げっちゅう☆ 2の下






体が、動かない。
一条の意識が、浮上してまず始めに思ったこと。
頭、が重く感じて、首を振った。
首に手をやろうとして、手が上げられないことに気付く。
「…なん、だ・・・・?」
目がさめて、はじめて自分が椅子に拘束されているのを知った。
手も足もがんじがらめになっていて動く事ができない。
「なんだ!?」
関東医大にいたはずなのに、なぜ、こんなところに・・・・・!?
だが、かすかに覚えがあるような気がして一条は懸命に記憶を辿った。
なんだ、どこだ?
「・・・・・・・・科警研!!?」
『ご名答〜〜!!!』
目の前にワイヤレスのマイクをつけた白衣の男 ――― 椿 秀一 ―――― が現れた。
「椿っ!! 貴様っ!どういうつもりだ!!」
『ま、いいから、いいから』
激怒している一条とは対照的になにやら楽しそうでもある。
「なに馬鹿な事やってんだ!! コレをほどけつ!!!」
『え〜〜・・・・いいもの見せてやろうと思ったのに』
「なにいっ!?」
ふと、目の前に五代が現れた。
「五代!?」
なにをやってる・・・と言いかけて、一条の視線が五代に釘付けになった。



「本当にやらなきゃいけませんかぁ?」
もう泣きそうである。
「そう」
それにたいして椿は容赦がない。
「そうよ、おにいちゃん。お互いの限度を知っておかなくっちゃ」
「みのり・・・・」
「今はとくにそんなことないみたいだけど、もし万が一喧嘩とかになったらだれも止められないわよ?」
「喧嘩なんて・・・・・・」
「お互いの力の限度は知っておかなくっちゃ!」
話はみのり有利に進められている。
みのりには逆らえないらしい雄介はとうとう椿(達?)の話にのってしまったのだった。



『一条さん』
ガラスの向こう側で雄介の口が動いた。
自分の名前を呼んでいるのがわかる。
一条の好きな五代の唇が動く。
ちょっと恥かしそうに眼を伏せながら五代が唇を舐める。
その卑猥さに一条の視線が釘付けになった。
五代が眼を閉じると、恥かしげに唇がすぼまってつきだされた。
一条の口付けを待つ五代の表情に一条の体が一気に熱くなった。
(畜生!! なんで、こんなに頑丈なんだ〜!!?)
びくともしない己の手足を縛るモノを苛だたしげに見やる。
『おいおい、一条、なにやってんのかなぁ?』
椿の声がして慌てて其方を見やると、何時の間にか五代の後ろに立っている。
「椿!!」
『一条、いいモン見せてやろうか?』
椿の面白そうな声が一条の勘に触る。
思いっきり眉間に皺が寄っているのに全然気にもしていない。
そんな一条を面白そうにみやりながら椿は後から五代を抱きしめた。
「椿っ!!」
『椿さっ・・・』
椿の指が五代の口に侵入する。
噛んではいけない、と五代が素直に口を開いてしまった。
それがどんな事になるとも知らすに。
椿の白衣から取り出されたのは・・・・・・・。
「試験管?」
思わず一条と五代の動きが止まる。
それは通常の試験管と違い、ちょっと大きめなサイズで主に実験に使われる物だ。
『これな、実験の他にこんな使い方もできるんだぜ』
『んんっ!?』
カポッ・・・とその試験管は開かれた五代の口の中に突っ込まれた。
びっくりしたのは五代だ。
そんな物を突っ込まれて拒む術も知らず。
薄いガラスの感触は下手をすれば割れてしまいそうで椿のなすが侭にされるしかなかった。
いつの間にか腰に廻された椿の腕に体を離すこともできない。
『一条、見てるか?』
「・・・・・」
『お前を咥えてるときの五代の口の中な、こんなんなってるんだぜぇ?』
「!」
『!』
一条と五代の体が両方とも硬直した。
『な、五代。見せてやれよ。いつも一条のはどうやってるんだ?』
『んっ・・・・・! んんっ・・・・ぅっ!!』
試験管をゆっくり出し入れされて五代が真っ赤になる。
その動きがあまりにも似かよっていて、五代だって、一条に会えなくってずっと寂しかったし、餓えていたのだ。
目の前に一条がいるのに触る事もできず、理不尽かもしれないがなにをしてるんだ!?みたいに思うこともあって。
つい、舌が動いてしまった。
ピンク色の舌が試験管にそって丸められて。
ソロリ・・・と舐め上げたその動きが、一条の股間を直撃した。


「いやあ、椿君、エロイわぁ」
「めいっぱい楽しんでますね」
「ああ、本当に彼は楽しむ事に関しては惜しむ事をしない男だな」
榎田、桜井、杉田が感心した様に呟いた。
「試験管て、あんな事にも使えるんですねぇ?」
「・・・・・駄目よ? みのりちゃん。信用しちゃ」
感心したようなみのりに桜子がたしなめるように言葉をかけた。
その時。

ブチィッッ!!!

と、なにかが切れるような音がした。
「きたわよ!! 私は10分にポレポレのお昼セット!!」
「う〜ん、いくら一条さんでもロープとガラスですからねぇ・・・・・。13分!! 俺はデザートも付けましょう!」
「細かいな桜井、だが、あの一条だぞ? 俺は・・・・8分! ポレポレの豪華Aセット+デザート付き!!」
そこまでいって桜子が甘い甘いと指をふった。
「みんな読みが甘いですよ。私はジャスト5分!! 研究室の大掃除でお願いしますね」
それぞれに互いの答えを言ってから、まだ黙っているみのりに眼を向けた。
「私は3分で」
ニッコリ笑って皆を見回した。
「「「え?」」」
みんなの声がハモッた時。


「椿・・・・・ソコを動くなよ」
血を這うような一条の声が響く。
ふいに一条の体から何か、煙のような物が起ち上がったような気配がした。
はぁぁぁ・・・・・・・
と、一条が気合を入れる。


思わずギャラリーが唾を飲み込んだ。
「・・・・・? 今、なんか聞こえませんでした?」
桜井が眉間に皺を寄せる。
「・・・・いや、俺には・・・・」
なにも・・・・と続くはずだった杉田の言葉が途切れる。
ブチブチブチ・・・・・・と、何かが切れる音がした。
「はぁぁぁぁ・・・・・・・・」
一条の口がから声が漏れる。
「すっごい・・・・・・・」
対未確認用に作られたロープは100tの負荷をかけても平気だったのに。
それが。
ブチブチブチブチと切れていく。
「うおおおおお!!!!!!!」
勢いよく一条が腕を振り上げると、それはただのロープの様にボロボロに切れて落ちた。
『おお!! すげぇ!!』
五代など、もう真っ青なのに、椿は妙に楽しそうである。
「・・・・・・・」
そのままスタスタ歩いてガラスの前まで来ると一条は空手の型を取った。
腰を落とし気合を入れる。
「はああっっ!!!」
必殺の正拳付きがガラスを直撃した。
ゴッ・・・・・・・!!
と鈍い音がした、途端。


「おお〜〜!!凄い!!」
「ねっ!ねっ!ねっ! 私の言ったとおりでしょう!!」
「すごい、みのりちゃん!! ジャスト3分よ!!」
「いやあ、感心ですよ!!」
「それより!!」
口々にみのりを誉める皆を桜子が制する。
「私達避難しましょ?」
皆はしばし沈黙し一斉に頷いた。


普通のガラスは衝撃を与えると与えられたのと反対側に砕けて落ちる。
だが、こういった強化ガラスは飛び散ることがない。
ガラス一面に細かい日々が入るとグシャッと崩れ落ちた。
一条が壁を乗り越えて五代の元に歩み寄った。
五代はへたりこんでしまっているようだ。
椿の姿はもうない。
チッ・・・と舌打ちすると一条の携帯が鳴った。
着信は椿の名前になっている。
「椿っ!!」
『よう、いいモン見せてもらったわ』
「貴様っ!!」
『まあまあ、ああ、五代を責めるなよ? 俺達が勝手にやったんだからな』
「・・・・・」
『気付いてんだろ? 自分の体の事』
「・・・・・まあな」
『ちょっとした実験だからさ、怒んなって』
「・・・・・・・」
あっけらかんとした椿に一条は深い溜息を付いた。
『ま、そのお詫びといっちゃなんだが、五代と頑張ってもらおうと思ってちょーっと細工しといたから♪』
「細工?」
『じゃ、ほどほどにねぇ?』
プチッと一方的に携帯が切られた。
だがそれよりも先刻の椿の言葉が気になって五代の元に膝ま付いた。
「・・・五代?」
「・・・・いちじょうさ〜ん・・・・・」
ふにゃあ、と五代がしなだれかかってくる。
「ご、五代?」
「おれぇ、さみしかったですぅ・・・・・」
ほのかに香る酒の香り。
何時の間に椿は・・・・・と思いハッとする。
もしかして、あの試験管に塗られていた?
だったらただの酒ではあるまい。
もともと五代はこんなに酒に弱くは無い。
「・・・いちじょうさんの、からだ、おれと、おんなじになっちゃって・・・・・」
「五代」
「・・・・・・ごめん、なさい。・・・でも、おれ、うれし・・・・・」
ギュッとしがみついてくる五代に驚く。
何故なら五代は普段めったに甘えることをしないからだ。
「・・・これで、いちじょうさん、おれだけの、もんですよね・・・・・」
「五代・・・・・!!」
「おれだけのなんだから・・・・ずっと、いっしょにいてくれるんですよね?」
不安げに見上げてくる五代に、一条の理性は完全にぶちぎれてしまった。
幾分乱暴に唇を合わせると五代の腕が一条の首に回る。
そのまま、一条は五代に覆い被さった。



「いやあ、面白かった♪」
「本当、いいモンみせてもらったわぁ」
とある喫茶店に集まって6人はお茶をしていた。
「ところで、一番正解に近いのって?」
「ああ、みのりちゃんよ」
椿の問いに桜子が答える。
「ああ、そういえばみのりさんの希望ってなんでしたっけ」
「そういえば聞いてなかったような・・・・・」
桜井、杉田が言うと全員がみのりをみた。
「ああ、そうですよね、私言う暇がなくって」
「で、なに?」
椿が首を傾げ。
「ええと、今度、うちの保育園でお遊戯会があるんですよ」
「・・・・・・・」
「みんなで参加してください♪」
「・・・・・・」
「楽しいですよう! おにいちゃんが考えたんですけど"たんぽぽのおはな"皆で踊りましょう」
五代と同じ笑顔で微笑まれて誰もいやと言える人物はいなかった。



後日、頭に花の冠をつけた桜井、杉田、椿、榎田、桜子、みのりが舞台で踊る姿が見られたという。



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