BOY FRIEND U その7

表バージョン



みのりが小さく溜息をついて座席に腰を下ろした。
「・・いいの?」
「なにがですか?」
椿の問に、みのりが笑顔で答える。
もっとも、その瞳はそれを裏切っていて。
「目が笑ってないよ」
「わかるんですか?」
「それぐらいは、ね」
椿の言葉にみのりが感心したように頷いた。
「さすが椿さん、年の功、伊達に年取ってないですよね」
兄そっくりの、邪気のない笑顔で毒をはく。
―――――――― この顔で蜥蜴食うかや不如帰・・・ってとこか?
「そんなに嫌なら無理に降りなくっても良かったのに」
「無理にじゃないですよ。本当にもう夏休みがないんです」
からかうような椿にちょっと唇を尖らして。
「あ〜あ・・・・いまごろ一条さんてば、お兄ちゃんと楽しい事してるんだろうなぁ・・・・・・」
みのりが悔しそうに呟いた途端、グンッ!!・・・と船が傾く。
キャッ!!とちいさな悲鳴をあげ慌てて手近な所に掴まって堪えていると、椿が慌ててハンドルをコントロールしているのが見えた。
「ごめん!! 大丈夫!?」
「大丈夫ですけど・・・どうしたんですか?」
なんとか元に戻して謝ってくるのに答えながらみのりが不思議そうにその原因を尋ねると椿はいや、その、と要領の得ない呟きを返すだけでみのりは首を傾げる。
一方椿としても、まさかみのりから出たセリフに驚いて手を滑らせました、なんて言いようもなく、いまだにどうしたんだろう、と自分を見つめているみのりにコホン、と咳払いをして笑いかける。
「ね、その・・・・楽しんでる、って・・・・」
「一条さんがお兄ちゃんとセックスしてるってことですけど」
「・・・・」
わかっていてもみのりの口がら聞きたくなかった・・・・!!と思う椿に罪があるだろうか。
「もう、椿さんたら! 私、幾つになったと思ってるんです?」
呆れたようなみのりに椿は視線を逸らす。
「・・お兄ちゃんは、何も知らないいつまでも可愛い妹でいてほしい、なんて思ってるだろうから、希望通りにしますけど。他の人にまでそうするつもりはありませんよ」
確かに、五代は自分の可愛い可愛い妹が全て知っているとは思って・・・いや、思いたくないだろうし。
「だねぇ・・・でも・・・・・」
「はい?」
「いいの?一条で」
「・・・・しょうがないじゃないですか。お兄ちゃんが好きなんだし」
「ふうん」
「・・・ま、一条さんてば、私が知ってるなかで一番綺麗だし」
「は?」
「ちょっと昔の言い方になるけどいわゆる3Kじゃないですか」
「ああ、高学歴、高身長、高収入だっけ?」
「違いますよ」
「違う?」
「はい。強靭な肉体、綺麗な顔、鬼畜な性格!3Kですvvv
「・・・・・・・・え?」
「私もお兄ちゃんもすっっごく面食いだから、まず顔が問題になるんですけど、これは楽々クリアでしょ?」
「顔、ねぇ・・・・」
「次に、お兄ちゃんクウガになっちゃったから並大抵の人じゃ釣合わないじゃないですか」
「・・・・・・・・」
「同じ位、ううん、それ以上に強い人なんていないって思ってたけど一条さんはそれもクリアしてるし」
まあ、未確認と同じ体質だし、と心の中で頷いて。
「しかもあの性格! 大切な人以外どうでもいいってところが素敵です」
「・・・・鬼畜って、そういう意味・・・・」
「まあ、ついでって言うわけじゃないですけど高収入っていうか、公務員は食いっぱぐれがないですから、これもポイント高いですよねvvv
「はは・・・・・」
「きっとお兄ちゃんだけを大切にしてくれるって思ったんですよねぇ・・・」
「みのり、さん」
「・・・・・・だからいいんです」
「そっか・・・・」
前方を見ながら話すみのりの静かな声が椿の胸に響く。
みのりは、本当に五代雄介の幸せの事しか考えていないのだ。
ちょっと問題があるけど妹ってカワイイなあ、としんみり思っている椿を知ってか知らずか。
「それに、女の人とするぐらいだったら男の人にされたほうがいいって気付いたんです」
「そうだ・・・・・・・ええ!?」
「だって、一条さんが一番なら女の人の中での一番はたとえ妹でも私ですもんvvv
「・・そんな、もんなんだろうか・・・・」
「そんなもんですvvv
いまいち判らないがみのりがいいのならそれでいいだろう。
今回は自分も楽しませてもらったし。
「あ〜あ、でも、妹ってつまんないですよねぇ・・・。弟に生まれたかったなぁ・・・そしたら・・・・」
みのりが何を言うつもりなのか、その先は耳が拒否したのであえて聞かなかったフリをする。
それに一条は弟だったら容赦しないんじゃ・・・と言おうとしたが、その場合みのりも容赦がなかったんでは、と気付き口を噤んだ。
だって、怖すぎる。
「邪魔しかできないんだもん」
「・・・・あれはナイスタイミングだったね」
「やだ、見てたんですか?」
「いや、偶然ね」
「ふうん・・・・・」
あのタイミングで中断されるのは男にしかわからない苦しみだろう。
その分を今、取り戻しているに違いない。
できれば船を壊さないようにしてほしいなぁ・・・と、心の隅でチラっと考える。
「でも、本当に楽しかったです。椿さん、ありがとうございました」
「いや、楽しんでもらえてなによりだよ」
にっこり笑い合って。
「でもコレとそれでは話が別ですからね」
「は?」
「どこですか?」
「・・・・・・・・・・・・3箇所、かな」
「本当は?」
「・・・・・・・・・・」
椿は無言でみのりに向かって手を開いて見せた。
「あとでチェックしますからねvvv
「はい」
楽しい夏休みを過ごさせてくれた兄妹に感謝しつつも、この笑顔の可愛い女性にだけは逆らうのをよそう、と誓った椿で あった。



船の上で、一条と2人っきりになってしまった五代は固まっていた。
あれから、何とはなしに会話が途切れてしまって、沈黙があたりに漂う。
(どうしよう・・・・)
一条と2人っきりなのは確かに嬉しいのだけれど。
みのりが帰ってしまったのを何か嬉しがっているようでなにやら疚しいような、形容のできない思いが胸をいっぱいにして 五代は素直に一条に笑いかけられずにいた。
不意に。
後髪を掴まれて引かれて。
「ひあっ!?」
あまりにも突然のことに脚の踏ん張りも効かず後ろに倒れそうになったところを一条の力強い腕に抱きとめられて。
なにを、と問う間もなく一条の唇が覆い被さってきた。
後ろに仰け反った体制なだけに今にも倒れそうで、その手を伸ばし一条にすがりついた。
髪を掴まれているせいでろくな抵抗も出来ず、一条のされるがままに荒々しい口付けを受け翻弄される。
段々息苦しくなっても掴まれた髪のせいで逃れることが適わず、空気を求めて大きく口を開けば更に覆われてその呼吸すらも吸い取られるかのような激しい接吻を落とされた。
五代の思考を乱す淫らな舌の動き。
震える舌を捕らえ絡み付いて擦り合わせ、敏感な上顎を舐め上げる。
五代の口の中で一条の舌が縦横無尽に動き回り嬲りつくす。
一条のその舌にふれられていない場所などはなく。
唇が戦慄き、重なりあったその僅かな隙間から飲み干せなかった唾液が銀糸となり首筋まで伝いおちるのを五代は肌で感じていた。
一条の背中にすがりついていた五代の手が力なく滑りおち、膝から崩れ落ちる瞬間、一条の手が五代の身体を支える。
くちゅ・・・・と濡れた音を立てて一条の舌が引き抜かれると、かすかに震えている五代の舌の間に唾液が糸を引く。
そんなにも濃厚な口付けを受けて、五代の身体の奥で燻っていた官能を一気に呼び起こした。
「五代・・・・」
ゆっくりと身体を引き起こされ、五代は力の入らない体を壁に押し付けられた。
一条が身体を密着させる。
両の掌を重ね、指を絡めさせ頭上で押さえ腕も重ねる。
胸には胸を、腹部を、そして股間を密着させて五代の脚の間に一条は自分の足を割りいれた。
「ふ・・・ん・・・・・」
「どうした? 五代」
煽るように股間を擦り合わせ、既に硬く勃っている自身を同じような状態になっている五代のモノに擦りつける。
腰の奥からあわ立つような感覚にクン・・・と顎を上げれば額をくっつけられその瞳を覗き込まれる。
鼻先をこすりあわせれば、ふれそうな位置にある唇がもどかくて五代がクン・・・と喉の奥でないた。
そんな五代の様子を見て一条が目を細める。
「ん・・・い・・・や・・・だぁ・・・・」
「何が?」
身体中の力が抜けてしまっている原因を知っていながら聞いてくる男を軽く睨む。
「そんな目で見られても可愛いだけだな」
小さく笑って腰をくねらせて、すっかり勃起しているソレを五代のと擦りあわせ欲望を煽る。
「言えよ。何がいやなんだ?」
尖らせた一条の舌先が噛み締められた五代の唇をゆるゆるなぞって。
その感触に耐えかねて緩んでしまった唇の中に侵入してきた舌は、噛み締められた五代の歯を一つ一つなぞるように丁寧に舐め上げていく。
やがて噛み締められていた歯が緩み五代の舌が一条の舌に誘われるように外へ誘導され空中で絡まりあう。
きゅっ、と可愛らしく震えるピンク色の舌を甘噛みして。
散々に嬲る。
「ふぁ・・あ・・・」
五代の微かな身体の震えを感じて一条は漸く舌を解放してやる。
「雄介・・・・」
「ひあぁ・・・・」
ビクン、と振るえる身体を押さえ、そのままゆっくりと顎のラインから耳元まで舐め上げて囁く。
「かわいい・・五代」
直に鼓膜に響く一条の官能的な声にボーっとして。
「なあ、俺のこと好き、か?」
今更なにを、と視線向けながら小さく頷く五代に重ねて一条が囁く。
「みのりさん、より?」
「・・・・え?」
「みのりさんより、俺の方が、いい?」
一条の言いたい事が判らず五代が怪訝な声を上げた。
そんな五代に笑いかける一条の笑顔は恐ろしいほど綺麗で。
「自分でもここまで酷い、とは思っていなかったんだがな」
「いちじょ・・・さ・・・・」
「雄介を・・・誰かとは分かち合うことができない・・・・」
五代を見下ろすその瞳の奥の激情。
「お前の両手は俺だけに向けられてるのだろう?」
「あ・・」
「その目は俺だけを見てるんだよな?」
「・・・ん・・・・・」
すがるような口調のくせに否定する事を許さない視線で五代を縛る。
「お前の中には俺しかいないんだろう?・・・・」
小さな耳の穴に舌を差し入れられ舐めまわされて、五代の膝が落ちた。
両手を一条が支えていなければ足元に崩れ落ちてしまっているにちがいない。
「も・・・や・・・だ・・!」
「答えろよ」
感じすぎてしまって舌が縺れるぐらいの状態だと知っているくせに、あえて言葉で欲しがる一条を見やる。
体に渦巻く快楽の奔流は瞳まで濡らしているらしく、五代の黒い瞳は濡れていた。
「わかっ・・・・てる、くせに・・・・」
「なにが?」
「俺・・・男、なのに・・・・・こんなにも・・・・ほしがってる・・のに・・・・・」
「ほしい?」
「みのり・・・や、桜子さん・・・とか・・・おやっさんだって・・・大切な人は・・・いっぱい、いるのに・・・・」
かすかに身体を震わせながら言葉をつづる五代を愛しげに見下ろして。
「こんなふうに・・・・いちじょ・・さんのことばかり・・・・考えてるし・・・・・」
言いよどむ五代を促すように耳を噛む。
「ほしいの、いちじょうさん・・だけだよぉ・・・・!!」
おずおずと自分から腰を擦りつけて、切ない声を上げる。
その媚態に今すぐにでも、とは思わずにいられないが今だ理性を手放さない五代をさらに追い詰めたい、と言う気持ちが湧き上がるのを押さえきれないから、一条は意地悪としか言い様のない言葉を五代に告げた。
「なら身をもって証明してくれないか?」
「・・・・え?」
「言葉だけじゃなく態度で示して欲しい」
「態度って・・・・」
「そうだな・・・・先に部屋に行って俺のことを待っていてくれないか?」
「さき、に?」
「ああ、服を脱いで、ベットの上に寝て」
一条の言いたい事を理解して五代の顔が真っ赤になった。
つまり、一条は。
「俺を待っていてほしい・・・意味はわかるよな?」
脚を開いて五代から受け入れてほしい、といっているのだ。
自分から一条を欲しがって、淫らに誘ってみせろと。
「まさか・・・俺に、そんなこと・・・しろって・・・」
「できないのか?」
「お、俺は・・・!」
「こんなにしているくせに・・したくないのか?」
不意に股間の昂ぶりを握られて身体が跳ねた。
「そうだな、・・・・・今から30秒だ。30秒たっても部屋にいなかったら・・・何をされても文句いうなよ?」
「30秒!?」
「そうだ。じゃ、今からだな」
一条がパッと手を話すと五代がその場に崩れ落ちた。
いままで一条に支えられて立っていられたような物なのだから急に離されたら蹲ってしまうのはわかりきっていたのに。
体中に渦巻く快感の奔流が五代の足から力を奪っているのだ。
「一条さん!!」
「五代、時間が勿体無いぞ?」
「一条さんてば!!」
「もうすぐ10秒だ。部屋に行かないのか?」
「だって・・・!!」
「別に今すぐココでしたっていいんだぞ? さっきのオイルで奥がまだ濡れているだろう」
一条の嬲る言葉に自ら潤うはずのない身体の奥が、ジュン・・・と音を立てて濡れたような気がして顔が赤くなる。
「して欲しいのか? ・・・・・・ここで」
からかうような言葉に下唇を噛んで睨めば面白そうな顔をして側にしゃがみ込んできた。
「15秒」
こんな通路で抱くようなこと・・・なんて思うものの、今の一条の勢いだったら本当にしそうだから五代は何とか下腹に力を入れて立ちがろうとした。
「ひうっ・・・」
動いた途端、股間や、敏感になった胸の突起に布が擦れて甘い痺れが身体を走る。
慌てて手すりに掴まって倒れそうになるのを踏ん張った。
部屋に行く一番の近道は一条の横の扉を通ることなのだが、この様子では多分通してくれないだろう。
そうすると、グルリとまわって反対側の扉から入らねばならない。
しかたなしにデッキに向かって歩き出したが、こんなにも、と思うほど全身が敏感になっていて軽い布の擦れ一つに甘い痺れが走って息が詰まる。
「あと10秒」
後を振り向かずに懸命に歩く。
「んっ・・・・・」
肌に布が擦れる感触が辛い。
あと、2〜3歩でデッキだと思った途端、安心したせいか不意に膝から力が抜けてしまった。
倒れそうになった瞬間。
力強い腕に抱きとめられて。
「大丈夫か?」
「いち・・・じょさ、ん」
「時間だ」
そのまま唇を塞がれた。



それからどうなったのか。
結局、ヨットはそこに留まったままで。



一条が陸上に戻ったのはそれから4日後のことでした。
その表情からは大変有意義な夏休みであったことは、聞かなくても十分わかってしまった杉田達だったりするが。
けっして誰も『どんな夏休みを過ごしてきたの』と聞くものはいなかったらしい。

なお五代がポレポレに復活したのは、もう一日あとのことでした。





一度は屋根裏に行ったんですが、7が表でも大丈夫な内容だったので、
合わせて表バージョンを作りました。
さらに『必殺! 3行開け』を駆使して、表でも完結するようにラストまで繋げました。
でもおいしいところは全部屋根裏部屋にあるので、読みたい方はそちらへ来てね☆
ひかる

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