最終回ネタ その5 

それぞれの…






「一条さん。兄が、本当にお世話になりました」
 ぺこりとみのりが頭を下げた。
「いえ、五代くんには…辛い思いばかりさせてしまって……」
「そんなことないですよ」
 悔悟の言葉を綴る一条を、兄に良く似た笑顔が遮る。
「え?」
「兄は、信じてやったんですから」
 柔らかな陽射しの満ちる春の午後。
 わかば保育園には子供達の声が満ちている。
「いつか……みんなが笑顔になる日が来るって」
 なによりも雄介が望んでいた子供達の笑い声。
 なにものにも怯えることなく、楽しげに遊ぶ子供達。
 こんな風景を護りたくて、雄介は戦い続けたのだろう。
 たとえ…自らの笑顔を削ることになろうとも、護りたいものを護るために。

「でも……今度はしばらく帰ってこない気がします」
 わずかに淋しさをにじませて呟き、ゆっくりとみのりは一条へと視線を向けた。
 園児たちを見つめていた暖かな視線とは一転して、何事かを決意した瞳。 
「その間は、私たちががんばらないと」
「そうですね」
 一条もみのりをしっかりと見つめると、お互いの瞳の中にあるものが同じことを確認し合っ た。
『五代雄介』
 それが二人の間にある大切なキーワード。
「だから……」
 すべてはそのために……
「だから、兄が帰ってくる前に私たちで準備を進めておきましょう。結婚式の」
「お願いします」
 二人の共犯者はにっこりと笑い合った。



「とりあえず披露宴ですけど」
「どこかいい場所がありましたか?」
 ところ変わって、近所の喫茶店。
 持ってきた大きな鞄の中から、こそごそとみのりが幾つかのパンフレットを取り出して、 テーブルの上に並べている。傍から見れば、結婚式の打ち合わせをする若いカップルそのもの で、周囲の客やウェイトレスが羨望の眼差しで二人を見ていた。
 その実、二人の会話の中身と言ったら……

「色々考えたんですけど、あんまり形式ばったことは兄は嫌がると思うんです」
「それは確かにあいつの性格なら考えられますね。にぎやかなことは好きそうですが、仰々 しいことは苦手なようですから」
「そうなんです。いいなぁ、おにぃちゃん。そんなに理解してもらって」
「いえ、まだまだです。いつでもあいつを理解してやりたいとは思ってはいるんですが」
 そう言って浮かべた柔らかな笑顔に(どうせ雄介のことでも考えたのだろう)、ウェイトレスが見とれて危うく水をこぼしかけている。
 まったく…そこまで理解しておきながら、どうして『結婚式』事体を雄介が嫌がると思い 当らないのか───自分の望むものに関しては、めっきり視界と心の狭い鬼畜刑事であった。
「あ、話戻しますけと。とりあえずホテルとか式場での披露宴ってのは避けて、内輪でパー ティっていう形がいいと思うんです。場所はポレポレになっちゃいますけど」
「私の方はそれで構いません。正直、派手なことは苦手ですしね」
「そうしてもらえると助かります。一条さんの場合、披露宴だと色々と呼ばなきゃならない人 がいますでしょう。警察関係のえらい人とか。正直言って私、これ以上兄に警察に 関わって欲しくないんです。あ、一条さんや対策班の人たちは別ですけど」
 言葉を選びながらも、みのりはきっぱりと告げた。
 クウガであった雄介を、これ以上警察組織に関わらせたくはないのだ。もう雄介は十分に 戦ったのだから、後は自分の幸せを追求してほしい。それがみのりの願いだった(一条との 結婚式を、雄介が幸せに思うかどうかはおいといて)。
「その気持ちは私も理解ります。私としても彼をこれ以上、警察組織に関わらせたくはありま せんから」
 勝手言ってすみませんと謝るみのりに首を振り、一条も同意を言葉にする───が、実は一 条の危惧は微妙〜にみのりとそれとはズレていたりするのだが。

『これ以上、警察に雄介のFanを増やしてなるものか!』

 これである。
 噂によると、4号に助けられた警官たちを中心に『五代雄介Fanクラブ』が設立されてい るとかいないとか。
 問題はこれが4号の強さに対する憧憬ではなく、雄介に心癒されちゃった人たちの集団であ るということで(実際未確認対策班などはすでに雄介のFanクラブと言ってもおかしくない 状態である)……。メンバーにやくざも裸足で逃げ出すという強面な方々も含まれているあた り、アイドルの親衛隊より怖いかもしれない。
 幾ら必要に迫られていたとはいえ、雄介を対策班の面々に合わせたことを日々後悔している 一条であった。

「じゃあ、式後のパーティはこれでいいですね。次は式を挙げる教会の件なんですけど」
「どこか心当たりが?」
「はい、私の母校なんですけど、そこは卒業生の近親者に限って付属の教会を貸してくれるん です。それに神父さまは兄とも顔見知りだから大丈夫だと思いますよ」
「それは良かった。みのりさんの母校というと、確か……」
「はい、四谷の」
「あぁ、あそこなら警視庁にも近いですから、なにかあったときにも安心ですね」
「なにもないことを祈ってるんですけど……おにいちゃんって、トラブルを呼ぶ名人だから なぁ……」
 クウガになっちゃったことといい……呟いてみのりが溜息を付く。
 まぁ雄介の人生最大のトラブルは、彼女の目の前に存在してたりするが。

「で、教会って言ったらやっぱりウェディング・ドレスですよねぇ。どんなのを着せようかな ♪」
「しかし…五代が大人しく着てくれるかどうか……」
 まぁ普通の男なら確実に嫌がるだろう。それに気付くぐらいの常識は一条にもあったらしい (なんて書いてたら、某トゥナイトの中のガオレンジャーの撮影風景で、ブラックがウェディ ングドレスを着ていた。どうせならレッドに……こらこら)。
「大丈夫です。私がおにぃちゃんのために縫ったって言ったら、絶対着てくれます」
 一条の懸念に対して、みのりがきっぱりと言い切る。ちょっと鬼かもしんない。
「縫う? もしかして自分で作られるんですか?」
「だって、たった一人の兄の結婚式ですもの。絶対、おにいちゃんの花嫁衣裳は私 が作るって決めてたんです。だめですか?」
「とんでもない、きっと五代も喜びますよ。でも大変じゃないですか?」
「本当は、ちょっと不安なんです。上手くできるかなって。でも兄のためですから」
 いや、だから雄介のためを思うんなら、そもそも結婚式を止めた方が喜ぶって。
「本当にみのりさんはおにいさん思いなんですね」
「そんなことないですよぉ。あ、一条さんはどんなデザインが好きですか? おにいちゃん、 スリムだからやっぱりAラインのドレスがいいと思うんですけど」
「みのりさんにお任せしますよ。ああ、でも一つだけいいですか?」
「なんです?」
「できれば、五代の肌を他人には見せたくないので、あまり襟元の開いてないものをお願いし たいのですが」
「そうですね、キスマークなんか見えたら大変ですものね。じゃあやっぱりハイネックです ね」
 ………なんかさらりと怖いこと言われたような。
「肩から胸にかけてはシフォンを流して肩幅や胸をカバーすることにして……ウェストから下 は…修正する必要ないか。おにいちゃんウェスト細いもん。うん、やっぱりAラインよね」
うき♪うき♪うき♪ ウェディングドレスのカタログを見ながら、計画を立てるみのりに口 を挟めるものは誰もいなかった。
「問題はサイズなんですけど……」
「あぁ、それなら椿が役に立ちますよ。あいつが五代に会いに行くことは聞いてますか?」
「はい、何か伝えたいことはないかって、連絡もらいました」
「あいつの特技に女性のサイズ当てというのがありますから、五代の今のサイズもわかるで しょう」
 服の上から骨格の判る椿医師である。サイズ当てなど造作もないことだろう。
「すごいですねぇ。あ、そういえば一条さんの方は衣装、どうします? おにいちゃんがウェ ディングドレスだから、やっぱり白のタキシードが合うと思うんですけど」
「いや、私は礼装用の制服がありますので」
「礼装用の制服!? っていうと、外国の大統領なんかを迎えるときに、出迎えの人たちが着 ている奴ですか!?」
「いや、あれはその……まぁ…似たようなものです」
「是非それで行きましょう!」
 違いを説明しきる自身がなくて、放棄してしまった一条の言葉に、拳を握り締めてみのりが 頷く。
 性格はともかく一条のルックスは最上級と言って嘘はない。その彼がああいった礼装を身に 着けて真っ白なウェディングドレスをまとった兄の隣に立つとしたら……みのりの妄想ゲージ はMAXを記録した。
「私、がんばっておにいちゃんのドレス作りますね」
「えぇ、お願いします。きっと綺麗でしょうね、ウェディングドレスを来た五代は……」
 ……こちらの妄想ゲージもMAXを超えたらしい。

「あ、それとやっぱりダイヤの婚約指輪は止めた方がいいですよ」
「そうですか?」
「えぇ。あれはやっぱり男の人の指には似合わないと思いますし、なにより普段付けられるも のじゃないですから」
「そうですね。できるなら普段から着けていてほしいですし……もう少し考えてみます」
「じゃあ次は、マリッジリングですけど……」


 一見和やかぁに、しかし着実に物騒な計画は進んでゆく。
 この時、地球を半周した遥か南の島で、雄介は得体の知れない悪寒に襲われていた。





思わず書き上げた時、ぽんぽんと合掌してしまいました。
みのりちゃんてば、暴走しまくり。
雄介、強く生きるのよ。(ひかる)


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