最終回ネタ その1 

疑 問

《2》へ  《3》へ  《4》へ  《5》へ  《6》へ  《最終話》へ    .

 


「五代くん、なんであんなにすぐ冒険に行っちゃったんだろう」

 視線を感じて一条が振り向くと、榎田がぽつりと口にした。
 確かにそれは彼も常々思っていたことだった。
 どうして五代を旅立たせてしまったのか……
 0号との戦いが終わりさえすれば、もう何をはばかることもない。
 今までは、何時、未確認が現れるとも限らないのでセーブしていたが(←してたんかい)、 これで思いっきり五代を……訂正、五代とやれる……再度訂正、五代と愛し合うことが できると思っていたのに。


 気が付いたらいなかったのだ。
 つくづくあの時、バイクを離れたことが悔やまれる。
 五代が0号との戦いに向かった後、密かに彼の用意していた旅支度を自分の乗ってきた TRCSに移しかえ、念には念を入れてパスポートは、自分の服の隠しポケットにしまった。
 さぁこれで安心、と一息付いたところで、ふいに嫌な気配を感じたのだ。
 今思えばあれは0号の断末魔の思念だったのかもしれない。
 とにかくそれが気になって、ついバイクから離れてしまったのが敗因だった。

 積もった雪の斜面、道なき道をひたすら五代のもとへと向かう。
 かけつけた雪原は赤く染まっていた。その中心に倒れている人影───
 幸いなことにそれは五代ではなかった。おそらく彼が0号だったのだろう。
 まだ若く少年の姿を持つそれに、もう息はなかった。
 ほっと息を付く。
 だが…周囲のどこを見渡しても、五代の姿はなかった。
 慌ててバイクへと戻る。

 しかしそこにはTRCSが一台残されているのみで、BTCSはすでに見当たらなかった。
 ここからあの場所へはほぼ直線で、回り道などなかったはずなのだが……
 不信に思って周囲を見渡せば、5mほど離れた場所からいきなり足跡が始まり、BTCSの 止められていた場所へと移動している。
「チッ! ゴウラムか!」
 見れば移し変えたはずの五代の荷物も消えている。
「だが甘いな、パスポートがなければ国外には出られないぞ」
 と、にやりと笑って胸からパスポートを取り出す……が、
「やられた!」
 それは一条自身のパスポートだった。
 どうやら五代はこうなることを見越して、ダミーに一条のパスポートを仕込んでいたらしい。
 BTCSの車輪の跡はすでに凍りかけている。
 今から追いかけてもまず追いつけないだろう。

「おぼえてろよ」
 一条はギリリと奥歯を噛み締めた。



「なんか未確認とは関係なく、普通のときの二人のコンビ見て見たかったな」
「そうですね、これでやっと未確認とは関係なくなって、五代を独占できると思っていたんで すが」
「……一条君、反省してないでしょう」
「なにが? です」
 まったく自覚のない様子に、榎田は溜息をついた。
『そりゃあ、逃げたくもなるわよねぇ』
 未確認という障害があったときでさえ、あぁだったのだ。その障害がなくなりあの勢いで独 占されたらどうなることか。
『ま、がんばって逃げてね、応援(だけは)してあげるから』
 遠く、どこまでもどこまでも青い空の下にいるであろう雄介に、とりあえずエールを送るこ とにした榎田ひかりであった。





いや、つい、思いついちゃったもんで。(ひかる)



NEXT


TOPへ    小説TOPへ