木星奪還部隊ガイアフォース

第23話「めぐり逢う魂」

 地球連邦軍小型強襲挺エンデバーは、ジュピトリウス帝国の主力戦艦メルメ ソッド壊滅の任務を果たすため、一路、標準巡航速度で進行していた。
 対戦哨戒機でもあるヘミングウェイは、エンデバーから先行し索敵を行って いた。
 ヘミングウェイのデータは暗号通信で発信され、あたかもヘミングウェイと エンデバーを結ぶ線上に待機するケルベロスGB3は、索敵や通信機能を強化さ れた能力を生かして、その通信をエンデバーに中継する。
「メルメソッドとの想定距離、10000。対戦電磁兵器反応なし」
 エンデバーのブリッジに、ヘミングウェイのメルトフ・チェリノスキから定 時報告が上がってきた。
「この宙域は、メデューサの河から流れてきた宇宙船の残骸がある。チャイニ ーズが潜伏しているかもしれん。少したりともセンサーの変化を見逃すな」
 艦長席のジェファソン・デミトリーはいつものガナリ声を押さえて言った。
「隊長、ヘミングウェイの千里眼とメルトフさまの視力をもってすれば、アリ 一匹逃しはしませんよ」
「油断はなしだメルトフ。頼むよ、レアニー。お調子者のメルトフは君の冷静 な判断力があって、はじめて生かされるんだから」
 GB1でスタンバイしているブランドル・バーゴが諫めた。
「まかせて」
 レアニー・ナイマンは、自分の前に見えるメルトフのヘルメットを見て、軽 く笑いながら言った。
「言ってくれる」
 メルトフは舌打ちした。「大丈夫。ヘミングウェイが逃しても、GB3がし っかりキャッチしてあげますから」
 GB3のアルベルト・シュフォンが、鮮明な表示を誇るオプティクス社のセ ンサーディスプレイを見ながら、胸を張って言った。
「そのとおり。オレの操縦技術があれば、どんな敵も逃さないさ」
 GB3のトマトク・ウェインが自慢げに言った。
「おまえら、そういう無駄話ばかりしているから艦長が心配するんだ。もう少 し緊張感をもって作戦に臨め」
 ジェファソンは、彼らの実力を熟知してるから、信頼感の上に立って注意を 促した。
「心配ご無用だよ隊長。なんたって俺たちは、隊長の教え子なんだから」
 ゲイツが、自信満々に言った。
 そのとき、エンデバーの高感度センサーに変化が起きた。
「ナニッ!熱源急速接近、3分後に接触。ジュピトリウスの輸送艦と確認!」
 エンデバーのオペレーターとして搭乗した、サム・カービンが叫び、ジェフ ァソンの方に振り返った。
 サムの正面のモニターに、未確認移動物体接近の表示がなされた。
 表示されている光点は、エンデバーに向かって真っ直ぐに突進して来る。
「ケルベロス、ライジングソード緊急発進。輸送艦はRM搭載型だ。気合い入 れていけよ」
 ジェファソンが、機密服のヘルメットのバイザーを降ろしながら言った。
 ケルベロスのパイロットたちは、数秒前とは別人のような鋭い眼光を放ち、 エンデバーから転送される敵のデータを即座に理解するとともに、数個のスイッ チをオンにして、アイドリング状態であった機体を呼び覚ました。
 射出シリンダーに収まっているケルベロスの背中に搭載されたタキオンドラ イブが軽く振動すると同時に、脚部のスラスターが熱を帯びて赤く灯った。
「真上からかよ!」先行していたヘミングウェイのメルトフは、敵が予想とは 違う方向から現れたことに後悔と苛立ちを覚えながら言った。「レアニー、旋回 だ。索敵しつつ攻撃態勢に入れ!」
「わかってるッ」
 レアニーは、言い終わる前に操縦桿を傾け、スラスター出力を一気に最大に するために、スロットルを押し出した。
 RM支援用宇宙戦闘機のライジングソードは、既に後部と腹部から青く光る ガス噴射の軌跡を引き吊りながら、エンデバー上方に向かって発進していた。
「先行くぜ」
 ライジングソードのパイロット、ネルソン・クレイは威勢良く言った。
「宇宙探偵のみなさん、よろしく頼むよ」
 ライジングソードのオペレータ、マサキ・カダワがサムとメルトフに向けて 言った。嫌味ではなく、信頼しての言葉とわかった。
「敵影が4つに分離。2機はチャイニーズタイプ。もう一機は判別不能。大き さからいってRMです。新型の可能性あり」
 サムがヘッドセットを支えながら言った。
「GB1発進!」
 ブランドル・バーゴは、シートにねじりこまれるような感覚の中で、全員の 無事を祈っていた。
 GB1が射出シリンダーから打ち出され、青い4枚の翼が展開した。
 続いてGB2、4、5が発進。宇宙の猟犬たちは、青い翼を大きく開くと、 エンデバーを下に見ながらスラスターからの紫の軌跡を残して飛び発った。
「ブランドル、チャイニーズの新型かもしれん。接近戦は不利だ。シグマフィ ールドは使わずに応戦しろ」
 ジェファソンは、GB1から5のパイロットの映像が映し出されているモニ ターを見て、ブルーハウンドの加速が安定したのを確認して声をかけた。
「了解です。しかし、ここで新型を落としておけば効果的では」
 ブランドルは答えた。
「そうだぜ、せっかくレッドスナイパー並みの機動力もついたんだ。一気にケ リをつけちまおうぜ」
 アラン・マークスが口をはさんだ。
「シグマフィールドはケルベロスにも負担がかかる。メルメソッド接触までは 温存するんだ」
 ジェファソンは、あとに控える大事な作戦を考慮しつつ、シグマフィールド を使ったことによる機体への影響と、なによりもガイアフォースの面々たちの安 否を最重要視していた。
「オレの兄貴が設計してるんだ。大事に使ってくれなきゃ困るのよね」
 ゲイツ・バロンが言った。
「設計ったって、頭部ユニットだけだろが」
 GB4のチャンマオ・プリーが茶化した。
「『人形は顔が命』って言うだろう」
 ゲイツが返した。
「そうなの?」
 チャンマオが言うと、「一撃目、来るぞ。高出力ビーム。パワーが桁違いだ 、気をつけろ!」
 ヘミングウェイのメルトフが緊張感を連れ戻した。
「あたらなきゃ、いいんでしょ」
 ゲイツが難なく交わすと、そのビームは、後方の宇宙船の残骸に命中し、漆黒 の宇宙に火の玉をつくり出した。
 グレーの機体に深緑のペイントが塗装されたジュピトリウス帝国の新型RM 「ジュウライオウ」は、エンデバーに向かって直進していたが、地球連邦軍の青 いRMが、自分の砲撃を容易くかいくぐるのを見て、一瞬信じられないという戸 惑いをみせた。
「やるな、連邦。――ヒンクリー、リドラー、見てのとおりだ。外見は同じで も性能は上がっている。データをあてにするな。コンピュータの先を読め」
 ジュウライオウを駆るパイロット、ゴメスは、冷静な口調で、後に続く2機 のリュウオウのパイロットに指示をとばした。
「使ってきますか、サイコバリアーを」
 ゴメスの部下で、まだ若い兵士のリドラーが訊いた。
「余計な心配は判断を鈍らせる。作戦通り行動しろ」
 ヒンクリーがベテランらしく注意した。
「よし、3方に展開。敵強襲挺を破壊する」
 ゴメスが作戦行動時間を示す時計を確認しながら言った。
「チャイニーズの狙いはエンデバーだ。近付けるなよ」
 ブランドルは牽制するビームを撃った。
「エンデバー上方に弾幕を。対センサー粒子散布。ダミーバルーンを放出しつ つ、漂流残骸を盾にせよ」
 ジェファソンが指示をとばした。
「3対5なんだ。充分いけるぞ」
 ゲイツはGB5のライフルを構え、一撃を加えた。
「え、なんだ?」
 GB3のアルベルトが疑問の声を上げた。
「どうした、アル」
 後部座席のトマトクが訊いた。
「今一瞬、レーダーに別の輝点が光ったんだ」
「残骸船じゃないのか」
「放射熱量、移動形跡からいっても、『生きてる』物体だ。でも、消えた」
「ヘミングウェイでは見えたかい」
 トマトクは、ヘミングウェイに確認した。
「確認したが、もう反応がない」
 メルトフが応えた。
「チャイニーズがもう一機いるのかもしれん。索敵を怠らず、見えている敵を 優先しろ」
 ジェファソンが通信に割り込んだ。
 ジュウライオウの背負った高軌道スラスターは、ケルベロスの機動力を上回 っていた。
 ジュウライオウは、浮遊する宇宙船の残骸を巧みにかいくぐり、ゲイツたち を振り切っていった。
「ジカリスばかりにいい顔はさせん」
 ゴメスは、スロットルを全開にしたまま、いとも簡単に機体をジグザグに動 かして見せた。
「怪物かあいつは。慣性の法則を無視してるぞ」
 ゲイツは、タキオンドライブの出力を最高にしても追いつけないジュウライ オウに、驚きを隠せなかった。
「気にするな。だから必殺技があるんだぜ」アランが、GB2をGB5に並べ るように寄せてきて、自信ありげに言った。「こういうときは思いっきりが大切 なのよね」
「おまえ、まさか!」
 ゲイツは、アランの考えがすぐにわかった。
「レクシャムたちの仇は、シグマで討たせてもらうのさ」
「隊長の命令を無視するのか」
「戦いは、勝たなきゃ負けなんだぜ」
「ウワッ、なにするんだ」
 GB2が、平行して進んでいたGB5を一蹴りしたのだ。
 BG5は、一瞬バランスを崩し、キリモミ状態となったが、オートバランサ ーが機能して安定を取り戻した。
 既に、GB2はタキオンドライブユニットを展開し、シグマフィールドの生 成にかかっていた。
「GB2、アランがシグマフィールドを展開しています」
 エンデバーのサムがあわてて状況を告げた。
「あの大馬鹿者め、GB2、シグマフィールド展開の許可は出していない。す ぐに終息させろ!」
 ジェファソンは声を荒げた。
「使ったもの勝ちだろ。それに、ボヤボヤしてたら、エンデバーが塵になっち まう」
 アランはそう言いながら、シグマフィールドの生成率を表示するカウンター を横目で見た。
「生成完了します。先行するチャイニーズは勢力圏内に捕獲しています」
 サムが報告した。
 勝ち誇るような速度で突進してくるジュウライオウの中で、ゴメスは充実感 に満たされた表情をしていた。
「連邦上がりのジカリスは、いつか裏切ることもある。財団警備局たたき上げ のこのオレこそが、総統閣下の右に就くのさ」
 しかし、その勢いは、瞬時に足止めを食らったのだった。
「グワッ、な、なんだ」
 ゴメスの体は、コクピットの正面モニターに打ち付けられた。シートベルト が肩に食い込み、なにより、自分の意志に反して宇宙空間での急停止という本来 ありえない状況がゴメスを襲ったのだ。
「ゲット、ゲット。シグマはこうやって使うんだぜ、みなさん方」
 アランは勝利を確信したかのように言った。
「新型チャイニーズ、速度ゼロ、フィールド内完全掌握」
 サムは、始めて見るシグマフィールドの威力に目を見張った。
 ジュウライオウは、今や単なる巨人の亡骸と化していた。
「さらば新型野郎!」
 GB2のライフルから、最期を告げる一撃が発射された。
「ど、どういうことだ。こ、これが、サイコバリア兵器の威力なのか」
 ゴメスは、非常灯が点滅するコックピットの中で、死の恐怖に包まれていた 。
 そして、その恐怖を感じている時間は長くは続かなかった。
 ジュウライオウは火球となり、地獄の番犬の最初の餌食となったのである。
「新型チャイニーズ撃破、GB2出力40パーセントダウン」
 サムの見るモニターの表示には、明かにGB2の急激な出力低下が表示され ていた。
「2機のチャイニーズが後退していくぞ」
 ヘミングウェイのトマトクが、ガイアフォースたちに呼びかけた。


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