secret of my love 1 (樹志乃・コメディバージョン)

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「失礼する!!」
未確認対策本部のドアを尽きやぶる勢いであけた男は、呆気に取られている周囲には目もくれ ず桜井に近寄り、そのまま襟首を掴みズルズルと引きずって部屋を出て行こうとする。
我に返った桜井が慌てて抵抗した。
「ちょ、一寸待てって!! 何なんだよ、竹田!! 俺はこれから会議が・・・!!」
「いいから来い」
血走った目に篭る殺気に言葉がでない。思わずコクコクと頷いてしまった。そしてそのまま二人は退 場した。
「・・・・・何だったんだ・・・」
訳がわからないままに桜井を連れてかれてしまった杉田はポツリと呟いた。


その頃桜井は薄暗い部屋に連れ込まれていた。テレビが2台とビデオデッキ、そして周りに詰 まれた山のようなビデオテープ。いままでビデオをみていたのだろうか、テレビの画面が砂嵐 になっていた。
「一体なんの用だよ。俺は忙しい・・・」
ズイッ・・・と目の前に突きつけられた1本のビデオテープ。
「いーから、コレをみろ」
見ろって言われたって、そんな目の前にもってこられてもわからんだろ・・・とブチブチいいな がらテープを受け取る。なんのことはない、只のVHSのテープだ。黒いケースに入ってて、 そのケースに写真が貼ってある程度の。
「なんだよ、ただのアダルトビデオだろ?」
「・・・その写真をよく見ろ」
「写真? 何だよ、コレがどうしたって・・・・・・」
――――――――――――― 絶句。
「・・・・俺、疲れてんのかな・・・」
桜井は親指と人指し指で眉間を軽く揉んで軽く首をまわしてコリを解してみた。
「さてと、どれどれ? 最近、俺、目が悪くなっちゃってさ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。タップリ30秒はたっただろうか。
「返す」
「見たな? おまえも見たって事は同罪だ」
「てめっ!! 図ったな!!」
「馬鹿野郎!! 俺だってこんなん独りで抱え込みたくないわっ!!」
「俺は何も見ていないっ!!!」
「・・・・・・・・・・そうか、なら、言ってやる。こいつは五代雄介!! 第4号だな!!」
「わ―――――――――――っっ!!!! 聞こえないっっ!!」
「まだ言うかっ!!」
1本のビデオテープをはさみ桜井と竹田の決死の攻防が行われたが、ガチャッ・・・・とドアを開 けて入ってきた人物によって一時中断された。
「なにやってんだ、桜井。会議始まるぞ」
あっという間に連れ去られた桜井を探して杉田がやってきたのだ。
「杉田さんっ!! パスッ!!」
桜井から放られた物を咄嗟に受け取ってしまう。
「おっと、なんだ? ・・・・・ビデオテープ?」
こういったビデオテープには見覚えがある。
「なんだ、アダルトビデオか? 『I LOVE ユウ』? なんだ、なんのヒネリもねぇなぁ」
カカカ・・・と笑いながらヒョイと表をみた杉田の表情が凍りついた。
「・・・・・・」
「杉田さん。俺ら、一心同体ですよね」
と桜井。
「杉田さん、俺、心強いっす」
と竹田。
「・・・・なんでだ――――――――――-っ!!!」
と叫ぶ杉田。
それは、珍しく未確認も出ない平和な昼下がりの、とある警視庁の一室での出来事だった。


とりあえず杉田と桜井は会議をバッくれた。まだ起きていない災難を考えるより確実に起きる 災難を防ぐ方が先だ。
「――――――― しかし」
「はぁ」
「君はいったいなんて物を見つけてくれたんだ・・・・」
男三人、薄暗い部屋で大量のビデオに囲まれて深い溜息をついた。
「・・・・このごろね、結構犯罪件数が増えてんですよ。未確認に持ってかれてますからね、人手 が。夜の新宿なんて凄いことになってますよ」
「そうなのか?」
「未確認のせいで、ストレス?ですかね、恐怖から逃れるためか、今クスリや性犯罪とかが激 増してるんですよ。」
竹田は大量のビデオを顎で杓ってみる。
「こういったビデオなんかも過激になってんですよ。映倫なんか全然問題にもしてませんから ね、こいつらは。今じゃ12,3の子供がでてるキディポルノなんてアメリカ並ですから」
「・・そんなに酷いのか?」
娘を持つ杉田が眉をひそめた。
「まあ、ね。で、最近未確認も出てないから一斉検挙に踏み切ったんですよ」
ということは、この部屋にあるビデオは全てその手のビデオで全部ヤバイってことなんだろう か。
「これまた大量だな、全部チェック済みか?竹田」
桜井の問いに無言で頷く。
「だぁかぁらぁ、こんなモン見つけちゃったんだろうがっ!!」
「でもよく、五代君の顔知ってたな」
「あ、こいつ、この前の41号の時、人手足りなくって狩り出されてんですよ。だから、つい でっていうか、俺が・・」
と桜井が杉田に答えた。
「チラッと見ただけだったんですけど、結構、顎の黒子とか特徴あって覚えてたんですよ。
「ううっ」
「そしたら、なんで、こんなん、出てんですか〜」
すっかり肩の落ちた竹田の背中を桜井が慰めるように叩く。
「コレ、一本だけか?」
手にとったビデオのパッケージを見つつ杉田が尋ねる。表紙に張られた写真は今より5〜6歳 は若く見える男が写っていた。髪は今より短いものの、この笑顔に間違いはないだろう。
「いぃ〜え、違いますよ」
「まだあんのかよ!」
ゲッと体を引く桜井に追い討ちをかける。
「だって、こいつ、アイドルだったらしいもん」
「・・・・はい?」
「こいつ凄いんですよ? これがデビュー作なんですけど。あっという間に人気が出たらし くって、超売れっ子だったって。実際この人ね、『ユウ』シリーズとかいって、10本ぐらい しか出てないんですけど、今じゃそのビデオプレミア物になってるらしいんですよ」
「・・・・・・やけに詳しいな。お前」
「へんな勘違いすんなよ、桜井。コレを没収したビデオの店長がね、言ってたんだよ」
「店長が?」
「ええ、コレだけはっ!!って、泣いて頼まれたんですけど、そういう訳にも行かなくって。 もう廃刊になってるし会社も潰れてて今有るのしかないらしいんですよ」
「会社が潰れてるって事は・・・・」
「ああ、そこの社長、未確認事件の被害者でさ、とっくに死んでた」
そりゃ良かった、とは3人の共通の思いである。生きてて誰かにばれた日には・・・・・・。
「・・・・、そいつ結婚もしてんだけど、どうしてもそのビデオは別だっていうんですよね。そん なにいいもんなんですかねぇ?」
なんとなく黙ってしまう。
「ところで、このシリーズだけはまだチェックしてないんですよね・・・・・」
クルッと背を向けて部屋を出ようとした二人の襟首を掴む。この際、上司だろうが、同僚だろ うが関係ない。不幸は皆でわかちあわなければ・・・・・!!!!
「ここまで、聞いて今更それはないでしょう。あきらめてください」
「・・・・いやだ―――――――――――――――――――!!!!!」
この日2度目の杉田の叫びだった。



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