木星奪還部隊ガイアフォース

第26話「新しい仲間」


 ラスティ・ブレナーは、メアリとともに火星にいた。

 プロジェクト・グリーンマルスによって人工的な大気を作り出すことに成功していたとはいっても、気象条件は未だにきびしく、この日も、この地域には強風が吹き、小さな塵を頬に当てていた。

「ねぇ、メアリ。ラウ・チェンというお方は、本当にこのようなところに住まわれているのでしょうか?」

 ラスティーは、頬にあたる砂埃を手でよけながら、未だに荒野と呼ぶにふさわしい、眼前に広がる大地を見ながらいった。

 彼女たちの立つのは、まさに断崖絶壁であった。しかし、ラウ・チェンを訪ねるものは、皆この景色を知るのだ。

「チェン様は、シェンロンをご退職されて火星のご家族のもとで暮らされている、と官制長さんが言っていたけれど、火星の大地は一般の民衆が住むにはコロニー機構の許可がいるし……」

 ラスティは、遠くを見ながら何か思うように言った。

「このような荒れた土地で暮らすというのは、きっと意味があってのことなのでしょう」

 メアリーが諭すように言った。

 火星の荒野に吹く赤い砂の嵐は、その強さを微妙に増してきているようだった。

 

 

 ゲイツ・バロンは、クルップ・ガルツェと名乗るオーディンズの戦士に導かれるように、ある場所に連れてこられていた。

 ゲイツは、ヘルメットのバイザーを黒く塗装され、それをかぶったまま、クルップの乗ってきた白いラウンドムーバーに乗せられていた。腕と脚には錠がされていたが、きつくは絞められていなかった。しかし、それを外すことはできなかった。

 ゲイツは、大きな鉄がきしむ音を聞いた。なにかハッチが閉まる音だろう。空気のある空間に到着したようだった。

 クルップのラウンドムーバーからタラップに降ろされたゲイツは、まるで囚われの身だった。

「すまないな。一応、規則だからな」

 クルップは、ゲイツのヘルメットのバイザーに塗ってあった塗装を専用の布で拭いた。

(ラウンドムーバーの格納庫か?)

 視界が戻った。見たこともないラウンドムーバーが5台、メンテナンス用のベッドに立てかけられていた。

 クルップは、ゲイツの手錠と足かせを外すと、「ここからは自由の身だ。楽にしてくれていい」と言った。

(どこかも分からない所に連れてきて、

"自由"とはよく言ったモノだ)

 ゲイツは、クルップを完全に信じ切っていた訳ではなかったが、見知らぬラウンドムーバーを見て、オーディンズが少なからず本気なのだとは思った。

「ゲイツ!ゲイツ・バロンだろ!」

 甲高い少女の声が後ろから聞こえた。

「なんだ?」

 ゲイツが振り向くと、クルップと同じ宇宙服を来た少女がこちらに向かって走ってくる。

 自分より4つ5つ年下のように見えた。赤毛のショートカットが印象的だ。

「あ、クルップ。ゲイツを案内するようにってモイから頼まれたんだ」

 少女はクルップを気安く呼んだ。クルップは気にとめている様子もなかった。

「そうか」クルップは、ゲイツの方に向き直り、少女を紹介するためゲイツの視線を手で促した。「紹介しよう。キリカだ。オーディンズの重要なスタッフだ」

「よろしく、キリカよ。キリカ・リナっていうの。連邦のデジタル通信に割り込むのだって私がやったのよ」

 明るくはしゃぐ少女を見て、ゲイツは、こういう少女も利用して戦争をしようというクルップたちは、本当に正しい姿ではないだろうと思った。

「今日は、マデラーが来てるのよ。基地の中を歩っていれば逢えるかも。楽しみだわ」

「そうだな。でも、キリカ。マデラーは、あまりおてんばは好きではないらしい。気をつけた方がいいぞ」

 クルップはキリカをたしなめるように言った。

「クルップったら。一言余計なのよ」

 ツンとすねたキリカの横顔は幼く、本当にこの少女が高度な連邦のデジタル通信を解析したとは想像がつかなかった。

「マデラーって?」

 ゲイツは、クルップに訊いた。

「マデラー・ソジャナーよ。オーディンズの中心者。何にも知らないのね」

 キリカが答えた。クルップは許せ、というように肩を竦めた。

「キリカ。ゲイツはここでは知らないことが多い。案内をしながらいろいろ教えてあげてくれ。わかったね」

「そうね。ゲイツは素人だから、みんな私が教えてあげるわ」キリカには、色気もなにもなかった。「まず、モイのところに挨拶に行きましょう。新入りはリーダーに顔を知られることが大事よ」と、キリカはゲイツの手を取ると、颯爽と歩きだした。

「おい!」ゲイツはキリカを見ると「なんて女だ」とつぶやき、クルップを見た。「ここの女は、みんなこんななのかい」とキリカに引かて躓きそうになり、千鳥足で言った。

「すまないな。安心しろ。マルチェロのようないい女もいる」

 クルップは言った。

「マルチェロ?誰だい」

 ゲイツは投げやりな言い方をした。

「マルチェロ・ミドーラさ。ここのメカニックチーフですっごい美人。たぶん、ゲイツの好みだろうね」

 突き進むキリカが言った。

「まったく。決めつけるなよ」

 ゲイツが言うと、

「ボインの女を嫌いな男はいないだろ」

 と怒ったようにキリカが言い放った。

 ゲイツは、そうなのか、とまだ見ぬマルチェロを想像し、少し期待してしまった。

 その瞬間、通路にあった工具箱に足を取られて転びそうになり、よろけた。

「スケベなのは連邦も帝国も同じなんだよね。ハハハハハ」

 キリカの嬉しそうな高笑いが煤けた鉄板の回廊に反響した。

「来たな、ブルーハウンドが」

 男は、モニターに写るゲイツとキリカを見てつぶやいた。

 その男は、連邦軍の戦闘服を少し手直ししたものを着ていて、腕まくりをした二の腕は勇ましく太かった。モニターを切り替えるスイッチを入れると、画面は半壊したブルーハウンドがメンテナンスベッドに固定されようとしている画像になった。

「――これでバイソードも完成するな」

 男は小さく、しかし、満足そうに微笑んだ。

 男のいた部屋のドアがノックされた。

「モイさん。マデラーがお呼びです」

 若い男が、その男モイ・ハロルドソンを呼んだ。

「わかった、5分後に行くと伝えてくれ」

 モイはそういうと、ブルーハウンドを整備しようと準備を進めるメカニックマンたちに向かってマイクロフォンのスイッチを入れた。

「メカニック、モイだ。大事なブルーハウンドだ。しっかり面倒見てやってくれよ。それからクルップのセイレーンは予定通りタキオンドライブの搭載にかかってくれ、じゃじゃ馬セイレーンもこれでいっぱしのラウンドムーバになれるというものだ。頼むぞ」

「わかってますって。セイレーンも正規のTDUが積めるんで喜んでますよ。一週間もあれば、バイソードの調整にも入れると思います。期待しといてください」

 メカニックマンのリーダーらしき男が、無線越しに言ってきた。

「わかった。一週間後にはパーティーの準備をしておこう」モイはそう言うと、モニターのスイッチを切り、「あとはゲイツくんの説得だが……マルチェロの出番だな」とつぶやいた。


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