木星奪還部隊ガイアフォース

第10話「ライバルとは呼べない」

 

ゲイツとアランの相部屋には、ガイアフォースの面々が集まっていた。

彼らは小さな窓に顔を寄せあい、さながらのぞき見のようだ。

「あれが、レッドスナイパーだぜ」

 メルトフ・チェリノスキが、飛び立っていくレッドスナイパーを見て言った。

「趣味の悪い機体色だな」

 レアニー・ナイマンが言い放った。

「オレたちのより翼が大きいようだけど」

 ゲイツは、ブルーハウンドの翼より一回り大きいそれを見て、判断の要素が無いながらに出力の違いを目算していた。

 アランだけは、ベッドの上で腕組みをしてあぐらをかいていた。

「けっ、なにがヴィーナスフォースだ。だいたい、あんな軟派野郎に新型を渡すなんざお偉方のすることは理解できないね」

「まぁ、それはそうだけど。おかしいのは、ペアで行動させるヴィーナスの存在を、着任しても今日まで知らせて貰えなかったってことだ」

 ゲイツが小窓から顔を放して振り向きながら言った。と、同時に、部屋のドアがスライドして、ブランドルが入ってきた。

「で、どうだった?」

 アランが、仰ぎ見るように言った。

「どうも彼たちは、特殊プロジェクトに深い関係があるらしいよ」

 ブランドルは、ガイアフォースチームを作戦指揮することになっている上官に真相を訪ねにいっていたのだ。

「特殊プロジェクト?俺たちのラムダプロジェクトとは違うというの?」

 アルベルト・シュフォンが訊いた。

「ラムダプロジェクトは、高機動ラウンドムーバーの開発のことだけど、彼らはシグマプロジェクトというものに組み込まれているって話らしい」

 ブランドルは怪訝そうに言った。

「シグマ?どんなだいそりゃ」

 アランの問いにブランドルは両手を広げ肩をすくめた。

 ラムダプロジェクトとは、ラウンドムーバーの開発計画のことである。宇宙空間での機動性と重力圏での汎用性を兼ね備え、あらゆる状況下に対応する装備を簡易に換装可能な戦闘ユニット、それがラウンドムーバーである。

 電磁兵器の発達により、長距離レーダ、誘導兵器の機能が無力化していくなか、有人による単独行動が可能な戦略兵器の開発は、地球連邦軍の最優先課題であった。

「ラムダのほかに、シグマか。軍隊ってのはつくづく秘密が多いんだ」

 自分の兄が兵器開発に従事しているからといって、ゲイツが軍の真相に詳しいいうことはなかった。

「内容は、大尉も御存じないそうだ。ヴィーナスの件を聞いたのも今朝だったらしい」

 ブランドルは皆を見回すように言った。

「おれは、いやだぜ。猟犬扱いされるのは、まっぴらだ」

 アランはそっぽを向いた。

「でもさ、僕たちはもともと、“青い猟犬”の役目を仰せつかっているとすれば、仕方ないよ。それに、目的は、ジュピトリウス帝国の支配から、僕たちの両親や友達を守ることだ。少しくらいのことは我慢しなくちゃ」

「ブランドルは、いつもそうやって優等生やってられるけど、おれはそんなに頭よくねぇからな。納得できねぇ」

「アラン、ブランドルの意見が正しいと思うよ。おれたちは、そのためにガイアフォースになったんだ。デクセラだってそうだ。ラスティーだって立場は違うけど、戦争を終わらせる為に戦っているんだ」

 ゲイツの言葉で部屋に少しの沈黙が流れた。

「……あーわかったよ。ラスティーみてぇに強くはなれねぇが、おれのせいでフォ―メイションを乱すわけにもいかないからな」

 アランは、小さく笑った。チームの皆にも笑顔が灯った。

 と、その時、非常サイレンが部屋に鳴り響いた。

「305発生、305発生。ガイアフォース出撃準備」

 天井に埋め込まれたスピーカーからメッセージが流れた。

 305とは訓練中に重大な事故が発生した事を意味している。

「ヴィーナスたちに何か起きたんだ」

 ゲイツは、小窓に近寄り宇宙をみたが、状況は知ることは出来なかった。

 スピーカからの指令とともに、メンバー10人はすぐさま廊下に駆けだした。

 ガイアフォースチームは通常5機のブルーハウンドで編成される。

 各機はガイアフォース・ブルーハウンドの頭文字からGBと呼ばれる。

 5機のうちの3番機GB3は複座式で、戦況分析を行う機能が強化してある。

 戦術支援として作戦区域の状況分析を広範囲で行う特殊戦闘機ヘミングウェイに2人。また、支援機として出る携帯装備の輸送を兼ねた宇宙戦闘機ライジングソードにも2人が搭乗し、計10人のメンバーが一体となって作戦行動がとられる。

 グレートバリアリーフの艦載機離発着用の格納庫では、ブルーハウンドが、直立姿勢のままメンテナンス用の待機ベットに立てかけられたまま、手射出用カタパルトに移動していた。

 リボルバータイプの拳銃のシリンダーに装填される弾丸のように、円筒の回転式ドラムに固定されたブルーハウンドは、強烈な磁気の反発力によって射出されるレールガンの方式で出撃する。

 回転ドラムへの装填が完了すると、メカニックマンが5機それぞれのブルーハウンドに無重力を利用してとりつくと、コクピットハッチを開いた。

 胸部全体が強度を持ったコクピットハッチになっている。

 メカニックマンは、腹部装甲にある小さなパネルを開くと、起動スイッチのキーになっているプラグを外した。プラグを抜くことで始めて超伝導モーターが起動する。

 ゲイツたちは無重力空間を移動するために利用する壁に埋め込まれた可動式ガイドレバーに引かれながら、カタパルトの近くまで近づくと、床を蹴りジャンプをして、開いているコクピットハッチにとりついた。

 メカニックマンが親指を立てて、準備完了の合図をして微笑んでみせた。

 ゲイツは応えるようにヘルメットの前で小さく敬礼をすると、パイロットシートに滑り込んだ。

 ハッチがゆっくりと低いモーター音をさせながら降りると、外の明かりが見えなくなる。合わせてコクピット内の照明が灯り正面モニターがガラス張り同然の映像を映し出す。

 モニター下のコンソール右隅にあるスタンバイボタンを押すと、各メーターのゲージが順調に上昇した。

モニター隅の表示がパスワードを聞いてくる。

ゲイツは自分のパスワード、

   JENIES

を手元のキーボードで入力した。

すると、シートポジションが個人専用の設定へと微妙に動いた。

これで、個人個人の操作の癖に合わせた設定が機体全体に反映される。

「GB5、スタンバイオーケー」

 ゲイツは、射出カタパルトの信号機が赤く点滅するのを見ながら言った。

 ゲイツは正面モニターの右上に画面が小さく分割された部分をちらりと見た。

「レッドスナイパー1機が隕石流に巻き込まれました。牽引ワイヤーは1キロメートルでスタンバイ。アンカーライフル、ネット砲で捕獲、救助をしてください」

 ジェニス・マクギリスは、左耳のヘッドセットを抑えながら事務的に言った。

「気安く言ってくれる。隕石流の中に潜るってことなんでしょ」

「あなたたちの噂は聞いているわ。ブルーハウンドを服のように着こなす新人部隊。その機体の色、私の好きな色なの。タキオンドライブは最大値で調整してあるわ。大丈夫よ。なにより、パイロットがガイアフォースなんですもの」

 ジェニスは、清楚な笑みを見せた。



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