照りつける太陽のもと、セントヘレンズ基地の飛行管制塔前の滑走路では、ガイアフォースチームの出発式が執り行われていた。
全長15メートルの5機のブルーハウンドは、大型ビームライフルを地面に突き刺すように右手に抱え、白地に青のラインの機体も誇らしげに、横一列で整列していた。
ブルーハウンドには、股当ての部分に「1」から「5」まで識別番号がイエローのペイントで書かれていた。
それぞれ、一人ずつが登場するが、ナンバー3は、特別にセンサー機能が強化されており、戦火の中にあって各種の調査・分析を行えるように改良された副座式で、胸部は一回り大きい。
列の左には、ライトグレイの機体色でレドーム部分はレッドに塗り分けられた戦闘機“DF−103ヘミングウェイ”が。列の右側には、同様にレドーム部がイエローの“SF−9ライジングソード”が配置されていた。
ヘミングウェイは作戦区域の状況分析を広範囲で行う特殊偵察機、ライジングソードは、ブルーハウンドの携帯装備輸送を兼ねた宇宙戦闘機で、両機とも副座式だ。
地球連邦軍の切り札ガイアフォースは、この装備で作戦行動する。
それらの兵器を前にして、10人のガイアフォースチームのメンバーが凛々しく直立していた。
ガイアフォースチームは訓練生の時点では20名であったが、パイロット特性、新たな健康上の欠陥の発見、宇宙空間適応度等のふるいに欠けられ、結果的に10名が正式に配属された。
彼らが、チームの枠は10名である聞かされたのは、わずかに一ヶ月前であり、それまでは20名全員が配属されるものと思っていた。
しかし、デクセラが殉死したことを受けた地球連邦軍評議会は、ガイアフォースチームの縮小という決断を下した。
それを知ったジェファソンは評議会本部に直接かけあったものの、詳細な説明もなく規模縮小の指示書を渡されたのみだった。
今、彼らの視線には、数十人の人だかりが入っていた。
ガイアフォースチームを結成したラムダプロジェクトの責任者である将軍や参謀、以下開発陣や、記録係に混じった地球連邦運営のテレビ局の報道陣が慎ましやかに何列も並べたイスに座っていた。
戦場に赴く彼らにとっては、今となっては退屈な挨拶と、こころない励ましが何人も続いた後、イスの列の最前列左端に座っていたジェファソン・デミトリーが機敏に立ち上がると、遠い空を見つめながらメンバー一人ひとりの名前を呼んだ。
「ブランドル・バーゴ、アランマークス」左から整列する彼らの順番は、そのままブルーハウンドの腰当て部にマーキングされた機体番号順であった。
「トマトク・ウェイン、アルベルト・シュフォン」この二人は副座敷の3号機に乗る。
「チャンマオ・プリー、ゲイツ・バロン」ここまでの6人がブルーハウンドの搭乗員だ。
「レアニー・ナイマン、メルトフ・チェリノスキ」この二人はヘミングウェイを操る。
「ネルソン・クレイ、マサキ・カダワ」ライジングソードに乗り、ブルーハウンドを戦術支援するのがこの二人。
「以上、ガイアフォース10名は、これより木星奪還作戦に参加する。ガイアフォースチーム、敬礼!」
颯爽と敬礼をするゲイツたちを見つめるジャファソンは、あまりにも理不尽な軍上層部の指揮のもと、はるか木星へと旅立たせねばならないという自己嫌悪に苛まれながらも、せめてものはなむけとして凛々しい視線を送った。
上層部の考え方を彼らに語ったところで、結果的には木星に出兵する彼らにいらぬ動揺を与えることになるだけだ。
ならば、なにがあっても生き残れる力を持たせて送り出すための最高の訓練を施すしかない。
ジェファソンの決意は、ゲイツたちには地獄の苦しみを強いることとなったが、その甲斐あって、彼らは、セントヘレンズ基地はじまって依頼の実力者集団となっていた。
地球連邦宇宙軍主力戦艦グレートバリアリーフは、全長1800メートルにも及ぶ純白の威容を宇宙空間に漂わせていた。
グレートバリアリーフが係留されているスペースコロニー・ダイモス30のドッキングベイ内に設けられた大ホールには、木星奪還部隊に向かう戦闘要員500名が整列していた。
列後方に立つゲイツたちガイアフォースのメンバーは、緊張しつつ、正面に浮かぶ演説用の大型スクリーンの前を通りすぎる一際白い軍服を纏った紳士を目で追った。
白い軍服の紳士は、大型スクリーンの右下隅にある宇宙軍の紋章のついた演台のところで立ち止まると、小さく咳払いをして、演台のスイッチを入れた。
すると、紳士の姿は大型スクリーンに映し出された。
「諸君、グレートバリアリーフにようこそ」少々甲高い声だった。
「副艦長のリングマン・テーラーだ。
我々の任務は、帝国によって占領状態にある木星域を奪取することにある。
帝国は、財団時代から居住している民間人を人質にとり、さらに地球圏の独裁的統一をもくろんでいる。
まさに、恐怖政治そのものである。帝国とはいっても、辺境の地の一財団である。
もちろん平和的解決の糸口が無かったわけではないが、総統メサド・ブレナーは、対話を一切受け入れなかったのである。状況は最悪となった。
それ故にわれわれが出撃するのだ。これから向かう木星域には未確認の兵器が待ち受けているだろう。しかし、うろたえるな。われわれには最強の兵器ブルーハウンドとレッドスナイパーがある。そして、このグレートバリアリ―フが…… 」
ゲイツは耳を疑った。ここに揃った兵士たちの当然知っていることをクダクダと力説するリングマン副艦長に多少飽きかけていたところに、自分たちと並べられる兵器の名が聞こえたのだ。
(レッドスナイパー?なんだ?)と思い、隣のアランを横目で見ると、アランも同じように思ったらしく、小さく首を傾げた。
「―――のである。君たちの若い力に期待する。以上。各自持ち場に戻れ!」
聴衆は順に散開していった。
ガイアフォースのメンバーは、リングマン副艦長の話の半分は聴いていなかった。
戦闘ブリッジからチームの待機室に向かう途中、人けもまばらになった通路で、ゲイツはブランドルに訊いた。
「おい、ブランドル。レッドスナイパーってなんだ」
「知らないよ。僕もはじめて聞いた。僕たちと同じようなチームがあるということかな」
ブランドルが納得いかない様子で言った。
気がつくと、通路の先に数人の同い年位の兵士が立っていた。
「おいでなさったな。猟犬隊」
リーダー格らしい、すらっとした、金髪を長く延ばした男が腕組みしたまま言った。
長髪の後ろにはもう一人、左目が前髪で隠した若者が立っていた。
およそ兵士とは思えない髪型だった。
「猟犬隊?僕たちのことかい」
ブランドルが聞き返した。
「そうさ、俺たちは猟師。君たちは、猟犬。ま、きみたちは僕たちの存在を知らないだろうと思って、特別に挨拶にきてあげたってところだ」
男の言葉は明らかに嫌味と分かる口調だった。
「おまえら、なんの真似だ」
アランが一歩前に出ようとしたが、ゲイツが右肩に手を掛て抑えた。
「レッドスナイパーに乗るというのが君たちなのか」
ゲイツは彼らに問いかけた。
「そのとおり。ラムダプロジェクトの最高傑作、レッドスナイパーを駆るヴィーナス・フォースとは俺たちのことさ」
「ラムダプロジェクトのヴィーナスフォース?金星でも同じチームが編成されていたというのか?」
ブランドルは驚きながら言った。
「同じというのは不適切な表現だな」
前髪が左目に掛かっている男が、その髪を小さく掻きあげながら言った。