げっちゅう☆


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「やったー!!! 勝った!!!」
「ああああああ!!」
真昼間の病室に不似合いな叫びが響く。
「酷い!! 椿さん!!」
「馬鹿だな、五代、勝負に情けは禁物だ!」
「ごめんね、お兄ちゃん、私も上がり」
「ああっ! もしかして、みのり・・・・・・」
「あるの2枚、それもAが♪」
「ごっめーん、五代君、あたし、2が2枚・・・・・」
「桜子さ〜ん!!」
「お前、大貧民決定!!」
椿の嬉しそうな声が五代を打ちのめした。



「大丈夫だよ、お兄ちゃん、そんな酷い事じゃないから」
「そうよ、道路隔ててるんだし、大丈夫だって!」
「しかも6車線もあるんだから平気だよ!」
桜子とみのりに挟まれて宥められている五代を面白そうに椿が眺めている。
「ううううう」
五代はといえば、上目使いに、ちょっと唇を尖らせて桜子達を見ている。
そんな表情すら二人の目には可愛く映って仕方がないのに。
「ま、五代、あきらめな。お前が最初に言ったんだぜ、罰ゲームつきだって」
「だからって〜・・・・・」
「さ、これに着替えてな」


はっきり言って五代は逃げたかった。
ここしばらく一条とは会っていないのだ。
一条は仕事が忙しくって、ここ何日間は警察庁に泊り込んでいる。
これは五代にとっては非常に困った状況だったりする。
これだけ会わない日が続くと・・・・・・だから、会ったときの反動が。
それだけ考えて一人で赤くなってしまう。
別に嫌だと言うわけじゃないんだけれど、何分その後動けなくなってしまうというか、動かさ せてもらえないというか。
だから、あんまり、寝た・・・・・いや、寝ている子を起すような真似はしたくないのに椿は一体 何を考えているんだろう
・・・・・・・しかもこんな格好させて・・・・。
鏡に映った自分を見る。
腰で履くジーンズは股上が浅く五代の形のいい臍が見えてしまっている。
五代しては珍しいスラリとした足にフィットするスリムジーンズは足から腰にかけてのなだら かなラインを顕わにしている。
体にピッタリとした丈の短い白いTシャツは五代の身体のラインを顕わにして肩幅はあるもの の、その分引き締まっている腰や
男にしては細いウエストのラインを際立たせている。
Tシャツ1枚ではまだ肌寒いからと着せられた、シルクのシャンタンシャツは薄いブルーをし ていてジーンズと会っている。
広い襟ぐりから覗く鎖骨の美しいラインは椿の大のお気に入りで着替えたあとの五代を見て何 度も満足そうに頷いていた。
「さ、行くか♪」
「あ、カメラ持ってかなきゃ」
「だ〜いじょうぶ、私デジカメ持ってるから♪」
「桜子さん、準備いいですね」
「あったりまえじゃない!!」
「メールで送ってくださいね! お願いします!!」
「あ、俺も」
「オッケー♪」
妙に盛り上っている三人組み。
なんでそんなに楽しそうかな・・・・・・と思わずにいられない五代だった。



「よう、お疲れ」
杉田に肩を叩かれ一条は疲れた笑顔を向けた。
漸く事件が片を付き家に帰ることができる ―――――― それでも朝帰りだけど ―――― ――― のだ。
身体の疲れもさることながら心が疲れている。
ここしばらく一条の最愛の恋人に会っていないのだ。
はっきり言ってその存在に餓えている自分を感じている。
五代の笑顔を見ているだけで癒される自分を知ってからは一日に一回は会わずにはいられな い。
特に夜は、警視庁に止まりこんでシミジミ一人寝の辛さをかんじてしまった。
―――――――――― 自分の身体の下で艶めかしく身体を組み敷いてその肉体を思う様に貫 く快楽。
毎晩濃厚な甘い夜を過ごしていた一条にとって辛い日々だった。
五代に会いたくて、抱きしめたくて、味わいたくて禁断症状が出るほどで・・・・・・・、夜な夜な 淫らな夢に襲われて今にもはじけそうになっていたのだ。
(…もう少しの辛抱だ、一端部屋に帰って・・・・・)
「あれ、五代さんかなぁ?」
桜井の声に現実に引き戻された。
道路の反対側にいるのは・・・・・間違いなく五代だが・・・・
「へえ、五代さん、あんな格好もするんですねぇ、今時の若者って感じですか」
のほほんと言葉を募る桜井とは対照的に一条が食入るように見つめていた。
自慢ではないが視力が2.0以上ある一条だったりする。
初めてみる五代の格好にクラクラしていた。
若い男が禁欲生活をしていたも同然であるのに、五代は俺を煽っているのか!?・・などと思っ ていると
「いーちじょーさーん!!」
自分を見つけた事に気が付いたのが嬉しかったのか道路の向こう側で両手をぶんぶんと振り回 している。
「ははは、可愛いもんだな」
と笑う杉田はまだ一条の状態に気付いていないようだ。
ふと手を振るのをやめた五代を何だ?と見つめる。
五代の両腕が自分を抱きしめて上目遣いに―――― なんで判る ――――― 一条を見る。
五代の口がゆっくりと開く。
イ・チ・ジョ・ウ・サ・ン
大きく開く口から読み取れる言葉。
・・・・・・・・ス・キ
とたん一条の身体の熱が一気に上昇した。
あの馬鹿一体なに考えてるんだ! こんなとこで! 我慢できなくなったらどうするんだ!!
なんて考えていたら五代の両手があがった。
「五代?」
五代の長い指先が、男にしては一寸厚めで魅力的な唇に当てられた。

ちゅっ!

と、音がしたような気がした。
広げられた手のヒラ。すぼまった唇。上気した頬が。
「はははは、投げキッスか、五代くんもよくやる・・・・・」

ブチィッ!

と、何かが切れる音がしたのと同時に五代が身を翻して一目散に逃げ出した。
「え、今なにが」
「五代!! 其処を動くんじゃない!!!!」
桜井の疑問は走りながら遠ざかる一条の声で遮られた。
「ごめんなさい〜!!!!」
「おまえ、わかっててやったな!!」
「だって、だって、俺大貧民で、大富豪が〜!!」
「何言ってるんだ動くなと言ってるだろう! 止まらないか!!」
6車線もある道路を挟んで良く会話ができるもんだと感心するが、何分そこは4号と不死身の刑 事と言うところだろうか。
可哀想なのは一条が走っている歩道を歩いている一般人で。
そりゃあめっぽう見目麗しい男性がコートの裾をひるがせながら物凄い勢いで走ってくるの だ。
モーゼの十戒で海が割れたように人が分かれていく。


「おーおー、すげ―な」
椿が感心したように運転席で呟く。
「まだ、五代の方が早いかな?」
先に走り出した分だけ五代が先行している。
「ま。一寸先の大通りでかな?」
信号2つ先の大通りが交差する四つ角。
「うーん、じゃ、私は一つ先の信号で」
桜子が自身満々に助手席で言う。
「じゃあ、私は信号の手前で♪」
「え?」
みのりが後から乗り出しながら言ったセリフに椿が「なんで?」と振り返ったとき、
「わー!! 止せ!」
「危ないですよー!! 一条さん!!」
突然走りだした一条の後を追ってきたらしい杉田と桜井の声が重なった。
「あちゃ〜・・・・」
と椿。
「すっごい、映画みたい」
と感心して桜子。
「ね、ね! みのりの言ったとおりでしょ!」
と嬉しそうなみのり。

このままでは埒があかないと思ったのか、なんにも考えていないのか一条は、こともあろうに 赤信号で止まった車の上を
そう、まさしくボンネットの上などを通る近道をして一気の反対側の五代の前に立ったのだっ た。

「い、いちじょうさん!!!!」
「・・・・・・・捕まえたぞ、五代、ちょっと、付き合ってもらおうか?・・・・・」


抵抗する五代をモノともせず肩に担ぎ上げて去っていく一条の後姿を見ながら椿が呟いた。
「しかし、さすがスーパー刑事。斜めには近道をしたとはいえよく追いついたよな」
「あ、思いだしちゃった・・・・・」
「なんです? 沢渡さん」
「因幡の白兎」
「・・・・・・」
とっさに返事を返せなかった椿だったが、さすが4号の妹は一味違っていた。
「・・・・・・・・・無敵の白兎・・・・・」
と、ちょっと嬉そうに呟いたのだった。
「みのりちゃぁん・・・・・」
「だってぇ〜」


「怒ってるんですんね!?一条さん!!」
「怒ってないぞ? 五代。じっっっくり俺にもその大貧民をとやらを教えてもらおうじゃない か」
「・・・・え?」
「良かったな、丁度明日休みなんだ。いまからたっぷり時間もあることだしな。楽しみにして るぞ?」
「あーん!!! ごめんなさぁ〜い!!!!!!」






だって、ゲッチュウが可愛くって・・・・・・     BY 樹



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