木星奪還部隊ガイアフォース

第11話「メデューサの河」

「GB5、通信コードの確認だ。オペレータからのコードを受信しろよ」

 アランが、ゲイツとジェニスの間に割って入った。

「なんだよアラン」

「なにって、コードの確認だよ。な、レアニー」

「そ、確認、確認」

 射出カタパルトの下のドックから出撃するヘミングウェイのレアニー・ナイマンが嬉しそうに言った。

「了解、コード受信。────セット、返送」

 ゲイツは少々脹れながら言った。

「GB1からGB5。射出準備完了。メカニックは安全エリアに移動。射出10秒前」

 ジェニスは、射出コントローラの表示がグリーンになのを確認して指示を続けた、

「ライジングソードとヘミングウェイは15秒後に発進です。みなさんお気を付けて」

 ブルーハウンドの射出されるハッチの信号が赤から黄色、そして、青に変わった。

「GB1、GB2───────」

 戦艦グレートバリアリーフの腹部から打ち出された各機は、現場に急行すべく背中の翼を展開した。

「タキオンドライブ始動。反応値70から90に上昇。95、100、加速臨界点到達。いくぞみんな。ヴィーナスの救出だ」

「了解!」

 ブランドルの呼びかけに全員が声を合わせた。

 

 

「くそっ、だめ───バランスが戻ら────」

 VR4は隕石流を避けきれず、その翼に直撃を受けてコントロールが効かなくなっていた。VR4のフリップ・ランバートの声が各機に届いた。

「ちくしょう、並んで飛ぶことしかできないなんて」

 VR2のバスチャ・メナクが口惜しんだ。

 隕石流が完全に過ぎ去るまではVR4に近づけない。2次災害を引き起こすからだ。

 今のヴィーナスフォースには、1キロ程離れた距離で、微かに写るレーダの軌跡を追う以外に術はなかった。

「今、ガイアたちが救出にくる。持ちこたえろ、フリップ。俺たちは簡単に命を落としてはいけないのだ」VR1のレクシャム・ヴューウィントンはレーダーを見ながら言うと、「あと、15分持つか。急いでくれ、ガイアフォース」と呟いた。

「見つけた。40−12−800。40から60に流れてる」

 ヘミングウェイのがメルトフ・チェリノスキがレーダードームを見て言った。

「確認した。こちらGB1。VR1聞こえるか」

 ブランドルはレクシャムを呼んだ。

「まっ――ぞ。時間がな──。早く、フリップ――すけてやってくれ」

 途切れ途切れの応答が帰ってきた。

「まかせとけ。おれは宇宙一の射撃の名手だ。一発でひっかけてやる」

「君はアラン───よろ──頼む」

「やけに潮らしいじゃねえか。レクシャムさんよ」

「借りをつくるのは酌──さわるが、ここはまかせ──かないからな」

「ヘッ、晩飯1回、おごりだぜ。ヴィーナスさんよッ」

 アランはニヤリと笑うと、スロットルを全開にしてアンカーライフルを構えた。

 アランのGB2は翼から金色の粒子を放ち、さらに加速した。

「アラン、先行し過ぎには注意して」

 メルトフはコンソールのモニターの中で移動するGB2のマークを見ながら言った。

「分かってるよ」

「ゲイツ、回収ネットのスタンバイを」

 ブランドルが指示をだした。

「了解。ネルソン、ネット砲を装着する。ドッキングアーム、オープン」

 ゲイツが左手元のスロットルレバーに付いている小さなパネルのボタンを操作すると、正面モニターの左下に、

   DOCKING−ARMAMENT−09

の表示が出た。

「ドッキングアーム、ネット砲をセレクト」

 ライジングソードのオペレータ、ネルソン・クレイが呼称すると、機の背面の一部が迫り出して、クレーンのブームが伸び上がった。

 その先には、半径200メートルの円形に捕獲ネットを展開するネット砲が装着されていた。

 タキオンドライブ稼働中の速度で武器の換装が可能なのは、ブルーハウンドとライジングソードのコンビネーションだけである。

「VR4、あと2分で到着する。頑張ってくれよ」

 ブランドルは、宇宙空間を蛇行しながら高速で流れていくフリップに言った。

「オッケー、2分なら我慢できそうだ。でも死んだ婆さんがそこまで迎えに来てるんで、早いとこ断りたいんだ。よろしく頼むぜ」

 フリップは冗談混じりで言った。

「いいよ、こっちは目視で捕らえた。ちょっとショックがあるが、気にしないでくれ」

 アランは既に隕石流の中を飛びながらVR4を捉えていた。

「VR1からVR3は、隕石流の右側に展開して、GB5が撃つネットの後方でサポートを。GB3、GB4は隕石の除去作業をしてくれ。ライジングソードは、救出したVR4の収容を!」

 ブランドルは的確に指示をだした。

 レーダーモニターには隕石流とゲイツたちの影が微かに確認できた。

「隕石流に混じって、青い子犬5機、戦闘機2機、それから──未確認のラウンドムーバーが4機」

 バラウカスのギョロっとした眼の表情が、レーダーモニターからの淡い緑の光に照らされていた。

「さすがホウライオウ。隕石流の電磁波に負けてない。しかし、連邦も地に落ちたものですね。こちらの罠にわざわざ近づいてくるなんて、っといけね。失礼しましたジカリス少佐」

 右モニターに写る探査能力強化型リュウオウのホウライオウを見ていたヘリオは恐縮して言った。

 ジカリスが元連邦の兵士だということは、帝国軍の兵士の殆が知るところだった。

(素人どもめ。宇宙軍は帝国の進行を本気で防ごうとしているのか)

 ジカリスは、隕石流に巻き込まれるなどという初歩的なミスを冒しているパイロットを前線に送ろうとする地球連邦宇宙軍の怠慢に腹が立つ自分を顧みて、余計にイラつくのだった。

「バラウカス、ホウライオウで潜行し、子犬たちを先導してくれ。ヘリオは、わたしのリュウオウを作戦地点まで牽引して模擬爆発を。わたしは、メデューサの河で待つ」

 ジカリスはヘリオの言葉を気にする素振りは見せず、リュウオウのコクピットハッチを開け、リュウオウの背部にセットされていた一人乗りの小型ポッドのハッチをはね上げて乗り込むと、ポッドの通信回線を開いた。

「ヘリオ、もし戦闘になっても、青い子犬は撃墜するな。シェンロンの上で会ったbTが乗っているかもしれないからな」

「了解です。でも、どうしてですか。特に優秀なパイロットとは思えませんでしたが」

「いいのだよ。戦乱のなかでの密かな楽しみというものだ。気にせんでくれ」

「ハッ。では、出ます」

 ヘリオの焦げ茶色のリュオウは、ジカリスの赤いリュウオウの手を挽くように背中と足の裏のスラスターから高圧ガスを噴射した。

 続いてバラウカスのホウライオウも暗い宇宙を滑り出すと、ヘリオのリュウオウを追い抜いて作戦どおり潜行していった。

 磁気嵐を伴った隕石流は幅10キロメートル、長さは100キロメートル程度の規模で稀に発生し、長くて60分で消滅することが分かっている。

 宇宙航行が始まり、アステロイドベルトでの遭難事故が相次ぐようになった頃から、現象が顕著になっていたが、発生のメカニズムは未だ解明されていない。

 隕石流はまもなく消滅する時間だった。

 



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