愛のばかやろう 表バージョン《4》






他人と肌を合わせたのは初めてではないけれど。
こんなにも熱く感じたことはない、と思っていた。
ましてや、自分が愛されるほうに回るなんて考えた事もなかった。
そういった行為に興味が丸っきり無い、なんてことはなかったけれど。
同性にされるなんて。
他の人間だったら絶対いやだったろうけど、他の誰でもない、あの一条に、だから。
ほんの少し、本当にほんの少しだけ、興味があったりはした。


キスは、すきだ、と思った。
舌が絡み合ってるうちに自分の舌と彼の舌がまるで溶け合ってしまったかのように一つになったような気がした。
覆い被さられて、深く口の中を愛される。
互いに口を大きく開いて、角度を何度も変えながら深く重ねて、舌で弄りあって。
荒くなる息に、あの一条が自分との行為に夢中になって興奮している
そう思うと五代自身も、ふつふつと湧き上がる興奮を押さえきれずにそのキスに溺れてしまって。
何時の間にか相手の首に両手をまわして、きつく抱きしめあっていた。
「ふ・・・・ぅ・・・ん・・・・ぁっ」
唇が離れてもジンジンしていて、離れたことが一瞬わからないぐらいだった。
本当に気持ち良かったから。
五代はそこまでで満足していた。
「五代・・・・・」
顔じゅうに軽いキスの雨を降らされて、その優しい感触が嬉しくって自分からその唇を強請った。
「積極的だな・・・・・」
笑いが篭る嬉しそうな声に
「だって、気持ちがいい・・・・」
とは返事をしたけれど。
そりゃあ、確かに言ったけれど!!
それは、あくまでキスまでのことだった!!
五代が望んだのは
キスまでだったのに!!



「ちょ、ちょっと、まった!!」
あらぬところに伸びてきた不埒な手を懸命に押さえる。
「・・・・・・・なんだ」
自分の行為を遮られて、ムッとした一条の声に焦る。
「な、何をしてるんですか!!?」
「なにって、ナニを・・・・・」
「わああああ!! いいですぅ! 聞きたくありません!!」
「五代・・・・・・」
「やめましょ! ね?! キスだけで十分です! 俺、もうウットリしちゃいました!」
「五代」
「さささささ、酒! 飲みましょ! ね!?」
焦る五代をみて、一条が、フッ・・・・・と笑った。
「それは無理だろう、五代」
「ななな、なんでですか?」
真っ赤になって度盛る五代に対して一条は全然余裕ブチかましの状態だ。
何とか逃げようとする五代を着実に押さえ込みはじめている。
そしてとどめとばかりに
「ほら、五代」
「!!」
五代の手を取って己の股間に導いた。
「こんなになってるんだ、もう止まらんよ」
「な、な、」
もう、すっかり準備万端な一条のソレ。
「それに」
「え?」
「よく言うだろう? 赤信号、車は急に止まれないってね」
(ちーがーうー・・・・・・)
思わず泣いてしまった五代だった。


一条は、しいていうなら大型ダンプみたいな物で。
所詮、自転車な五代に止める事はできなかったのである。



それからの記憶は雄介にとって夢の中の出来事のようだった。
居間で激しく愛をかわした後、風呂場に連れ込まれ身体中を綺麗にされながら愛された。
それまでの激しい交わりが嘘のようにしっとりと優しく愛されのた。
それだけで雄介には十分だったのに、寝室でも翻弄された。
ただし、今度は雄介の官能を引きずりだすような愛だった。
全身をくまなく愛撫され、開発されたように思う。
雄介の身体の中で一条の知らない場所はもうなくなってしまったと思うほどに愛された。
なにもしらなかった自分の身体は全て一条によって変えられてしまた。
もう、一条以外に自分の身体に触れられる人間を考えられなくなるぐらいに。
いまだに疼く下半身を持て余しながら雄介は一条の腕の中で呟いた。
「・・・どうし、よう」
「なにが?」
「・・・・・・も、ダメかも」
「?」
真っ赤になって呟いている雄介を一条は覗きこんだ。
「も、他の人と、できないかも・・・・」
雄介の呟きに一瞬真顔になった一条はやがてゆっくりと微笑んだ。
「させるつもりはないんだが・・・・・」
「・・・一生ですか?」
「当然だろ? 俺のだからな・・・・雄介は」
「・・・いちじょ・・・さんてば」
「誰にも、触らせないからな・・・・・」
「・・・・」
「誰にもやらない・・・・」
大人だと思っていた一条の子供のような独占欲。
その激情を一心に受けて、嬉しいと思う自分は馬鹿だ・・・と思うけれど。
こんな自分を独占して喜ぶなんて一条さんはどうかしてるんだから、と呟いてみる。
「・・・・・一条さんの馬鹿・・・・」
だけど、そんな雄介の甘い呟きに、一条は嬉しそうに笑っているだけだった。





後日談

「よう、五代」
関東医大の廊下で椿に声をかけられて雄介は振り返った。
「これ、一条に渡しといてくれるか?」
差し出されたのは黒いパスケース。
「・・・一条さん、こんなの持ってましたっけ?」
不思議そうな五代に椿はニヤリと笑って答えた。
「中見ればわかるさ」
「中?」
言われるままにペラッと中を開いて・・・・・・・・・真っ赤になった。
「なっ、なっ!」
そこに挟まれた写真は確かに雄介だったけれど。
(一体何時の間に!!!)
言葉もでない雄介にさらに椿は追い討ちをかけた。
「いやあ、あいつな。さり気なく落として歩いてるみたいだぞ?」
「ええ!?」
「自分のって、言いたいんじゃないの?」
「・・・・・!!」
「ま、俺には堂々見せにきたけど」
「!!」
「いわく『俺んだから』だってよ」
「・・・・・一条さんのバカー!!!!!!」




『愛のばかやろう』 表バージョンです。 本当はあんなことやそんなことをしっかり書いた《4》と《5》があるんですが、 当然表には置けませんので、途中を大幅カットして表にも載せました。
完全版は『屋根裏部屋』+αにおいてありますので、詳しくは 『 secret of my love』へ。
        from ひかる


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