3話/THE DAY それぞれの夜 (A reversibletable)

                                                                                    
文作:みさ
 理沙姉は、「短大のミスコン以来ね」と言って賛成した。

 美雪ちゃんは、「ヒロインですぅ。エンゲージですぅ、絶対運命黙示録ですぅ、ク○アバイブルには、ゴーレムを人に換える方法は載ってなかったですぅ、にゃっふん」といって、賛成したことにされた。

 お姉ちゃんは、みんなが反対しないならそれで良いと言った。




 かくして、数日後、その乗るかそるかの勝負をかけたシュートは放たれる事となった。




 さてさて、いよいよ目麗しき美少女達の競演の幕が上がったと申すもの。諸兄におかれましては、如何なものでありましょうか?おや、幕間には、淑女の方々もいらっしゃる。いはやは。これはこれは。

 淑女たるもの、熱い火遊びは程々になさるのがよろしかろうかと。いやいや、これは年寄りの冷や水でありましょうか?
近頃の娘様のお気持ちがとんと判りませぬ故、お気に触りましたら、ご容赦の程を。

 紳士におかれましては、既に、ご贔屓のお1人やお2人、お見繕いになられましたでしょうな?何?眼鏡に叶う娘が見当たらぬと。それはそれは。困りましたな。貴兄に、先に年老いたものとしてのご忠告を申し上げれば、貴方様がご満足するお相手は、もはや女神をおいてはございますまい。

 ただし、その前にご邸宅の鏡を確認するのがよろしいかと。はて、意味がわからぬと?結構。判らぬ方には、また別の道が開けると申すもの。その道が棘の道でない事を陰ながらお祈りもうしあげまするぞ。

 いやはや、些かおしゃべりが過ぎた様子ですな。それでは、わたくしめがお勧めするお二人に目を向ける事といたしましょうか。おやおや、二手に分かれてしまいましたな。そんなはずでは。

 止むを得ますまい。順を追って見遣るといたしましょうや。
今更申し上げる事とも思いませぬが、ここでの出来事は、くれぐれも御内密に。皆様方の為の神聖な取材でありますが、しばしば覗きと勘違いされますもので。警邏隊の目も最近は、厳しいと申すもの。
全くもって、嫌な世の中でございますな。

 ではでは、先ずは近くから参るといたしましょうか。






 ブフォ〜と、篭るような音が、さっきから耳元で鳴っている。
何時ものようにミチねーちゃんが、ボクの髪を梳かしてくれてる。

 初めてのきっかけは、今日みたいな、遅くなった日の事だった。いつだったかは覚えていない。
お姉ちゃんが、ゆりえさんのとこへ泊まると言ってボクと別れたのを見て、偶々同じ勤務日だった、ミチねーちゃんはボクを誘ってくれた。

 ミチねーは、東北の田舎(悪いけど、田舎は田舎だ。)から、一人上京して来ている。いつか聞かせてくれた話によると、誘ってくれた訳は、時に一人は寂しいものだからって事だ。

 ボクの着替えも、何着か置かせてもらっている。ミチねーちゃんが買ってくれたので、制服もある。なんと、通っている劇団から、研究費と言ってお金を出させて購入したらしい。本当の事は知らない。

 ボクは、その研究に付き合うという形で、その恩恵を授かっている。

 1セットだけ、下着も買ってもらった。ボクが普段着けてる実用的なサポートタイプじゃなくって、ミチねーちゃんが勝負用とか言ってるタイプのだ。それは、淡いピンク色でふりふりのレースが付いた、とても綺麗な刺繍の入ったやつだ。ガーターベルトっていうのもセットになっている。

 1度だけ、ここで、着け方を教えてもらって身に付けたことがある。でも、それ以来付けた事はない。姿見に映った自分を見て、かわいいとか美しいとか思う前に、ボクらしくないって思ったから。

 それよりも、ボクは、今、この身体から起ち篭る甘い香りの方が好きだ。
お泊り用にと、特別に置いてくれたボディーシャンプーのそれなのだが、湯上り後、この香りを嗅ぎながら、髪を梳かされてるこの瞬間は、心を蕩けさせてくれる。

 自分が、お姫様か何かにでもなったような気分だ。ボクがボクでないのに、不思議ととても心地いい。

 この状態から、ボクに返るには、ちょっとした儀式を必要とする。2人のルール。精一杯の感謝。今日もそろそろのはずだ。

「どうよ。いかっぺよ。こんなモンで。お互い、短いと後のケアも楽チン、快適。短くっても長っが〜い友と書いて髪とは、これ如何に。ってね」
 ポンポンっとボクの頭に手を置くと、ドライヤーとブラシをドレッサーの引き出しにしまい込みながら、ボクの大好きな人はそう声をかけてくる。

 ああ、いよいよ時が近い、ボクは心のスイッチを捻る。
(コンセントレーション イズ スターティッド)

 ヒロインは、所定の舞台である彼女のベットへと移動して腰をかけた。それに合わせて、身体の向きを換え、舞台への登場に備える。

「ネタ古すぎ。それに、好きでこんなにしてるわけじゃないからサ」

「おーおー、暫く観ないうちに色気づいたってか?え、少年。男児、三日会わずば刮目して見よってか?」
 ああ、今日は男優の日だ。よし、いこう。

(ボール ゴーズ アップ)

「男児って。オイ、ミチねー、怒るぞ」

「いやースマンスマン。ところで、どうかね。絵夢君。今晩あたり、ワシと付き合ってみんかね」

(今だ。ゲームスタート)

「社長、わたし、今日は彼氏と約束がありますから」

「そうかね。それじゃその前に、一本いっとく〜ぅ?」

「さぶぅ」 「ぎゃっはっはっはっ。上達したのう。お主。苦しゅうない。近こう寄れ」
 すらっとした手が、ボクの手首を掴み、躯を引き寄せようとする。

「お、お代官様、汚戯れを」 ボクは振りほどく。

「これ、よいと申すに」 主演男優は手を伸ばす。それを避してさっと立ち上がる。

「あ〜れ〜、お助けヲおおおおおっ!!」 大げさな手振りでバンサイし、その場でクルクル回る。

「あっはっはっはっ。いいねえ。いいよ。惜しいねぇ。バスケ辞めるってワケにゃーいかんよな。んーいかんいかん。いかんよ君。今、日本の構造改革は、待ったなしで推進しているところでごじゃりまして、国民の諸君!今こそ我ら1億数千万の生霊が御霊をもって起つべきでありますっ!」
 新たに舞台に登る三文役者は、拳を天空へ差し出す。

「今こそ英霊に続け!!エイエイオー!!!」 すぐさま後に続く。

「ひゃっひゃっひゃっ。ホントスゲーな。こんな球にまで喰いついてくっか。根性あるねえ」
 観客の感想が聞こえる。

「いや、ま、オラそれ程でも」

「おっけーオッケー。猫灰だらけ。ははは。いや〜今日も堪能させてもらったよ。余は満足じゃ」
 にまっとした笑顔が目に飛び込む。

(タイムインターバル。でもまだ気は抜けない。)

「ふ〜。今日は飛ばしたね。もう一杯一杯だよボク」

「いや〜十分十分。マジで、今から劇団来たって、ノリじゃ、通子サマの折り紙付きってもんだよ。スポ根少女じゃなきゃスカウトすんだけどヨ。で、どうよ。こういうのも楽しかっぺよ。え?」

「うん。まあまあかな」

「しっかし、今日はイイモン見たね。あの、ゆりえの顔。オメーにも見せたかったってもんだよ」
 楽屋談義を語るその顔が、ひどくご満悦の表情をしている。今日の第二幕はないようだ。

(ウォームダウン イズ キャリードアウト)

「ふーん。しおりんが初めに話出した時って、そんなにスゴかったんだ」

「もー能面ミテーなあの面がさ、ヒクヒクしてんのよ。眉なんかがさ」

「お姉ちゃんお世話になったりしてるし、あんま悪く言わないでよね」

「ん?悪く言ってるつもりは無いんだけどネ。まーあの娘サ、論理で物事を突き詰めるってのはいいと思うのよ。アタシも論理って大事だって思うしさ。ただサ、人ってヤツはさ、矛盾に満ち溢れてんのよ。実際のとこ。その辺を考慮しないで論理論理って言うのもさ。ま、何だなって思うワケよ。正直なトコはサ、持ってる力の副作用強すぎてバランス悪ぅ〜って、感じてるだけの話ヨ」

(ふうぅ、ゲームエンド。コンセントレーション イズ オープンド)

「ふーん……..いつも思うんだけどさ、ミチねーちゃんって女優目指してるだけあって、洞察力あるよね」
 ボクも、何ともいえない高揚を覚ましつつ、ベッドへ移動する。パステル調の若草色から成る、弾力のあるそれへと体重を預ける。

「オイ、誉めても、明日の朝は、味噌汁と納豆だかんな。ま、どーしてもって言うなら卵もつけちゃる」
 部屋の主は、明かりを消しながら言った。

「ううん。別にそんなつもりで言ったんじゃないけど」

「じゃ、姉ちゃんの事か。ヨイヨイ今日の余は、大変機嫌が良い。わらわのこの豊満なバストを貸して進ぜるから、何なりと打ち明けてみよ」
 え?瞬く間にボクの顔は、何かに押し付けられる。むにゅって言う音をどこか聞いた気がした。

「わっわわわあっぅ、ちょ、ちょっと、マジ当たってるって!」
 刹那に、頭の中が真っ白になる。何がなんだかワケがわかんない。

「良いのよ。貴方の為なら、私怖くないわ」
 頭にかかっている力が、ほんの少し強まる。

「わーーーーっ!!ミチねーーー!!今日はもう終わりって言ったよね。ダメ!!!勘弁して!」
 ジタバタするが、何も変わらない。

「じゃ、白状しろ」「わっわかったから、お願い、離して!!」「いってみ」

「さっきの笑ってた顔見てて、お姉ちゃんの笑ったトコ最近見たこと無いなって思っただけだって。言ったから、早く離して!!!」
 叫びと同時に、拘束は解除される。体中を血が駆け巡っている。

「ん。そっか」

「んもぅ。酷いよ。女同士だからって。抵抗あるんだから、今の反則だよ!」
 普段着状態で、全開モードのミチねーに不意をつかれて対応出来るはずもない。ボクは、ボクなんだから。さっきのは、間違いなく、本当の本気を出してる時のものだ。

「別に悪気でやったんじゃないから勘弁。その代わり今度姉ちゃんも連れてき。アタシが笑い倒してやっからさ」
フサァっと、布の擦れ合う音が掠める。

「え?ホント?」
 冷めやらぬ身体を、おずおずと、肌越しの感触のよいそれの中へ潜り込ませつつ、思わず聞き返す。

「もっちろん。ま、オメーの姉ちゃんは、あーゆー性格だから、役のテンション維持するにはちょっっぴし大変だけどサ、その分は、オメーから吸収してっから大丈夫。いつでもいいよ」

「そっか。ミチねーちゃん。ありがと」
 月の明かりが照らすその光にボクは慰められる想いがした。






 その日、ボクは、なぜか寝付くのがとても遅かった。

(4話へ続く)

初稿:2001年10月19日