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                 2011年1月の短歌

                 
        元旦に窓開けて見る富士山の 輝く姿に両手を合わせる



        今年から自分で手帳買い求め 書くこともなく白紙のページ



        朝夕の犬の散歩が唯一の 外出となる日も何日か



        初めてのこの地郷里とするために 郷土史などもひもといてみる



        身を投げた弟橘姫の櫛 埋めた古墳尋ねて歩く 



        沈みゆく陽をどこまでも追いかけて時間忘れた旅してみたい



        年寄りが多く住んでるアパートに 救急車響き犬の遠吠え



       
 凩に古い虫歯がまた疼く 畜生今夜は酒が飲めない



                 2010年12月の短歌


                                                 


               
乳出ると伝承残る大公孫樹 裸の枝が冬空高く



          橘樹
(たちばな)の郡衙(ぐんが)跡は何もなく 老人憩うベンチがふたつ



      
 子母口(しぼくち)の貝塚に立つこの地から 見下ろす街は幻の海



       
歴史にはあまり興味のない妻を 連れ出し歩く古代への道




          古代から続く古刹のこの寺に 墓所販売のチラシはためく




          橘樹の地名もなくて住む人も 新しくなり新しき家




          葉が落ちて隠れる場所のない鳥が 集まり騒ぐ冬の夕暮れ




          裸木を影絵のように黒く染め 夕陽が沈む一日終わる





              2010年11月の短歌


                                           


                     かさかさと音立て枯葉舞い上がり 乾いた風が心を撫でる



            
だんだんと登りの坂が急になり 首から下げたカメラが重い



        山道を歩く足元妻にまで 気遣いされることも哀しい



        尾根渡る風の声聞きもう少し ゆっくり歩こう鎌倉の道



                 
柿の実のように真赤なからす瓜 つるを手繰って思い出手繰る



        声かけて追い越して行く子供らの 笑顔はじける紅葉の道



        バスを降り三人それぞれ別々の 方角に散る秋の夕暮れ




            
二合炊き二回食べてもまだ残る 夫婦二人のささやかな暮らし
                                       


                          2010年10月の短歌

                       
           
        
   野ボタンの濃い紫の花びらが  道にこぼれて深まりゆく秋


        
        コスモスが咲いて薄が煌めけば 富士の山にも雪が降るころ


        
        
オレンジの巻き雲今日は指先が 凍えるような朝風が吹く


        
        木造のアパート鉄の階段の 下に停まった自転車の錆


        
        銀杏の黄色い実が落ちる境内は 三年ぶりの愛犬の墓


        
        Gパンが似合うと言ってくれたから 妻と一緒に散歩に行こう


        
        腰痛い背中が痛い情けない 六十三の体の現実


        
        倒れるまで頑張る程の仕事では ないねと自分慰める酒
 


                           2010年9月の短歌



               

           房総のキャンプ場の草叢で いなごの名前やっと思い出す



           群れて飛ぶ赤蜻蛉の向こうには いつしか秋が萩の花咲く



           星の降る音に驚き目覚めれば 空の総てが輝く星に



           砂浜を駆ける孫達お前らの 父もこうして駆け回ってた



           盛り場の人ごみうまく渡れない この前まではここに居たのに



           大声を出すことさえも忘れてる 街の喧騒追いかける宵



           初めての給料貰うこの金は 六万五千の汗の結晶



           この金は君のお陰と改めて 妻に手合わす初給料日



                                                  2010年8月の短歌

                     


               
六十を過ぎた体に鞭打って 肉体労働楽しくもある


          

          暑い日に外で働く心地よさ 気遣われるほどムキになってる


          

          もうこれで冬の風邪など怖くないと 思えるほどに日焼けした肌


          

          一息に喉の奥まで流し込む ビールの旨さ体の疲れ


         

          今日もまた真赤に空を染めながら 夕陽落ちゆく余熱を残し


          

          立ち止まる大きな木蔭夏休み 子供らの声消す蝉しぐれ


          

          休日は夜明けとともに畑仕事 二時間働き朝ガストする


         

          早速に畑で採れた夏野菜 手早く炒め贅沢な昼


                          
                           2010年7月の短歌

                  


          
   仕事なくすることもなくただ暑い クーラーの前犬と寝そべる


          

          三次元が二次元になり犬だけが 時々吠えて時間を刻む


          

          両方の手を思い切り突き上げて それより遠く星は輝く


          
          牧場の中に座った孫の目は 遠く飛んでる蝶々追いかけ


          
          日が落ちてまだ居座っている熱坊主 チンとも鳴らぬ風鈴の中


          
          夕陽浴び尾翼を赤く染めながら 飛行機北に飛び去ってゆく


          
          こんなことあんなことなど色々と あったね古いアルバム捨てる


         
          どこに行った時の写真か首かしげ 十年前の君若かった




                        2010年6月の短歌



                                   

                      二年間慣れ親しんだ街並みが あっという間に遠ざかってゆく



           美術館も美観地区ももう二度と 来れないだろう倉敷さらば



           空っぽの家に鍵かけ門を出る これでお別れ岡山生活



           これからは急がなくてもいい人生 お前と二人手を取り歩む



           四十年続けてきた早起きを 忘れてゆっくり朝寝楽しむ



           毎日が休みの中の罪悪感 気持ち切り替えられないでいる



           今日も鳴らぬ携帯電話 社会から置き去りになる焦燥感



           紫陽花の色段々と変わりゆく これから何して暮らしていこう






                       2010年5月の短歌

                  

              
 鳥取からバスにゆられて逢いに来た 昔の部下の懐かしい顔


        一面のレンゲ畑に彩られ 五重の塔立つ安らぎの里


        薄紅のレンゲ畑の寺で聞く 若紫が心に残る


        千年の恋を叶える京ことば 桜の衣のかたりべ妖し


        中国の景色にも似て鮮やかな 高梁川の五月の緑


        佇んで橋の向こうに落ちる陽に 手合わせお別れ倉敷の町


        最後かと思えば何でもいとおしい 鉄橋渡る一輌の汽車


        肩の荷が下りたらふわと飛んでゆけ 紙飛行機のように身軽に


                          2010年4月の短歌

            
            

   胸の奥紅き想いは秘めやかに 鬱金桜の小路を歩く



   
      さくら花行きつ戻りつする春が
 別れの言葉ためらっている



   
      ここで見る最後のさくら色薄く
 四月の雨に濡れて散りゆく



   
      桜雨フロントガラスに貼りついた
 花びらを見て弁当にする



        
      花びらが町を流れる川染めて
 柳青める白壁の町



   
      菜の花の黄色い絨毯敷きつめて
 五重の塔に夕陽が落ちる



   
      ゆったりと時が流れる吉備の里 
心の中の写真に残す



   

   蕎麦打ちと鬱金桜で打ち上げて
 これで終わりか岡山の春




                         2010年3月の短歌

                        

     まだ暗い朝の世界に飛び出せば 昼間と違うにおいがしてる


     竹藪を渡る風音びょうびょうと 胸騒ぎして今日の夜明けを


     また少しまどろんでいたバスの中 京都の町は朝靄の中


     さぁ行くぞ東寺の市に飛び出した 君は私を足手まといに


     何を買うあてもなくただ居る私 市の活気に置き去りにされ


     目の中に大きな仏ぐるぐると 駆けめぐってる東寺曼陀羅


     赤々と燃える夕陽に国分寺 もうすぐ終わる吉備路の旅に


     菜の花が桜にそっとささやいて 今春がきた五重の塔に 


                        2010年2月の短歌

                     

     
 瀬戸内の平山郁夫美術館 シルクロードがここから始まる


    何もかも捨てた砂漠の青い色 ラクダの隊列明日は何処へ


    あの時の鳴沙山の砂の色 平山郁夫の絵ハガキを買う


    定年はやはり一つの死ぬことか 次はどこの世界で生きる


    これからは毎日翡翠(かわせみ)追いかけて カメラ片手に夢のよな暮らし


    暖かい春の日のよな年寄りに なって生きたい梅三分咲き


    今年から煙草をやめてみたけれど 楽しみ一つ消えてしまった


    目の前に翡翠とまり向こうでは ヌートリアたち泳ぐ日溜まり




                         2010年1月の短歌

                   

          
キッチンの花瓶に挿した野牡丹が 洗いかけてる茶碗に落ちる

         
       野牡丹は都会の香り紫が 自由が丘の街に咲いてた


       のんびりと初詣の客境内で お神楽など見る佳き一日


       正月に大吉引いて先ずは良し 人間ドッグの結果次に良し


       店先で牡蠣を焼いて売る店の 匂いに誘われお昼にするか


       牡蠣以外何もないけど店先で 焼いて食べてる大振りなやつ


       愛犬の小春が妻の顔舐めて 大丈夫かなと心配してる


       もうすぐに仕事を辞めて暮らす日が 近づいてくる期待と不安







                        2009年12月の短歌

                      

        
頬にあたる風の冷たさ小波を 立てて流れる寒色の河

    
     明けやらぬ12月の空凍てついた 鴨を抱えて川は流れる


     霜枯れの河原の景色どうすれば 希望ここから見つけられるの


     倉敷に二年住んだがまだ何も 見つけられない心の焦り


     今はまだこの上にあるオリオンが 傾くまでの少しの休み


     ぽっかりとお湯に浮かべる柚子の香に 手足を伸ばして年の瀬近く


     突然に血圧上がるまぁそんな 事もあるさこの年になりゃぁ


     白壁に映す水面に病葉(わくらば)が 漂い流れて二年目の秋



                         2009年11月の短歌

                     


           
だんだんと深くなってく霧の中  迷い込んだか思考の迷路


       東へと定期航路の飛行機が 飛び去っていく夕暮れの空


       しんしんと寒さが足に巻きついて 二日の月が薄く尖るよ


       石鹸の香りがついた芳香剤 学生時代の君のようだね


       団栗の実を踏み歩く寺の道 紅葉すでに終わりて鳴く鳥


       刈り入れの済んだ田を見る日暮れ時 背筋震わす風吹き抜ける


       刈り入れの済んだ田んぼはひと休み 来年までは鳥の楽園


       これからの生甲斐などと理由つけ デジタルカメラ思い切って買う



                         2009年10月の短歌

                      

                         亡き父が帰りたがってた故郷へ 還暦過ぎた私が訪ねる


         在りし日の父が語ったそのままの 情景ここに立ちつくす我


         この海を毎日眺め暮らしてた 子どもの頃の父を偲んだ


         いよという言葉の響きなつかしい 私の生まれた海沿いの町


         どこまでも続く海岸酔芙蓉 夕焼け小焼けロードを走る


         今はもう併合されて大洲市の 私の生家も取り壊されて


         つい買ってしまう心を抑えつつ 伊部の町の陶器市見る


         有名な作家の拙き習作が 割られもせずに店先に並ぶ


                        2009年9月の短歌

                                   
           
  キラキラと光り輝く沙美の海 穏やかな日が明日も続け


         窓開けて時雨のような虫の声 聞きつつ車家路を急ぐ


         無花果の甘い香りが幼い日 悪戯したこと思い出させる


         この夏は何本胡瓜食べたろか 感謝をこめて最後の水遣る


         この苗を抜けば蛙の隠れ家が なくなってしまう胡瓜の葉っぱ


         ハキハキと受け答えする若者の 大きな声に圧倒される


         真っ直ぐに前向き語る若者の 笑顔眩しい採用試験



                       2009年8月の短歌

                    
      
      
  息子らや孫に囲まれ濃厚な 時を過ごした後の寂寥


      孫たちは我が遺伝子を受け継いで 荒波の中どう生きるのか


      しまなみの小さな島の砂浜に 羽を休める揚羽が一羽


      孫叱る子供の姿見るたびに 思わず妻と顔見合わせる


      この町にこの海にまたよく来たね 大きくなって思い出してね


      この子らにこの孫たちに思い出を メダカザリガニ捕った夏の日


      映し出す木々の緑がさらに濃く 高梁川に夏の陽昇る 


                     2009年7月の短歌

                   

              ひと昔前の時代のフォークかけ ゆっくり走ろう大山(だいせん)の道


     黒塗りの塀を映した堀川の 水に溶けゆく小泉八雲


     高梁川大きくうねった濁流が三日たってもまだ衰えぬ


     一日の疲れを癒す夕焼けを 窓いっぱいに取り込み走る


     あぁ今日は暑かったよと田んぼから 蛙が歌う大きな声で


     定年後住む家のこと悩みおり 梅雨まだ明けぬ蒸し暑き夜


     思い出がいっぱい詰まったこの家が 化粧ほどこし他人の家に


     沈みゆく陽を追いかけてゆく列車 忙し過ぎた旅の終わりに



                    2009年6月の短歌
        
                  

     十年も前と同じ品物が 並ぶ高知の日曜の市


     川渡り路面電車の駅近く ここが昔住んでたマンション


     昔来た植物園の中庭で やっと見つけた白花タンポポ


     開け放つ窓の下からふんわりと 蚊遣りの香りが漂う夕べ


     讃岐路のお寺を覆う夏木立 源氏を語る人涼やかに


     瀬戸内の小島の地下の美術館 光に揺れるモネの睡蓮


     この街は誰もが皆ストレンジャー 異人の館に足踏み入れる


     淡路から眺める街は蜃気楼 ゆらゆら波に漂いゆれる


                   2009年5月の短歌
                     
               

 
     音もなく船の灯りがゆらめいて 平家の霊を鎮める海峡


      大型の船が行き交う海峡は あまりに近い九州との距離


      いざゆかん武蔵になった心境で 小舟に乗って巌流島へ


      久々に懐かしい人と逢う場所は 芝居がかって巌流島で


      山あいをぬければ一面竹の秋 移ろう季節車窓に残し


      黄緑の新緑眩しい国分寺 胸の中まで新しい色


      燃えるよな赤い夕陽が沈む時 ただひとときの優雅なためらい


      ケーキには共に白髪の絵皿出し 三十七回目の結婚記念日

                             
                                   
2009年4月の短歌

               

            少しだけ冷えてきたけど夜桜は 月が出るまでも少し待とう


    堤灯の明りの下で赤み増す 桜散る夜を妻と二人で


    有名な桜を訪ねる渋滞は 岡山に来て初めてのこと


    落合という田舎の公園で 枝垂れ桜に弁当広げる


    山は今眠りから覚め黄緑の 衣をい動き始める


    新緑の木々を映してゆったりと 流れる河に従い走る


    今年また新入社員の季節になって 去年と同じに流れてゆくか


    一斉に花咲き競い鳥が啼く 吉備高原に春加速する


                2009年3月の短歌

   
            

    特別なことなど無いが誕生日 来年のことはなんとかなるさ


    倉敷の焼き鳥店のカウンター 妻と二人で祝うバースデイ


    子供らに老後の心配かけるよな 歳になったと自覚すべきか


    この紙がたぶん最後の契約と 思えば朱肉たっぷりつける


    ようやくに私の名を呼ぶ孫の口 嬉しくなってまた聞き返す


    この歳になってもまだ目背けてる 原爆ドーム見えているのに


    やさしさは芽吹く青葉に受け継がれ 原爆ドーム見上げる柳


    宮島の社を守る鹿の背の 毛並み優しく冬の日溜まり


          
                  2009年2月の短歌

            
                  


    見なくても肌の痒みですぐわかる 今日の冷え込みマイナス四度


    世の中のニュースよりも今日の月 この大きさに心奪われる


    久々に絵など描きたくなった午後 五重塔を遠くから見る


    笠岡の海岸べりの牡蠣祭り 殻をこじあけ熱い汁吸う


    殻あけばジュッとこぼれる焼牡蠣に 遠い昔の海の香をかぐ


    投げ捨てる貝殻一つゆらゆらと 小春日和に沈みゆく海


    まだたった一年過ぎただけなのに もう東京が遠くに見える


    新しい息子の家を訪れる 孫の笑顔と喜びを見に


           
                 2009年1月の短歌


満月の高梁川に光立ち 今宵うれしいかわうそ祭り


四合の酒を二人で楽しめど 空けられなくて老いの始まり


もうすぐに子供ら乗せた汽車が着く 期待と喜びいっぱい詰めて


他人からおじいさんと言われれば やはりそうかと孫の手を引く


この町で初めて迎える正月は 初詣さえもの珍しい


手袋の上からギュッと雪女に 掴まれるよな畔道の風


赤茶けた雲の腹裂き真白な 雪がひらひら舞い落ちてくる


雲低く山にかかった総社では 雪の便りも近く聞こえる



2008年12


  雄大に広がる瀬戸の島々を 王子ケ岳で眺めて二人


ぽっかりと開いた空の隙間から ひかり差し込み波間に遊ぶ


妻と拾うもみじば楓の枯れた実が 今倉敷で暮らしてる証


薄暗い朝の畦道霜白く 犬にも足袋を履かせたくなる


川霧が行く手を塞ぐ朝の道 このままそっと消えてしまおうか


道端の公孫樹のようだね誰ひとり 見てないけれど黄色くなって


一本の冬の公孫樹は役目終え 枝に残した二、三枚の葉


だんだんと輝きを増す星の下 かさかさ音立て公孫樹の葉散る

2008
11

 

もみぢ葉を透かして高い青空に 遠く飛んでく飛行機光る

都会では気付かなかった里の秋 柿と夕焼け桜の落ち葉

毎日の外気が2度を下回り 高梁川に朝霧が立つ

帰りには行く手の星が道標(みちしるべ) 高梁川に寄り添い走る

鳥取から松葉の蟹がやってきた 今夜の酒は吟醸にする

良寛が昔遊んだ円通寺 やさしい日ざしおだやかな風

見おろせば幾万粒のさざ波が 光り弾ける向こうは四国

艶やかに夏の思い出閉じ込めて 冬の陽に舞う桜の落ち葉


2008年10

 
赤々と焼けた窯の中眠る 備前の焼きもの炎の祭り


ビール飲む器と焼酎飲む器 ペアで揃える備前の祭り


それぞれの家に一つの登り窯 伊部の町のレンガ煙突


楷という大きな二本の木の上が 少し赤りて秋の訪れ


久々に食べた無花果岡山は こんなものまでおいしい所


畦道で摘んできた花眺めつつ 酒酌み交わす夕暮れもある


都会人の歩く速さに追い越され たった半年離れただけで 


飛行機の窓に飛び込む横浜の イルミネーションしばしの別れ



2008年9月

漸くに一つの墓に入れたと 喜ぶ母の骨覗き込む


骨壺から出されてじかに入れられた 母のお骨は白くて太い


久々に帰る実家の床の間に 二つの遺影母の微笑み


だんだんと家近づけば半分の 懐かしさあり加納西丸町


父と母墓に入ってこれからは 故郷に帰る口実できた


初めてのウエスティの会合に 並ぶ小春は少しおどおど


ウエスティまたウエスティ次々と 集まり小春おとなしくなる


予告なく突然壊れた冷蔵庫 おれの体もいつかそうなる

2008年8月

子規が居た勇もあった尾道の 芙美子に続く文学の小道


歯の欠けた櫛でとかせば倉敷の 暮らしの中に埋もれていく


ラジオから流れる曲が懐かしく 借りてきて聴く大塚博堂


明けてゆく庭園の前座禅する 割れは一つの石塊となり


うとうとと座禅を組めば蝉しぐれ 今日も暑くなるぞと告げる


あの島の向こうが四国手を引いた 孫に教える私のふるさと


しまなみの島を巡って大三島 台(うてな)という名の海水浴場


孫たちが帰り疲れた身を休め うたた寝すれば秋の夕風
 

2008年7月

  

採れたての胡瓜肴に酒を飲む こんな暮らしが今の幸せ


毎朝の出勤前の我が勤め 庭の胡瓜とトマトもぐこと


雪舟が鼠を描いた寺の庭 雨音さえも木々に溶け込み


座敷から眺める庭のしんしんと 枯山水に雨降りそそぐ


生きがいはあなたにとって何ですか  若き講師に聞かれとまどう


残業で疲れた目癒す満月が 高梁川の川面を照らす


この川に生きてる人は歩をゆるめ 夏の日差しの大橋渡る


この川で生きてみようかふとそんな こと思いつつ車走らす


2008年6
   

薄暗い道延々と井倉洞 久々お前と手つなぎ歩く


人住まぬ古き町並ベンガラの 赤き瓦は何を見て来た


高梁の武家屋敷など地図を手に 歩けどここも死にたる魚


上向きのヘッドライトが真っ暗な 闇を切り裂きどこまで走る


木にとまるホタルの灯りひとりでに 同調し始めイルミネーション


庭に植えた茄子に漸く実がついて 落ち着いてきた倉敷ぐらし


お土産は新幹線の700型 無理に起こして孫に手渡す

2か月も逢わないうちに一段と 可愛くなった孫抱きあげる



2008年5

お早うさん高梁川の川霧に 声かけ走る初めての道


望んでた田舎暮らしに近いもの 思いがけなくここで始まる


四国まで遥か見渡す鬼の城 渡る風にも古代のロマン


買い物も自転車じゃなきゃ行けぬから 雨の降る日は残り物食う


東京に帰る友を送るとき 残る寂しさ花水木咲く


倉敷に住民登録これからは この街並みがオレの故郷


美作(みまさか)の津山の城の天守跡 杖つき妻と登る石段


人一人歩かぬ町並み小京都 津山の町まで訪ねてみたが


山道を車で行けばここもまた タイムスリップしそうな予感





小春のひとりごと

   
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                     2009年7月の短歌

                   

              ひと昔前の時代のフォークかけ ゆっくり走ろう大山(だいせん)の道


     黒塗りの塀を映した堀川の 水に溶けゆく小泉八雲


     高梁川大きくうねった濁流が三日たってもまだ衰えぬ


     一日の疲れを癒す夕焼けを 窓いっぱいに取り込み走る


     あぁ今日は暑かったよと田んぼから 蛙が歌う大きな声で


     定年後住む家のこと悩みおり 梅雨まだ明けぬ蒸し暑き夜


     思い出がいっぱい詰まったこの家が 化粧ほどこし他人の家に


     沈みゆく陽を追いかけてゆく列車 忙し過ぎた旅の終わりに



                    2009年6月の短歌
        
                  

   十年も前と同じ品物が 並ぶ高知の日曜の市


   川渡り路面電車の駅近く ここが昔住んでたマンション


   昔来た植物園の中庭で やっと見つけた白花タンポポ


   開け放つ窓の下からふんわりと 蚊遣りの香りが漂う夕べ


   讃岐路のお寺を覆う夏木立 源氏を語る人涼やかに


   瀬戸内の小島の地下の美術館 光に揺れるモネの睡蓮


   この街は誰もが皆ストレンジャー 異人の館に足踏み入れる


   淡路から眺める街は蜃気楼 ゆらゆら波に漂いゆれる


                   2009年5月の短歌
                     
               

 
音もなく船の灯りがゆらめいて 平家の霊を鎮める海峡


 大型の船が行き交う海峡は あまりに近い九州との距離


 いざゆかん武蔵になった心境で 小舟に乗って巌流島へ


 久々に懐かしい人と逢う場所は 芝居がかって巌流島で


 山あいをぬければ一面竹の秋 移ろう季節車窓に残し


 黄緑の新緑眩しい国分寺 胸の中まで新しい色


 燃えるよな赤い夕陽が沈む時 ただひとときの優雅なためらい


 ケーキには共に白髪の絵皿出し 三十七回目の結婚記念日

                             
                                   2009年4月の短歌

               

少しだけ冷えてきたけど夜桜は 月が出るまでも少し待とう


堤灯の明りの下で赤み増す 桜散る夜を妻と二人で


有名な桜を訪ねる渋滞は 岡山に来て初めてのこと


落合という田舎の公園で 枝垂れ桜に弁当広げる


山は今眠りから覚め黄緑の 衣を
い動き始める


新緑の木々を映してゆったりと 流れる河に従い走る


今年また新入社員の季節になって 去年と同じに流れてゆくか


一斉に花咲き競い鳥が啼く 吉備高原に春加速する


                2009年3月の短歌

   
            

特別なことなど無いが誕生日 来年のことはなんとかなるさ


倉敷の焼き鳥店のカウンター 妻と二人で祝うバースデイ


子供らに老後の心配かけるよな 歳になったと自覚すべきか


この紙がたぶん最後の契約と 思えば朱肉たっぷりつける


ようやくに私の名を呼ぶ孫の口 嬉しくなってまた聞き返す


この歳になってもまだ目背けてる 原爆ドーム見えているのに


やさしさは芽吹く青葉に受け継がれ 原爆ドーム見上げる柳


宮島の社を守る鹿の背の 毛並み優しく冬の日溜まり


          
                  2009年2月の短歌

            
                  


見なくても肌の痒みですぐわかる 今日の冷え込みマイナス四度


世の中のニュースよりも今日の月 この大きさに心奪われる


久々に絵など描きたくなった午後 五重塔を遠くから見る


笠岡の海岸べりの牡蠣祭り 殻をこじあけ熱い汁吸う


殻あけばジュッとこぼれる焼牡蠣に 遠い昔の海の香をかぐ


投げ捨てる貝殻一つゆらゆらと 小春日和に沈みゆく海


まだたった一年過ぎただけなのに もう東京が遠くに見える


新しい息子の家を訪れる 孫の笑顔と喜びを見に


           
                 2009年1月の短歌


満月の高梁川に光立ち 今宵うれしいかわうそ祭り


四合の酒を二人で楽しめど 空けられなくて老いの始まり


もうすぐに子供ら乗せた汽車が着く 期待と喜びいっぱい詰めて


他人からおじいさんと言われれば やはりそうかと孫の手を引く


この町で初めて迎える正月は 初詣さえもの珍しい


手袋の上からギュッと雪女に 掴まれるよな畔道の風


赤茶けた雲の腹裂き真白な 雪がひらひら舞い落ちてくる


雲低く山にかかった総社では 雪の便りも近く聞こえる



2008年12


  雄大に広がる瀬戸の島々を 王子ケ岳で眺めて二人


ぽっかりと開いた空の隙間から ひかり差し込み波間に遊ぶ


妻と拾うもみじば楓の枯れた実が 今倉敷で暮らしてる証


薄暗い朝の畦道霜白く 犬にも足袋を履かせたくなる


川霧が行く手を塞ぐ朝の道 このままそっと消えてしまおうか


道端の公孫樹のようだね誰ひとり 見てないけれど黄色くなって


一本の冬の公孫樹は役目終え 枝に残した二、三枚の葉


だんだんと輝きを増す星の下 かさかさ音立て公孫樹の葉散る

2008
11

 

もみぢ葉を透かして高い青空に 遠く飛んでく飛行機光る

都会では気付かなかった里の秋 柿と夕焼け桜の落ち葉

毎日の外気が2度を下回り 高梁川に朝霧が立つ

帰りには行く手の星が道標(みちしるべ) 高梁川に寄り添い走る

鳥取から松葉の蟹がやってきた 今夜の酒は吟醸にする

良寛が昔遊んだ円通寺 やさしい日ざしおだやかな風

見おろせば幾万粒のさざ波が 光り弾ける向こうは四国

艶やかに夏の思い出閉じ込めて 冬の陽に舞う桜の落ち葉


2008年10

 赤々と焼けた窯の中眠る 備前の焼きもの炎の祭り


ビール飲む器と焼酎飲む器 ペアで揃える備前の祭り


それぞれの家に一つの登り窯 伊部の町のレンガ煙突


楷という大きな二本の木の上が 少し赤りて秋の訪れ


久々に食べた無花果岡山は こんなものまでおいしい所


畦道で摘んできた花眺めつつ 酒酌み交わす夕暮れもある


都会人の歩く速さに追い越され たった半年離れただけで 


飛行機の窓に飛び込む横浜の イルミネーションしばしの別れ



2008年9月

漸くに一つの墓に入れたと 喜ぶ母の骨覗き込む


骨壺から出されてじかに入れられた 母のお骨は白くて太い


久々に帰る実家の床の間に 二つの遺影母の微笑み


だんだんと家近づけば半分の 懐かしさあり加納西丸町


父と母墓に入ってこれからは 故郷に帰る口実できた


初めてのウエスティの会合に 並ぶ小春は少しおどおど


ウエスティまたウエスティ次々と 集まり小春おとなしくなる


予告なく突然壊れた冷蔵庫 おれの体もいつかそうなる

2008年8月

子規が居た勇もあった尾道の 芙美子に続く文学の小道


歯の欠けた櫛でとかせば倉敷の 暮らしの中に埋もれていく


ラジオから流れる曲が懐かしく 借りてきて聴く大塚博堂


明けてゆく庭園の前座禅する 割れは一つの石塊となり


うとうとと座禅を組めば蝉しぐれ 今日も暑くなるぞと告げる


あの島の向こうが四国手を引いた 孫に教える私のふるさと


しまなみの島を巡って大三島 台(うてな)という名の海水浴場


孫たちが帰り疲れた身を休め うたた寝すれば秋の夕風
 

2008年7月

  

採れたての胡瓜肴に酒を飲む こんな暮らしが今の幸せ


毎朝の出勤前の我が勤め 庭の胡瓜とトマトもぐこと


雪舟が鼠を描いた寺の庭 雨音さえも木々に溶け込み


座敷から眺める庭のしんしんと 枯山水に雨降りそそぐ


生きがいはあなたにとって何ですか  若き講師に聞かれとまどう


残業で疲れた目癒す満月が 高梁川の川面を照らす


この川に生きてる人は歩をゆるめ 夏の日差しの大橋渡る


この川で生きてみようかふとそんな こと思いつつ車走らす


2008年6
   

薄暗い道延々と井倉洞 久々お前と手つなぎ歩く


人住まぬ古き町並ベンガラの 赤き瓦は何を見て来た


高梁の武家屋敷など地図を手に 歩けどここも死にたる魚


上向きのヘッドライトが真っ暗な 闇を切り裂きどこまで走る


木にとまるホタルの灯りひとりでに 同調し始めイルミネーション


庭に植えた茄子に漸く実がついて 落ち着いてきた倉敷ぐらし


お土産は新幹線の700型 無理に起こして孫に手渡す

2か月も逢わないうちに一段と 可愛くなった孫抱きあげる



2008年5

お早うさん高梁川の川霧に 声かけ走る初めての道


望んでた田舎暮らしに近いもの 思いがけなくここで始まる


四国まで遥か見渡す鬼の城 渡る風にも古代のロマン


買い物も自転車じゃなきゃ行けぬから 雨の降る日は残り物食う


東京に帰る友を送るとき 残る寂しさ花水木咲く


倉敷に住民登録これからは この街並みがオレの故郷


美作(みまさか)の津山の城の天守跡 杖つき妻と登る石段


人一人歩かぬ町並み小京都 津山の町まで訪ねてみたが


山道を車で行けばここもまた タイムスリップしそうな予感