VR4は、隕石流に流れる強力な電磁波のため、依然としてバランスを崩したまま飛行していた。
「GB2、耐電磁フィールドが限界だ。早くしてくれ」
フリップの目に写る計器は、全てが赤く点滅し、レッドスナイパーの機体に重大な危険が迫っていることを示していた。
「アラン、急いで。GB2のフィールドだって、そうは持たないんだ」
へミングウェイのメルトフが、GB2の機体データをモニターするゲージが、グリーンからイエローに上昇するのを見ながら言った。
「わかってるよ。照準が定まらねぇんだ」
アランのGB2はVR4を射程距離に捕捉し、後方から狙える位置にまで接近していたが、電磁波の影響で微妙なコントロールが着かずにいた。
「ホレホレ、早くしないと分解しちまうぞ」
焦げ茶色のリュウオウの赤い眼が輝度を増した。
ヘリオは、大型のビームバズーカ・ハイパーブラスターを右肩に構えさせた。
「ま、どうせ俺たちにバラバラにされる運命にあるんだけど、な!」
ヘリオの指が引き金をひいた。すると、ハイパーブラスターは、黒い空間を引き裂く様な白色の光の矢を放った。
「90−35−020。高熱源体高速接近、ビーム兵器だ。各機、警戒および回避運動をとれ!アラン、急げ。敵が攻めてくる。アルベルト、策敵情報、受信してるか」
メルトフは、センサーコントロールのパネルを操作しながら機敏に対応した。
「確認してる。チャイニーズ・タイプ2機。ったく、最悪のタイミングで来てくれるよ」
強化センサーを搭載した複座型ブルーハウンド、GB3の後部シートに座る、アルベルト・シュフォンは、ヘミングウェイからの情報を受けて返答した。
「きっと、俺たちに恨みでもあるのさ」
複座の前方、パイロットシートのトマトク・ウェインが言った。
「戦争だからね。ぼくたちは恰好の標的になってしまったようだ。───各機、戦闘プログラムBで展開せよ。VR1からVR3はチャイニーズを包囲してくれ」
ブランドルが、戦況を把握しながら言った。
「了解した。VR2、VR3はプログラムBに設定。GB1の指揮下に入れ」
VR1のレクシャムは、ヴィーナスフォースの2機に指示を出しながら思った。
(なんというチームワークの良さと判断力だ。戦術コンピュータを生かしきってる)
レクシャムは、スロットルを押し出すように操作してVR1を滑らせた。
「ゲイツ、いくぞ。しっかりキャッチしてくれよ」
「いつでもいいぞ、アラン」
「撃つぜ、フリップさん」
ドス!───鈍い振動と共に、アンカーライフルが発射された。
「よし、かかった」
アランは、発射したアンカーがVR4の機体を捕獲したのを確認した。
「ゲイツ、受け取れ」
「よし、ネット砲発射」ゲイツはネット砲の引き金を引いて言った。「ライジングソード、VR4の回収準備はどう!」
「いいよ。回収後、戦線から後退するから、ビームライフルのエネルギーパックドラムを切り離していく。うまく拾って使ってくれ」
ライジングソードのネルソンが言った。
───ビュォン!
再びリュウオウの放ったビームが隕石流を切り裂いた。
「おいでおいで、青い小鳥さん。メデューサさんがお待ちですよ」
ヘリオは、ジカリスの赤いリュウオウを作戦どおり、わざと、ゲイツたちの標的になるような行動パターンをとらせた。
ヘリオが乗る焦げ茶色のリュウオウは、ジグザグに威嚇しているような動きを見せた。
リモコンで動いているジカリスの赤いリュウオウはよろめいているように飛んでいた。
「1機は動きが遅い。チャンスだ」
メルトフがモニターを見ながら言った。
「任せろ」
レクシャムは、ガイアフォースチームに救助してもらった礼をするつもりで、機体を翻しライフルを構え、機体を加速した。
───ビュワォン
VR1の放ったビームは、赤いリュウオウをかすめた。
「今だ」
ヘリオは手元のスイッチを押した。
───グゥバーンッ
赤いリュウオウの背部に装着してあった爆薬が火の玉をつくりだした。
「よし、あと1撃だ」
レクシャムは、爆発を見て命中したと確信していた。
VR4は、ライジングソードのラウンドムーバー固定アームに拾われて、四枚の翼を収容していた。
「助かった。ありがとう、ガイアフォース」
フリップは額の汗を拭いながら皆に礼を言った。
「安心するのはまだ早い。帝国軍が逃がしてくれるかどうか」ライジングソードのマサキ・カダワが、VR4を収容する為に数種類のスイッチを素早く操作しながら言った。
「あとは頼んだぞ、ブランドル」
「了解、ネルソン。無事グレートバリアリーフに帰還してくれ」
ブランドルは応えた。
ライジングソードはスラスターを開き旋回すると、最大出力で戦線を離脱した。
赤いリュウオウは爆発を起こしたものの、依然として機動力を発揮していた。
ゲイツはVR4救助に使ったネット砲をGB5の腰部ハードポイントに装着すると、ビームライフルを構え直し、赤いリュウオウを撃った。
その一連の動作は流れるようなさばきだった。
──────ビュワォン ビュワォン
ゲイツの放った2発のビームを、リュウオウは軽く交わした。
「なんて早い動き!」
ゲイツは焦りを感じた。
ヘミングウェイのレーダーマップには、今の戦闘エリアのすぐそばに多数の障害物が影となって表示されているのをキャッチしていた。
「各機、90方向はアステロイドエリアだ。注意して」
レアニーが伝えた。
「メデューサの河?そんなに流されていたのか」
ゲイツが呟いた。
焦げ茶色のリュウオウは余裕さえ見せて飛行していた。
「小犬さん、小犬さん、早く一緒に遊びましょ」
ヘリオは追ってくるラウンドムーバーをモニターで確認しながら、嫌らしくにやけた。
メデューサの河に差しかかろうという空域では、バラウカスのホウライオウが、センサー感度を最大に上げて待機していが、そのセンサーが幾つもの小さな飛行物体がこちらに向かってくることを察知していた。
「少佐、かかったようです。単純なものですね」
バラウカスは敵ラウンドムーバーたちの行動を、連邦軍そのものに見立て、馬鹿にした口調で言った。
「隕石流に巻き込まれるというのは、そういうことだ」
小型ポッドの中で、目を閉じながら待機していたジカリスは冷静に応えた。
「メデューサの河で苦戦の上、散る。若者パイロットの悲劇というやつですね」
「連邦の傲慢が生み出したシグマプロジェクト。ここで、葬られるのも運命だろう」
ジカリスは目を開けたが、瞳の奥に写るのは、若き日に焼きついた光景だった。