木星奪還部隊ガイアフォース

第14話「射撃の名手」

 小隕石の影に隠れていたヘリオのリュウオウの眼が赤く光った。
 ヘリオはニヤリと口を曲げると、ハイパーブラスターの引き金を引いた。
 ───グォワン「来たぞ!」
 ブランドルは叫んだ。
「当たるかっ 」
 ゲイツが機体をひるがえし難なく交すと、後方の小隕石が砕け散った。
「いた、赤いチャイニーズだ。動きが止まってるぞ」
 センサーを強化したGB3のトマトクが言うと、続いて「放熱量が低いな。 完全に止まっている状態だ。撃つなら今だ。近いのは……VR3だ」と、後部座 席のアルベルトが言った。
「了解。もらったぞ。接近して一撃でしとめる」
 VR3パイロットのヒースはすぐに返答した。
 ヒースの目にも赤いリュウオウが狙ってくれとばかりに浮遊しているのが見 えていた。
「注意しろ。もう一機が狙っているハズだ」
 レアニーが注意を促している最中に、既にVR3は飛びだしていた。
「少佐!」
 ヘリオはVR3がジカリスのもとに向かったのを見て叫んだ。
「ムッ!」
 ジカリスが手元のスイッチを押すと、小隕石の各所に取り付けられた、ワイ ヤカッターが発射された。
 小型ロケットの弾道には、高周波で振動するワイヤーケーブルが後に続き、 対面する小隕石に突き刺さった。
 レーザー兵器に対して強度を保つように設計されている機動兵器であっても 、ミサイル攻撃にもある程度は耐えうる。
 ただし、宇宙遊泳をするようにアステロイドベルトを移動するラウンドムー バーは、頭、腕、胴、脚、そして、翼というユニットで構成されている。
 その姿が、張りめぐらされたワイヤーの罠に身を縛られるのに時間はかから なかった。
 勢い突進したVR3は、ワイヤーに絡まったかと思うと、高周波の振動でジ ワジワと機体に食い込んでいき、みるみるうちにバラバラに砕かれていった。
 一瞬の悪夢のような出来事だった。
「VR3がやられた」
 アルベルトが叫んだ。
「レクシャム、ヒースがやられたぞ」
 VR2のバスチャが、焦げ茶色のリュウオウを追うVR1のレクシャムに言 った。
「なんだって……しかたない。バスチャ、シグマモードで応戦するぞ」
「危険だ。ここでの使用は、干渉波の影響が大きすぎる」
 バスチャが散在する小隕石を見ながら言った。
「シグマ?シグマプロジェクトのことか」
 ブランドルが訊いた。
「どうしようってんだ」
 アランも訊いた。
「ガイアフォースは撤退しろ。半径10キロメートル圏の機体は動けなくなる 」
 レクシャムが告げた。
 そう言っている間にも、ワイヤーカッターは次々と発射されていった。
「2機目は誰だぁ」
 ヘリオはうれしそうに言った。
「そうか。兵器を使用不可能にする兵器。聞いたたことがある。それがシグマ なのか」
 ゲイツが小隕石をかいくぐりながら言った。
「そんなことできるのか」
 アランが言った。
「少佐、小わっぱどもの動きが変わりました」
 バラウカスがホウライオウのコクピットのレーダードームを見ながら言った 。
「青が離脱して、赤が先行?まさか!」
 ジカリスは自分の予想が外れていない確信があった。
「ヘリオ、後退だ。奴らは、サイコバリアで応戦する気だ」
「まさか、こんなところで」「バラウカス。バイオフィールドモニターのレン ジを上げて、威力を記録しろ」
「了解。しかし、ここでは小隕石のせいでサイコバリアが発散して自分の機体 まで……」
「奴らは本気だ。素人故に無謀な行動をとれるのだ」
「分かりました。センサー最大値に」
 バラウカスはコンソールのセンサー感度を調整するダイヤルに手をかけた。
「ブランドル。艦長には謝っておいてくれ」
 レクシャムがブランドルに静かに語りかけた。
「何を言うんだ」
「こんなところで使う武器じゃないが、全員やられてしまうよりはましだ。実 戦での効果、しっかり報告してくれよ」
「レクシャム、晩飯の借りがあるじゃねえか」
 アランが叫ぶように呼びかけた。
「早く後退しろ。敵は待っちゃくれないんだ」
 レクシャムは言い放った。
「僕たちに出来ることはないのかい」
 ゲイツが言った。
「悪いが、これは猟犬の出来る仕事じゃないんだ」
 バスチャが茶化すように言った。


 武装を実戦用に交換したライジングソードは、タキオンドライブを最大出力 にしてメデューサの河に直進していた。
「みんな、無事かな」
 ネルソンが後部座席に座るマサキに言った。
「無事じゃなくてどうする!」
 マサキが意地になって答えたが、メデューサの河の方向では、美しい輝きが 瞬いていた。


「クソっ。少佐、被弾しました」
 ヘリオの声がジカリスのヘルメット内にこもった音で聞こえてきた。
「離脱できるか」
「大丈夫です。しかし、サイコバリアに巻き込まれると誘爆するかも」
「バイオフィールド急速に上昇。は、早い、こんなに早くバリアが生成できる のか」
 バラウカスが驚愕の言葉を漏らした。
 ガイアフォースは、レクシャムの指示どおりメデューサの河の端まで来てい た。
「VR1の翼が光り出したぞ」
 アランが後退しながら言った。
「レクシャムとは通信できない。一体どうしようっていうんだ」
 ブランドルは不安と心配を隠せなかった。
「ヘリオ、離脱できそうか」
 ジカリスは被弾したヘリオのリュウオウを眼下に見ながら話しかけたが、返 ってくるのは途切れとぎれの雑音だけだった。
「この近距離でさえ通信を遮断!予想以上のサイコバリアだ」
 次の瞬間、ヘリオのリュウオウはVR1の放ったレーザービームによって爆 発を起こした。



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