愛のばかやろう  《3》






「・・・・それにしても、一条さんのイメージがちょっと変わっちゃいました」
「んー?」
チャンポンになってから何杯目の酒だろうか。
ほんのり顔を赤くした五代が両手で持ったグラスに口を付けながら笑う。
「普通、いませんよ」
「そうか?」
「だってぇ・・・・、冷蔵庫開けたら米と味噌ですよ?」
「・・・・・・」
黙ってしまった一条を、五代は面白そうに眺める。


氷を出そうと思って、何気なく冷蔵庫の方を開けてみて五代は目を見張ってしまった。
冷蔵庫の中に、袋に入ったままの米と味噌のパックが鎮座ましましていたのだから。
(なんか、一条さんて・・・・・ワイルド?)
酒も、ロックでガンガン、なんて聞いてしまって慌てて近所のコンビニに走った五代だったりする。
「すきっ腹に酒なんて身体に悪すぎます!!」
「・・・・・豆腐ならあるぞ?」
といって、冷蔵庫の下の引き出しから、一条が取り出したその豆腐は・・・・・・・。
「賞味期限過ぎてるじゃないですか!!」
「別に平気だろ?」
「なっ!!」
「賞味期限ていうのは美味しく喰える期間のことだし、これ、喰えないわけじゃないだろう」
と、ケロリとしている一条の手から豆腐を奪い、ちょっともったいないけど捨ててください、といってごみ箱に捨ててしまう。
―――――― だって、少し膨らんでるんだよ!パックが!!
全然、一条は気にしていないようだったがそういうことは拘る五代だから気になってしまって。
冷蔵庫の中を綺麗にするとコンビニで買ってきた材料でありあわせの料理を作り並べたのだった。


二人は酒を飲みながらいろんな話をした。
未確認の話題には触れずに、五代は冒険の話を、一条は学生時代の話を。
趣味や恋愛の話まで。
一条も、五代も自分の知らない頃の相手を知りたがって、たくさん話をした。
酒が進み、つまみがなくなって、それでも話を中断して買いに行くには時間が勿体無いような気がして。
酒だけになりながらも二人は話を続けていた。


(こんなに綺麗な顔してるのにな・・・・)
もしかしたら、一条に対するイメージを改めなきゃいけないかな、いろんな話を聞いているうちに五代はそう考える。
どうやら、ワイルドというよりは大雑把?よくいえば男らしい性格らしい・・・・でも、そんな所もカッコいいよな、なんて考える 自分はおかしいのだろうか。
最初に会ったときはその端整な顔を綺麗だと思ったけれど。
サングラスを外したときに現れた強い光を湛えた瞳に目を見張った。
意思の強さを表したその瞳につい見惚れてしまう。
(俺って・・・・綺麗なモノ好きだしな)
なんて事をウダウダと考えていたら、カラン・・・・と氷の音がしてグラスが空になった。
口当たりがいいせいか酒が抵抗なく入ってしまう。
「・・・・この、日本酒、おいしいですねぇ・・・・」
ちょっと舌が回らなくなっている五代だ。
「とっておきだからな」
「・・・・・いいんですか?」
そんなにいい酒を、俺とこんな風に飲んでしまって、と。
酒のことは判らないがきっと高い酒に違いないし、下手したら"限定品"ものだったりしたらどうしようなんて思って。
だが、一条は。
「酒は楽しく飲むものだろう?」
と言ってくれて。
「俺は五代とこうして飲んで、楽しい時間を過ごしてるのだからかまわんさ」
それとも、五代は楽しくないか?と問われてブンブンと頭を振ってしまった。
「俺も、楽しいです!」
「じゃあ、遠慮せずにもっと飲めよ」
と、空いたグラスに新しい酒を注がれてしまた。
ウイスキーに始まり、ワイン、焼酎、日本酒ときて、酒は強いほうじゃないかなんて五代は自分のことを思っていたが、すっ かり気持ちの良くなっている自分がいる。
顔が熱いからきっと赤くなっているだろう。
なのに、目の前の一条は普段と全然変わらず黙々と酒を飲んでいる。
(・・・・・うわばみ・・・っていうより、ザルだ、この人・・・・・)
視線を感じたのか一条が五代を見て笑った。
「辛いなら横になってもいいぞ?」
「辛くなんかありません」
と即答するが、横にはなりたいとは思っていたので。
「でも、へへ・・・・いいですか?」
「ああ」
「じゃ、あ・・・・」
ちょっとだけ、なんていって横たわる。
楽な体勢になって、すっかりくつろいでしまう。
心臓がバクバクいってるのが自分でもわかった。
体が熱いし、呼吸も浅く早くなっているようだ。
(ここんとこ、こんなに酔った事なかったのにな・・・・)
「ん・・・・・・」
溜息をついて、髪をかきあげる。
(なんか、一条さん、と一緒だと、安心しちゃうのかなぁ・・・・・)
と、心地良い酔いに浸っていたりした。



だがしかし、実は一番安心しちゃいけない男と一緒にいるのに気付いていない五代だった。
自分のその姿が、一条の目にどんな風に美味しく映ってるかなんてまったく判っていないから。
もう、一条から見れば、好きにして、状態の五代だったりする。
すっかり気持ち良くなった五代は絨毯に身体を投げ出してくつろいでいる。
そんな五代を見ながら、一条は
(・・・・・食べ頃・・・・・・)
などと、不埒なことを考えていたりした。
濡れてしまった洋服の変わりに、自分のTシャツとスゥエットを貸したまでは良かったが、やっぱり一回りほど大きかったよ うだ。
キュッ・・・と絞られた細いウエストも、広い襟ぐりから覗く鎖骨も、一寸酒で潤んだ瞳も、しどけなく投げ出された身体が、全 てが一条を煽って。
もう好きにしちゃって?と誘われているように思えて仕方なくって。
顔にはでなくっても、やっぱり酒に酔っていた一条の理性など無いに等しく。


それでも、最初は我慢しようとは思っていたのだけど。


五代の話を聞いているうちに、不意に浮かんだある映像。
固い殻に閉ざされて眠る五代の姿を見たような気がした。
だれにも侵されることもなく、真っ白なままで眠りつづける五代の姿を。
誰の物でもないからこそ、誰にでも平等にできて、誰にでも優しくって。
綺麗なところも汚いところも知っていながらなお染められることもなく。
固い殻に護られて眠る五代。


まだ、誰の物にもなっていないなら自分だけの物に。
誰の色にも染まっていないなら自分の色に。
真っ白な雪をみると真っ先に足跡をつけたくなるように。
五代の自分の跡を残したいと思った。
ほかのどんな女性にも感じたことのなかった感情。


自分の色に染めたい。


強烈に、そんな欲求がこみ上げてきて笑ってしまった。
学生の時に習った光源氏の気持ちがちょっとわかったような気がしたなんて。

こんなにも五代という存在に餓えている自分に気付く。
こんなにも誰かを欲しい、と思ったことは今までなかったから、ちょっと新鮮な感動もあったりしたが。


そして一条は決めたのだ。
欲しいなら、手に入れる。
目の前にあるのだから我慢なんてしない。
だって、自分達には時間がない。
自分達は明日を保証されているわけではないから。
悔いを残さないように、

思い立ったら、即実行は一条のもっとも得意とするところであったから。


ふいに髪を優しく梳かれて目を開いた。
「・・・大丈夫か?」
低く、優しい声が耳に届き五代はその心地よさに笑った。
一条の顔を近くに見て、やっぱり綺麗な顔だなとシミジミ思った。
五代の好きな一条の瞳に浮かぶ光がはじめて見るような種類のものだという事に、アレ、と思った。
だから、一条の顔が接近してきても、
(やっぱり、こんだけ綺麗だとすんごいアップに耐えられるもんなんだな・・・・)
などと人事のように考えていたから、唇がふさがれたときにも何がなんだか最初はわからなかった。
が、唇にピッタリと覆い被さる暖かく柔らかなモノに驚いて
(え?)
と声を出そうと唇を開いても声はでなかった。
変わりに熱い弾力のあるものが口に中に侵入してきて。
「んんっ!」
舌を吸い上げられて、はじめて自分が何をされているかわかった。
(え?なんで?!なに?!)
慌てて抵抗しようとしても、上から圧し掛かられてしまって動けなくってしまった。
口の中を舌で縦横無尽に蹂躪される。
息すらも吸い上げられて頭が朦朧としてきた。
それでも、なんとか抵抗しようとしたのだけれど、何分酒に酔った身体が思うように動かずにいる。
「んっ・・・ふぅ・・・・・・ん・・・・ぁん」
角度を変えられながら、より深く交わって、頭が朦朧としてくる頃には完全に上に覆い被さられてしまっていた。
開いた足の間に一条の身体が入りこんで。
「!」
密着した腰が一条の男を感じさせる。
「んんっ!」
なすり付けられるように、密着した腰を動かされて、自分が一条の欲望の対象になっているのだと感じさせられて。
でも、逃げ場もなく。
ただ、一条のされるがままになって。

「・・・な・・・・」
漸く唇が開放されて大きく息をついた。
いままで重なっていた唇がジンジンとしている。
「おまえを」
「え?」
「全部、みせて?」


一条の甘く低い声で囁かれる。
「・・・なにもかも」


俺の身体の下で悦ぶ顔を。
快楽に喘ぐ様を。


とても、同じ男に言うセリフではないのに
それでも、それをどこか心地よく感じる自分がいた。





ははははははは。いいとこで。続いちゃった。
BY  樹

下のNEXTで行けるのは表バージョン、本当の続きは屋根裏部屋にあります。
行き方は  秘密の愛の部屋への入り口を、見てね☆
ひかる

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