本に鼻毛が植わるとき
『革命伝説』 神崎清 著 2011年 子どもの未来社
「この本、鼻毛が植わってますよ」
図書館のカウンターに本を返却する際、職員にそう告げた。都内のさる区立図書館でのことだ。件の本は昨年発行されたばかりで、図書館の本としては、まだ新しい本だった。読んだ人も少ないらしく、ページをめくっても少し感触が硬い。普通なら、まるで買ってきた本のように気分よく読めるはずなのだが、気分ははなはだよくなかった。
まず、書き込みがされていた。本の内容に批判的な書き込みである。これには図書館の職員も気づいており、私が貸出しを受ける際にも、その旨は告げられていたから驚きはしなかったが、いい気分のものではなかった。ちなみにこの本は、神崎清氏(故人)の手による「大逆事件」の研究書である。今年(2011年)、事件から百年を迎えることから昨年復刻されたものだ。扱っているのが大逆事件で、その論調は被告・受刑者に同情的なものであるから、それが気に入らない人が書き込みを入れたようだ。
おもしろくはなかったもののあることはわかっていたから、書き込みについては別に驚きはしなかった。だが、この本が受けた災難は、それだけではなかったのだ。
読み進むうちに、版面の外(本文の欄外)に、なにやら「まつげ」のようなものがついていることに気がついた。ページをくると、同じようなものがついたページが結構出てきた。そして、いくつもの「まつげ」を見るうち、その「まつげ」の根元には、なにやら茶色味がかったものがついていることに気づいた。
「これはまつげではない、鼻毛だ」
そう悟った瞬間に覚えた不快感といったらもう…。なにしろそれまで、「まつげ」を見つけるごとに指先ではがし、捨てていたのだ。しかもその手でせんべいをつまみ、湯のみを持ち…。気色の悪いことこのうえない。
これはテロである。今どき左翼もはやらないが、テロもはやらないぞ。しかもこんな不潔なテロはもっとはやらないぞ。
私がこの本を返却した際に応対した図書館の職員によると、本の内容に対する反論を書き込む者は後を絶たないそうで、たまさかその現場を押さえても、屁理屈をこねて居直る輩が多いそうだ。そう語る職員は半ばあきらめ顔だった。しかし鼻毛まで植えているとはね…。
(2011.9.4)
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