彫刻家・和南城孝志(わなじょう たかし)
                                      Wanajo takashi  


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                 コンセプト・文・言葉  作者=和南城孝志
          

       石を刻むということは、
       イメージの世界の扉を叩く行為である。

       創作行為とは、
       地上界と天上界、物質と精神を結ぶ虹の橋を
       掛けるようなものであろう。
                    (和南城孝志筆)
             



      



       天の軸 コンセプト











 

   私の故郷 群馬県桐生市は、織物の盛んな地であった。

 この彫刻は織物に用いられる杼(ひ)を造形化
 したものである。

 杼を垂直に立てれば、一本の軸が誕生し、その軸は
 地上界と天上界、物質と精神を結ぶ座標軸を
 イメージさせるでしょう。

 






                                            

「桐生のアーティスト(大川美術館)」より レリーフ(ランドスケープ)

 

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  和南城孝志(1949-2003)は、1972 年から約 23 年間を石の町ローマと日本とを拠点に制作、
 
1995 年から群馬県吾妻郡高山村にアトリエを構えました。
  《作品
(レリーフ)(1979 )について、「イタリア・ローマに住み太陽の国を実感していました。
 ローマから一歩郊外に出ると(アッピア街道など)糸杉が石畳の道の両側に延々と続く風景がありました。
 この太陽と糸杉から生まれ発想されたのが本作でしょう。
 亡夫にとって日本とイタリアが自分の故郷でした」
(2020.4.17/メールインタビューより)と語るのは、
 ローマ留学時代に出逢い若き日よりつねにその制作に寄り添ってきたピアニストの妻・洋子氏です。
 一方、《天の軸》について和南城は、織物に用いられる杼(ひ)がイメージの源泉にあり
 「物質と精神を結ぶ座標軸のイメージ」と記しています。
 両作のあいだには約
20 年の時が流れました。
 和南城の過ごした場所の記憶が刻まれ砥ぎだされた両作品はいま、大川美術館の展示室で響き合っています。
                 2020年4月    (大川美術館 筆)



     イメージの太陽 コンセプト

   この太陽をシンボライズした彫刻は
  中心から四方に向かって 放射する四つの面で構成される。
  これらの面はメビウスの輪のように中心部で反転しつつ、
  円環運動を続ける。
  同時にこの四つのエレメントは、世界を構成する四大元素、
  すなわち火・水・土・気であり、太陽と共に地球上の生命体に
  等しく恵みを与え、誰もが共有できる基本的な元素である。
 “太陽の国”イタリア産の赤大理石が最もふさわしい素材だと思う。









    コンセプト・デッサン



 



















      光の山脈(やまなみ)コンセプト

 この作品は四つの異なる角度からなる‘山並み’である。
 上から見ると、中心から四方に向かって放射状に伸びている
 太陽のような形である。
 それぞれの山の斜面は、メビウスの輪のように中心部で反転しつつ
 隣の面につながり、大地の生成運動のように円環運動をする。
 また四つのエレメントは、同時にこの世界を構成する四大元素、
 すなわち火・水・土・風の象徴である。
      
    形による対比の美

 光庭の竹林の垂直に伸びる縦の線に対して、アートワークは
 水平の横に拡がる形によるコントラストを与える。
  対比の美とは、空間にアクセントを加えることにより、その空間に「絞(し)まり」を与え、
  それが光庭に個性を与える。
    


       地の軸 コンセプト

   
  
大地の生成運動

    
円環運動 (時間の循環・四季の移り変わり)
   低く伸びやかなフォルム=山並みのイメージ
   静的なイメージ空間を生み出す
   周囲の緑と一体化した作品







         重力のファサード                 (1985年4月・和南城孝志筆)

 桐生第一高校校庭に設置された野外彫刻は,御影石と耐候性鋼板
(コルテン鋼)で構成されています。
 御影石は前回の桐生市文化センターの野外彫刻同様、渡良瀬川上流の
 沢入で採れる白御影石を使いました。
 石はもっとも地方色の強い素材ですが、鉄は反対に私達の日常ごく
 身近にある普遍的な素材です。
 この2つの異なった素材を用いることにより、石はその幾千万年の
 眠りから人間によってその性格を掘り起こされ、鉄は人間が
それを鍛えたことによって、本来の機能を発揮しました。

かって古代ギリシャの思想家達にとって、
   物質の究極の要素(element)は なにかということと、物質の運動をつかさどる力はどこから発生
   するかということが大いなる関心事でした。
   さらに太古の時代、人間が自然にもっと密着した生活を営んでいたときーアニミズムの世界など、
   人々は自然界に見出されるありとあらゆる存在―太陽、月、星、山、川、石や樹といったものに
   “内なる魂”あるいは自然界の中に存在する力(エネルギー)を明確に意識していたのではないかと思います。

   また私はこの彫刻の石の天井の面に2つの渦巻を彫って見ました。
  1つは四角く内にだんだん縮小してゆく渦巻と、もう1つは丸く外に向かって拡散してゆく渦巻です。
 
  私達が自分自身の存在というものを意識する時、まず私達自身の個体としての実在を意識し、
  同時に私達をとりまく世界の存在を認識します。
  この2つの存在はそれぞれ前者は人間の肉体のメカニズムの神秘性と意識の無限の広がりを感じさせ、
  後者は自然のハーモニーとさらに宇宙の神秘へと拡大します。
  それぞれ“ミクロコスモス”、“マクロコスモス”と呼ばれますが、私はこの彫刻の制作中、
  この石の太陽と月に向かう面にこの2つの“コスモス”(世界・宇宙)のシンボルをぜひとも
  彫りたくなりました。
  同時にこの大地に直立する石と鉄による造形物が、かって古代の人々が自然の“内なる魂”を見たごとく、
  現代の人々に改めて厳粛な気持ちで自然に対峙するきっかけの場を与えることが出来るならば、
  作者の意図する目論みは 十分に達せられたと言えるでしょう。
                                    

*注 ファサード(Facade) 
 教会建築などの正面の装飾された壁面などを呼ぶが、一般的にその建築全体の機能なり性格を
  象徴化した壁面を指す。



             プラトンの輪(銅版画) コンセプト

 



 中世より、錬金術師はプラトンのとなえた四大元素、すなわち、

 水(Aqua)・土(Torac)・気(Aria)・火(Ignis)を基本元素として、
 そこに太陽(Sol)の光を当てることによって、
 P.M.(Prima Materia)第一資料を創造しようと試みた。

 錬金術師の目的は、金を造りだす事であったが、計らずも、
 P.M.プリーマ・マテリアは“賢者の石”となった。







  “イメージの水”(生命の樹-賢者の石)        (1992年 和南城孝志筆) 

群栄化学本社の細長い中庭の空間は、水平軸と垂直軸の2本の軸で
構成されている。
水平軸においては、平たい石彫と1本の樹木、両コーナーに
熊笹が配置された。

この御影石の彫刻は、石の自然の素材としての特性―神秘性を
生かすために最小限の加工がなされており、
それは静かに流れる水を表現する。
空想の水はその表面をうねるような波紋を残しつつ落下し、
周囲の樹木を育む。

一方垂直の軸としての空間は、錬金術の世界を形成する。
近代化学は古代、中世の錬金術を母胎としつつ発展した。
その錬金術の世界は四大元素、すなわち火・気・水・土よりなる。

火はこの庭にそそがれる陽の光であり、大気はそこを充満する。

イメージとしての水は石より落下し、敷き詰められた白御影石のフロアーは、
水の広がる湖か海原を連想させる。そしてその下は、大地が支えている。

   古代より錬金術は地上界と天上界、物質と精神を結ぶ虹の架け橋である。
   この二つの世界が互いに結ばれた時、ここに置かれた石は、錬金術師達の言う
   “賢者の石(Lapis phi losophorum)”と成り、
   そこに彫られた波紋は、ここを起点に四方世界に広がるであろう。



“2つの交叉するメビウスの輪”      (1983年 和南城孝志筆)

イタリアの古い山岳都市などに行くと、その頂上に近い古い町の部分に
一歩足を踏み入れれば、そこはギリシャ神話にでてくる
アリアードネの一本の糸を頼りに入ったミノタウロスのラビリントスも
かくやと思わせる。
家々がぎっしりと斜面にへばりついているので、路はしばしば家の屋根の
上を通ったり、地下をくぐったりで、その生活空間は、まったく
トポロジカルな空間である。
幾世紀にもわたって形成されうけつがれたこのトポロジカルな空間では、
その空間をしきる平面としての壁さえも、表と裏という本来の性質を
放棄せざるをえない。
残念ながら、アリアードネの糸を持たない私は、一つ一つの壁を
くぐるごとに、驚きの連続である。 

  
                         
 

                             
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