secret of my love 3 (樹志乃・コメディバージョン)






「一体どうしてあんなビデオに出たんだ」
喫茶店で向かい合いながら杉田は雄介に尋ねる。あの後会議をすっぽかしそうになった一条 をなんとか桜井に引き止めさせている間に、杉田はポレポレに電話し何とか一条より先に雄介 を確保する事ができた。
「お金が必要だったんですよう」
雄介の過去は一条から大まかな事を聞いている。確か両親を亡くしているとか。
「ふむ」
「うう〜っ。もう、5〜6年も前の事なのに・・・・、あ」
「5・6年前?」
ちょっとまて、と杉田が眉を潜めた。ヤバイといった雄介の顔を見る。5・6年前と言った ら・・・・。
「五代君。今、君、いくつだっけ?」
「・・・・・25です」
「未成年じゃないか!!」
「だってええ!!」
「だってじゃない!! 18歳ごろだな! 高校出たばっかりだろう!!」
お父さんは許しませんよ!!とばかりに大声を上げる杉田に店中の視線が集まるが、まったく それどころではない。
「本当に切羽詰ってたんです!! 父さんは小さい頃に死んじゃったし、母さんは俺が18に なった頃に死んじゃったし。みのりは丁度進学を控えてたし・・・・」
「・・・・母親はどうして?」
ちょっと躊躇って杉田が尋ねる。
「・・・事故でした」
「そうか」
それ以上は聞かない。
「保険金はあったんですけど・・・、みのりの結婚資金にとっておきたかったんです・・・」
「・・・・そうか」
「俺、自分勝手だって判ってたけど、どうしても冒険は止められなかったし。あの時、冒険を 止めてたら、俺の方が潰れちゃってたし。だから自分になんかあってもみのりが困らないよう にだけはしておきたくって」
「・・・・・」
「手っ取り早いのがコレだったんです。・・・・まさか、自分が警察の人と仲良くなるなんて 思ってなかったし」
と杉田を見て困ったように笑う。
「・・・軽蔑しちゃいます?」
誰がそんな事をできようか。僅か18歳の少年が自分に出来る事をしようとしたのだろう。方法 はどうであれ、それは自分の為よりは妹の為だった。
「俺がそんな心の狭い人間に見えるか」
と笑って雄介を見つめる杉田の瞳に曇りは無く。雄介はホッと息を付いた。
「・・・ただなあ」
「ただ?」
そう、問題はそんなことじゃないのだ。
「・・・・そのう、君は一条の事をどう思ってるのかな?」
「一条さんのことって? ・・・・スキですよ?」
いつものように笑って見せる。
「君は知ってるんだろう。一条が君に対して特別な感情を持っている事を」
しかし、杉田には通用しなかった。伊達に一条より長く刑事をやっていない。それに雄介はな んとなく亡くなった父を思い出させる杉田に嘘が付けなかった。目の間のコーヒーカップに視 線を落とす。
「・・・・もう、杉田さんには隠せないなあ」
「君はどうなんだ?」
「・・・・そうですね。・・・・好き、ですよ」
「一条に答える気はないのか?」
雄介が、微笑む。それは何時ものように太陽のような笑顔ではなく、太陽にさらされて溶けて しまう淡雪のように儚い微笑で。
「・・・・一条さんは、俺を闘いに巻き込んだ、って負目を持ってるんですよ。俺自身が戦う事を 選んだのに・・・・。だから、俺の事を何より優先して、何より大事にしてくれて、・・・何よりも 考えてくれて、いつもいつもそうしてくれるから、・・・・俺の事好きだって思い込んでるんです よ」
悲しげに話す雄介に杉田は何も言えない。
「もし、この闘いが終って、もし、普通の生活に戻れるとしたら、・・・きっとそんな思いは消 えてしまって。きっと一条さんには可愛い恋人なんか出来ちゃって、結婚して・・・・、名古屋に 帰ってお母さんと一緒に暮らすんだろうなって」
「・・・君は、どうするんだ」
「俺は、・・・きっとこの思いを抱えたまま冒険とかにいっちゃうんでしょうねえ。ふふふ。暫 く日本には帰ってこれないかなあ」
――― この気持ちを消し去るまでは・・・.
そんな呟きは聞こえたようで、杉田は黙ってコーヒーを飲んだ。


『好きだぞ、五代』
『・・・急にどうしたんですか? 俺だって一条さんの事好きですよ?』
一番最初の告白はあっさり流された。その後、何度か意を決し再度試みてみたが見事に雄介に サラリと交わされてしまった。自分の告白の意味を理解っていない様だったから、じっくり腰 を据えて理解らせるつもりだった。一時の気の迷いではなく、ましてや雄介に対する同情から 発生した気持ち等ではなく。本気だから、雄介が理解ってくれるのを待つつもりだった。―― ―――――だが、実は理解っていたのだ。理解っていて、あえて雄介は判らない振りをしてい たのだ。
自分が嫌われているなどと思ってはいない。自惚れではなくそれは判る。雄介の自分を見る 瞳、呼ぶ声には明らかに友情以上のものが篭っている。だから、もし雄介が自覚していないな ら待とうと思っていたのに・・・・!! 
腹立たしい思いが一条を焦がす。結局、あの後会議をすっぽかしてポレポレにいってみれば雄 介は出かけた後だった。
【一条さん!! 聞こえてるんでしょう! 返事してくださいよお!】
無線から聞こえる桜井の問いかけを無視する。バックミラーを除くと桜井が後を付いて来てい た。
【一条さん! スピードの出し過ぎですって!!】
その言葉で、ふと、長野での出来事を思い出した。あの時は亀山が運転していたんだった。 やっぱり同じようにスピードを出していて。助手席から雄介を見付けたのだ。
「良く見つけられたよなあ。あんなに猛スピードを出していて・・・・」
ふと、思い出し苦笑する。でも、あの時ははっきりと雄介の姿だけが浮かび上がって見えたの だ。・・・・・もしかしたらその時から惚れていたのかもしれないなあ、なんて考えていたら、通 り過ぎた喫茶店のドアの横にBTCSがみえた。
「!!!!」
見間違える筈などなかった。周囲の迷惑顧みず一条は急ハンドルを切る。
「!?」
目の前で急ハンドルをきられて桜井は焦る。一体何が、と見ると同じようにBTCSが見えた。 同時に携帯を取り出し短縮番号を押す。


携帯が鳴り、杉田はすまない、と雄介に断って携帯に出た。
『見付りましたあ!!』
せっぱつまった桜井の叫びは雄介まで届く。
「「ええっ?!」」
二人の声は見事にハモリ、一緒に立ち上がってしまった。
「行けっ! 後はなんとかするからっ!!」
「で、でも、いいんですか?」
「とりあえず頭を冷やさん事には話にならん。後で迎えに行くから!」
「〜〜〜、すいませんっ!!」
雄介が裏口から飛び出して、杉田が座り直した時、ドアが開いた。杉田は背を向けていたが後 ろから漂う圧迫感が間違いなく一条の来訪を告げていた。足音が近づく度に圧迫感が増してい く。何やら息苦しくもなってきたような気も。
「ここ、宜しいですか?」
いままで雄介が座っていた席に一条が腰を降ろした。いつもならあっというまに寄って来るウ エイトレス達も一条の妖気に押されてか近寄ってこない。
「五代がいましたよね」
「おう、もう帰った」
「一体、なんの話をしていたんですか?」
「・・・・ビデオの話」
一条の眉がピクリと動く。
「もう、そんな事するなよ、とかなんとかな」
「ほう・・・、それはそれは」
「お前が言うより俺が言った方が良いだろ?」
「・・・・・・。で、どこに行ったんですか?」
「さあ?」
恐い。正直言って、今まで相対した凶悪犯や未確認なんか比べ物にならないくらい恐い。だ が、負けてはいられない。
「それより、いいのか? 今日はこの後所轄に行くとか言ってなかったか?」
「・・・・・・」
暫く杉田を黙って見ていたが軽く溜息を付くと一条は伝票を持って立ち上がった。
「とりあえず今日は行きます。・・・別に会えなくなった訳ではありませんしね」
「おい、伝票は・・・」
「五代が世話になったようですので、コレは私が。杉田さんも早く戻ってください」
と、五代の飲みかけのコーヒーを一気に飲み干して出て行った。
ダーっと全身の力が抜ける。何時の間にかシン・・・・としていた店内もざわつきを取り戻す。
「しっかしなぁ、五代君、ありゃ、本気だぞぉ・・?」
一条の様子を思い出し杉田はボソリと呟いた。



アレから一週間。未確認はナリを潜め世間では一時の平和を楽しんでいたのに、警察庁内は暴 風雨が吹き荒れていた。原因は勿論・・・・。 眉間に皺を寄せての顰め面はいつもの事だったけど、何やら一条の半径5メートル以内は地球 の重力とは違うようで。一気に身体が重くなり呼吸まで苦しくなってしまうような気がするのだ。
「杉田さん・・・・・。何とかしてくださいよ」
「俺に言うなよ」
「だって、今杉田さんの家に居るんでしょ」
「うっ」
2・3日ならと家に連れて帰れば、葉月と妻に気に入られて、あっという間に滞在が一週間に なってしまった。
「なんか、もう一人娘が出来たようで嬉しいって・・・・」
「娘って・・・・」
二人して溜息をつく。これまた五代も早くに両親を亡くしたせいか凄く楽しそうで、これまた 無碍に帰れともいえないのだ。
「どうするんですか、アレ」
「う〜ん、とりあえず今日もう一度話してみるから」
「お願いしますよお」
「あ、ソレで思い出した。お前、今日ウチに来い」
「・・・なんでです」
「今、ウチのやつ葉月連れて母親ンとこ行ってんだよ、・・・・食事はアイツが作っててな。鍋す るからお前を連れて来いって」
「・・・・判りました。お邪魔させていただきます」
一条がたとえあんな様子でも、それはそれ、これはこれで。なにより雄介の作る飯は上手かっ たから、この機会を逃す手はなかったので喜んで誘いに乗った。ふたりはヒソヒソと話す事に 夢中になっていて、だから一条に見つめられている事も気付いていなかった。


ピンポーン!とチャイムを鳴らすと中からパタパタと足音が聞こえた。チェーンを外す音がす る。
「あ、桜井さん! いらっしゃい!!」
「お邪魔します。コレ、ビール」
「あれ? 杉田さんは?」
「ちょっと仕事が終らなくて自分だけ先に行けと言われました」
そうなんですか、といってビールの入った袋を覗き込む。そういえば杉田さんてば日本酒党な んですよねぇ、と言いながら桜井の先に立って居間に入る。
「・・・・・・それにしても、五代さんて、エプロン似合いますねえ・・・・」
しかもフリフリのレースが沢山ついているのに・・・・。そうですかあ?っと言って笑う雄介 は・・・・・・確かに可愛かった。
「なんか、杉田さんちょっと遅くなるみたいなんで、準備しててくれって言って」
「あ、そうなんですか。んんんん、じゃ、始めちゃいますか?」


ドアを開けると中から笑い声が聞こえてきた。どうやら楽しくやっているらしい。
「ダメですよ、コレが先ですよ」
「ええ〜! 俺流でこれが先です!」
一つの皿を取り合う二人はまるで新婚カップルの様で。
「美味そうだな」
ビタッと二人の動きが止まった。・・・・ええっとおお、この声って・・・・。
ゆっくり二人が顔を上げるとソコには何故か一条薫が立っていた。
「・・・・・あ、一条さ・・・・ん?」
「偶然杉田さんと松倉本部長が話しておられるのを聞いたら、誘われてね」
ふと後ろを見れば杉田が手をあわせている。口の達者な一条の事、恐らく杉田が一条を誘わな ければならないように振る舞ったのだろう。
「これ、酒」
「あ、ハイ」
いち早く立ち直った雄介がうけとり、台所へ消える。一条はそのまま腰を降ろした。皿等一式 持ってきた五代は空いた席に腰を降ろす。ちなみに雄介の右から、桜井、杉田、一条となって いる。楽しい食卓の筈があっという間に地獄の食卓へと変わる。
「おお、美味そうに煮えているなあ」
なんとか場を盛り上げようと杉田が鍋を覗き込む。
「五代は料理が得意だからな」
雄介が答える前に一条が答える。
「そ、そうだな。うん、美味い」
「五代、そのエプロンどうしたんだ?」
引きつり笑いの杉田に構わず一条は雄介に問い掛けた。
「・・・似合いません?」
「いや、良く似合ってるぞ。ただ、いままでに見た事ないから」
「杉田さんの奥さんが貸してくれました」
「・・・・・そうか」
・・・・・きっと、あとで二人っきりのときにも着させようって、思ってるって事が判ってしまう 自分がいやだあ!!と心の中で泣く桜井。何が嫌って、判る自分も嫌だが、それがきっと外れ ていないのがもっと嫌だった。
黙々と食事が進む。鍋の煮える音と箸と食器が触れ合う音が響く。一条が空いた器を差し出せ ば雄介は黙って受け取り、適当に鍋からよそって渡す。
(まるっきり甲斐甲斐しい新妻に亭主関白な夫って感じだよなあ・・・・)
黙々としつつも何処か嬉しげな二人を見て桜井は溜息を付く。なんか自分達は邪魔者のような 気がしてならない。
「あ、桜井さんも何か取りましょうか?」
桜井の手の中の皿がカラになったのに気付き雄介が手を出した。
「あ、や」
ふと顔をあげ、一条と目が合った。
「・・・・・や、自分でやりますから・・・・、はは」
――――― 大人げないぞ、一条。
杉田がその様を見て心の中で呟く。またしても沈黙の食事が続く。―――破ったのは、一条の 携帯だった。
「はい、一条です」
杉田と桜井が目を合わせた。こんな時間にココまで電話がかかって来るとすれば理由はただ一 つ。
「未確認が!? 場所は。ええ、○×区3丁目、ええ、ハイ、では至急向かいます!」
「俺、BTCSで向かいます!」
場所だけ聞くと雄介が皆より先に飛び出して行った。
「俺達も行くぞ!!」
火の後始末をして、杉田達も部屋を飛び出していった。


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