最終回ネタ その4 

Tea time






「それにしても……彼は今ごろ、どこで何をしているんだろうな……」
 松倉(元?)本部長が窓から空を見上げた。それに釣られるかのように、皆も空を見上げる。
 そこにはこの季節にしては珍しく晴れ渡った青空が広がっていた。

「あ、すみません、本部長。お茶も煎れないで。今、煎れてきます」
 はたと気が付いて笹山が慌てる。まさか松倉が来るとは思わずそこにいた人数分しか煎れて こなかったのだ。
「ありがとう。そういえば笹山君、お茶の煎れ方が随分上達したんじゃないか」
「そうだよな。対策本部ができた当初とは雲泥の差だ。あの頃はただ色の付いたお湯ってやつ だったからな」
「あぁ! ひどいですよ、杉田さん。私だって、努力してたんですからね」
「悪い悪い、だが随分と努力したんだろう。本当に上手いよ、このお茶」
「でしょう、努力の成果です……なんて実は、五代さんに教わったんですけどね」
「五代にですか?」
 思いがけず出てきた名前に一条が反応する。
「はい。会議の時、私がお茶を煎れてたら、手伝ってくれて、その時色々と教えてくれたんで す。それも2000の技の一つだそうですよ」
「あぁ、確かおいしいお茶の煎れることは15番目の技だといってました。疲れて帰ってくる 母親においしいお茶を煎れてあげたかったんだと」
「本当にいい人ですよねぇ、五代さんて」
 桜井の言葉に杉田&松倉の年長コンビもうんうんと頷く。こういう話に年寄りは(←失礼 な)弱いのだ。
「あ、すみません。つい話し込んじゃって。今煎れてきますね」
 ぱたぱたと笹山が給湯室へと走り去った。
 ゆらゆらとくゆるお茶の香気の中、それぞれに思いを馳せる。
 と、一人お茶がないためか、間が持たなかったのだろう。ふいに松倉が口を開いた。
「ところで、だ。一条君」
「はい」
「式はいつ挙げるんだね? 五代くんと」
 グフゥ〜ッ!!!
 杉田と桜井が盛大にお茶を噴き出した。
「大丈夫ですか?」
「あ…あぁ」
「ゲホッ……す…すみません」
 ティッシュボックスを差し出されて、とりあえず服にかかった分を拭いとる。一通りダン ボール詰めしてあった書類の山には、飛沫がほとんどかからなかったことがせめてもの救いだ ろう。
「大丈夫かね? しかし二人揃ってとは、こんなところでチームワークを発揮しなくてもいい だろうに」
「え? や…その…はい」
『あんたのせいだ、あんたの!』とは、思っていてもいえない悲しい上下社会。しかしなにか 今、とんでもないことを聞いたような……
「あの…本部長、その式とは、まさか?」
「結婚式に決まってるだろう」

『あぁぁぁあ゛ぁ、やっぱりぃ〜〜〜』
 とは、杉田と桜井の声にならない悲鳴である。

「で、何時頃を予定してるんだね、一条くん」
「一応、6月ぐらいを予定してます。長野での残務整理もその頃には終わってるでしょうか ら」
「あぁ、それがあったな。確かそれが終わったらまた本庁勤務だと聞いているが」
「えぇ、またお世話にならせていただきます」

『聞いてました? 杉田さん』
『いや俺は聞いてない』
 目線で会話し合う。ということは、またこの一条と同僚になるということだろうか? 心な しか胃が痛いような。 

「だがこういうことは早い方がいいぞ、君ももう26だろう」
「えぇ、私としましてもできるだけ早く、とは思ってるんですが。なにしろ当の五代が(文字 通り)捕まらなくて」
「そうだったな。しかし準備は勧めているのだろう」
「えぇ、幾つか会場の候補もチェックしてありますし、指輪ももう決めてあります」

『指輪って、やっぱり……』
『婚約指輪だろう、一条のことだ結婚指輪もチェック済みかもな』
 ぼそぼそぼそ。さりげなく二人から距離をとって呟きあう。

「あとは教会の方ですが、夜ならどこも空いてるという話です」
「ほう、式は教会でかね」
「はい、はじめは神式でと考えていたんですが、私も五代も二親が揃ってない上に親戚も少な いですから。親戚のみが立ち会う神式の結婚式だとあまりに閑散とした式になってしまいそう なもので。その点、教会での式なら皆さんにも出席していただけますからね」
「なるほど、確かにその方が良いだろう」

『良くないですよぉ〜〜〜! ってことはもしかして俺たちも出席させられるってことです か!? 式に』
『ということになるんだろうなぁ……だがその前に、男同士で式を上げさせてくれる教会なん てあるのか?』
『俺に聞かないでください。……たぶんないと思うんですけど』
『だと、いいよな』

「それに……実は『教会』というのは二人の思い出の場所でもあるんです」
 すこし照れたように話す姿は、実に実直そうに見えるんだが。
「思い出の場所? それは聞いてもいいかね?」
「えぇ、私と五代がはじめて出逢ったのは長野でだったということはお話しましたよね」
「あぁ、報告は貰っている」
「その後、五代が第四号となって、東京に来るまでも第一号や第三号との戦闘など色々なこと があったんですが」
「大変だったらしいな。本当によく頑張ってくれた」
「そんな中で、私と五代が始めて一緒に朝を迎えたのが教会(の焼け跡)だったんです」
「そうだったのかね」

『うっわぁ〜〜〜! それって、すっげえバチ当りな気がするんですけど』
『十分バチ当りだと思うぞ』
 いや、これに関してだけは、君たちの誤解なんだけど。
『それにしても、なんで本部長、あんな平然と聞いてられるんですか』
『あぁ〜、噂は本当だったらしいな、本部長が悟りを開いたって話は』
『悟り…ですかぁ?』
『あぁ。現場を知らない上層部と、俺たち部下の警官だけじゃあどうにも太刀打ちできない未 確認と、文句だけは一人前にマスコミと(ついでに事後承諾が得意な部下と)に挟まれて、ス トレス貯め込んだあげくについに解脱しちまったって噂だ』
『………』

「あぁ、無粋なことだが書類の方はそろえたのかね?」
「えぇ、扶養申請書類の方はもう提出しました。幸い五代はアルバイトなので収入的には条件 をクリアしていますし、あとは同居さえすれば特に問題ないそうです」
「それは良かった。やはりこういうことはきちんとしておかないと、けじめというものがある からな」

『問題ないって……大きな問題があるような気がするんですけど』
『まぁ書類上のことだからなぁ。婚姻届と言い出さないだけ、一条も考えてはいるということ だろうよ』

「あとは五代くんが帰ってくるのを待つだけか、楽しみだろう」
「えぇ、一日も早く戻ってきてくれることを願っているんですが」
「まぁせっかくの婚約期間だ。待つことも楽しみのうちと考えるんことだ」
「えぇ、そうすることにしています」

『何時の間に婚約したんだ? おまえ、知ってたか?』
『知りませんよぉ。たぶん、五代さん本人も知らないんじゃないんですか』

「すみません、遅くなりましたぁ」
 と、そのとき、ふいに本部のドアが開かれた。
「すまないな、笹山くん」
「給湯室が混んでたものですから。はい、どうそ。あ、皆さんの分も二杯目用意しました… …どうしたんです? 杉田さん、桜井さん」
「いぃぃや、な…なんでもない、な…なぁ、桜井」
「え? えぇ、そうです。なにもありませんよ」
 つい視線が踊ってしまった二人に罪はないだろう。なにせ笹山が誰を想っているかなんてこ とは、周囲にはバレバレなのだから。そんな彼女に先ほどまでの会話はとても聞かせられない。 給湯室が混んでいて良かった。
「? まぁいいですけど。はい、一条さん♪」
「あぁ、ありがとう……上手いよ、さすがに五代から煎れ方を教わっただけあるな」
「ありがとうございます♪ はい、杉田さん、桜井さん」
「あぁ、ありがとう」
「すんません」
 一条に誉められて嬉しげな笹山に、真実を告げるべきか否か。
 窓を見上げれば果てしなく続く青い空。

『五代くん、当分戻ってこん方がいいぞ』

 同じ空の下にいるであろう彼に、杉田は溜息とともに呟いた。






その4です。なんか順番がおかしくなってしまったな。
まぁ浮かんだ順に書いてるからしかたがないか。
みのりちゃん編と桜子さん編も書けるかな。
(ひかる)


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