最初のページでは、いきなり本船用アンカーの話だったので、あまりぴんと来なかった方が多いのではないでしょうか? アンカーなんて地図の港のマークだとか、テレビにかろうじて映ってるのを見るぐらいで、一般の人にはほとんど関係ないですからね。船乗りの人でさえ、実際に走錨事故などに遭わない限り、アンカーに関心を持つ事はないでしょう。ここでは、ちょっとは皆さんになじみのあるヨットやレジャーボートなどに用いられる、小型アンカーについて述べていきたいと思います。
 小型アンカーもいろいろありますが、日本のみならず世界中で使用されている小型アンカーの中でも、3種類のアンカーが代表的なものとして挙げることが出来ます。それはダンホース、CQR、ブルースです。中でも、ダンホースアンカーは把駐力(いろいろな錨参照)もCQRやブルースに比べて大きく、もっとも多く使われているので、このアンカーについていろいろ述べていきましょう。ただし、いくら世界中で使われていると言っても、私がここで取り上げるからには誉めるつもりはまったく無いので、そのつもりで読んでください。
 ダンホースアンカーは、右写真にあるように棒の付いたストックアンカーと呼ばれる種類のアンカーです。アメリカで開発されたこのアンカーは、軽量で扱いやすいアンカーとして広まり、日本でも昭和30年ごろから使われ始めました。現在では、いろいろなメーカーから多少改造を加えた、和製ダンホースと呼ばれるものが多く使われているようですね。
 港やマリーナに行くとよく見かけるアンカーですが、シャンクや爪、ストックが曲ってしまい、壊れてしまったダンホースもよく見かけます。このアンカーは、写真からは多少分かり難いですが、軽量化のため爪、シャンク、クラウンが非常に薄い設計になっています。まあ、薄い設計でも壊れなければ良いのですが、ある条件下で設計上どうしても壊れてしまうのがこのアンカーの宿命なんですねぇ。その条件とは、「一旦錨が効いた状態から
風向きや潮の流れが変わり、アンカーを引っ張る方向が変化した時」なのです。上で述べたように、このアンカーはストックが付いています。風や潮の流れと共にアンカーが方向を変えようとするのをこのストックが邪魔してしまうため、シャンクや爪、ストックに横へ曲げる力が働き、簡単に曲がってしまうのです。曲がらないように各部を厚くすると重くなり、邪魔なストックを取ってしまうと錨として成り立たない。「手の着けようが無く、改善できない完成品」。これがダンホースなのですね。
 さて、ここまでダンホースアンカーの壊れやすい設計について述べてきましたが、実は、さらに重要で使ってる人も売ってる人も作ってる人でさえも、誰も知らない問題をこのアンカーは抱えていると言う事を述べていきましょう。
 ダンホースについてアンケートを取ると、実際に使用している人でも「なかなか船が止まらなくて、困るんだよね」と漏らす人が結構います。その人たちが使用しているダンホースをよく調べると、フリューク角が40度以上に広がっている共通点がわかります。フリューク角は爪を広げた時のとシャンクとの角度を言い、フリューク角が35度以上になると、この手のアンカーは、爪が海底に食い込むことが出来なくなり、まったくアンカーとして機能しなくなる問題があります。私は、この事について15年間国際ボートショーで言い続けているのですが、毎年多くのお客さんが、「いや〜この角度がこんなに重要だったなんて知らなかったよ。」とびっくりしています。この角度は30〜35度が適正ですが、和製のダンホースでは販売している新品でありながら、50度以上に広がってる物が売っていたりするので注意しなければなりませんね。上でも述べましたが、クラウン部も薄いプレートを使用しているので、そのプレートがアンカーを使用しているうち
にめくれていき、フリューク角が広がってしまい、使えば使うほど効かないアンカーに変わってしまうんですね。もし、このアンカーでしっかり泊まりたかったら、アメリカから輸入している物で、自分の船には似つかわしくないほど大きくて、総ステンレス製の丈夫な純正ダンホースを購入する必要がありますね。うちで販売しているアンカーに比べてめちゃくちゃ高い買い物になるでしょうけど・・・。
 CQRやブルースについても、いろいろと書きたいのですが、これらのアンカーは、私がとやかく言うまでも無く、ダメアンカーなので、いつか暇になったら書くことにします。