BOY FRIEND 《6》






その4人組は人目を引いていた。
大体、こんな夜遅くに観覧車に乗ろうなんてするのはカップルしかいない。
実際に並んでいるのもカップルばっかりだったし、だから雄介達も、誰も男三人に女一人なんて思わず、カップル2組と思 われていたりする。
素敵な人よねえ・・・・私もあんな彼氏ほしい・・・・とか、いいよなあ、あんな可愛い彼女だったりしたら俺だって・・・・とか考え ていたりする。



「でも観覧車なんて俺初めてだな」
「私も!」
「なんだ、五代デートとかした事ないのかよ」
「デートぐらいありますよ」
「そうか・・・」
椿に載せられて、ついうっかり口を滑らせた雄介は一条の呟きに真っ青になる。
只でさえ今日はご機嫌を損ねてしまっているっぽいのに、今のままでは帰ってからが恐すぎる。
「あ、あ、でも、遊園地自体が来たこと無いんですよね! 今日が初体験だったりして!」
さりげなく一条によりそって下から覗き込んでみる。
最近覚えた一条に有効な雄介の新しい技のひとつだ。
下から上目遣いに見上げられて、久しぶりの接近にちょっとクラクラしちゃっている一条だったりしたから、みのりの質問を ついうっかり聞き逃した。
「一条さんとかは、スッゴクもてたんでしょう? やっぱり、デートは遊園地が多かったりしたんですか?」
「は?」
「はっはっは、一条がそんなお子様みたいなデートで満足するはずないじゃないか、みのりちゃんてば」
一条が質問の内容を聞き返そうとしたのを遮って椿が話しだした。
「大体こいつの場合、夜のデートがもっぱらだから、何処かにしけこん・・・でっ!!」
「なに言ってるんだ椿。ソレはお前の場合だろう?」
椿の後頭部に鉄拳を炸裂させた一条の目が笑っていなかったりする。
「・・・・・・いてえな」
「女の子の前でそんな話はやめておこうな・・・・椿」
「ええ! 私聞きたいなぁ」
「じゃ、みのりちゃん、後でゆっくり・・・・」
「はぁい」
「椿さん!!」
「ははは、冗談だよ、冗談、怒るなって」
なんて他愛(?)もない話をしているうちに少しずつ前に進んでもう少しでみのりたちの順番が回ってくる。
「結構並んでるんだな」
「まあ、二人っきりですからね。恋人同士にはロマンチックな空間だと思いますよ」
「ロマンチック・・・・」
「・・・・恋人同士ならですからね。二人っきりの場合って事ですよ」
雄介と椿の会話を聞いて呟いた一条に、一応釘を刺しておく。
さもなければ椿やみのりがいたって暴走しかねない・・・・いや、するだろうから。
「・・・」
一条の眉間に皺がよった。とりあえずは理解したらしい。
「ねえねえ、これって1週20分近くかかるんだよ」
「20分!? へえ、長いなあ。こんだけ大きいと時間もかかるんだね・・」
みのりに言われて雄介が観覧車を見上げて呟く。
「さあ、どうぞ」
なんだかんだ話している内に順番がきたようだ。
係員の人の呼ぶ声に雄介が歩き出そうとして椿に止められた。
「悪いな五代。コレは俺一人で乗らさせて貰うぜ」
あっと思ううちに椿が一人で乗り込んでしまった。
「椿さんてば!!」
雄介が慌てても椿は中から笑って手を振るだけだ。
そのうち次の乗り物がおりてくる。
「あ、あの、次が・・・・・」
おろおろして係員が声をかける。
「あ、スイマセン・・・・・」
まず、雄介が乗り込み、次に一条が乗り込んだ。そしてみのりと続くはずだったが・・・・・。
「ああ!? み、みのり!?」
ドアの外でみのりがにこやかに手を振っている。
「な、なんで・・・?!」
『お兄ちゃん、今日はありがとう』
ゆっくりと乗り物が地面を離れ、みのりが遠くなっていく。
『あとは、一条さんとゆっくり楽しんでねvvv』
「みのりぃぃ〜〜」
だんだんと手を振る姿が遠くなって・・・・・
なんで、よりにもよってこんな空間にふたりっきりにするなよぉ・・・・・!!
と思わずにいられない雄介だった。
一方、みのりはといえばニコニコ手を振りながら立っていて。
「あ、あのう・・・・」
係員は困っていた。
普通、乗るのはカップル同士だろ? なんで、男一人、次は男同士で乗って、女の子が残ってんだよ!?
と思っていたりする。
なのに目の前の女の子はみょうに楽しそうだし、どうしよう
そのうちに次の乗り物が降りてきてしまうし、とりあえず声をかけるだけかけてみる事にする。
「あのう、次なんですけど、乗られます?」
と声をかけてみると、みのりはニッコリ笑って
「いいえ、乗りません」
と答えた。
「あの、じゃ、次の人に・・・・・」
「あ、やめたほうがいいですよ?」
ずいっと顔を寄せて忠告する。
「これからも、お客さんをこの遊園地に呼びたいんならコレは空けといたほうがいいと思うんです」
(反対に特定のお客さんもついちゃったりするかもしれないけど)
と、こっそり胸の中で呟いてみる。
だが、そんなことをしらない係員はゴクリを生唾を飲んでぐっと顔を寄せてきた。
「な、何故・・・・・」
「それは、あなたも知らないほうがいいと思いますよ?」
本能が告げている。
何がなんだかわからないけれど、この娘に逆らわないほうがよさそうだ、と男は判断した。
「・・・・・わかりました。じゃ、コレは空けときますね」
「はいvvv」
「じゃ、次の人」
係員が次カップルを呼ぶとみのりは歩き出した。
1週回るのに20分ちょっと、降りてきたら椿さんに送ってもらおう。
お兄ちゃんは、どうせ動けないだろうから一条さんが持って帰っちゃうだろうし。
また、こんなふうにゆっくりできない日が続くだろう、でも自分には今日の思い出があるから当分は寂しくはない。
「・・・・寂しくなったら、又『一生のお願い』すればいいんだもんね♪」
観覧車が一周してくるまで、何処かでお茶でもしてこよう
みのりは観覧車に背を向けて歩き出した。


なーんて、みのりがちょっとメルヒェンチック(?)に浸ってる頃、観覧車のなかでは大変な事になっていた。


どうしよう・・・・と雄介は困っていたりする。
こんな狭くて逃げ道のない場所に、二人っきりだなんて。
さっきから一条は黙りっぱなしだし、第一なんで男二人で向かい合うわけでもなく並んで座ってなければならないんだろ う。
「あ、あの、一条さん、俺、正面に移りますね?」
と立ち上がろうとしたら腕を掴まれ引き寄せられた
「?」
「ここに座ってるんだ」
「はあ・・・・・」
何時の間にか一条の手が肩に回っている。
「・・・一条さん?」
「・・・今日のこと」
溜息を一つ付いて一条は話し出した。
「どうして、言ってくれなかったんだ?」
「・・・今日って、みのりのこと?」
「そうだ」
真剣な顔で自分の顔を覗き込んでくる一条に雄介の心臓がドキッ・・・と大きく脈打った。
「・・・黙ってたのは、ゴメンナサイ・・・・」
「うん」
「でも、みのりの勝手なお願いだし、折角の一条さんのお休みだからゆっくりしたいかなって・・・・」
「雄介・・・・・」
「あ、でも後で、部屋に行こうかな、なんて思ったんですけど・・・・」
ちょっと顔を赤くしながらつぶやく。
が、さらに、一条が顔と近づけた。
「五代、そうじゃないぞ」
「え?」
「俺は怒ってるんだ」
無表情のまま、静かな声で告げる。
一条は本当に端整な顔をしていて、こんなふうに表情が抜け無表情になると、本当に恐い。
鼻と鼻がふれあいそうなくらい接近してささやかれて、五代は泣きそうな顔になる。
「どうしてかわかるか?」
「・・・・どうして、ですか?」
「五代の・・・・お前のそんな可愛い姿を、なんで俺が一番に見れないんだ?」
「・・・・あ」
みのりに言われた言葉を思い出す。
思い出して真っ赤になった。
「・・・一条さん。俺、男なんですから・・・・・・可愛いとかって、その」
「可愛いよ、誰よりも」
そんな真顔でいわないで下さいよ、もう・・・と俯いてしまった雄介の顎をすくい上げる。
「誰にも見せたくないのに・・・・皆に笑いかけて」
「そんな、こと」
「他の奴らに見せるなよ・・・・・」
一条の唇がよせられて・・・・・
「ダメですからね」
自分の唇を覆った雄介の手の甲に口付けて一条は眉間に皺を寄せた。
「何考えてんですか? ここ、観覧車の中なんですよ! 前からも後からも丸見えじゃないですか!!」
「大丈夫だ、前は椿だし、後には誰も乗っていない」
「え・・・?」
「みのりさんな、『自分は乗らないし、誰も乗せないからどうぞごゆっくりvv』って」
「!!!で、でも、ダメですから!!」
「・・・・・なんで」
「普通考えたらだめでしょ!! どうせ、後で部屋にいくんだからいいじゃないですか!!」
「いやだ」
「・・・いやだ、って子供じゃないんですから、ね、ほら、夜景が綺麗じゃないですか。これを見ましょうよ」
「・・・・・・そうだな」
そういわれて雄介はホッ・・・と力を抜いてしまったのを、一条が見逃す筈がなかった。
雄介の両手をとり一気に椅子に引き倒しながら一つにまとめて頭上に押さえつけてしまう。
「い、一条さん!? 何を・・・・!」
「じゃあ、雄介は夜景を見てていいぞ? 俺はお前をみてるから」
「こ、こんなんじゃ夜景なんか見えませんてば!!」
それでも賢明に一条の下から抜け出そうともがいてみる。
が、体格の差を考えれば完全に上から押さえつけられてしまっては抜け出す事は不可能に近かった。
ましてや、相手は警察官、相手を取り押さえるための体術には精通していると言うものだ。
「大丈夫、そんなこと気にならなくなるから」
「気になりますって!!」
雄介も必死だ。
何故なら、一条の指がゆっくりと雄介の身体の上を這っているからだ。
なにかを探すように、滑らかなレザーの上を辿っていく。
「・・・あ!」
やがて、いたずらな指がある一点を引っかくように掠めたとき、雄介の身体が小さく跳ねた。
「・・・・・この服の下は、何か着てるのか?」
「・・・何も・・・・着て、ない・・です」
ゆうっくりと、指はある一点で小さな円を描きつづける。
指に小さくしこる突起が感じられるようになるまで。
「や・・・・お願い、ですから・・・・やめ・・・」
雄介の顔がほんのり赤くなり息が荒くなっている。
胸は一条が開発した雄介の性感帯の一つだ。
そこを嬲られると雄介の身体に欲情という名の小さな火が灯ってしまうのだ。
「一条、 さん・・・やめて・・・」
「なんで? ココは嫌といってない・・・」
耳元で囁かれて今度は真っ赤になった。
白いレザーの下では確かにもっと刺激を欲しがっている乳首がプツリと立ち上がっているのが、自分でもわかるから、
でも。
「や、ですぅ・・・・お願い、ですから・・・・こんなとこじゃ・・・」
「俺はここがいい」
「!・・・なんでですか!!」
「今したいから」
「一条さんのばか!!」
すでに快楽によって雄介の目が潤み始めている。
だから、そんな目で睨まれたって、かえって煽られるだけというのに・・・・・と一条は苦笑する。
まあ、このままでいても雄介を落とす自身はあったけれど、なにぶん一周の時間が決まっているから無駄にはできない。
一条はさっき手に入れたばかりの切り札を出す事にした。
「・・・・・俺の『一生のお願い』って言ってもか」
「な! 何でソレを!!」
「みのりさんの『一生お願い』は聞けても俺の『一生のお願』は聞けないのか?」
あんまりな展開に雄介は口をパクパクさせた。
そんな雄介の様子を見て一条はにんまり笑った。
「じゃ、OKってことだな」
みのり!! 何て事を教えたんだ!!!
「じゃあ、とりあえず今日の分の『一生のお願い』叶えてもらおうかな」
そう言うと、まだ何か言いたげな雄介の唇を一条は覆ってしまった。



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