第314号 配偶者居住権

 

配偶者居住権

 民法が改正され、今年の4月1日以降に開始する相続について、配偶者居住権という制度が施行されました。この法律は、被相続人の配偶者が、相続開始の時に居住していた被相続人の所有建物に、終身又は一定期間居住が認められるというものです。

配偶者居住権の要件( 民法1028①)。
 (1) 配偶者が被相続人所有建物に相続開始の時に居住していたこと
 (2) 次のいずれかの場合に該当すること
   ① 遺産分割によって配偶者居住権を取得した場合
   ② 配偶者居住権が遺贈の目的とされた場合
 (3)被相続人が相続開始時に居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと

配偶者居住権の範囲
 配偶者居住権は、配偶者がその居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利であることから、配偶者が居住建物の一部しか使用していなかった場合であっても、配偶者居住権の効力は居住建物全部に及ぶこととなります( 民法1028①)。

配偶者居住権は、その設定の登記をしなければならず、建物所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定の登記をさせる義務があります( 民法1031① ② )。

配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間ですが、遺産の分割協議、若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによります( 民法1030)。

配偶者による使用及び収益
配偶者は、善管注意義務をもって、居住建物の使用及び収益をしなければなりません(民法1032①)。
配偶者居住権は譲渡することはできませんが、居住建物の所有者の承諾を得た場合には、第三者に居住建物の使用又は収益をさせること( 第三者への賃貸)ができます( 民法1032②③)。

居住建物の所有者は、配偶者との間で配偶者居住権を合意により消滅させた場合であっても、そのことをもって当該第三者(賃借人)に対抗することはできません( 民法1036)。

居住建物の費用の負担
配偶者は、居住建物の固定資産税や修繕費等、通常の費用を負担しなければなりません(民法1034①)。

居住建物が滅失した場合には、配偶者居住権は消滅します( 民法1036)。

配偶者居住権の評価
遺産分割等で、配偶者居住権を取得した場合は、当然相続税の対象となりますが、その価額は下記のように計算します。
配偶者居住権は、分割協議により分割された日における建物の時価(相続税評価額)から減価償却した金額を複利原価率で乗じた建物所有権を控除した価額
敷地利用権の価額は、居住用建物の敷地の用に供される土地の相続税評価額を複利原価率で乗じた価額を土地の評価額から控除した価額
  1. 複利原価率は、配偶者の余命年数による
  2. 減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定める住宅用の耐用年数を1.5倍したもの
           配偶者居住権の評価 

配偶者の死亡
 配偶者の死亡や期間満了による使用貸借の終了で配偶者居住権が消滅した場合は、その期間が余命年数より短いとしても建物所有者に課税は生じません。

配偶者居住権の合意による消滅
配偶者が生前、建物の所有者との合意若しくは当該配偶者による放棄により配偶者居住権を消滅させた場合において、建物や土地の所有者が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、当該建物等所有者が、その消滅直前に、当該配偶者が有していた当該配偶者居住権・敷地利用権の価額に相当する金額を、当該配偶者から贈与によって取得したものとなります
( 相基通9-13の2)。

※配偶者居住権の創設理由は、義理の親子の場合を想定してできたものと思いますが、仲の良い親子が意図的に配偶者居住権を使うと節税になる場合もあります。でも私はお勧めしたくありません。

 

 

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2020年11月01日