構造設計講座(RCマンション編)

 


7.基礎の設計を行う。


実務から見た基礎構造設計 実務から見た基礎構造設計
著者:上野嘉久
出版社名:学芸出版社
価格:6,600円(税別)

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①基礎工法の検討を行う。

 まずは地盤調査の結果と基礎反力から、どんな基礎工法にするか検討を行います。

【検討結果】基礎反力図
【資料】ボーリング柱状図

 まずは、直接基礎(独立基礎、布基礎、べた基礎)と出来るのか、杭基礎とする必要があるのかを確認します。地盤が良ければコスト的に有利な直接基礎とするのが良いのですが、計画建物を支持するのに十分な地耐力が期待出来ない場合は杭基礎とする事になります。
 今回の場合は表層部分がN値は1~3程度であり、明らかに直接基礎とするのは不可能なので深度19.35m以深の安定した細砂層までの杭基礎とします。
 杭基礎の場合は更に杭の種類・工法を決める必要があります。この程度の建物であれば、一般にはPHC杭か、場所打ちコンクリート杭とする事が多いのですが、以下のような事を考慮し、決定します。

・建物重量(基礎反力)
・支持層の深さ
・施工が可能かどうか
・コスト

 PHC杭や場所打ちコンクリート杭であれば、建物重量(基礎反力)や支持層の深さについては通常はあまり問題になる事は無いかと思いますが、杭施工には大型の重機が必要であり、PHC杭では杭材搬入にトレーラーが必要であり、敷地の大きさや搬入路の大きさが施工出来るかどうかに大きく係ります。 また、基礎は建物コストにも大きく影響する所でもあるので場合によっては施工会社や杭メーカーに相談し、慎重に決めるのが良いでしょう。
 今回はアースドリル工法による場所打ちコンクリート杭とします。

 まずは計算を始める前に杭を柱状図の中に落としてみるましょう。
 杭先端位置はこのように明確な支持層がある場合は、杭を支持層に杭径の1/2かつ1m以上貫入させた位置とします。次に杭天端ですが、以下の図のように基礎に10cm飲み込ませます。基礎下端位置は杭及び基礎ベース筋、地中梁主筋の納まりから、地中梁下端から20cm程度下げた位置とします。

杭の頭部の納まり

 これらをまとめるとこのようになります。

 基礎地盤説明書

 ・杭仕様
  杭種:場所打ちコンクリート杭
  工法:アースドリル工法
  支持層:GL-19.8m以深の細砂層
  杭長:19.5 m(杭先端位置 GL-20.8m)

②杭支持力の検討を行う。

 杭の支持力は告示1113号の式で算定をします。

・算定式
 長期: Ra = 1/3・{150・N・Ap + (10/3・Ns・Ls + 1/2・qu・Lc)・ψ}
 短期: Ra = 2/3・{150・N・Ap + (10/3・Ns・Ls + 1/2・qu・Lc)・ψ}

 この式に地盤結果を入れていけば良い訳ですが、土質の定数の採用については地盤調査結果のN値にのみ囚われる事となく、どんな地層であるかを良く、考慮して採用していく事が必要です。

 まず、先端支持層のN値ですが、深度19.15~19.45mの標準貫入試験結果N値は34となっていますが、良く見てみると深度19.15~19.35mは固結粘土層です。この固結粘土層の10cm間あたりの打撃回数は、6、8となっていますが、細砂層になる19.35~19.45mの打撃回数は、20となっています。 よって、30cmあたりではN値60となります。以深については、50回/25cm、50回/22cm・・・となっており、30cmあたりに換算したN値では、60.0、68.2・・・となります。
 告示では先端N値は最大60までとなっているので先端N値は、60を採用します。

※標準貫入試験の打撃回数を50回でやめて、換算N値としていますが、基本的には実際に打撃した回数以下とするほうが望ましいので地盤調査業者には60回まで打撃するように依頼しましょう。

 次に周面摩擦部分のN値及び考慮する範囲ですが、基本的には以下の層は除いたほうが良いと思います。
・液状化の恐れがある層
・沖積層(※今回の地盤は上部にローム層があり、洪積層と思われますが。)

 杭は後で補強を行う事は出来ないので周面摩擦力は何かあった場合の余力として取っておくものとし、今回は先端支持力のみとします。

 杭径ごとに支持力の算定を行うと以下になります。

杭 径
Ap(㎡)
長期支持力
(kN/本)
短期支持力
(kN/本)
1000φ
0.785(㎡)
2350
4700
1200φ
1.130(㎡)
3350
6700

 杭の支持力の算定が終わったら、杭反力と比較し、杭の配置を決めます。 中柱部分は1200φ、隅柱は1000φ、階段・EV・エントランスに1000φを1本ずつとします。

【検討結果】杭反力の検討

③基礎スラブの検討を行う。

 場所打ち杭の場合、基礎の大きさは杭からのへりあきが200~300mm程度になるように設定します。
 杭1本打ちで柱との偏心が無い場合は基礎には応力が発生しない為、基礎のせい(高さ)は杭頭補強筋が納まる程度とします。ベース筋もD16かD19程度の鉄筋を200~250mm間隔で配置する程度とします。

 EV部分の基礎のみ応力が発生する形状となっているのでこの部分のみ計算をします。

【検討結果】EV部分基礎 F3 の検討

④杭の水平力に対する検討を行う。

 次に水平力に対する杭の検討を行い、杭の配筋など断面の検討を行います。
 ※杭の水平力に対する検討方法は『実務から見た基礎構造設計』 P.132~参照

 杭(基礎検討用)の水平力は、上部構造の地震力に基礎の重量に水平震度0.10を掛けた値とします。一貫構造計算プログラム内では地中梁までの重量となっているので基礎の重量を加え、算出します。 次に杭の水平抵抗に影響を及ぼす深さにおいて行った孔内水平載荷試験(LLT試験)による地盤変形係数から、水平地盤反力係数khを算定し、杭の地震時の応力を算出します。

 上記により、算出された応力により、杭の断面検定を行います。軸力の大きい所と小さい所にて算定を行います。

【検討結果】杭の水平力に対する検討

⑤杭頭曲げモーメントを考慮した地中梁の検討

 杭が決まりましたら、杭頭曲げモーメントによる地中梁への曲げ戻しを考慮した地中梁の断面検定を行います。
※通常の一貫構造計算プログラムでは杭頭曲げモーメントを考慮した検討もプログラム内で自動的に行われますが、ビルディング・エディタでは出来ないようなので別途検討を行いました。

 地中梁検討用の杭頭曲げモーメントは以下のように地中梁芯に曲げ戻し考慮します。

杭頭曲げモーメント

 Mp = M0 + Q0×h
 この杭頭曲げモーメントを考慮した地中梁の検討は以下になります。

【検討結果】地中梁の検討

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8.保有水平耐力の検討を行う。

 最後は保有水平耐力の検討を行います。この検討も一貫構造計算プログラムにて一連で計算が出来ます。まずは保有水平耐力計算の計算条件等を入力して解析しましょう。

 ここで保有水平耐力が必要保有水平耐力以上となっていれば、それでOKなのですが、NGとなる場合は必要な箇所を補強して耐力を上げていかなければならないのですが、闇雲に配筋や部材をあげても中々、OKとはなりません。

 以下のような点をチェックして耐力を上げる為にはどの部分の耐力(配筋・断面)をあげれば良いかを見極めましょう。

①どの階がNGか?

 まずはどの階がNGとなっているのかを確認します。全体なのか?ある特定の階なのか?

②Dsは適正か?

 通常、RCラーメン構造では0.30、RC耐震壁付きラーメン構造では0.40、鉄骨ラーメン構造では0.25、鉄骨ブレース構造では0.35となります。もし、違うようでしたら、原因を突き止め、Dsを改善させる事も有効です。

③どのような崩壊形式となっているか?

 耐力を上げるために必要な部位を探すには、どこに塑性ヒンジが出来、どのような崩壊形式となっているのか、また、曲げによる破壊かせん断による破壊なのかを把握する必要があります。どの順番で壊れているかも重要です。
 あたり前ですが、せん断破壊している部材の主筋を増やしても、また、塑性ヒンジが発生していない部材を上げても、耐力は上がりません。崩壊形式を良く見極め、荷重増分を進められるような箇所の補強を行いましょう。
 全層の梁が降伏して崩壊メカニズムとなる梁崩壊形(全体崩壊形)が理想です。どこか判らなければ、柱の塑性ヒンジを無くすようにしてみましょう。また、最後に塑性ヒンジが発生した所を補強するのも良いでしょう。
 主筋を上げすぎても応力があがり、せん断がNGとなってしまう事もあるので注意が必要です。また、場合によっては耐力を上げるのみではなく、剛性の調整も有効です。

 以下の作業を繰り返し、保有水平耐力がOKになったら、終了です。

【検討結果】塑性ヒンジ図(崩壊形式)

【検討結果】保有水平耐力結果

【検討結果】Q-δ曲線

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