木星奪還部隊ガイアフォース

地球連邦軍・その組織構造と問題点


3.地球連邦軍弱体化の経緯

 

 宇宙進出当時、地球連邦軍はその能力をいかんなく発揮した。社会機能、民間の力が届かない宇宙という極限世界では、軍隊の自己完結性が極めて有効に機能したからである。また花形として脚光を浴びた宇宙科学技術産業も、軍事技術から転用されたものが多かった。結果、人類の活動の場が宇宙に移るまでの過渡期において、地球連邦軍の影響力は政界、財界、官界すべてに対して絶大であった。

 一方で、軍事的脅威がなくなり、次いでコロニーの港内警備隊が導入されると、軍事力としての軍の能力は縮小され、シビリアンコントロールの名のもとに、統帥権が地球連邦軍評議会なるものに移った。あまりに強大な権限を持つに至った地球連邦軍、とりわけ地球圏統合本部を抑制するためである。しかし実際は、軍に集中した利権を求める連邦の政治家が軍を抱き込んだのである。各界への影響力は影響力として、当時、地球連邦軍は多国籍軍の域を出ておらず、全体としてのまとまりを欠き、この評議会に対抗するだけの組織力を有していなかった。

 評議会は軍を縮小化する一方で、軍備費の配分権を使って軍内部に取り入り、軍事産業のみならず、地球連邦軍の影響力を利用、宇宙開発事業全般を手中にした。月面基地行政、コロニー管理機構、惑星移住統制、あらゆる分野に評議会の息がかかっていたといっていい。

 シビリアンコントロール本来の機能は、堕落した政治家とその関係の隠蔽活動に加担したマスコミによって失われてしまっていた(宇宙通信網に絡む疑獄事件は記憶に新しい)。これら政界、財界と一部軍閥の癒着により、地球連邦軍は退廃し、有事における治安維持機能を著しく損なっていった。なかでも軍上層部の軍令機能は旧軍の軍閥同士が利権を巡って対立し、マヒ状態にあるという。

 また軍組織の共同体化が進行し、人事の硬直化、派閥形成、情報秘匿が横行している。地球圏統合本部退役者の七割が政財界に進出し、あろうことかその一割は評議会議員なのである。軍出身の評議会議員がかつての部下を後任に引き抜くなどと言う荒業も一度や二度ではない。これがこの国のシビリアンコントロールの実態である。しかしこれも一度として報道されてはいない。驚くべきことに軍事費が国民総生産の1%以下に抑えられているという数字だけが大々的に報道され、評議会の支持率は常に高いのである。むしろ何故0%にならないのか、疑問に思うのは私だけであろうか。

 現状では、地球圏統合本部を含む軍上層部は、評議会のいいなりになるイエスマンで固められ、その大半は実戦経験がないという調査結果がある。方面軍団の指揮官同士がかろうじて調整をとっているだけで、各々連係作戦をとれる程度の協調性すらないといわれている。そもそもこの方面軍という呼称も、戦線という概念の無い宇宙戦においては、管轄を定めるものではない。また軍政権を持った方面軍というのも異常であろう。この実戦を意識しているとは到底思えない、きわめてあいまいな組織構成は、軍上層部の緊張感の欠如を表しているといえる。

 


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