愛のばかやろう  《2》






「一条さん! 車が濡れちゃいますって!!」
「馬鹿な事いうな! 車を気にしている場合か!!」
一条はそう怒鳴ると全身ずぶぬれの五代を車に押し込んだ。
反対に回って運転席に乗り込む一条も負けず劣らず濡れていたけれど。



未確認との戦闘の後、川で溺れる子供を見つけて真っ先に飛びこんだのは五代のほうだった。
が、激しく体力を疲労していて溺れそうになったのも五代のほうで。
結局一条も川に飛び込むことになったのだった。
「まったく、考えて飛び込まないか!!」
「だって、ほっとけないですよ・・・・」
「かといって自分が沈んだらなんにもならんだろうが!!」
まったくもってそのとおり、と五代は心の中で呟いた。
一条のマンションに連れてこられて五代は湯を張った風呂場に押し込まれた。
「温まるまで出てくるなよ!!」
「はぁ〜い・・・・」
ドアの外で怒鳴る一条に返事を返し五代は濡れた服を脱ぎはじめた。
濡れてる服は脱ぎにくく四苦八苦して脱ぐと風呂の扉を開けた。
マンションにしては珍しく風呂が広い。軽くシャワーを浴びると湯につかった。
温まるまで出てくるなと言われたけれど、一条も濡れているし早めに出ようなんて考えていたのだが、
「入るぞ」
という言葉とともに風呂の扉が開けられて五代は固まってしまった。
「な、な、な」
思いがけない展開にうろたえてしまって言葉が出ない。
そんな五代に気付かずに一条は頭からシャワーを浴びながら話し出した。
「まったく、もっと状況を考えて行動しないといつか危険な目に合うぞ?」
一方、五代は初めて見る一条の裸にすっかり固まっていたりする。
しかも、湯につかるために座っている五代の視線は、シャワーを浴びるために立っている一条の丁度、ソノ場所に当たってしまって、すっかり釘付けになっていたりする。
年齢は違わないのに、確かに自分の持っているソレと一条のソレは違うような気がする。
大きさとか、色とか、形とか?
(うわあああああああ!!!!)
「・・・・・・・なんだ?」
いくら喋っても返ってこない返事に不思議に思い一条は五代の方を見た。
真っ赤な顔をした五代の視線は一条のソコに固定されていて。
「あー・・・・・、五代」
「・・・・・」
「五代?」
「は、はい!!」
「そこは、そんなに見る場所ではないと思うが・・・・・」
一条に言われて五代は自分が何処を凝視していたかに気付いた。
「あ! や、す、すいません!!」
バッと全身ごとからだを背けた五代の真っ赤になった項をみて一条は首を傾げた。
「なにを照れてるんだ?」
「・・・・・・・だってぇ〜、俺、他の人と一緒の風呂って初めてなんですぅ・・・・」
「はあ?」
五代の消え入りそうな声に一条が思わず聞き返した。
「初めてって・・・・・」
「だって、海外じゃそんな事ないし、確かに裸で水浴びぐらいしたことありますけどこんな密室だと、また話は別ですよう」
言われて納得する。
小さい頃に父親を亡くしたのは二人とも一緒だったが、五代と一条は確かに違った環境が育った。
一条は高校の寮に入っていた事もあったし、警察学校時代の経験もあるから他人と一緒の風呂なんて全然平気だったし、なんの抵抗もないが、海外生活の長かった五代は確かに違うだろう。
外人が銭湯に入れないというのと同じ理由だろうが。
それにしても、その反応が同じ男とは思えない程可愛すぎて。
「プッ・・・・」
思わず笑いが漏れてしまった。
「ああ、笑いましたね!!」
「いや、すまん、可愛いところがあるなと思って」
真っ赤になって言い募る五代を見ると笑いが止まらなくなる。
「別に同じ男なんだから照れる事はないだろう」
「う、そりゃそうなんですけど・・・・急なんですもん」
「悪かったよ」
多少顔が赤いものの、ナントカ落ち着いたようで、一条が身体を洗う頃には五代もすっかりくつろいだようだった。
今も、浴槽のふちに手をかけ一条の身体をマジマジと見つめていたりする。
「一条さんていい身体してますよね・・・・・」
「は?」
五代の呟きに、思わず一条が聞き返した。
「だって、腕だってそんなに太くって・・・逞しいし、いいなぁ」
本当に羨ましそうな視線に苦笑する。
「俺は戦うために鍛えてあるからな・・・・五代と違って当然だ。五代は・・・・・本来なら闘う必要は無かったんだから」
「一条さん!」
「それに、お前は変身できるだろう? 俺はできないんだから鍛えて当然だ」
この話はここで終わり!といったように勢い良くシャワーを浴びて泡を流した。
「さ!交代だ」
五代と入れ代わり一条が浴槽につかる。
今度は、五代の身体を一条が眺める番だった。
改めて五代の体を見て、その細さに目を見張る。
しなやかな筋肉がついているせいが弱々しい感じはしないものの、ほっそり、というイメージがどうも抜けない。
それに、五代には男臭さがないようだ、と一条は思った。
中性的というか、色がないというか。
(そうだ、何色でもない、透明なんだ・・・・・)
誰にも染まっていない色。
ぼんやりそんな事を考えていた一条の目に、髪を洗おうとしてシャンプーに伸ばした腕の鮮やかなコントラストが飛び込んできた。
もともと色が白いのか、日焼けした肌の色が余計にその白さを際立たせている。
それに体毛も薄いのか、腕や足はとても成人男性とは思えない様だ(確かに自分も人のことは言えないが)。
体型だって身体が薄いせいもあるのだろうが、肩幅が在るせいか妙にウエストが凄く細く感じる。
「・・・・・五代」
「はい?」
頭を洗っている為、目を閉じたまま一条に返事を返す。
「今、ウエスト、どのくらいある?」
「・・・・・は?」
「腰周りか、何センチだ?」
「え〜と、確か、68センチだったかな」
思い出しながら呟いている五代の数字に更に自分の計算を加える。
ということは、それよりも細い事には違いないだろう。
今穿いているジーンズのウエストがぶかぶかな事ぐらいとっくに気付いている。
「細いな・・・・・」
「は?」
頭を流しているために聞き取りづらいのだろう、五代が聞き返してきた。
いや、と返事をしかけてドキリ・・・・とした。
シャワーに流されて、シャンプーの泡が全身を伝って流れていく。
首筋や、胸、引きしまった腹筋を通って股間の淡い翳りへと。
それを意識した途端、ざわりと一条の全身があわ立った。
それは身に覚えの在る感覚で、身体が、五代雄介という存在に反応し始めているのだ。
もちろん、性的な意味で、はっきり言えば欲情したのだ。
さわりたい、と身体が欲求しているのだと。
(なんだ?)
いままで、そういった相手に不自由したことはなかったし、自分からそう思ったこともなかった。
なのに、同じ性を持つ五代に触れたいと自分は間違い無く感じた。
なぜか?
・・・・・・・・・わからないのだったらとりあえず触ってみればいい。
そう考えて、一条は手を伸ばした。
一条 薫は、そういった点では己の欲求に物凄く素直で正直な男だった。



「わひゃ!!?」
突然、ウエストを掴まれて五代は声を上げた。
髪を流していて目を開けられないのだがこの風呂場には二人しかいないのだから、自分の腰をつかんでいる手は一条のものに間違いはないだろう。
だが、なんで、今!? よりにもよって、自分が一番無防備なときに!!
「68センチは嘘だろう」
「な、な、ちょっ・・・・・!」
自分の肌の上を滑る一条の手の感触に言葉がでない。
目が開けられないから余計に焦ってしまう。
「しかし、こんなに細いとは・・・・・」
一条の感心したような呟きも今は耳に入らない。
見かけより固い大きな手を感じて焦る。
目に見えないという事がこんなにも肌の感覚を鋭敏にするとは思っていなかったから慌てて振り払おうとしたのに。
「あっ!!」
腰骨を掴んだそのあたたかい手に、指に思わず全身が反応してしまった。
「一条さんてば!! くすぐったいって・・・!!」
「くすぐったがりだな」
「なに言って・・・・!」
手を外そうともがいても、シャンプーの泡で滑るし、目は開かないし、焦ってしまうしで上手くいかない。
「どれ」
「あっつ、ちょ、ちょっと、まってって、なに・・・・・・いち、じょ・・・・!!・・あっん!!」
するりと、下腹部を滑る手のひらにうろたえ、懸命に身体を捩って逃げようとしたのだか。
五代の股間に潜り込んできた手の平に、キュッ・・・と己自身を掴まれて思わず声を上げてしまった。
「や・・・・っだ!!」
自分の口から漏れてしまった、とんでもない声に顔が熱くなる。
足を閉じて体を倒し一条の手の動きを閉じ込めようとしたのに。
「こらこら」
とかナントカ言われて、もう片手で上半身を起されてしまう。
「やっ・・・!」
「大丈夫だから」
「んんっ!!」
「恐くないから」
「そん、なこと・・・・いって、るんじゃ・・・・・!」
上から注ぐシャワーと同じぐらい熱く感じる手。
やばい・・・・・・と熱くなっていく身体を感じて焦る。
嫌じゃない、なんて。
なんとか阻止しようと手を伸ばしてあたりを探り・・・・・・つかむことに成功した。
「なにすんですかっ!!」
「だっ!!」
ガコッ!!
と鈍い音がして・・・・・・どうやら手桶は一条の頭に命中したらしい。



漸く泡も全部流れ落ち、目もあいた五代が真っ赤になって一条をにらんでいた。
「な、な、な、なにをかんがえてんですか!!」
「なにも、桶で殴んなくったって」
「一条さん!!」
頭をさすりながら一条は考えた。
自分とおんなじモノを、しかも赤の他人のソレをにぎっても嫌ではなかった。
それどころか、その反応を楽しみ、もっと見たいと思った自分がいる。
「いや、つい、悪ふざけが過ぎたようだ。すまん、すまん」
サラリと謝られて、五代は怒るタイミングを逃がしたようだ。
「いやあ、五代のウエスト細いから」
「・・・・・・・」
「なんとなく」
表情を変えずに言い切る。
「ちょっと直に触りたくなってな」
「直にって・・・・・」
「いや、本当にすまん。つい、高校の時とか思い出して」
「高校?」
「よく、大きさの比べっことかしたりしなかったか?」
「しません!!」
「あ、そ」
だろうな、と思う。
一条だってそんな事をしたわけではない。
椿にしろ一条にしろ、自分に自信があったから客観的に同級生にすることを眺めていられたりもしたのだったし。
「しかし」
「はい」
「本当に細いな」
五代が真っ赤になった。
「・・・・喧嘩、売ってんですか?」
「は?・・・・あ! 違うよ?」
五代が何を言いたいのか判って笑ってしまった。
「俺が細いのはウエストって事。68センチなんてうそだろ? 推定・・・・・・63センチってとこかな?」
「うっ・・・・・!!」
近い数字を言われて一瞬黙る。
そんな五代に畳み掛けるように一条が言葉を続ける。
「五代のアレな、普通サイズだって」
「わーっ!!! 一条さんのバカー!!」
「ははははは」



あれから、五代をなんとか宥めてご機嫌をとった。
そして、ただ、それだけで帰せなくなったから、一緒に食事をしようと誘った。
最初はむくれていたけれど、一条に誘われて嬉しかったのだろう、五代は自分が作りますと言ってキッチンに入っていった。
「一条さんて、なんか食べたい物ありますか?」
「メシと味噌汁」
「・・・・・・・」
「どうした?」
「いや、一条さんて、和食が好きなんですか?」
「ああ」
五代が目をぱちぱちさせている。
「意外か?」
「はあ、だって、なんか朝はコーヒーにパンって感じがしたもんで・・・・」
「基本的には朝は、和食派なんだがな」
出来上がった食事を一緒に並べて、楽しい夕食をとった。
食事のあと、片付け終わって「そろそろ帰りますね」という五代を引き止めた。
とっておきの酒があるから一緒に飲もう、と。
「でも・・・・・」
「遅くなったら泊まっていけばいいさ」
「いいんですか!?」
「ああ」
たまには、酒を飲みながら、たまには未確認以外の話をしようと、一条は誘った。
五代が断らない事には自信があった。
自分が望むレベルでは無いが好かれている自信があったからだ。
風呂場での一件で、己の気持ちをはっきり自覚した。
五代 雄介という男が欲しい。
今まで感じたことのない欲求。男が好きという訳ではないけれど、五代という男が自分にとって特別な存在になっている、という事に気付いた今、ほかの人間に取られる前に一気に手に入れてしまおうと決めた。
それには今が絶好のチャンスで。
―――― この男の快楽に溺れる顔が見たい。
自分の手で喘ぎ、この身体の下で、快楽にのたうつしなやかな身体を楽しみたいのだと。
―――― これは、俺のもの、だ。
腹の底から吹き上げるような欲求。
自分達にはゆっくりしている時間がないし、なによりこんなチャンスはもう二度と無いかも知れないから。
「嬉しいな、こんな風に一条さんと飲めるなんて」
と、可愛らしい事をいう五代に取っておきの笑顔を向ける。
「俺もだよ」


だから、他人の物にならならいうちに、俺のものにしてしまおう。






はい、またしてもいいところで、切ってみました。
続きは裏で。             by樹

いや、次まではなんとか表です。
ひかる

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