構造設計講座(木造住宅編)

 
実務から見た木造構造設計 実務から見た木造構造設計
著者:上野嘉久
出版社名:学芸出版社
価格:6,000円(税別)

Amazonで購入
Rakutenで購入
7netで購入

7.耐力壁の設計を行う。

 いよいよ、構造計算プログラムの計算です。画面上部ツールバーの“計算”のアイコンをクリックするとプログラムの計算が行われます。


Kizukuriメニューバー

 『Kizukuri』では計算が終了するとメッセージが表示されます。メッセージには、ErrorメッセージとWarningメッセージがあり、それぞれ以下のようなものがあります。

【Errorメッセージ】

  1. 入力方法に不備があり、計算が出来ない状態にある場合。
  2. 計算結果が構造計算の規定を満足していない(NGの)の部分がある場合。

【Warningメッセージ】

  1. 入力方法にプログラムが想定していないデータ(状態)があり、計算は出来るが設計者に確認を促す場合。
  2. 計算結果が構造設計の規定を満足しているが、入力した設計条件(余裕度など)に合わない部分がある場合。

 Errorメッセージが全て無くなれば、計算は終了です。まずは入力方法についてのErrorメッセージがありましたら、該当箇所の修正をして下さい。
この建物で計算を行ったら、以下のメッセージが出てきました。
【検討結果】『Kizukuri』メッセージ

※「Warning! ・・・の壁の両側が建物の外です。」とのメッセージがありますが、壁が閉じている部分の外側の壁である為、外壁か内壁の認識が出来ませんとの内容です。詳細計算を確認した所、外壁の荷重で計算されており、問題ないため、このまま計算を進めます。

 さて、これから計算を進めていきます。まずは耐力壁の設計から行います。

 各計算項目の結果はツールバーの結果表示(下図赤丸①)及び印刷(下図赤丸②)で確認出来ます。

Kizukuriメニューバー

 耐力壁量は46条計算と構造計算の2通りの検討を行いますが、通常、構造計算による壁量の方が厳しくなりますのでこちらのみ確認すれば良いでしょう。

 『Kizukuri』計算の耐力壁の検討部分を画面上又は印刷して確認します。

  1. 『Kizukuri』2.3. 許容せん断耐力 Pi(令82条)と剛性の算定
  2. 『Kizukuri』2.4. 水平力(地震・風圧)に対する耐力壁の検定

 ※印刷を行う場合は「耐力壁の設計(87条、88条)」を選択

 この項目では、入力した耐力壁の配置・耐力、地震荷重・風荷重、耐力と荷重の比較が表示されています。

【検討結果】耐力壁の設計(検討前)

 この建物は上記出力ファイルの結果となっており、2階、1階のXY両方向とも、NG(壁量不足)となっており、壁量を増やす必要があります。

耐力壁検討結果(検討前)

 最初はなんとなく決めた壁の配置ですが、この段階になると具体的な数字があります。壁の増やし方は以下の方法によります。

  1. 地震時と風荷重時の検定比を比較し、どちらの検定比が大きいか確認をする。
  2. 地震と風荷重の大きい方の検定比と壁耐力を確認し、増やす壁量を求める。
  3. 建物の重心位置及び剛心位置を確認し、偏心距離が少なくなる側に壁を追加する。

 さて、実際に遣ってみます。(1階Y方向にて解説)

 まず、足りない壁量を求めます。1階Y方向は地震荷重の方が大きく、検定比は 1.436 、壁耐力は55.29kN(有効壁長さは28.210m)となっています。
※壁耐力=有効壁長さ(壁長さ×壁倍率)×1.96

 検定比が1.0以下でOKですが、10%程度の余裕は作りたいので足りない壁長さは、28.210m×(1.436 - 0.9 )= 15.12m になります。

 次に剛心位置と重心位置を確認します。(『Kizukuri』3.8. 二次設計 3.8.1. 偏心率の計算)

偏心率

 建物の重心(重量の中心)は、Gx、剛心(剛性の中心)はKxであり、プログラム入力グリッドの原点位置(左下)から、距離が表示されています。この距離の差(偏心距離)が小さいほど建物の平面的なバランスは良くなり、偏心率Rex(Rey)が小さくなります。建築基準法では偏心率は 0.30以下とする事となっていますが、0.15以下となる事を目標としましょう。一般的にも0.15以下であればバランスの良い建物と評価できます。
 重心位置は建物形状及び荷重で決まるため、調整は出来ないので偏心率を調整するには耐力壁位置で調整を行う必要があります。耐力壁の配置の検討では偏心率も考慮しながら検討します。

 ここで1階Y方向における重心距離Gxは6.227m、剛心距離Kxは5.856mとなっており、偏心率は0.074となっています。1階Y方向は偏心率は0.15以下となっていますので悪化させないようにしましょう。剛心は重心よりも左側にありますので建物の剛心に対し、左側に耐力壁を増やすと偏心率は悪化します。逆に右側を増やすと偏心率は改善されます。また、剛心付近に耐力壁を増やすと偏心率は変化しません。

 この方法に従って以下のようにしました。
追加する壁量
・2.5倍→5.0倍:5.46m
 ⇒有効壁長さ 13.65m
・3.0倍→4.0倍:1.82m
 ⇒有効壁長さ 1.820m
・0.0倍→3.0倍:1.365m
 ⇒有効壁長さ 4.095m
合計 19.565m

 やや右側を多く増やす。

耐力壁調整

 結果、検定比は0.848と1.0以下になり、偏心率も0.022と改善されました。
同様に1階X方向及び2階も調整します。

【検討結果】耐力壁の設計

↑ページ先頭へ

8.水平構面(火打ち等)の設計を行う。

 次に屋根面、床面の水平構面の設計を行います。

 建物の重量のほとんどは屋根面、床面にあります。地震力とはこの重量に作用する慣性力です。地震力を負担するのは耐力壁ですが、耐力壁まで地震力を伝えるのが、屋根面、床面の水平構面です。

 水平構面

 水平構面は各階各方向の耐力壁がある通り間で検討を行い、以下のような部分ではきつくなります。

  1. 耐力壁間の面積が大きくなると伝える力も大きくなります。
  2. 水平構面の長さが短いと耐力が小さくなり、きつくなります。(吹き抜け廻りなど)
  3. 剛性の高い耐力壁の廻り(壁量が多い通り)は水平力が集中し、きつくなります。
  4. 下階で耐力壁が抜ける部分は上階の耐力壁からの水平力が水平構面に作用するのできつくなります。
  5. 耐力の小さい仕様の水平構面部分。

 さて、水平構面の検討結果を確認しましょう。

『Kizukuri』2.6.2. 水平構面の負担水平力に対する検定
※印刷を行う場合は「水平構面の検定」を選択

【検討結果】水平構面の設計(検討前)

 この建物では、屋根面のX方向、Y方向がNGとなっています。

 水平構面がNGの場合は上に書いた水平構面がきつくなる原因を解消する方向を取りましょう。

  1. NGとなっている間に耐力壁を追加する。
  2. NGとなっている側の耐力壁を少なくする。
  3. 水平構面の仕様を変更し、耐力を上げる。

 耐力壁で調整する場合は全体の壁量、バランスに注意して下さい。

※本建物では屋根面と火打ち面を足し合わせていなかったため、屋根倍率を1.2にし、対応します。

↑ページ先頭へ



   【戻る】   【次へ】