重で算定します。
応力は各梁の端部と中央で算定を行います。
②断面算定
小梁の検討項目としては他の横架材と同様に曲げ応力に対する検討(主筋の決定)、せん断応力に対する検討、変形(たわみ)の検討を行います。
梁の断面算定方法 『実務から見たRC構造設計』 P.117~参照。
断面算定は、長方形梁として算定します。略算式のでギリギリで決めると釣り合い鉄筋比を超えていて実はNGなんて事なりかねないので面倒くさらずに長方形梁で算定しましょう。
せん断に対しては、コンクリート断面のみでもたすようにし、せん断スパン比による割増αも考慮しない程度で断面を設定したほうが良いでしょう。
小梁のような長期荷重のみで断面が決定する部材は断面が不適切であるとすぐにたわみや振動障害などの不具合が発生してしまいます。十分に余裕を持った断面設定が必要です。
配筋はスパンの短い梁で無い限り、両端・中央で分けます。主筋1本程度の差であれば、たいしたコストの差は無いのですが、不経済な設計をしていると思われてしまうので端部と中央は分けましょう。但し、内端・外端を分けるのは現場での間違いの元となってしまうのでやめた方が無難です。どうしても分ける必要がある場合は、“①通り端”などとはっきり判るように表現しましょう。
(→『建築構造設計べんりねっと』構造設計失敗談参照)
さて、ここまでは、どんな本でも載っている事でそんなに難しい事ではないでしょう。実務上で悩むのは、どの程度の余裕(安全率)で設計すれば良いか、鉄筋径はどれを使えば良いか、断面サイズはいくつにすれば良いのかと言う事でしょう。
まず、梁せいですが、基本的には、単純梁でスパンの1/10、連続梁で1/12を標準とするのが良いでしょう。この寸法以下とする場合は変形やひび割れの検討などを行い、慎重に断面を決定する事が必要です。
ひび割れの検討はRC規準を参考にして下さい。告示第1459号では変形(たわみ)の検討を行う際の変形増大係数が“8”となっていますが、私の感覚でもこの値は妥当な値では無いかと思っています。この告示では変形(たわみ)の検討を行う際の積載荷重は地震力算定用で良い事となっていますが、小梁検討用で算定する程度の余裕は持たせた方が良いでしょう。
梁幅ですが、まずは決めた梁せいに対して、せん断がコンクリート断面のみでOKとなる幅にします。また、鉄筋の本数は2段目の配筋が2本程度で納まる程度の梁幅にした方が良いでしょう。後でなんらかの変更があった場合でも鉄筋本数の変更で対応できる程度の余裕は残しておきましょう。
使用する鉄筋径ですが、通常のマンション程度のスパンの建物であれば、一般部分をD19若しくはD22とし、スパンや応力の小さい小梁にはD16を使用する程度で良いでしょう。主筋本数は最低3本は入れた方が良いと思いますので応力の小さい小梁は3本で足りる主筋径とすれば、良いでしょう。
現場の作業効率の面から考えると、同じ鉄筋量であれば、太い径を使い、本数を減らした方が良いでしょう。(このほうが効率良く数量を稼げるので鉄筋屋さんは喜ぶ。/笑)逆に太い径を使うと定着長も長くなる(繋がる梁も定着長を確保できる大きさが必要)などの納まり面でのデメリットもあります。これらを考慮して使用する鉄筋径を決めれば良いと思います。
その他、以下の点に注意して設計して下さい。
- 連続する部分は同じ断面配筋にする。
- 集中荷重が作用する単純梁では荷重作用位置が最大応力となる場合がある。
- 壁が取り合う梁は定着長が取れる程度の梁せいは確保する。
それでは、小梁の設計を1箇所行ってみます。
【検討結果】RF ①~④間の小梁(連続梁)の設計例
③片持ち梁の設計
片持ち梁については、片持ちスラブと同様に応力は1.5倍して検討をします。
片持ち梁に連続する梁についても、当然同じ曲げを受ける事となるので同断面以上とします。
その他の小梁も同様に計算をし、スラブと同様に略伏図に符号を記入していきます。他の小梁についてはスラブの設計と同様にプログラム『RCチャート』を使用して、断面を計算しました。
【検討結果】小梁の計算書(一式)
【検討結果】小梁の符号配置
④階段の設計
階段については、1段が等価な断面の一つの片持ち梁として計算します。
階段の計算方法 『実務から見たRC構造設計』P.207
今回の建物では踊り場部分は壁からの片持ち梁を設け、そこからの片持ちスラブとしていますが、片持ち梁を設けない場合は踊り場を階段からの片持ちスラブとし、一番上や下の段だけ、鉄筋量を増やして対応する事もあります。
【↑ページ先頭へ】