げっちゅう☆3の下






マリリン・モンロー

それは何年たっても変わらない、アメリカの元祖セックス・シンボル
常々竹田は思っていた。

(五代さんて、実はモンロー系じゃないかな?)
あの黒子とか、あの唇とか、ちょっとたれ目がちな目元とか。
(あー!!写真に撮ってみてえぇ!!!)


彼は、そりゃあもう、熱烈なモンローのFANだったので。

またとないこの絶好のチャンスを逃す訳にはいかなかった。


「はあ、で、どんなポーズとればいいんですかね?」
「そうですね・・・」
一応考えたふりなどをしてみるが、どんなポーズかってのはもうずっと前から決めてあったりする。
いつか、こんなチャンスがあったときのために。
すっと暖めていたあのポーズを!!
「じゃ、ちょっと前かがみになってもらえます? ・・・・そう、で、右手は左膝に当てて・・・はい、左手は自分を抱くように身体 にまわしてもらえますか? ・・・・そうです、で、ちょっと顎あげて・・・ああ、心持ち右向いてください・・・で、唇、ちょっと尖ら せてもらえます? ・・・そうそう、で目線はこっちに」
竹田のこまごまとした注文に見事に五代は答えていく。
「こ・・・・・ですかぁ?」
「い――――ですよぉ!! そのまま、そのまま! じゃ、撮りますよ!」
妙に嬉しそうな竹田を見て、すっかり面白くなってきた五代。
「ウインクなんか、してみます?」
「本当ですか!? お願いします!」


おだてて、乗せられて、五代は竹田に言われるがまま結構煽情的なポーズなんかとり始めてしまった。


「いいですよ! 五代さん! クラクラきちゃいますよ!!」
「そうですか?」
「いやあ、かっこいいっす!!」


なーんて、調子にのって投げキッスをする、その瞬間。
カチャリ

正面の扉が開いて。

チュッ!

と、入ってきた人物に向かってキッスは投げられてしまったのだった。
その正面にたっていたのは。


「五代!!?」
「い、一条さん!!?」


互いに固まる事わずか数秒。
はっ!と我に返ったのはほぼ同時だった。
ダッシュで窓に駆け寄る一条を見て思わず外から窓を閉めてしまった五代だったりする。
押して窓を開けるタイプはテコ式が殆どで外から押さえられてしまうと結構空きにくい。
ましてや互いに力は互角だとしたら。
一条が窓に手をかけたのと五代が窓を閉めたのはほぼ同時のことだった。


「・・・・・何故、閉める?」
「・・・・・何故でしょう?」
自分でもわからないが、思わず条件反射で、と言いかけて懸命にも口を閉じた五代であるが。
一条の地を這うような声を聞いて自分が正しかったことを知る。
五代の本能が告げていた。
――――窓を開けてはいけない
「・・・・なんか、怒ってるんです、か?」
「俺は怒ってなんかいないぞ?」
ニッコリわらう一条になぜか五代は冷や汗が背筋を伝って落ちたりして。
「・・・・・・嘘だ」
「嘘じゃない」
声だけは穏やかに会話をしつつも、窓を開けようとする一条と、開けさせまいとする五代の力が拮抗してプルプルと震えて いたりする。
「・・・いーから、開・け・な・い・か」
「や、やですぅ!!」
「何故?」
「な、なんが、開けちゃ駄目って、もう一人の俺が・・・・」
「なんでだろうなぁ?」
と、ニヤリ笑う一条が。
(はうああああ!! ブ、ブラック・モード!・・・・・・)
絶対に開けられないと心に誓う五代だった。

五代は気付いていなかったが、扉のところには杉田と桜井が呆然として立っていた。
あんまりの事で声もかけられない二人だったが、ここは黙って見ている事にした。
二人だって、五代君は大変だなぁ・・・・とは思っている。
思っているが、しかし、ここ一ヶ月煮詰まった一条の側で仕事をしてきた二人にはまさしく五代は救いの女神も同然で。
(すまん、五代君・・・・我々にはどうしようもないんだ・・・・)
(一条さんを元に戻せるのはあなたしかいません)
ということで、すっかり傍観者を決め込んだ二人だった。


その二人の前で、しばし見詰め合う(?)状況がどれ位続いたろうか。
「!」
はっ!と一条が扉を振り向くと脱兎のごとく部屋を飛び出していった。
「・・・・一条さん?」
五代が首を傾げる。
何故一条は部屋を飛び出していったのか?
「・・・・・・・・! あ―――――!!!!!」
すっかり五代は忘れていた。
今自分が何処にいるかを。
窓拭き用のゴンドラに乗って、自分が外に宙ぶらりんの状態でいることを。
そして、ゴンドラの大本は屋上にあって・・・・・。


「一条な、屋上に向かったぞ?」
「椿さん!?」
何時の間に部屋に入ったのか、窓のところに椿が立っていた。
杉田達も呆気にとられている。
「ちょ、ちょっとソコどいてください!!」
あわてて部屋に入ろうと、窓を開けようとする五代に対し、椿は慌てず騒がず

カチャリ

と、窓のカギを閉めてしまった。
「あ―――――――!!!!! な、なんてことすんですかっ!!」
慌てて窓をドンドンと叩く五代に、チッチッチッ・・・と舌打ちをしながら人差し指を振ってみせる。
「すまんな、五代・・・・俺は一条のつらそうな姿を見てられないんだよ」
椿はちょっと俯きながら悲痛な表情を浮かべている。
「お前がいなくなってからのあいつときたらもう・・・・俺は見ちゃいられなかったぜ・・・」

「嘘、だな」と杉田。
「嘘ですね」と桜井が呟いて。
「・・・・」黙って竹田が頷いている。

「ほら、俺、あいつの親友だからさ・・・・・」
あいつのいいようにしてやりたいんだよ・・・なんて言ってる椿を五代が指差しながら叫ぶ。
「うーそーだー!! 面白がってるだけじゃないですかっ!!!」
「そんな事ないぞ!! 五代! おまえは俺のことをそんな奴だと思ってるのか!?」
心外だ!・・・とばかりに叫んだ椿をしばし見つめた五代が一言。
「・・・・・・・・・・・目が笑ってます、椿さん」
「・・あー・・・・・・ばれた?」
と、今までの表情はどこへやら、ニヤリと椿は笑った。
「だってよー・・・・こんな面白いモン、みすみす見逃せねえだろう?」
「なにが面白いんですか!? いいから、開けてくださいって!!」
ドンドン、と窓を叩く五代に椿は軽く溜息を付きながら軽く首を振ってみせる。
「ばかだな、五代。何時までもそんなとこにいると、一条が屋上についちゃうぞ?」
「!」
椿のセリフに五代が石になってしまう。
「あ、でも、大丈夫。俺って平等だからさ、エレベーターは止めてあるから」
どうやって、かなんて聞くなよ? と椿は楽しそうに笑う。
「だから勝負は互角だぞ?・・・・どーする?」
椿の言葉に五代は上を見て下を見て。
「椿さんの馬鹿っ!!!!」
と叫ぶとゴンドラを下に下ろし始めたのだった。

「おー、頑張れよー」
そんな五代の様子を楽しげに見送る椿を見て。

「鬼だな」
「鬼ですね」
「いや、悪魔、だな」
「悪魔かもしれないですね・・・・」
杉田と桜井はそんな会話をしてたりする。

「でも、すっごい楽しそうですね、あの人・・・・」
竹田の呟きに、なんにもいえない杉田達であった。


ここは決断するしかなかった。
上には行けない。
部屋には入れない。
ならば下に降りるしかなかった。
ある程度まで下に降りれば、後は飛び降りたっていい。
結局、今逃げても後で会う事には変わりはないが、今は体勢が悪すぎるのだ!


五代にとってはもどかしい位のスピードで下に降りていく。
これぐらいからなら飛び降りれるかな・・・・・と思い、手すりに足をかけた時。
ガコン!!と音がしてゴンドラが止まってしまったのだった。
「・・・・・え?」
なにやら、いや〜な予感が五代を襲う。
もしかしたら・・・・・と思うまもなく、今度はゴンドラが凄いスピードで上に上がりだした。
一条が屋上についたらしかった。
「!!!」
もう、こうなっては五代に逃げ場はなかったりする。

「あー、一条の奴が勝ったか」
椿の嬉しそうな声に杉田たちも窓の近くに寄って見る。
「あ・・・・・・・・・」
丁度、その前を、五代の乗ったゴンドラが過ぎていったのであった。


「・・・・今日の会議、一条が来ない方にコーヒー一本ずつ。如何です?」
椿が笑いながら振り向き、桜井がそれにのった。
「・・・・・・いや、ギリギリ間に合うほうに、コーヒー一本ずつ。杉田さんは?」
「・・・・・・会議終了30分前に入ってくる、タバコ一箱ずつでどうだ」
杉田が自身満々に言い切った。
「現在11時半か・・・・・会議が14時からだし、俺達は飯でも食いに行きますか?」
椿が自分の腕時計を見ながら提案した。
「そうですね、長野ってなにか美味いもんありましたっけ?」
「さあ、特には聞かないがなぁ」
杉田たちはこれから訪れるであろうひっさびさの平和なときに(もちろん五代に感謝しつつ)ウキウキとしながら部屋を出 ようとしたその瞬間。
今まで黙っていた竹田が一言。
「そっか、俺らが美味いメシを喰ってる間、一条さんは五代さんを美味しくいただいちゃってるってことですね!」
ゴキッ!
「いってー! なにすんだよ!!」
むろん、桜井の鉄建が竹田の後頭部に決まった音だったりする。
「・・・・いいか? ココでじっとしてるんだぞ?」
「えー・・・・・」
「じゃないと、そのデジカメ没収」
「わかった」
折角撮った大事な写真、奪われてなるものかとコクコクと頷く竹田を引き連れて桜井達は出て行った。


「あれー? ドアノブが曲がってるー」
「なんでぇ? これって曲がる物なの?」
これでは屋上に出る事ができないと、いつも屋上でお昼をとる従業員達が首をひねる。
「・・・はあ、しょうがないっか、今日他で食べよ?」
「もう、後で修理してもらわなきゃ・・・・・」


さて、なんでドアノブが曲がってたんでしょうか。
そして、竹田のとったモンロー・雄介の写真は没収されることなく密かに竹田コレクションとしてとってあるとかないと か・・・・。



その翌日、東京に戻る一条の、晴れ晴れとした表情で運転する車の助手席にはちょっと気だるげな顔した五代雄介が乗 せられていて。
「大丈夫か、五代?」
「そういうこと言うなら、もっと考えてくださいよ」
五代のセリフに一条がムッとする。
「いやだったのか?」
「・・・・いやじゃ、ありません、よ。いやだったら、あんな事、もう・・・・・」
最後の語尾は真っ赤になった五代の口の中に消えていく。
そんな五代に一条はすっかりご満悦で。
「また、しような」
「や! です!! 絶対にしませんからね!!」
「まあ、そう言うな。五代だって喜んでたろ?」
「なっ! 一条さんの馬鹿!!」
「わかった、わかった」
「ちょっ・・・、俺本気で言ってるんですからね!!」
真っ赤な顔で反論する五代は一条には可愛くしか映らず、
(又、しよう・・・・・)
なんて思っていたりするのであった。





はあ、漸く『げっちゅう・3』終りましたがね・・・・・表はね。
この後、屋上で何があったのか・・・・・・ふふふふふ。
もちろん、それは『屋根裏部屋』いきと言うことで。      by樹


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