BOY FRIEND 《7》






ガコン、と乗り物が地面についた。
係員がドアを開けると、雄介を抱きかかえた一条が降りてきた。
一瞬、皆が声もなく見とれる。
そして、二人に纏わりつく甘い空気が―――――-。
「・・・・あ! お連れの方、大丈夫ですか?」
われに帰った係員が様子を尋ねる。
「具合でも・・・・」
「いえ、大丈夫です」
係員の言葉を遮って一条がはんなりと微笑む。
思わず直視してしまって係員は息を飲んだ。
大輪の薔薇が咲きほころぶようなその笑顔。
「乗り物に酔ったわけではありませんから」
だから、サラリと言われたとんでもない言葉を聞き逃してしまって。
「は?」
聞き返したときには一条はすでに背を向けて歩き出していたから。
「ん・・・いちじょ・・・さん」
抱きかかえられて真っ赤になった顔を一条の胸に隠していた雄介が顔を上げる。
「ごめんな、辛いだろ? すぐに綺麗にしてやるからな」
雄介にしかみえない一条の笑顔に雄介も笑いかける。
「よう、このエロ刑事」
椿のトンでもない声がかかって一条が冷たい視線を向けた。
「やーっぱり、我慢できなかったようだな」
といって、ポケットから一枚のカードを取り出した。
「なんだ、コレは」
「いやあ、やっぱりデートの締めはコレでしょう」
それは、遊園地の近くにあるカップル御用達の一流ホテルのルームキーで。
つかつかと一条に近寄るとポケットに差し込んだ。
「・・・・どうした、随分気がきくじゃないから」
「いやいや、ほんのお礼の気持ちだし」
満面な笑みを浮かべる椿の言葉に一条が眉を潜める。
「俺はみのりちゃんを送っていくからさ」
「はい、お兄ちゃんをヨロシクお願いしますね」
にっこり笑うみのりに一条は軽く頷く。
「たまにはのんびりしてきてね」
みのりが抱きかかえられている雄介を覗き込んで言う。
「みのり・・・・」
「あ、でも、どうせ寝ないか」
さらりと爆弾発言をされて雄介が固まる。
「じゃ、先にかえりますね」
「おう」
「まて、椿」
去りかけた椿を一条が引き止める。
「なんだ」
「あとでチェックするからな」
ニッコリと、一条が微笑む。
「・・・・・・わかるか」
「あたりまえだ」
「・・・・・・へーいへーい」
「返事は一回だ」
「はーい」
軽く手をあげて、今度こそ椿たちが帰っていく。
「なんですか?」
「いや、なんでもないよ。それより折角の好意だ。受け取ろう」
「・・・もう」
「いやか?」
「いやなんて、言うわけないじゃないですか」
雄介の返事に一条は微笑むと歩き出した。
「重いでしょ、降ろしてください」
「降ろせるはずないだろ」
「だって・・・皆が・・・」
視線をビシバシ感じて恥ずかしくってたまらない。
「ダメだ」
「なんでですか」
「出てきたら困るだろ?」
とんでもない言葉に一瞬雄介が固まった。
「・・一条さんの馬鹿!!」
「なんでだ?!」
「もう、しりません!!」
「言わなきゃ判らないぞ!」
なんだかんだいいつつも一条は雄介を抱きかかえたままで歩いていって、なんだかんだいっても幸せそうな雄介だったり する。
周囲に衝撃を与えながら歩いていく二人であった。



蛇足

近くの喫茶店で二人はお茶をしていた。
「いやあ、いいのが撮れた」
椿が小型のビデオを取り出す。
「はい」
「は?」
みのりが笑って手を差し出す。
「え・・・・と」
「取り上げるとはいってないですよ?」
ニコニコ笑うみのりをみて、椿は素直にビデオを渡したのでした。



蛇足2

「い、一条さんてば! 降ろしてくださいって!!」
「ココまできたんだからいいだろうが」
「よくありません!!」
どんなにあがいても、逞しい一条の腕からは逃れるすべはなく。
「あああ!! 降ろしてっていってるのにぃ〜〜!!!」
どんなにわめいても一条は動じもせず、唖然としているドアマンに目もくれずフロントに真っ直ぐ歩いていく。
ロビー中の視線が二人に注目して、雄介は真っ赤になってるのに、一条はびくともしていなくて。
「すみません」
「・・・・」
失態を晒した事のないフロントマネージャーが口をあけて二人を見てしまう。
「すみませんが」
「あ、は、はい、いらっしゃいませ!!」
慌てて頭を下げる。
「ポケットにルームキーがはいってますから取り出して案内してもらえませんでしょうか」
「は?」
「両手が離せないもので」
「・・・・・」
嫌なんて言えなかった。
「・・・・・失礼致します」
でも、そこはさすが一流のホテルに勤めているというプライドが勝ったようだ。
軽く頭を下げると一条のコートからルームキーを取り出し一条を案内する。
二人が居なくなって、固まっていた空気が溶ける。
ザワザワ・・とあたりがざわめいて、中にその光景を見つめる視線があった。
「なるほどね、ありゃあ、適わないや」
男は肩を竦めるとホテルを出て行った。



蛇足3

昨日は久々の家族団欒ですっかり疲れをとった杉田が登庁した。
とちゅうでコーヒーを買って今日も一日頑張るか!と気合を入れる。
捜査本部にはいり辺りを見回すと、どうやら自分が一番のりだったようだ。
「ふむ、桜井は結局行ったのか?」
プルトップを開けコーヒーを飲む。自分の机に資料を置こうとして、
ブ――――――――ッ!!!!!
と、口に含んだコーヒーを全て吐き出してしまった。
気管に入ってしまったのか、ゲホゲホと咽る。
漸く落ち着いたのか、呼吸を整え大きく深呼吸をすると・・・・・
「桜井!! 竹田!! どこだぁ!?」
と操作本部を走り出た。
「やべ!」
「早いな、杉田さん来るの」
廊下を走っていく二人を見つけ杉田も後を追う。
「こらあ!! ありゃ、なんだ!! 一体何考えてるんだおまえらは!!」
「だって! 杉田さん、昨日俺を見捨てて帰っちゃったじゃないですか!!」
「だからってなあ!!」
「あれはプレゼントですから!!」
「この馬鹿モンがぁぁぁ!!!」

杉田の机のマットのしたにしかれた雄介を抱きかかえる一条の写真がポスター大に引き伸ばされたもので。
もちろんその写真は一条に没収されました。






いやあ、漸く終わりました。
折角、普通の話にしようと思ったのに、
あれ、みのりちゃんが最凶、いやいや、最強の女性に・・・・あれ?
実は、もう次のネタがあったりする。
やっぱり、舞台は夏で海よね
BY 樹


でも、実はこれ、前半をカットした表用なんです。
ここまで来て、後は『屋根裏部屋』というのもなんなので、こういう形にさせてもらいました。
完全版は『屋根裏部屋』においてありますので、詳しくは『secret of my love』へ。
from ひかる


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