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 それでは、設計を始めてみましょう。以下の擁壁を例として、設計します。

擁壁の設計例

4.擁壁各部の寸法

 まずは擁壁各部の寸法について、説明します。

 土の高低差は計画している高低差とします。擁壁天端を地表面よりも上げる場合は必要な寸法を設定します。

 次に根入れ寸法ですが、擁壁見付高さの15%かつ35cm以上とする必要があります。ここで対象としている高さ2.0m以下の場合は、35cmとなります。

 難しいのは底版長さ、壁厚さ、底版厚さの設定ですが、これは行政庁などが出している擁壁断面図集に合せ、設定します。これはあくまでも仮の寸法で計算しながら、調整していく事になります。

 設計例では神奈川県川崎市の宅地開発指針の擁壁断面図集に倣い、以下のように仮に設定しました。

 壁厚さ:20cm、底版厚さ:20cm、底版長さ:165cm

 壁厚、底版厚ですが、擁壁は土に接している為、通常よりもかぶり厚さを大きくとる必要があります。よって、ダブル配筋とするには20cm以上の厚さが必要になりますので注意が必要です。

川崎市の宅地開発指針

※これらの擁壁断面図集は一般に良好な地盤条件にて、設定されています。よって、通常はこの形状よりも大きくなります。

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5.土圧の計算

 さて、それでは計算に入ってみましょう。まずは土圧の計算です。

 土圧を計算するには、「2.擁壁にかかる力」で説明しました通り、4つの要素が係わり、以下の式で計算出来ます。

土の重量による土圧(合力)= Ka × γ × H2 / 2

上載荷重による土圧(合力)= Ka × w × H

Ka:土圧係数、γ:土の比重、H:土圧を受ける高さ、w:上載荷重

 さて、ややこしい計算式が出てきましたが、この4つの数値をEXCEL計算シートに入力すれば、自動的に計算が出来ます。


①土圧係数

 土圧係数は、0.50とします。

 厳密には「2.擁壁にかかる力」で説明しました通り、底版上の土の種類、強度により、この係数は変わりますが、L型擁壁の場合はこの部分を掘削、埋め戻しを行います。よって、元の地盤の強度は余り意味が無くなります。
 従って、安全側に考慮し、一般的に0.50とします。また、0.50とするようにとの行政指導もよくあります。


②土の比重

 土の比重は、擁壁底版上の土の種類により、以下の数値を使います。

 
 土の種類  土の比重(kN/㎡)
 粘性土、シルト  16 kN/㎡
 砂質土  17 kN/㎡
 砂礫、砂利  18 kN/㎡

 さて、砂混じり粘土、シルト質砂などと判断に迷うものもあります。これらは、地盤調査結果で○○粘土と書かれているのは粘性土、○○砂と書かれているのは砂質土と判断します。つまり、最後に書かれている土質で区分します。

③上載荷重(地表面載荷重)

 上載荷重は宅造法では、5kN/㎡以上となっています。また、木造2階建て住宅程度であれば、10kN/㎡程度です。それ以上であれば、任意に設定します。

 通常は最低でも木造2階建て住宅程度を考慮し、10kN/㎡とします。行政指導でも10N/㎡となっている事が多くあります。


④土圧を受ける高さ

 土圧を受ける高さはどの部位を検討するかによって、変わります。擁壁全体の安定を計算する場合は背面の 土の天端から、擁壁底版下端になります。壁を計算する場合は背面の土の天端から、壁の根元までになります。

 以上の項目の数値をEXCEL計算シートに入力すれば土圧が計算出来ます。

 【土圧の計算結果】

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6.擁壁の転倒、滑動の検討

①転倒の検討

転倒の検討

 擁壁の転倒は左図の検討をします。擁壁は土圧により、底版のつま先(A点)を中心して、回転を起こそうとします。転倒とは回転させようとする力なのでモーメント(kN・m)になります。土圧力に土圧力の中心から、底版のつま先(A点)までの距離をかけた値が転倒させようとする力(転倒モーメント)になります。

 この転倒モーメントに対しては、擁壁の重量で抵抗する事になります。擁壁の重量の中心から、底版のつま先(A点)までの距離をかけた値が転倒に抵抗する力(抵抗モーメント)になります。  抵抗モーメントが転倒モーメントよりも大きければ、擁壁は転倒しない訳ですが、擁壁の設計基準として、 転倒に対しての安全率は1.5以上必要となっています。つまり、以下を確認する事になります。

抵抗モーメント/転倒モーメント ≧ 1.5

 話がだんだん難しくなってきましたが、転倒を防止するには擁壁の重量を増やすしかありません。つまり、転倒がNGの場合はOKになるまで底版長さを長くする事が必要になります。

 詳細な計算式は計算書(EXCEL計算シート)を確認して下さい。この転倒モーメントの計算としては、土圧合力は三角形分布荷重なので合力に高さの1/3をかけた値、上載荷重合力は等分布荷重なので高さの1/2をかけた 値を足したものとなります。また、抵抗モーメントの算出には擁壁各部の重量を算定し、それぞれの中心から、底版のつま先(A点)までの距離をかけたものを合計して、算出します。


②滑動の検討

滑動の検討

 擁壁の滑動は左図の検討をします。擁壁は土圧(土圧合力と上載荷重合力の合計)により、水平に移動しようとします。
 これに抵抗するのは擁壁底版と底版下の摩擦抵抗になります。この力を滑動抵抗と呼びます。

 そして、同じく安全率1.5が必要ですので以下を確認します。

滑動抵抗/土圧力 ≧ 1.5

 この滑動抵抗ですが、擁壁の重量に底版下の土の種類による摩擦係数μを掛けて算出します。

滑動抵抗(kN) = 擁壁の重量(kN) × 摩擦係数μ

 各土質の摩擦係数μは以下の表によります。地盤調査結果に応じた値をEXCEL計算シートに入力して下さい。

 土の種類
 摩擦係数μ
 粘性土、シルト
 0.30
 砂質土
 0.40
 砂礫、砂利、地盤改良
 0.50

 滑動を防止するには同じく、擁壁の重量を増やすしかありません。つまり、滑動がNGの場合はOKになるまで底版長さを長くする事が必要になります。

 さて、現在、最初に過程しました擁壁底版長さでは、転倒はOKになっていますが、滑動はNGとなっています。底版長さを少しずつ伸ばし、2.10mで滑動がOKになりました。

    【転倒、滑動の検討結果】

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