げっちゅう☆ 2の上






長く激しい戦いは終わりを告げた。
漸く訪れた平和。だが、激しかった戦いの爪跡は、いまだ残されていたのだった。
五代雄介。
アークルに選ばれ、彼は迷うことなく戦いに身を投じた。
辛い闘いだった。
だが、彼はその間に大切な人を得ることができた。
一条 薫。
長野の九郎ヶ岳で出会い、ぶつかり、東京に場面を移して。
未確認殲滅という目的の元に、彼らは協力しあい、理解しあい、そして、愛し合うようになった。
最後には、人間とはかけ離れた体になってしまった己を、一条の未来と重ねあわせる事ができず一端身を引こうとしたも のの、それは一条本人によって阻まれた。
「クウガだからだとかじゃない、お前の、五代雄介の心を愛したんだ」
その一言が、彼を人間の世界へと繋ぎとめた。
戦いが済んだ後、だから、彼のもとへともどってきた。
これからの未来を彼と過ごすために。
だが。
もちろん、平和な未来なんて、なかったのだ。



「やっぱり、そうだわ」
榎田は端末を覗きこみながら呟いた。
いつにない真剣な顔は、かつての未確認との戦いのときに幾たびか浮かべていた顔と同じ表情だった。
「どうしよう・・・・・。やっぱり、彼、よね」
白衣の胸ポケットから携帯を取り出すとボタンを押した。
その相手は―――――。


「はい、椿・・・・ああ、お久しぶりです。はい、はい、ええ・・・・・・わかりました。俺から連絡を取りましょう」
榎田からの電話をメモを取りながら話を終えると、暫く考えた椿はおもむろに携帯の番号をプッシュしたのである。


「だからね、一条くんの体、すでに人間とはかけ離れてるのよ」
「・・・え・・・?」
「この前、警視庁で健康診断あったでしょう?」
榎田の説明に五代はコクコクと頷いた。
周りには椿、杉田、桜井、桜子、そしてなぜかみのりまでいたりして。
「それが、ちょうど椿君の病院に持ち込まれてひっかかったのよ」
「ひっかかったって・・・・・」
「一条君の血液ね、未確認のと・・・・・ほぼ同じ成分になってるのよ」
「・・・・!!・・・・」
榎田の言葉に五代の顔から血の気が引いていく。
「発見したのが、俺でよかったんだぞ」
椿の言葉も五代の耳には入ってなかった。
「な、んで、そんなことに・・・・・」
「あら、だって、一条君、五代君の体液取り込んでるんでしょ?」
「なっ・・・・・!!」
あまりな榎田の言葉に五代は瞬時に真っ赤になった。
「取り込む量が、継続的に微量じゃない? だから、変化の負担のかかりが少なかったのね。きっと、痛みもなにもなくって 本人も気付いてないわよ」
「び、び、微量って、継続って・・・・・!!」
「あら、大量に摂取してるの?」
「!!」
もう、言葉がでない五代を放っておいて話はすすむ。
「それが幸いしたわね。徐々に体が順応していったのよ」
「そういえば・・・・・、一条さん、以前にもましてタフですよね」
「ああ、怪我の治りも早くなってるよな」
「そりゃ、まえから人間離れしてましたけど・・・・、ねえ」
「そうですね。ちょっと調べたいとは思っていたんですが、まさかそんな事が原因とは・・・・」
桜井、杉田、椿の会話が進む。
一方。
「榎田さん、聞いていいですか?」
「何?」
「五代くんはどうなんでしょう?」
「五代君?」
「はい、だって一条さんが五代君の体液取り込んでいるんだったら、五代君だって一条さんの体液取り込んでる筈ですよ ね?
だったら、ちょっとは元の体に戻ってるんですか?」
「さ、桜子さん!! なんてこと・・・・!」
「黙って」
「・・・・・」
「う〜ん、その可能性は考えたんだけど、一条君の体が未確認に近づいている訳でしょう? 二人でやり取りしても同じ じゃないかしら」
「じゃ、結局五代君はそのままで、一条さんだけが変わっちゃったってことですよね」
「そうねぇ・・・・、ぶっちゃけて言えばそうなんだけど」
「なんだ、じゃ、別に困った事無いじゃないですか?」
「そうよ」
「ええ!!?」
五代から上がった抗議の声に二人が不思議そうな顔を向ける。
すでに男達は話を終え、面白そうに見ているだけだ。
「も、問題ないんですか!?」
「ないでしょ?」
「そうよ、別に一条さん結婚するんじゃないんでしょ?」
「うっ!!」
ケロリと桜子が言い放つ。
「五代君だってさせてもらえそうにないし」
「・・・・・」
「ね? 問題ないんじゃない」
「・・・じゃ、じゃあ、なんで皆集まったのさ、まして・・・・みのりまで・・・・」
ずっと不思議に思っていたことを口にだすと榎田がカラカラと笑った。
「え〜〜? なんか、これでなんか面白い事できないかとおもってさあ」
「おも・・・・」
絶句、である。
「みのりちゃんはどうして?」
桜子が不思議そうに尋ねると椿が手を上げた。
「あ、俺が呼んだんです」
「椿くんが!?」
「はい、椿さんに頼んでおいたんですぅ♪」
椿の代わりにみのりがニッコリ笑って答えた。
「もし、お兄ちゃんに関わることでなんかあったら必ず連絡くださいって」
「関わる事、ねぇ」
「ええ、だって、一条さん、みのりのもう一人のお兄ちゃんになるんですよ?」
ぶっ!!
すっかりくつろいでいた杉田が茶を吹きだした。
慣れれたつもりでも流石にみのりの口からそんな言葉がでるのはいまだに慣れないらしい。
「もし、これで二人が"夫婦喧嘩"とかいったらおうち壊れちゃいますから、前もって限度を知っておかないと」
「みのり!!"夫婦喧嘩"ってなん・・・・!!」
真っ赤になって叫ぶ五代を後ろから羽交い絞めにして口を塞いだ椿が押さえ込む。
そこは伊達にあの一条との付き合いが長い椿のこと、あの五代をものともせず押さえ込む。
「と、みのりさんから相談を受けましてね? ・・・その点は皆さんも知りたくありませんか?」
グルリと見回すと皆さり気なく視線を外す。
どうやら、椿と同じに刺激に餓えているようだ。
「じゃ、調べましょう!」
嬉しそうな声に五代が絶望したように眼を閉じた。
「調べるってどうやって?」
期待に眼がキラキラしている榎田をまあまあ、と押さえ杉田達に向き直る。
「じつは、杉田さんたちに協力してもらいたいんですけど・・・・・」



10日後。

一条薫はすっかりご機嫌斜めになっていた。
なんでかといえば、勿論。
欲求不満で。
なにしろ、ここ10日ほど妙に仕事が忙しくってロクに家に帰してもらえなかったのだ。
やれ、どこぞの部署の応援だ、報告書だと、拘束されて。
少しの時間をぬってポレポレに行ったら行ったで、五代はいないし。
どうやら、妹が怪我をしたらしく、つきっきりになっているらしい。
(それにしたって電話ぐらいいれたっていいだろう・・・・・!!)
いまだに携帯を持たない五代を捕まえる事は難しい。
いつも五代が一条の部屋にいるから判らなかったが、こんな状態におちいってしまったら、五代から連絡を取ろうとしないかぎり一条からは捕まえることができないと知ってしまった。
(絶対、持たす・・・・・)
すっかり眉間の縦皺が復活した一条は大股で警視庁の廊下を歩いていた。
帰る。今日は何があったって、ぜっっったい帰る、と背中に書いてあったりしたのだが。
そのとき鳴った携帯が一条の足を止めた。
「なんだ!!」
『・・・随分ご機嫌ななめだな』
「・・・・用がないなら切るぞ、椿・・・」
『まあ、そう言うな』
すっかりドスの聞いた声にピクリともしない。
『大事な話だ』
「・・・大事?」
『ああ、五代のことなんだが・・・・』
「五代!?」
予想もしなかった名前を出されて思わず足を止めてしまう。
『ちょっと話しておきたいことがあるんだが・・・、今から来れねぇか?』
「・・・・・・わかった」
五代に一刻も早く会いたいのはやまやまだったが、椿の声に真剣な響きがあったので、一条は関東医大へと足を向けた のだった。



「や!ですぅ〜〜!!」
「まあまあ、今度こそ大丈夫だって」
ないて嫌がる五代を椿が宥める。
「うそだぁ〜〜!! この前だってそういってたのに、一条さんものともしなかったじゃないですかっ!!」
「あ、あれはね、しょうがないんだ、うん」
「しょうがなくないですっ!!」
「もうあきらめなさいよ。五代君たら」
「榎田さん!!」
「もう、一条君ソコにいるのよ?」
「・・・・だってぇ・・・・」
もうすっかり泣きそうな五代である。
前回は大変だったのだ。
あの後、全然寝かせてもらえなかった、いや、寝かせてもらえなかっただけじゃない。
思わず、思い出したら今でも真っ赤になってしまうようなことをされちゃっていたりする。
「大丈夫!! 一条君の体を縛ってるモノはね、並大抵のモンじゃないのよ?」
榎田が嬉しそうに眼を輝かせる。
「対未確認用に開発された、いわゆる超合金の材質を元に細く練り上げられた物を何百本と編み上げた捕獲用ロープだ し」
「・・・・・・」
「この窓ガラスだって対未確認用のものなのよ? 生身の一条君だったら絶対無理だって」
「・・・・未確認に近くなってるって言ったのって、榎田さんですよ・・・・」
下から上目遣いに睨まれても全然恐くない。
かえってカイグリカイグリしたいぐらいなのを、なんとがふんばって堪える。
「バカね、近いってだけで、未確認ではないんだから大丈夫よ・・・あ、ほら、一条君目を覚ますわよ!!」
「ええ!!」



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