木星奪還部隊ガイアフォース

地球連邦軍・その組織構造と問題点


4.対ジュピトリウス戦略に見る連邦軍の構造上の問題点

 

 まずイオブレイク以来のジュピトリウス帝国の戦略を分析する。基本戦略としては、木星には十分な資源があり、それを目当てとする反連邦派との連携による、現政権転覆こそ狙いであると考えられる。そもそもジュピトリウス帝国による地球圏統治といっても、連邦軍が盛んに喧伝しているような占領統治は不可能だからである。

 初戦、ジュピトリウス帝国はゲリラ戦術に徹底している。国力、戦力に彼我の差があるためである。通常こうした場合、小勢力側は戦争が長期化し、敵国に厭戦感が蔓延するのを見計らう戦略をとる。しかし今回、ジュピトリウス帝国はきわめて積極的に戦闘を展開し、連邦の木星への侵攻をくじいている。これは速戦即決を狙っているかのようである。

 資源には問題が無いものの、国力の差は明らかであり、ジュピトリウス帝国が技術力の優位のみで戦端を開くことは無いはずである。ここに彼らをして勝利を確信させているものは何であるかを、連邦軍の戦力から分析する。

 まず地球連邦軍の宇宙戦力は小規模分散体質である。これはかつての旧軍対立から尾を引いている軍閥同士の確執から生じていると見られる。またそれぞれの派閥内でも共同体化が著しく、軍機能の集中を損なっている。各方面軍同士、基地司令部同士は協調を欠き、地球圏統合本部も全体的な戦略を立てられないでいるのが現状のようだ。またこれは政治的判断を行う評議会が実戦行動に干渉し過ぎているという側面もある。先ごろの火星域セントヘレンズ基地のガイアフォースチーム縮小指示も、基地軍政への評議会の過干渉ではと問題視されている。

 次に、宇宙はTDUの開発により時間的には狭くなったものの、空間的には戦力配置するには広すぎるという面がある。こう言った分散配置戦力は各個撃破の対象でしかなく、主導権を失い守勢に回った際は、広大な宇宙空間に対して絶対的に数が不足していると言える。すなわちすべての宙域が前線となりえるのである。地球域で訓練機がジュピトリウス帝国軍と接触する事態も当然起こりうる状況であった。

 以上のような状況判断から、ジュピトリウス帝国軍の戦略構想が成り立っていると見られる。彼らは連係を欠く連邦各方面軍の戦力を各個撃破、連邦政府の動揺をさそい、兵力集中が行われる前に反連邦分子と呼応し、政府の転覆を謀るという短期決戦がその狙いであると思われる。

 これに対し連邦軍がとるべき最善策は、全軍をもって速やかに木星域を包囲、拠点を制圧することである。これにより戦闘の主導権さえ奪回すれば、ゲリラ戦術さえ効果が薄れる。あとは敵の兵力切れを待てば良いのである。しかしこの戦略がとれなかったのは、先に述べた理由による。このような速やかな治安維持行動がとれなかったために戦乱が拡大し、一般民間人にその厄災が及ぶことこそ憂慮すべきである。

 そんな状況の中で、軍内に絶大な発言権と影響力を持つ評議会と技術局はあろうことか作戦行動に介入、評議会は国民の手前、軍備縮小、精鋭化を標榜し、技術局は新技術による決戦兵器という発想にとらわれ、実際にはコスト高を引き起こすというミスを犯した。また同時にベテラン兵を温存、募兵を行い、新兵にその最新兵器を任せるという、双方の利点さえ相殺するような愚策を演じている。

 そもそも新兵に一年(千時間以上)の訓練を必要とするような特殊な兵器では、人材育成が追いつかず、量産は不可能であり、戦力たりえない。賭けに等しい愚挙といえよう。シグマプロジェクトなる計画が推進されていると聞くが、明らかに技術局もしくは評議会から、何らかの圧力がかかった結果と見るのが自然であろう。政財界の軍部への秋波とも無縁ではあるまい。連邦技術士官に尊大な態度の者が多いとの風聞もある。しかし技術力によって勝利し得た戦争などは歴史上存在しない。

 結論として、以下のことが言える。地球連邦軍首脳陣はジュピトリウス帝国の戦力が微小であったため緊張感を欠いた対応、すなわち戦力の逐次導入と言う戦略的にもっとも忌避すべき選択をしてしまった。それが一部の、軍を私せんとする輩の利己心からであるとすれば救いようがなかろう。彼らは一団体のテロリズムを全面戦争にまで拡大してしまったのである。

 とにかく、このような問題点を抱えている連邦軍なればこそ、ジュピトリウス帝国の宣戦布告という事態は、決して無謀と言うわけではないようだ。


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