secret of my love 4 (樹志乃・コメディバージョン)






「危ない!!」
とっさに雄介を庇って一条が身を投げ出した。
「一条さん!!」


一条が運び込まれた先は関東医大だった。椿はたいした事はない、こいつは不死身だから、と 笑ってくれた。24時間看護制だけど側にいたければいてもいい、とも言ってくれた。
一条は薬が効いて眠っていた。あちこち傷だらけになっていた。怪我はどれぐらい酷いのだろ う。病院で着替えさせられた寝巻きから覗く白い包帯が痛々しかった。グスッ・・・と雄介は鼻 をならした。目の前の一条がにじんで見える。
「やっぱり、俺の、せい、なのかな」
衝動的に眠る一条の頬にキスをする。ゴシゴシと涙を拭きとる。
「ゴメンね。一条さん」
そっと、閉じられている唇にも触れるだけの軽いキスを落とす。
「・・・あの人達の言う通り、やっぱり、俺って疫病神なんだなあ・・・」
「だれがそんな事をお前に言ったんだ?」
不意に声をかけられて驚いた。
「一条さん、眠ってたんじゃ・・・・」
「そんな事はいい。誰が言ったんだ」
意外なほど強い瞳の光にホッとして、気付く。
「寝たフリしてましたね。俺、心配したんですよ」
「五代、言うんだ」
「誰だっていいじゃないですか」
「よくない」
「・・・なんで・・・」
「お前を傷つける者は許さない」
目をそらさずに一条が言う。それだけで嬉しくって。
「だって、本当のことでしょ。俺と会ってから、一条さん、怪我してばかりだ」
「これが仕事だからな」
ズキッ・・・・ときた。そう、一条が雄介を、クウガを庇うのは仕事だから。気に掛けてくれるの も仕事だからだ。雄介の表情が曇ったのを見て一条はピンときた。
「まさか、そのせいか?」
「え?」
一条が雄介のベットに置かれた腕を掴んだ。
「雄介」
始めて名前で呼ばれて戸惑う。
「俺は、お前が好きだ、と前に言ったな」
「う・・・・」
「そのときお前気付いていたな? 俺がどんな意味で好きだといったか」
「・・・・」
「何故誤魔化した?」
一条の強い瞳が雄介に嘘をつく事を許さなかった。
「一条さんは『ツリ橋の恋』って知ってます?」
「・・・・・」
「高くて、細くて今にも崩れ落ちそうな危険なツリ橋があって一足踏み出すごとに下の崖に落ち てしまいそうなほど朽ちているんです。ほんとに人一人しか通れないぐらい細くって。そこに ね、両端か男の人と女の人が歩いてきちゃって真中で鉢合わせしちゃったんですよ。」
一条は黙って雄介を見ている。
「そうするとどうなると思います。二人は相手が自分のタイプじゃなくても恋に落ちてしまい やすくなるんです。危険がゆえのドキドキを恋の胸の高鳴りと勘違いしちゃうんですよ。・・・・ だから、ツリ橋を降りてしまうと恋は冷めて現実に戻ってしまって二人は別れてしまうんで すって」
雄介は視線を避けるように俯いたままだ。
「・・・・だから、一条さんも勘違いしているんですよ。この、闘いが終って、現実に戻ったら、 きっと今のその感情なんて夢の中の出来事だったようだ、なんて忘れてしまうんです」
「なにが、いけないんだ?」
「え・・・?」
「ツリ橋の恋でなにが悪いんだ? 俺は今、お前が好きだと言ってるんだぞ?」
「だって」
「だってなんだ」
一条の冷静な追及が胸に痛い。そう、いやなのだ。今だけ好きなんて言われたっていやだ。
「だって、・・・・一条さんにもしあとで『これは間違いだった』なんて言われるのいやだ・・・」
「なんで、いやなんだ?」
もう、隠す事は出来なかった。
「だって! 俺は好きなんだもん。一条さんの事、ちゃんと好きなんだもん」
そう、だから、もしそんなふうに言われてしまったら、辛い。
「お前もツリ橋の恋かも知れないだろ?」
「俺のは違う! だって、最初に会ったときから好きだったんだから!!」
思わず顔を上げて一条を見て、息を呑んだ。
「やっと、言ってくれたな」
柔らかな一条の微笑み。本当に嬉しそうでまるで大輪の薔薇が花開いたように艶やかだった。
「嬉しい。お前が俺を好きでいてくれて」
「一条・・・・さ・・・」
「雄介、一つ聞くがこの気持ちがツリ橋の恋だとしても、もしこの闘いが終って醒めてしまわ なかったらどうするんだ?」
一条の言葉に雄介は驚く。そんな事を考えてもいなかった。
「醒めなかったら・・・?」
「そう、後で、悔やむのか?」
「でも」
「悔やんで過ごさなければならないなんて、そんなのは厭だ。この恋が一生に一度の恋かもし れないんだぞ。それを半分手に入れつつも不確定な未来の可能性で手放してしまうのはいや だ。」
「だって」
「そのときに出来る事を精一杯しよう。第一俺達の未来ほど不確定なものはないんだぞ?」
「一条さん・・・・」
「この気持ちを消したくないのなら本当にするように努力をしよう」
「一条さん・・・」
「なあ、雄介。俺達は別々の人間だから、互いの気持ちは口に出して言葉で伝えるしかない」
「・・・」
「俺はお前が好きだ。一時的じゃなくこの闘いが終ってもお前といたいと思ってる」
「・・・」
「お前はどうなんだ?」
「俺も、好き、です。一緒に、居たい・・よう」
真赤になった雄介の消え入りそうな声。
「俺を独占したくない?」
「・・・したい」
「なら、お前の全てで俺を惹きつけておくんだ。お前以外、目に入らないようにしてくれ」
「・・・いいの、俺で?」
「ああ」
「一条さん、すき」
「俺も好きだ」
「・・・避けてて、ごめんなさい。俺、傷つくのが厭だった・・・」
「・・・俺も傷ついた。嫉妬もした」
「ごめんなさい」
「ダメだ。許さん」
顔を近くに、唇が触れるほど側に寄せての甘い会話。
「慰めてくれ、雄介」
「・・・・一条さん、怪我してるでしょ」
「雄介が看病してくれたら治る」



翌朝。雄介は一条の腕の中で目を覚ました。喉は掠れて痛いし腰もいたい。体中の間接がギシ ギシいっている。無理もない。昨夜はあんな事やこんな事までさせられた。昨夜の記憶が一気 に蘇り顔が真赤になる。ついでに身体まで甘く疼いてしまった。
「もう、ヤバイヤバイ・・」
一条は一体何処であんな事覚えてきたんだか・・・。本当に刑事なんだろうか。
「・・・起きたのか」
一条が雄介を自分の胸に抱き込む。
「ええ、・・もう起きないと・・・」
「もう少し・・・」
「ダメです。ここ、・・・・・病室ですよ・・・!」
「大丈夫、個室だから・・・・」
「・・・最初から、こうするつもり、だったんですね」
下からにらむと一条はニヤリと笑う。
「なんのことだ?」
「怪我したなんて嘘まで、ついてぇ・・・」
昨日の激しい営みのなか一条に巻かれた包帯はスッカリほどけてしまったが、その下に怪我し た跡などなかった。
「そうでもしなけりゃ、雄介を捕まえられなかったろ?」
「だって・・心配、した・・・のに」
一条の不埒な手が雄介を煽る。
「やっ・・・・て、ちょっとぉ、・・・ん、朝です、よ!」
「んー?」
唇が首筋に埋まる。手が全身を摩り昨日の記憶を思い出させていく。燻っていた雄介の身体は 簡単に火がついた。
「あっ・・・、だめぇ・・・ですぅ・・・って!」
「ダメ、じゃないだろ?」
完全に雄介の上に一条が覆い被さったとき、
スパアアアアアン!!!!
といい音が響いた。
「って!」
「椿さん」
「なにやってんだ、このエロ刑事」
スリッパを手にした椿がたっていた。
「ったく、朝だぞ。お前出勤だろ」
雄介が身体をベットから出ようとするのを上半身だけ起こした一条が後ろから抱きしめる。
「一条さん、離してって・・・」
スリッパを履きながら椿がカルテを取り出した。
「ま、その様子じゃ後遺症も平気だろ。十分元気見たいだし」
雄介の上半身に散りばめられたキスマークが昨日の激しさを表している。雄介が真っ赤になっ た。
「もしかして、椿さんもグル?」
「俺は嘘は言ってないぞ」
「う、それはそうだけど」
確かに一条が怪我をしたなどとは言わなかった。言わなかったが
「なにも包帯までまかなくったって・・・・」
「素直になるチャンスをやったろ? 一条なんか手つけられなかったんだぜ」
椿の会話に気を取られ雄介が一瞬無防備になった。
「アンっ!!」
思わず声を上げた雄介が真赤になる。後ろから抱きとめられたまま椿の目の前で一条の不埒な 悪戯が始まったのだ。シーツの下で一条と雄介の攻防が始まる。が、男二人は平静な表情のま まだ。
「今日、休もうかなって思って・・・」
「馬鹿いうな、ベットの空きはないんだ」
「やっ・・・・ん、う・・・」
「そこをなんとか」
「タダじゃやだ」
指がゆっくりと侵入する。思わずのけぞり一条の肩口に頭を擦り付ける。
「ビデオ渡したろ?」
「ありゃ、昨日の夜の分だし」
なにやら聞き捨てならない事を聞いたような気がする。雄介の中で一条の指が動きまわる。声 を上げないようにするのが精一杯で。
「ダビングしちゃった」
「・・・許さん」
「あ。そんな事言っていいのかな。折角、アレ、ビデオに取ったのに」
「嘘」
「ほんと」
「・・・・しょうがない。少しだけだぞ」
「本当は見せたいくせに」
椿と一条が顔を見合わせてニヤリとする。
「その代り今日一日追加な」
「プラスカルテつき、どうだ」
「いいだろう」
どうやら話は纏まったらしい。怪訝そうな雄介に一条が笑ってみせる。一条がこんな笑みをす るのは大抵ろくな事を考えていないときで。
「よかったな、今日もう一日休めるぞ」
と、シーツを落として見せた。


「一条さんの馬鹿ぁっ!!!」
病室から走り去る雄介の足音が朝の病院に響き渡る。
残されるは・・・・。


後日、一条の下に謎のビデオが一本届いた。





今回の一条さん紳士的だったでしょ。ちゃんと口で説得してるもん。(by 樹)
確かに。やることはおんなじだけど。(by ひかる)


BACK

   TOPへ    小説TOPへ    秘密の部屋への入り口へ