ゴメスの操るジュウライオウが赤子の手をひねるがごとく、簡単に撃破され
る光景を目の当たりにしたヒンクリーとリドラーは、サイコバリアの想像を絶す
る威力に驚愕の色を隠せなかった。
「小隊長――、あ、あんな兵器をもったやつと、どう戦えば良いというんです
」
若いリドラーは、初陣にして敵の最終兵器に出くわして、困惑していた。
「隊長の死は無駄死にではない。データは記録された。連邦のサイコバリアも
すぐに陳腐化するのだ」
ヒンクリーは、自信に言い聞かせるように言った。
「我が帝国の技術力には自信があります。し、しかし。一機のRMであの威力
では、メルメソッドの包囲網も薄いと言わざるを得ないのでは」
「メルメソッドのアンチサイコバリア内では、連邦の兵器も無用の長物となる
。ゴメス隊長は特殊偵察部隊の使命を果たしたのだ」
隊長機を亡くしたリュウオウ2機は輸送艦に吸い込まれるように収容された
。
「2機のチャイニーズ、輸送艦に合流。完全に戦線を離脱します」
エンデバーのサム・カービンがレーダースクリーンを見ながら言った。
「まて!もう一機いるぞ」
叫んだのはゲイツだった。
「そんな、レーダーには何も……」
サムはレーダースクリーンに向かって言った。
「どこだゲイツ!」
ゲイツから一番離れた位置にいたヘミングウェイのメルトフが叫ぶと、パイ
ロットのレアニーは機体を旋回させた。
「ステルス機か」
ゲイツの後方に位置していたGB3のアルベルトは、目の前の計器を確認し
たが何の反応も現れてはいなかった。
「オレの目の前にある残骸の中に消えていった。真っ白なラウンドムーバーだ
」
ゲイツはGB5を、ライフルを構えたままの姿勢で不規則な進路で移動させ
つつ、巨大な宇宙船の残骸に近づいていった。
「罠かもしれん。全員一度帰艦しろ。こんなところにいるのは同胞でもなけれ
ば民間機でもない。海賊どもなら相手をしている暇はない」
ジェファソンは、万が一の事態を予測して帰艦命令を下した。
「でも隊長」
ゲイツが惜しそうに言った。
「戻れGB5」ブランドル・バーゴがリーダーらしく割り入った。「GB2の
機体ダメージが60%を越えている。余計な戦いは得策じゃない」
「了解したよ」
と、ゲイツが応えた瞬間に事態は発生した。
「な、残骸に熱核反応。爆発するぞ!さがれゲイツ!」
「ゲイツ、さがるんだ!」
「ゲイツ!」
「ゲーイツッ!!」
レーダーを見ていた、メルトフ、サム、トマトク、そしてジェファソンが一
斉に叫んだ。
大気があれば轟音がそれぞれの体を揺さぶったであろう巨大な爆発は、放射
線状に残骸を散弾のごとく打ち出した。
「なんだってんだ。ゲイツ!聞こえるかゲイツ」
アランは出力の落ちたGB2にぶつかってくる残骸を、起用に交わしながら
ゲイツの身を案じた。
「GB5反応なし。残りの機体は健在です」
エンデバーのサムは速報を投げた。
「罠なのか?ヘミングウェイ、敵機は補足できないの?」
ブランドルもGB1を高速後退させらがら臨戦態勢をとっていた。
「いない。敵なんていない。ゲイツも、ゲイツもいなくなっちまった」
メルトフは取り乱しているようだった。
「メルトフ、しっかりしろ。索敵をするんだ。――メルトフ!」
ヘミングウェイ後部座席のレアニーが叱咤した。
(なんということだ、ゲイツを失ったというのか)ジェファソンは、爆発の衝
撃よりも大きいなショックを受けていたが、ガイアフォースの隊長としてチーム
の動きを止めることを忘れはしなかった。「各機、エンデバー周辺に展開して進
路を確保。グレートバリアリーフに後退する。索敵用全センサー開放。GB2は
エンデバーに帰艦せよ」
「隊長!ゲイツは探さないのかよ」
アランが食ってかかるように言った。
「――いまの爆発では助かるまい。機体反応も消えた。我々がとらなければな
らないのは体制の建て直しだ」
ジェファソンは噛みしめるように言った。
「ずいぶん冷てぇじゃねぇか。おれたちは仲間だろ!」
アランは興奮ぎみに言い放った。
「アランやめろ。わかっているだろ。ゲイツはデクセラのところに行ったんだ
」
ブランドルは自分の機体をGB2に近付けながら言った。
「クッ、くそう、馬鹿野郎だぜあいつはよ。いつもオレを止めに入っていたの
に、どうして、オレを置いていっちまうんだよ」
アランはゲイツの死を認めていたからこそ、ジェファソンに食い下がったの
だ。
「アラン……GB2収容開始。レーザーセンサー同調――」
サムが静かに言った。
エンデバーの射出シリンダーに引き込まれていくGB2は、友との別れに打
ちひしがれているように見えた。
宇宙船の残骸は、爆発の威力により、粉々に散在するもの、溶けて巨大な固
まりとなったものと様々であったが、いづれにしても強力な爆弾によるものと知
ることが出来た。
エンデバーの作戦宙域から遠く飛ばされてた、そう大きくはない破片の一つ
は、爆発が起きたことを忘れたように静かな宇宙を漂っていた。
「――ど、どうなってる。」
ゲイツは真っ暗なコックピットの中で目を覚ました。意識は朦朧としていた
。
パイロットスーツの左手に付けられたミニライトを点けて、コクピット内を
照らしてみたが、状況が変わりそうな事実は見いだせなかった。
機体を動かそうとしたが、操縦桿を動かしても、GB5の関節はモーター音
さえも発することはなかった。
宇宙船の残骸と隕石にはさまれた格好になっていたGB5の機体は、既に腕
と脚部を失い、コクピットユニットの真下の下肢ジョイントまで溶けていたのだ
。上半身は偶然のように、隕石がちょうど爆発から機体を守るように覆い被さっ
ていたため、かろうじて形状を留めていた。頭部はつぶれていて、その機能を果
たせないことは一目でわかった。
「――動かないか。罰があたったかな」
ゲイツは、ジェニスを「棺桶」に乗せるために倉庫に入ったのということが
誤解されて、基地内でよからぬ噂をたてられてしまい、いろんな人に迷惑をかけ
てしまったことを、今更あらためて後悔してみた。
非常に寒気がしてきた。よく見ると、コンソールパネルには霜がかかってい
た。
ゲイツは生命維持装置も故障しているのだと気づかされた。
何も聞こえないコクピットの内部では急激に温度が下がっていた。「デクセ
ラ……君のところにいくのかな。――みんなは無事だったのかな。――こんなと
ころで死ぬなんて、一体、なんだったんだろうか」
漠然と独り言を口にした。
「大丈夫だ」
「!」
気のせいかと思った。
しかし、男の声は強く優しい響きをもって、ヘルメットの中に届いた。
「ゲイツ・バロン。君の命、私が拾わせてもらう」