擬似科学
『きわどい科学』 マイケル・W・フリードランダー 著 田中嘉津夫・久保田裕 訳
1997年 白揚社
――疑似科学はいつも正統科学とともに存在して、絶えることがない。疑似科学が絶えない理由のひとつとして、多くの人が科学の方法(科学的手法と呼ぼう)や内容に不案内で、おぼろげで混乱した理解しかもてない、ということがある。また、多くの疑似科学が魅力的に見えるもうひとつの理由は、それらが正統科学がまだ解決していない難問を解決した、と主張するからである。ある種の疑似科学は、人間の強い願望と響き合っている。――(「まえがき」より)
著者はワシントン大学(在セントルイス)の物理学教授。内容は、いわゆる「トンデモ科学」にまつわる解説である。392ページ、13章立てと、なかなか厚みのある本だ。
著者は、まず第1章で、『ウォールストリート・ジャーナル』紙上で「水爆を飼いならす?」の見出しで報じられた、ユタ大学で発表された常温核融合の「実験成功」の例を挙げる。もちろん、「世界中の数多くの科学者が何カ月にもわたり個別に巨費を投じて独立した検証実験を徹底的に行なった結果」、たちまち「その興奮は冷めてしまった」というものだ。
こうした例について、著者は、次のように記している。
「別の研究者が批判的かつ緊密な調査をしてみると、通常、実験方法の不十分なところ、仮定の誤り、単なる間違い、少数ではあるが(残念なことに)捏造、が明らかになるのである。」
続く第2章では、太古に襲った地球的規模の洪水の存在を説いたイマニュエル・ヴぇリコフスキーのベストセラー、『衝突する宇宙』。そして政治家の後援を受けて展開された自動車用バッテリーの寿命を伸ばす添加剤「AD-X」をめぐる騒動を解説。
第3章では、のちに本物と確認されたが、発表当時は「疑似科学あつかい」であった「大陸移動説」と、その逆になった「常温核融合」について。
第4章、第5章では、「科学が日々行なっている仕事について」解説する一方、その科学者たちがかつて「引っかかった」仮説の数々を挙げる。
ほかにもUFO、占星術、ESP(超感覚知覚)と、疑似科学の王様たちを、冷静な筆致で次々に血祭りにあげていく。そして、シリル・バートの心理学実験、物理学のN線といったデータ捏造の例を紹介するとともに、捏造とまでは言い切れない例も二つほど提示し、「疑似科学の、ひと筋縄ではいかない側面」にも触れている。
なお、本書では「政治的な背景を持つ疑似科学」の例として、かつてソ連で力を得たルイセンコ理論、ナチスが提唱したアーリア物理学とともに、現代アメリカで広がる創造科学にも触れている。
創造科学の影響が広がりを見せた背景に、それを推し進める根本主義の教会にとって、「教育が主に州や地方の管轄にされているため、コントロールを働かせるのが容易になっている」ことを挙げている。また、司法の場においても、彼らが主導する反進化論の法律の合憲性をめぐる訴訟は、地方の裁判所においては、ときに有利な判断が下るものの、ことが連邦裁判所に持ち込まれるや敗退しているという。
加えて、この創造科学については、このような例も挙げている。
――創造科学運動は、博士号を取得しているかなりの数の科学者から支持を得ているということを、その宣伝のなかで誇らかに謳いあげていた。この広告に出てくる教授たちをよく検討すれば、主要な大学で終身在職権をもつ身であっても、実はここで討論されているような分野とは何の関係もない世界で仕事をしてきた教授であることがわかる。――
こうしたことが行われるのはは、疑似科学の宣伝に限ったことではなく、日本でもこんなことがあっなと感じさせる話である。しかも別のジャンルでね。
(2012.5.26)
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