8月6日に手にした本
『夏のことば』 伊藤明彦 著 2007年4月 文芸春秋企画出版部
今日図書館で借りてきた本である。今年に入って、この著者の著作を読むうち、どうしても読みたくなった。
著者の伊藤明彦氏は1936年生まれ。その経歴は少し変わっている。早大を出て、出身地・長崎の民放局に就職。勤務すること数年を経て、被爆者の体験談を記録・放送する番組を企画、実現する。しかし、放送開始後半年にして支局に異動となり、番組を降りることに。このとき伊藤氏は、被爆者の声を記録する活動を続けるために退社を決める。
その後、日本電波ニュースや親族の経営する企業に勤務しながら、伊藤氏は声の記録を続けた。以来数十年。体験を語った人々の数は1000人を超えるにいたった。記録活動に専念して無職だったり、アルバイトで食いつないでいた時期も長かったそうだ。
その間、被爆者と偽って「被爆体験」を語る人物に出会い、その経験を、『未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記』(1980年・青木書店)という興味深い内容の本にまとめている。
さらに伊藤氏は、こうして集めた記録を、録音テープに編集、数百の団体に寄贈した。今世紀に入ったころからは「平和・協同ジャーナリスト基金」 基金賞をはじめ、その活動は多くの団体から顕彰されるようになり、2008年には、吉川英治文化賞を受賞。ブログ上でも、まだまだ旺盛な活動意欲を示していたが、長崎での記録活動中に体調を崩し、翌2009年3月死去した。
伊藤氏には、ほかに『原子野の「ヨブ記」 かつて核戦争があった』(1993年・径書房)、『シナリオ 被爆太郎伝説』(1999年・窓社)という著書もある。発行から月日の経った現在、書店で見かけることはないが、図書館などには置いているところも結構あるので、これらは読むことは比較的容易である。
だが、この『夏のことば』は、そうはいかない。発行元に「企画出版部」と記載があるように、この本は自費出版。流通用のコードも付されていないまったくの私家版である。国会図書館の目録にもない。こういう場合、著者に問い合わせれば手に入ることもあるが、すでに他界している。さて、どうしたものかと思い、ダメモトのつもりで東京の「公立図書館横断検索」で検索にかけたところ、あった。西東京市の図書館が一冊持っていたのである。
7月の終わりに近くの図書館を通じて「協力貸出」を依頼して待つこと十日。ようやく手にした日は、8月6日だった。
(2011.8.6)
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