BOY FRIEND U その6
表バージョン
イク。
手の中の、一条の脈動をアリアリと感じて。
その期待に身体が震えた瞬間。
「・・・・っああ・・・・!」
「おにいちゃ――――ん!!vvv」
「!!!」
「わあああ――――――――― っ!!!!」
それこそ、火事場の馬鹿力とでも言うべきだろうか。
真っ赤になった五代が、一条から瞬時に離れて脱いだバミューダ―を掴むと海に飛び込んだ。
残されたのは・・・・・。
「・・・あれえ、お兄ちゃん、ココにいませんか?」
みのりが甲板に姿をあらわした時には、(表面上は)すっかり元に戻っていた一条しかいなくって。
「・・・・・あ・・・」
「なに? みのり?」
手摺を昇って、海から上がってきたばかりの五代が顔を出した。
「・・・・・お兄ちゃん・・・」
「なっ、なに!?」
「なんでTシャツ着たまんま泳いでるの?」
きょとん?と首を傾げるみのりに五代が照れたように笑った。
「え?! あ、はは、泳いでんじゃなくって・・・・・・・そう、みのりが急に声かけるから驚いて海に落ちちゃったんだ!!」
「えっ!? 大丈夫なの!?」
慌てるみのりに五代が大丈夫!とサムズアップをしてみせる。
「全然平気だって!」
「そう?・・・ならいいんだけど」
「で、なに?」
五代としてはさっさと問題を片付けて、早くさっきの続きに戻りたかった。
中途半端に煽られた官能の炎はチロチロと身体の奥底でくすぶっているのだ。
一応海にはいったものの身体の熱を取るまでには至らず、はっきり言って疼いて仕方がない。
まして、後ろから自分を見つめる一条の視線にすら感じてしまうほどなのだから。
が、みのりの次の言葉は、そんな五代の炎を吹き消してしまうようなものだった。
「みのり、ヨットおりるからvvv」
あっけにとられている五代を尻目にみのりはニコニコ笑っていった。
「み、みのり、ヨット降りるってなんで・・・・」
あわててみのりの後を追いかけてデッキを降りる。
「どうしてそんなこと言うんだよ・・・・」
さっきまでしていたことがばれたんだろうか。
ちょっとやましいことがあるだけに五代はみのりが突然そんなことを言い出した訳が気になってならなかった。
だって、昨日まであんなに楽しそうだったのに、突然そんな事をいうなんて。
「・・・なんか、気に入らない事でもあった?」
「え?」
沈んだ声を出す五代に驚いてみのりが振り返ると、しょんぼりした五代が立っていて。
「お兄ちゃん?」
「だって、みのり・・・・・突然帰るって・・・・」
年上の兄の沈んだ姿があまりにも可愛くってマジマジと見つめてしまった。
未確認生命体第4号とかクウガとか呼ばれちゃったりしていたくせして。
・・・・・あんなに強いのに、自分の一言一言にこんな反応を示す兄が可愛くって。
「ぷっ!」
「は?」
「もう、やだぁ! お兄ちゃんたらぁ!」
身体を二つに折って笑い出したみのりを呆然と見やって五代が唖然としていた。
ひとしきり笑って。
目じりの涙を拭いとって、漸く息を整える。
「なんで帰るかっていったら、夏休みが終ったからに決まっているじゃない!」
「え?」
「あれからどれ位たったか判ってる?」
「どれ位って・・・」
「もう、8日たってるんだよ。お兄ちゃん」
これ以上長く休みとったら首になっちゃうよ、といって笑っているみのりが笑うと雄介が考え込んで。
「海の上で時間の間隔鈍っちゃった?」
ふと自分の中の記憶を辿ってみれば確かにそれぐらい経っているような。
つい、楽しくってそんな事を忘れていた、そんな表情が浮かんだ雄介を見てみのりがにっこり笑った。
「だから、みのりは一足先に船を降りるんだけど」
みのりが荷物の纏めているとコンコン、とノックの音がした。
「はい?」
誰だろう、とドアを開けると一条が立っていた。
「なんですか?」
なんの用件で尋ねてきたか・・・・なんてわかっていたけれど、あえて知らないふりをして聞いてみると一条はちょっと困ったような顔をしながら口を開いた。
「五代から聞いたんですが・・・その、先に下りるって・・・・」
「はい。もうコレ以上休めませんから」
ニッコリと。
先ほどまで自分達が何をしていたかなんてスッカリお見通しだろうに全然表情に出さないみのりに一条は内心舌を巻く。
・・・・・・もしかしたら、アレはわざとだったりしたんじゃ・・・・・・
この、自分にも読む事のできない笑顔を見ていると、頭の隅をそんな考えが過ぎり慌てて否定する。
五代と同じ血を引く笑顔が瓜二つの可愛らしい(?)妹にそんな暗黒な部分があっただなんて、はっきりいって思いたくない一条であったりするのである。
なにせ、この女性だけには頭が上がらないから。
本腰を入れて邪魔されてしまったら何分一条の方が分が悪い。
しかし。
「・・・・・・嬉しいでしょ」
突然振り向いて面白そうに囁かれたみのりの言葉に暫し絶句して。
「・・・・・・・ええ、まあ」
溜息とともに一条は正直に内心を暴露した。
今更取り繕っても仕方あるまいし、これから先のことを考えるとそのほうがいいような気がしたからだ。
「正直ですね」
ふふん、と兄そっくりな笑い方をするみのりを見ながら、一条はもしや、と思っていたことを口にした。
「・・・・偶然、では、なかったのでしょう」
問いかけではなくて確認で。
「ちゃんと、猶予をあげたでしょ?」
「・・・・・・・・ですね」
「あんなとこでして、もし他のヨットが通ったらどうするつもりだったんですか?」
「・・・・・・・」
「お兄ちゃんの姿が他の人に見られちゃうじゃないですか、勿体無い」
「・・・は?・・・」
「私だってまだ見たことないのに・・・・」
もう、とぶちぶち言いながら支度をしている姿を見つつ・・・・・怒るべきはその点なんだろうか? 今一違うような気がするんだが・・・と思ったり。
それでも一条の心に棘のように引っかかっていることが、今回の事ではっきりと形になってしまっていたから確認せずにはいられなかった。
「・・・・・・それだけではないのでは?」
一条の言葉にみのりの手が止まる。
「他に、何がありますか?」
にっこりと笑うみのりの表情を、一条は読むことは出来ない。
自分よりはるかに年下のこの女性は小さい頃に父を、続いて母を亡くし兄と2人で世間に放流されてしまって一体どんな人生を送ってきたのだろうか。
それは、まだ片親がいて大切に護られていた自分には想像も出来ない世界だったに違いない。
その彼女の心のよりどころである五代に寄せる思いは、一条が五代に寄せる想いとどう違うのか。
「さ、できた!」
荷物を手にみのりが一条に向き直った。
「ねえ、一条さん」
「・・・・はい」
「五代雄介は私のたった一人の兄なんです」
「・・・・ええ」
「そして私は兄にとって・・・・たったひとりの妹で・・・長い間、私達は2人っきりでした。私はそれでも良かったんですけど・・・・・」
「・・・・・」
「でもね、私が願っているのは兄の幸せで・・・・・私はその為にならなんでもするつもりなんです」
「そうですね」
「でね、いまのところ一条さんが一番幸せにできるかなって思ってるんですけど・・・・・・・どうでしょう」
可愛らしく首を傾げられて、一条は一瞬言葉がでなかった。
「一条さん?」
「・・・・・・・・いまのところ、ではなくて、これからは、後にも先にも私ひとりしかいませんよ」
一条の、その自身満々な言葉にみのりは満面の笑みを浮かべるとベットに上にあるトランクを手にとった。
「その言葉、忘れませんよvvv」
ヨットの側にはモーターボートが横付けにされていて、運転席には椿がいた。
「お待たせしました」
「いえいえ」
みのりの出した荷物を受け取り、後の座席に乗せる。
「みのり!!」
今まで何をしていたのか、キャビンの中から手に何かをもって五代が走ってきた。
「おにいちゃん」
「みのり、コレ、持ってって」
差し出されたのはタッパだった。
「?」
「一条さん達が釣った魚刺身にしたんだ」
「うわぁ」
「持ってって。皆で食べて」
「うん」
その仲良さげな様子に、わかっていても一条の胸を突きさす小さな『嫉妬』という棘の存在を認識してしまう。
自然に眉間に皺がよっていたらしい。
「心の狭い男は嫌われ・・・・・」
そんな一条の後ろから呟いた椿の耳に空気を切る音がして。
すんでのところで飛んできた裏拳を交わす。
「あっ・・・あぶねっ!! 一般の人間になにすんだ!!」
「・・・・・おかしいな・・・・一般の人間には俺の拳は避けれないはずなんだが」
しれっと、前を見たまま言い放つ一条に、かなり煮詰まってんだなぁ・・と胸の中だけで肩をすくめる。
この、妙に物分りのいい顔をした親友が五代雄介と言う男にだけ見せる執着を、あんがい椿は微笑ましく思っていたりする。
小さい頃から、母親を困らせるような事はせず大人である事を要求されてそのままに育ってきた、と聞いている。
一条と出会ってから今まで一条自身が何かを欲しがって我を通す所などみたことなかった椿だったが、五代と出会ってからの一条の変わり方は見ものだった。
五代に対して執着を示すようになってからの一条はいい男になった、と思っている。
観賞用の人形のような美しさもいいかもしれないが、血の通った人間としての美しさを持つ男への変化。
今までの一条からは想像もつかないほどのやきもち焼きぶりとか・・・面白くってついついちょっかいだしてしまうが。
何事もタイミングよく見極め、引き際は間違わない! そのことには自信があった椿だからこそ今回も間違えない。
「ほれ」
「・・・なんだ」
ポケットから鍵を出して一条の眼前にぶら下げる。
「船のカギ」
「・・・・椿?」
「俺もおりるから」
驚いた顔をする一条にニヤリと笑いかけて。
「いろいろ楽しませてもらったし。4〜5日の休みなら誤魔化してやるさ。気の済むまで五代と過ごしてこいよ」
カギを手渡して肩を叩く。
「ま、楽しんでこいや」
それだけ言ってみのりの側に駆け寄る。
「よっ! 五代!」
「椿さん.・・・?」
突然肩を叩かれ不思議そうな視線を向ける五代に椿がサムズアップをしてみせた。
「俺の夏休みもコレで終わり! みのりさんはきちんと送ってくから安心しな」
「え?」
「なってったって優秀な医者だからな、これ以上の休みは難しいのよ」
俺がいないと関東医大はつぶれちゃうのよ、と言いながら。
五代が話を十分理解しないうちに、みのりの手をとってモーターボートに乗せてしまう。
「後は2人で楽しい夏休みを過ごしてちょうだいな」
いまだ、呆気に取られている五代にウインクすると椿はエンジンを入れた。
「じゃね、お兄ちゃん」
みのりに声をかけられて我に返る。
「あ、う、うん」
「じゃあ、一条! 後頼むぞ!」
椿の言葉にただ黙って手を振る。
「みのり! 気をつけてね! 椿さん、お願いしますね!」
雄介が手を振って見送る。
あっという間にボートは小さくなっていった。
一度は屋根裏に行ったんですが、7が表でも大丈夫な内容だったので、
合わせて表バージョンを作りました。
さらに『必殺! 3行開け』を駆使して、表でも完結するようにラストまで繋げました。
でもおいしいところは全部屋根裏部屋にあるので、読みたい方はそちらへ来てね☆
ひかる
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