第50号 遺産分割

遺産分割

 

   白銀も金も玉も何せむに 
      まされる宝 子にしかめやも
  (シロガネモ クガネモタマモ ナニセムニ マサレルタカラ コニシカメヤモ)


 万葉の歌人山上憶良の歌です。私は、金・銀・珠玉も所詮、子には及ばないというこの歌が、大好きですが、どこの親も同じ気持ちだと思います。
以前、相続税の申告を依頼された兄妹の争いが、とても悲しくて残念でたまらないことがありました。たった2人の血を分けた兄妹なのに、兄でもなければ妹でもないと喧嘩しているのです。通常税理士は、遺産分割にはかかわらないことに徹しているのですが、私はついついくびをつっこんで後悔しつつ、最後に申告期限までに分割できると、ああ苦労の甲斐があったと喜んで、再びお節介をやいてしまうのです。


 明治・大正生まれの多くの親は、爪に火をともすといったら語弊があるかもしれませんが、着たいものも着ず、食べたいものも食べず、旅行にも行かず、贅沢をしないで、ただひたすら子供逹のために財産を残す人が多いのです。
昔は家督相続という制度があって、普通は長男が家を継いで、財産を全部承継し、その代わりに両親の面倒をみることが当たり前でした。


 民法が変わり現在では、配偶者が1/2、残りの1/2を兄弟姉妹で相続することになったため、両親の面倒をみるみないにかかわらず、権利のみを主張して争いになるのです。長男の嫁が苦労して舅・姑の世話をしているのに、嫁に出た姉や妹の夫が妻の両親の世話をしないにもかかわらず、しゃしゃり出てきて、法定割合を主張することが多く見受けられます。とっても嫌になります。世の中が少しずつ変化してきているとはいえまだまだ日本では、家を継いだ人は、お墓を守り、先祖の供養をし、義理でも親戚・知人の冠婚葬祭に出席しなければなりません。家を継がない人に比べ自由な時間が少なくなるし、交際費も随分とかさんでしまいます。 


 私は民法を改正してほしいと思いました。親を世話する人としない人とを区別してほしいと。しかし、法律にはそういう曖昧なことは、規定できないのです。それではと遺言書に、長男に全財産を相続させると書くと、途端に長男の嫁が舅・姑に意地悪をしたという話をよく耳にします。
 遺産分割は、法律で決めることではなくて、家族皆で話合い、相手の立場を考えて仲良く決めるべきだと思います。タブーとされている問題、親が寝たきりになったらどうしよう。親が亡くなったらどうしよう。こういう問題を親のあるうちに勇気をもって具体的に相談することが、後々の争いを防ぐよい方法だと思います。


 私は争いのある相続税の申告を依頼されると必ず、「ご両親が草場の蔭で泣いていらっしゃいますよ。」と、分割をすすめ申告期限までに全部分割して申告してきました。
それは申告期限までに申告をしないと、多額の相続税を納めなければならないことがあるからですが、もっと大事なことは、申告期限までに分割することが、兄弟仲直りの最大のチャンスなのです。申告期限までに分割できないで、何十年も争っている例や、弁護士費用がかさんで結局手取りが僅かになってしまった例をいくつも見てきています。


 私の言いたいことは財産の額のことではありません。兄弟仲良くできない人が世界平和を願うことはできないのです。山上憶良の歌ではありませんが、誰しも自分の子供はとってもかわいいと、宝物以上と思い、何としてでも守ろうとしています。でも平和の世の中でなければそれもかないません。男の人逹は、日本を守る為に軍事力を高めなければならないと言っています。もちろん、ガンジーのように無抵抗主義で日本を守ることはできないと思います。でも世界中の人々が、人を愛する気持ちを持ち続けてくれたら、どんなにかすばらしいことでしょう。


 最初の一歩は、兄弟仲良く孝行を尽くす ですよね。


 


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1998年11月01日