BOY FRIEND 《3》






ヅカヅカと、その男は警視庁の中に入っていく。
迷った様子を見せるわけでもなく男はドンドン進んでいって、"未確認生命体対策本部"と表示 されたドアを開けた。
「おう、来たぜ、一条!! 俺を呼んだからには面白い事があんだろうなぁ!」
傍若無人な男 ――――――― 椿であった。



「はあ、俺は寿命が縮んだぞ」
杉田は深く溜息を付いた。
「まったく、なんで警視庁にいながら未確認に出会うより危ない目に会わなきゃいけないか な」
「ほんとだよ、竹田。お前、もうココくんな」
桜井にシッシッと手で払われて竹田は口を尖らせた。
「なんで、俺のせいなんだよ!!」
「お前のせい以外に何があるって言うんだよ!」
「ひどい! 一体俺がなにしたっていうのよ!!」
「・・・・・・・本気で言ってるんならぶっとばす」
口元に両握り拳を持っていってしなった竹田に桜井は蹴りを食らわせた。
「いてっ!! 桜井!おまえ、ぶっ飛ばす、っていったのに、なんで蹴るんだよ!」
「だって、おまえ避けるだろ」
「あたりまえだ!! 警察官が嘘ついていいのか!!」
「あーあーあーあー、煩いぞ、おまえら。トイレで騒ぐんじゃない」
力なく杉田は二人の間に割って入った。
「なんで、3人そろってトイレにこなきゃならないんだか・・・・・」
女子高生じゃあるまいし・・・・と呟きながらトイレを出た杉田は、思わず立ち止まってしまっ た。
「? どうしたんです? 杉田さん。こんなところで止まらないで下さいよ」
立ち止まったまま動かない杉田に後から声が掛かる。
しかし、杉田は一点を見つめたまま動かなかった。
「杉田さん?」
杉田の視線の先にあるのは、同じ廊下の端にある未確認対策本部のドアの前に立つ人間で。
「・・・どうしたんです?」
桜井の訝しげに杉田が我にかえり、深く溜息を付いた。
「・・・いや、何でもない、行くぞ」
うなだれたまま歩き出す杉田に首を傾げながら二人は後に続く。
「あ、杉田さん、御久しぶりです」
「・・・やあ、椿くん、・・・・一条に呼ばれたのか」
「ええ」
杉田と会話を交わす男を見て、桜井も竹田もポカンとしている。
二人が思うに警視庁と言う場所は、一般市民が入っちゃいけないとは言わないが、こんな奥深 くまで入ってこれる場所では無かったような・・・・・
いや、それにしてもこの男の格好は―――――
重厚そうな革のライダーブーツ、色が程よく褪せている、おそらくビンテージ物だろうスリム なブルージーンズ、
そのジーンズにはブーツとおそろいな色の一寸幅の太めでごつい革のベルトに指を掛けて立つ 姿がこれまた堂に入ってはいる男。
そんな彼をみて桜井は呟いた。
「・・・・・・トップガン?」
に出てくるパイロットとが着ているような背中にド派手なロゴの入った、存在感のある革ジャ ン――――これまたビンテージものだろう。普通日本人だったらこんな物をきたら反対に服に 負けてしまいそうなのに洋服に負けていないという事は、それだけ椿が鍛えられた身体をして いるという事と、椿自身が持つ存在感のようなものだろう―――は、大きく襟ぐりが開いてい てボアがついている。
それでも完全なアメリカかぶれにならないのは中にきているハイネックなクリーム色のセー ターが高級感を出してるからで、たしかに、いい男だ。立つ姿はモデルのようだろう。でもな ぜか
「・・・・・・こわい」
素直な感想を漏らす桜井に頷く竹田。
「で、肝心の一条はどうしたんだ?」
その二人に呟きを聞かなかったフリをして杉田が尋ねる。
「ああ、今着替えて・・・・あ、来た」
椿につられて其方をみやった三人はさらに口を開いてしまった。
確かに、こちらに向かって歩いてきているのは、あの一条なのだろう。
すれ違う婦警達の目がハートマークになって、立ち止まってまでその男の後姿を追っているの だから。
が、
スーツ姿の一条しか見た事の無い三人には想像もしていなかった姿で・・・・・
「・・・・・・あ、アレだ」
と今度は竹田が呟いた。
「・・・・・・なんだ」
「・・・・・"マトリックス"」
スリムな黒革のショートブーツに高級そうな同じく黒のレザーパンツ、そして黒のVネックの 薄手なカシミアセーターは大きく胸元の開いたVネック。
その襟元からは鎖骨が見えていて
「・・・・・なんつうか、あれが、"男の色気"ってヤツ?」
と竹田の感想は正しい。
いつもは何の手も施されていないだろう風になびく髪はムースかなにかで無造作に後へと流さ れていて纏められている。
長さが足りないせいか、まとまりきらなかった前髪が
何本か落ちてきて、細みなサングラスにかかっている。
――――――― 似合う。確かにカッコいい、素敵だ!!と男でも思う。思うが、
「・・・・・やっぱり、なんでか、わかんないけど・・・・・・・・」
あの妙な迫力がこわい・・・・・・
みな迄言わずとも竹田の言いたい事が判って頷く桜井であった。
「待たせたな、椿」
側まできて杉田たちに気付き一条はサングラスを外した。
「あ、杉田さん、お疲れ様です。申し訳ありませんが・・・・」
「ああ、いいって、お前は本来休みなんだからな」
手を振って一条のセリフを遮る。
「・・・・・・なあ、聞いていいか、一条」
「?なにか?」
「・・・・その格好で、いくのか?遊園地・・・・・・」
杉田のセリフに己の姿を見、椿を見、もう一度己をみて、
「はあ・・・・。何かおかしいですか?」
と返事を返す一条に杉田は力なく首を振った。
「いや、いいんだ、きっと女の子達が放っては置かないだろうと思ってな・・・・・・」
二人で並んで立つその迫力、それよりその格好でカップルの溜まり場と言われる、あの遊園地 へ行くというのか・・・・・・
はっきりいって男の敵である。
「ではこれで」
椿も軽く頭を下げる。
「ほら、コート」
「ああ」
椿に預けてあったそのコートに袖を通すその姿に婦警達の桃色な吐息が漏れちゃったりしてい るが、これまた黒いレザーのロングコートは、いくつかの小さなベルトで襟元まで止められるように なっており、どうやらハイネック仕立てになっている様だった。
一条は手早く襟元まで止めると颯爽と裾を靡かせながら歩いていく。
「何で来たんだ、椿」
「決まってるだろ、いつものアレだ」
「ハーレーか」
「ああ」
「東京の道は狭いだろう」
「北海道なんかは最高だったんだがなあ」
「俺のバイクは?」
「準備してある」
―――――― その格好でバイクに?
あの一条の事だろうから、きっと大型の筈・・・・・
裾を翻してバイクを運転するのか?
あまりにも、はまっているその姿を想像してしまった桜井に竹田が話し掛けた。
「なあ、言ってもいい?」
「・・・・・なんだ」
「マトリックスってさ、主役がああいったコート着てさぁ、その下にしこたま拳銃を仕込んで ビルに乗り込んでいくじゃんか・・・・」
「・・・・・」
「なんか、・・・・・・・・・・持ってそうじゃない? 一条さん」
「恐い事いうなぁ!」
思わず耳を塞ぐ桜井であった。
脳裏に映画が甦る。拳銃をコートの下から幾つも幾つも出してぶっ放す主役に一条がダブる。
「・・・・大丈夫だぞ、桜井」
杉田に肩を叩かれ桜井はすがるような目を向けた。
「一条はああ見えても警察官だからな、一般市民に発砲はせんよ」
「・・・・・・」
それでは銃を持っているという事を暗に認めているようなもので、慰めになっているような なっていないようなセリフに深い溜息を付く。
「なんか、不謹慎かもしれないんすけど」
「・・・・・なんだ、言って見ろ」
「未確認と対峙している方がまだいいのかも・・・・・」
確かに不謹慎なセリフではあったが、思わず頷いてしまった杉田であった。
そのとき竹田は昼間見た五代の姿を思い出していて。
――――― あの、五代さんが、あの、二人に挟まれて立つのか・・・・・・
考えて、思わず漏らした言葉が二人に届かなくて幸いであったというべきか。
「・・・・写真に撮って置きてぇなあ・・・・・・」
やはり、大物である。


さて、時間は少し遡る。


五代兄妹カップルはともかく人目を引いた。
男も女も振り返る。
一件、カップル、・・・もしかして姉妹?
と思わせるものが五代にある。中性的な雰囲気に男にしては色っぽい、ポッテリとした厚めな 唇が独特な色気を纏わりつかせていて
確かに肩幅はあるようなものの身体は男にしては厚みが無い上にウエストが細い。
だから、野郎二人組みが何組も声を掛けては玉砕する、という光景が繰り返し見られた。
「ふふ」
「どうした、みのり」
嬉しそうに笑うみのりに声をかける。
「だってぇ、こんなに声がかかるなんてそれだけお兄ちゃんが素敵ってことだもん!」
「違うぞ、みのりが可愛いから声をかけてくるんだぞ」
両方である。
「ええ? そうかなぁ」
「そうだぞ! それにみのり、"お兄ちゃん"は駄目だっていったじゃないか」
「ア・・・と、うん、雄ちゃん!!」
「そうそう」
微笑みあう姿はまさしくラブラブカップルそのもので
「今日は、みのりが雄チャン独り占めだね!」
嬉しそうに腕を組んでくるみのりにとびっきりの笑顔を向ける。
自分がクウガということでいつもたくさんの心配をかけているだろう、たった一人の大事な 妹。
小さい頃は凄く甘えん坊で、父について世界を回る雄介が日本に帰ってくると後を付いて回っ て離れなくって。
父が死に、漸く日本に帰れた時にはみのりは我慢する事を覚えていて。
母が死に、父が残した遺産と母の保険金で生活には困らなかった。
たった、ふたりで生きてきて、父の冒険仲間であったおやっさんに出会えて。
みのりが大学に入った頃、雄介は再び冒険に出てしまった。
そうしなければ、反対に雄介が潰れてしまう事がみのりにも判っていたからなにも言わずに見 送ってくれた。
だから、雄介はみのりの"一生のお願い"を聞くのだ。
めったに甘えなくなった、たった一人の可愛い妹がみせる甘えを雄介はなんでも叶えてあげた いと思っていた。
「さ、今日は頑張るからな!!」
「うん!」



待ち合わせの場所に現れたみのりとその連れの男性をみて、一同は言葉が出なかった。
「おそくなってごめんなさい!・・・・・えっと、紹介しますね。雄ちゃん、じゃなくって雄介さ ん、です」
「こんにちは」
ニッコリ微笑まれて、なぜか男性まで顔が赤くなる。
「え、あ、そんなには待たなかったから」
先に待っていたのは全部で4組。中でもみのりを煽ったらしい人物は今しゃべった女性だろ う。
一番派手な格好をして一番ハンサムな男性を連れている。
――――― たしかに綺麗かも知れないけど、・・・・みのりの方が可愛い。
手入れされているだろうサラサラな茶色の髪や綺麗にマニキュアを塗られた爪。
一寸きつめなお嬢様系美少女といったところだろうか。
「あ、私、坂下里奈って言います。彼は・・・・」
「あ、始めまして。安部和弘です」
「雄介です。楽しい日になるといいですね」
みのりの株を上げるために十八番の笑顔をむけると相手が赤くなった。
「?」
「雄介さんってなにしてるんですか?」
互いの紹介が済むと早速坂下里奈が尋ねてきた。
彼女の彼はエリートサラリーマンってところだろうか、勤めている企業は有名な、雄介ですら 知っている一流商社だった。
眼が語っていた。
―――― 負けないから!
どうしようか、と雄介が口を開く前にみのりが口を開いた。
「雄ちゃんはね、冒険家なの」
「冒険家?」
声に馬鹿にした音が混じる。だがみのりはそんなものには構わず自慢気に話し出した。
「世界中を回って、写真を撮ってるんです。お父さんと同じ道を進むつもりなんだよね!」
「みのり・・・・」
誰にも言った事がないのに、いや一度だけみのりだけ話した事たことがあったが・・・・・覚えて いたのか。
「へえ、お父様はカメラマンなの?」
さすがエリートサラリーマン、言葉が丁寧だと雄介が思っている間に会話が進む。
「主に山の写真なんですけど・・・・」
本名ではないので写真に本を出したときに使われていた名前を告げると、意外な事に安部和弘は 瞳を輝かせた。
「アノ人なの!? 俺知ってるよ!」
「え! 知ってるんですか!」
「ああ、俺はこう見えても山に登るのが趣味でね。あの人の写真集は全部揃えてあるよ」
あっという間に会話が盛り上る。反対に坂下里奈の機嫌は見る見る間に悪くなっていくのに気 付き雄介は心の中で舌打ちをする。
自分と話すより嬉しそうにしている恋人を見て完全に拗ねてしまったらしい。
―――― しまったぁ〜、俺とした事が・・・・・、今日は大変な事になりそうだ・・・・・
そう、確かに雄介にとっては今日は大変な日になるのだった。
なぜなら・・・・・・・




「付いたぞ」
「ココか・・・・・」
重低音な音を響かせてバイクが2台駐車場に止まった。
ヘルメットを取ってバイクから降りる。
「さて、どこにいるかな」
一条はしばらくあたりを見回すとスタスタと歩き出した。
「とりあえず入るぞ」
「とりあえずって、五代のいる場所わかるのかよ」
スタスタ歩く一条の後に続く。入場券売り場に行くまでにすれ違う女性が、全て――― たと えカップルでも―― 振り返る。
が、そんなのに頓着せずに歩き出す。
「・・・・・こっちにいる、気がする」
「流石、本能で生きる獣」
失礼な椿の呟きを無視して一条は歩き出した。



なんで、こうなるかな?
雄介はスケート場のチケットの券を手にしながらため息を付いた。
何しろココまでは良かった。
ただ雄介の株は上がりすぎてしまったのだ。
なにしろ、素敵だし、話は面白いし、なんてったって女性をエスコートする姿が様になってい る。
それは当然だ。雄介は海外生活が長いから女性のエスコートなんてあたりまえのことをしてる に過ぎない。
だが、雄介が注目を浴びるたびに坂下里奈の視線が・・・・・・。
「ごめんね、迷惑掛けて」
雄介は少し場を外した方がいいだろうと自らチケットを買いに行くのを立候補したのだが、な んと彼氏がついてきた。
「あいつ、ちょっと我侭なところがあってね」
「いいえ、大丈夫ですよ、安部さん」
「いいよ、和弘って名前で呼んでくれて」
「そんな事・・・・」
「そのかわり、俺も雄介って呼んでいいかな」
「・・・ええ、いいですよ」
優しげな微笑に頷いてみせる。
「でも、彼女可愛い人じゃないですか」
雄介の言葉にちょっと困った顔な顔をしてそっと雄介の耳に唇を寄せた。
「あれ、嘘なんだ」
「え!」
「ただの幼馴染なんだよ、ただ、なんか今回は負けられないとかいって頼まれてね。内緒だ よ」
どこも女の子の事情は同じってことか。
おかしそうに雄介が笑いを漏らす。
「どうしたの?」
「いえ、大変ですね。内緒にしておきますから。さ、行きましょ。皆待ってますよ!」
しばし、雄介の顔に見とれて和弘はため息をついた。
「本当は、君がタイプなんだけどな」
「え?」
言葉が聞き取れなくって振り返ったとき、お約束のように躓いてしまって。
「危ない!」
そばにいた和弘に抱きとめられた。
「はあ、すいません!俺っておっちょこちょいで・・・・」
「・・・・」
身体に廻された腕が離れず、アレ?と雄介は顔をあげる。
「えっと、和弘さん?」
「雄介君・・・」
マジマジと顔を覗き込まれて・・・・・・
ゾクゾク・・・・・・!!!
その瞬間、雄介の背筋を何ともいえぬ悪寒が走り抜けた。
バッ・・・!と腕を振り解きあたりを見回すと・・・・・
―――――  ええええええ!!!なななな何で・・・・・・!!
「よう、お邪魔かなぁ? 今って」
面白そうな椿の声がかかる。
「椿さん! なんでココに!!」
「いや、なんか面白い事があるからって連れてこられた」
と隣に腕組をして立つ男を指差す。
「なんですか! 面白いことって?!」
「さあ、本人に聞けばぁ?」
ニヤニヤとする椿の隣に立つ男はなんだか凄く不機嫌そうだ。
はっきり行って、いい男が無表情で―――ましてや眼が座っている――― オドロ線をバック に漂わせているのは恐かった。
ななな、なんで怒ってるの!?
訳がわからず雄介がオロオロしているその時だった。
「雄ちゃん! 遅いから迎えに来ちゃった!」
と、可愛らしい女性が雄介に抱きつくのを一条は見た。
はあああああああああ!!!!
――――――― 雄介は見た(ような気がした)。一条のバックに落ちた雷を!!
(どどどどうしよう?!)
こんな状態に陥ったときの一条の恐ろしさを雄介は身をもって知っていた。
早く誤解を解かねばならない、この女性がみのりで、自分が恋人のふりをしているって事を。
が、その時、一条がは笑ったのだ!!
ビシィッ・・・・!っと雄介の身体が硬直する。
「偶然だな、雄介、随分と楽しそうだが、俺達にもその彼女を紹介してくれないか?」


――――――神様の意地悪・・・・・・。
思わず泣き出したい雄介だった。






あら、また続いてしまったのね。こんどは終わらせたいんだけど。
なんかこの一条さんて、ビデオネタシリーズの一条さんに通じるモノが・・・・・?
ああ!!ドンドン壊れていくような!! いいの?このまま進んで・・・・ひかるさん(泣)   樹

むろんOK〜〜〜♪ (ひかる)


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