secret of my love 2 (樹志乃・コメディバージョン)






「やっぱり本人だよなぁ」
「ですよね・・・・」
「何年ぐらい前なんでしょうかね。髪も短いし今より5〜6歳若いって所ですかね。これなら、 もし見付かっちゃっても・・・・大丈夫ですかね?」
「どうだろう。いくら出会う前のことといっても・・・・・・」
杉田の語尾が小さくなっていく。結局3人は揃ってビデオのチェックをする羽目になってい た。万が一の事を考えイヤホンで聞くことにする。そして、なにかあったら画面が直ぐ隠せる ように3人よりそってビデオ鑑賞会を行っていた。

伊達に杉田や桜井は刑事をしていたわけではない。陰惨な現場や悲惨な事件をそれこそ何百件 と取り扱ってきたのだ。ましてや今は未確認相手の日常であるから、ちょっとやそっとの事で は動じなくなっている。・・・・・そりゃ、最初は登場人物が人物なので焦ったりもしたけれど、 一度腹を括ってしまえば覚悟はできる。男同士の痴情の縺れなんて新聞沙汰にならないだけ で、何件も取り扱っているから別に男同士ということに関して偏見はないし、ビデオを見るの だってお茶の子さいさいだ。自分でも持っているモノを見るのに抵抗はない。
でも、なるべくなら降りかかる災難から逃げたいというのが心情だ。こんなのが誰かの目に 入ったら、それこそ下手したら空から恐怖の大王が・・・・・・級の、いやそれ以上かも知れない 災難が降りかかるであろう事は間違いなくて。

「しかし、男同士のもナンパから始まるのか?」
「さあ・・・、俺見たことないですし」
二人の視線が竹田に流れる。
「どうですかね。ヤラセもあればノンケの子を騙してやっちゃうのもありますからねえ」
画面の中で雄介は男に声をかけられて笑っていた。どうやら男は五代に狙いをつけたようだっ た。
「まあ、普通男同士の場合、自分がそういった欲望の対象になるとは考えつかないでしょうね え」
男が五代の肩を抱いている。五代はなんの疑った様子もなくニコニコしている。
・・・・・・・・可愛い・・・・・・
と、3人は確かに一瞬思ってしまった。だって反則だろう、いまどきの女子高生、いや中学生 だってこんな純真!!なんて感じの笑顔にお目にかかれないのだから。ゴホッ・・・と杉田は咳 払いをして頭に浮かんだ考えを振り払う。
「で、どうなんだ、竹田。コレはヤラセっぽいのか?」
「いやあ、違うでしょうねえ・・・、この感じだと」
「この感じってどんな感じだよ」
「視線とか、雰囲気とかかな? ヤラセなら必ずカメラを気にするからさ、ちょっと観察す りゃわかんだろうよ。お前、刑事だろ?」
「・・・・観察したくない・・・・」
呟く桜井をおいて竹田と杉田は会話を続ける。画面では男が五代の肩を抱いてフレームから消 えるところだった。
画面がかわりどうやら何処かのホテルらしい。五代は酔っていてベットに横たえられていた。 なにやらスッカリ楽しそうでクスクス笑っている。
「一服もられてますね、こりゃ・・」
「そうか?」
Tシャツに綿シャツを重ね着した五代がしどけなく横たわっている。男が傍らに座り、Tシャ ツの裾から手を忍びこませた。
手は上に上がっていき胸の辺りで留まり別の動きを始める。ビクッと五代が跳ねゆっくりと顔 が男の方に向いた、その顔。
「・・・・・・杉田さん」
「・・・・うん」
「この人、無意識にこんな顔してるとしたら・・・・恐ろしいっスね」
竹田のセリフにガックリと肩を落とす。まったくその通りだ。潤んだ黒目がちの濡れた瞳。 酔って上気した頬。男にしては肉厚なポッテリとした唇。その魅力的な半分開いた唇から覗く ピンク色の舌。そして、意外だが笑っていないときの驚く程端整なその顔。
その、五代に煽られたのか男は突然五代に馬乗りになるとジーンズの後ろポケットがらナイフ を取り出し五代のTシャツを切り裂いた。そのまま綿シャツごと肩から降ろし上半身をあらわに する。全部脱がされなかった洋服は五代の腕に絡まり後ろ手に拘束してしまった。そのまま男 は五代に覆い被さり唇を重ね合わせた。男の手は下半身に伸び、ベルトを外しジーンズのチャッ クを下ろし中に侵入した。それでもどこか五代の瞳の焦点は合ってなくって。
「あ――――、そうだな、こりゃ、一服盛られてんな」
「恐らく催淫剤かなんかも入ってますね。」
あらわになった五代の肌に唇をよせ跡を残していく。日に当たらない部分の意外な肌の白さに 赤い花弁のような跡が映える。その度にビクビクと反応を返す五代にスッカリ男はのめり込ん でいるようで、自分も裸になり覆い被さっている。
「しっかし、男同士もかわんないんですねえ、することって」
ビデオをみていた桜井がぼやく。
「そりゃそうだろうな、突っ込む場所が違うだけだからな」
「おっ!! 杉田さん、問題発言ですね」
「・・・・・・ちなみにな、桜井。コレなんかいいほうだぞ?」
何度か生活安全部の仕事を手伝ったことがある杉田が言う。
「ええ〜!! 男同士じゃないっすかあ!!」
「全然まし。俺が手伝ったときはもっと最悪なのがあった」
「・・・・・嘘・・・・」
「嘘じゃない!! 杉田さんの言う通りだぞ、桜井。これなんか全然良い方なんだ!!」
二人の会話に割って入った思いもがけない強い竹田の反応に二人は顔を見合わせた。
「コレがいいほう・・・・?」
「竹田?」
生活安全部に所属している竹田は一斉摘発の度何十、下手をすれば何百に及ぶビデオを見る羽 目になる。なかにはもっとグロテスクな物や、本当にこれで抜けるのかッ!!というビデオも あって、時には肝試し(コレ内緒)に使われちゃうこともあるぐらいで。
「そんなんに比べたら、見目麗しい男が二人ならば!!全然良いんだぁ!!!!!」
それら全てを確認しなければならない竹田の叫びは哀れさを誘う。
「そうだな。うん。そんなのにに比べたら、たとえ男同士とはいえ綺麗なのだからいいよな」
画面では男が五代の股間に顔を埋めていた。激しい上下の動きに鳴きながら五代が喘いでい る。
「じゃ、コレくらいレベル的に問題ないんじゃないの?」
「そうだなぁ、普通のAVと違うし、取り合えずモザイクはかかっているしなあ」
形がうっすらとわかってしまうお粗末なものであったけれど。
「そうなんですよぉ、同性同士とかってちゃんとしたラインが決まってる訳じゃないっすから ねえ。」
「それより、問題なのって本番してるかどうかなんじゃないのか、竹田」
「ん―――、どうでしょう、もうちょっとしないと・・・・」

      間。

「なあ、これに出ているって事は五代さんてゲイですかね」
すっかりなれてきた桜井の問題発言。
「う〜ん、そうは見えなかったがなあ」
これまた、めっきり開き直った杉田が五代を思い出して言う。あの、太陽のような笑顔で笑う あの男が?ゲイ?
似合わない。
「いやあ、バイじゃないですかね」
全然人事の竹田がきっぱりと言う。
「っていうより、そんなんこだわらない人なんだと思うんですけどねぇ?」
「妙にはっきり言うじゃないか。して、その根拠は?」
「伊達に新宿・歌舞伎町の取り締まりを何年もやってませんよ、杉田さん。その手の人間なら すぐわかります。その勘は外れたことありませんね」
「そんな勘あったって嬉しくない・・・・・」
五代の身体が若柳の枝のようにしなる。反り返った顎のラインが美しく、うっすらとかいた汗 が枕もとの明かりに照らされた肌を輝かせてみせる。男が口元を拭いながら顔を上げた。ボー ゼントとして、息を荒げている五代をうつぶせに返す。
「・・・・・・・じゃあ、あの人はどうよ」
「あの人はノーマルだね」
桜井の問いにもキッパリと答える。
「ノーマルもノーマル、ど・ノーマル・・・・・なんだけど」
なのに、そのあとが弱くなっていく。
「なんだよ、気になっちゃうだろ!! 変なとこで切るなよ」
桜井の突っ込みに杉田も頷く。
「う・・・・ん、あの人って、この人が絡んだときは違うんだよなぁ。この前の作戦でも思ったん だけど、」
「41号のときか」
初めて五代の正体をあかし皆に協力を仰いだあの日。
「一緒にいるところを見たんだけど、チラッとですけど・・・、そんときのこの人を見る瞳って いったら、俺、ちょっと忘れらんないっすね。」
「どんなんだよ」
「なんつうの、こう喰い入るっつうか、全てを独占するようなっつうか、いやそんな生易しい もんじゃなくって、う〜ん・・・・、うまく言えないんですけど、女だったら間違いなく一発で落 ちますね、あんなふうに見つめられちゃ」
「てことは、五代君は気付いてるのかな?」
「んん、そんなに鈍いとは思えないんですけどねえ」
「じゃあ、あの二人はできてる、と思うか?」
「いや、まだだろ。そういう雰囲気ではなかった。多分そーとーあの人押さえてんぞ」
沈黙
「じゃ、これがばれたら・・・」
「キレるんじゃないか? あーゆー人って、キレたら怖そうだよな、あはは」
再び沈黙。
ガシッ!!と桜井が竹田の手を握る。
「ありがとう!! 浩一!! 俺嬉しいよ!!!」
もしあの人が暴走しちゃったら、絶対誰にも止められないから。
「馬鹿だな!! 剛!! 警察学校ではKinki Kidsと言われた俺らじゃない か!!」
ゴン!!ゴン!!
「痛いっす」
「酷い」
「いいから見てろ」
二人の頭に振り落とした拳を摩りながら杉田が促す。画面では五代が胡座をかいた男の上に 乗っけられていた。足を大きく広げさせられ、中心は後ろから男に握られ、扱かれている。
「これ、本番してるか?」
・・・・・・。
「ああ、してますね。こりゃ」
と、その時。
「何をしてるんですか?」
「うわああああああああ!!!」
ガチャッとドアが開き声がかけられた。とっさ身体に画面を三人で覆う。電源切りゃいいだ ろ、とかスイッチ切れよ、という事なんて全然頭に浮かばなかった。
(なななななんで恐怖の大王がここにぃぃぃ!!)
とは三人共通の心の叫び。必死で画面を隠す。
「おおおおおおう!? なんだ、一条!?」
「・・・・・・どうしたんですか? 杉田さん。声がひっくり返っていますよ?」
怪訝そうに一条が眉を潜める。
「いいいいいいやいや、なんでもないんだ。で、なんだ?」
「・・・・なんだって、会議は・・・」
「いま!! ええ、たった今! 行こうとしてたんですよ、はははは」
滝のような汗を流しながら杉田と桜井が答える。誰だ!! ドアのカギかけなかった奴 はっ!! とお互いに突っ込みながら。
「一条さんこそどうして・・・」
「ああ、科警研に寄ってきました。対未確認の新しい兵器が開発されたので・・・・・」
ふと言葉を区切り三人が後ろの隠しているものと回りの大量のビデオを見る。ソコから想像す ると答えは一つしかない。
「・・・・・・没収されたビデオですね」
バクウ!!!!と心臓が脈打つ。まさしく、3人は口から心臓が飛び出すような思いを味わっ た。
「しょうがないですね。見付かったら怒られますよ」
苦笑して一条が溜息をついた。
「程ほどにして、行きますよ」
「ハッハイッ!! すぐに!!」
一条は手を振ってドアを開けてる。出て行きかけて・・・・。
「ああ―――――っ!! さくらっ!!」
条件反射で手を上げた桜井の手にイヤホンのコードが絡まり・・・プッと抜けてしまった。テレ ビから。
『ああっ、やっ、やだぁ、やだぁ』
ビクッ・・・と一条の背中が凍りつく。
『やだ、じゃないだろ、こんなにして。本当はいいんだろ』
『ひいっ!! 嘘だぁ、こんな、あっ、こんなのぉ・・・っ!! ああっ!!』
『そら、こんなにガッチリ咥えこんで・・・ヤラシイ身体だ、雄介は』
「たけだああああ!! こんせんとおお」
「はいいっ!!!!」
ブッ・・・と画面が消えた。杉田の叫びに自分の足元にあるコードに気付いた竹田がコンセント を引っこ抜いたからだが・・・・。
「・・・・・・・・・・・」
ゆっくりと一条が振り向く。その笑顔が恐ろしい。
ゴクリ。誰のかわからないが、唾を飲む音が聞こえる。3人は背筋を冷や汗が滝のように流れ るのを感じた。
「今のビデオは・・・・・・?」
一気の辺りの気温が氷点下まで下がったような気がした。いや、下がったのだ。
―――――さ、寒い・・・・・。
心なしか、吐く息まで白い気がする。微笑みを浮かべていても目は笑っていなかった。
「今、竹田、と呼ばれていましたね?」
コクコクと声も出せずに頷く。
「ソレ、渡してください」
手を差し出されて ――断れるはずがない――― 電源が切れた事で排出されたビデオテープ を渡す。
「・・・・・・・・」
ジッとビデオを見る。
「・・・・・詳しい話、聞かせてもらいましょうか?」
今まで現れたどの未確認よりもその恐怖の大王は恐ろしく、寄り添いあっている3人の目の前 でドアは閉められた。

5分後

バンッ!!!!と、勢い良くドアが開けられる。
「一条、会議はどうするんだ!!!!」
杉田の叫びを背に一条は遠ざかっていく。
「桜井!! 追え!!」
「ヤですぅぅ〜!!」
と言いつつも桜井はダッシュで遠ざかる一条を追った。杉田はそれを確認しつつ携帯でつい先 日教えてもらった電話番号をプッシュする。どうやら一条より早かったらしく3コールほど なって繋がった。
『はい、オリエ・・・・』
「そこからでるんだ!!」
運良く本人が出てくれたのでみなまで言わせず叫ぶ。
『え? えっと、杉田さん・・・・ですよね?』
「いいから、早く店を出ろ! 一条が行くぞ!!」
『え? え? え? なんで?』
杉田の言っていることが何がなんだかわからない雄介。一条さんが来るから店を出ろっていっ たい?と悩んでいる雄介に説明してやる。
「ばれた」
端的な言葉。
『え?』
「ビデオがばれた」
『ビデオ? ビデオって・・・・・・・・・・・・・・・・』
「一条がいま飛び出していった」
『ビデ・・・・・・・・・・・・・、ああああああああああっ!!!!!!!』
どうやら解かってくれたらしい。
『ななななななんでっ、一条さんに、そんなものがっ!!!』
「あと5分もしないうちに着くぞ」

二言、三言話して電話を切ると同時に雄介はエプロンを外し何事かと見ているおやっさんに声 をかけた。
「おやっさん!!! ゴメン!!!! どうしても出かけなくっちゃいけなくった!!!!」
と、あっという間にポレポレを飛び出していって・・・・・3分後。

「五代雄介いるか!!!!!」
と、ハンサムさん、こと一条薫がドアを蹴破る勢いで入ってきた。店中の注目を集めてもビク としない。そこに自分の求める姿がないことを一瞬で判断する。
「チイッ、杉田さんだな・・・・・」
すでにおやっさんおよび、一般客は視界には入っていないらしく「失礼!!」と入ってきたと きと同じように勢い良く出て行ってしまった。

「何なんだ・・・・。一体」
おやっさんの呟きがポツリと床に落ちた。


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