光輪伝承アルファガイン

シェルデザイアの秘密 3


「ふむ」ゼレは一呼吸置いた。「――“青の森”は存知の通り、シェルデザイアの完全制御に成功し栄華を極めた。しかし、我々は、その文明を捨てた。なぜか」

「その石から生まれた怪物に滅ぼされたんだ」

 メナが、これぞ正解と言わんばかりに手を掲げて言った。

「ハハハ。怪物に滅ぼされた、か。間違ってはおらんな」

 ゼレの言葉に、メナやポリコックたちは、この森を襲う巨大な怪獣を思い描いた。

「怪物とは、いかなる存在なのですか」

 シーベルが訊いた。

「怪物とは、我々ヒトの心のことだ」

「え?それって、サイフェルト先生が、女王に聞いた話と同じだわ」

 メナは、ゼレと、音楽の師ユッタ・サイフェルトとの言葉が同じものであることを思い出した。

 「ワーカーシートが怪物になるのは、“こころ”の仕業だというのですか」

 ポリコックたちも、その疑問を解き証したかった。目の前で、怪物に成っていくワーカーシートは、くっきりと脳裏に焼き付いていた。

「そうだ」ゼレは、また一呼吸置いた。「――ここからは、インカナディアにも伝授していない内容だ。別に隠していたワケではない。必要なかったからな――しかし、話さなくてはならない事態となった」

 みんなは、ゼレを見つめた。レッドもおぼろげながら、話の深刻さが分かってきた。

「マカルマ石は、通常なんの変哲もないガラス玉のようなモノだ」

 と言いながら、ゼレは着衣のポケットから、ペンダントを取り出した。

「それは――ケッシが首から下げていたものだな」

 ポリコックが言った。

「いかにも。これがマカルマ石だ。カルマシェル鉱脈があれば、珍しくもない。だが、オンブライトシェル濃度が高い空間では、マカルマ石は、ヒトの強烈な憎悪に反応するのだ」

「憎悪に反応する?」

 シーベルは眉をひそめた。

「マカルマ石は、ヒトと機械の間を仲介し、その憎悪の度合いで、怪物を作り出すのだ」

「ケッシは、母親への憎悪がマカルマ石に反応したってのか」

 ビンクルが腕を組んで言った。

「――なぜそうなるのか因果関係はわからなかった。だたし、シェルデザイアの生成を放棄してまもなく、怪物の発生はなくなったのだ」

「“青の森”がシェルデザイアを放棄して500年。今また、怪物が現れたということは、オンブライトシェルが自然発生しているということでしょうか?」

 シーベルは、初めて薄笑いを浮かべた。

「まだわからん。しかし、マカルマ石を持つ者が怪物化する事実が我々の眼前にあることは、先ほどのとおりだ」

「わかったような、わからんような。で、結局オレたちは何をすればいいだい」

 ポリコックが横柄に言った。

「怪物退治をやれっていうんなら、帰らせてもらうぜ。あんなの相手じゃ、どんなASだってかなわない。みんな良い子になるように学校でもはじめたほうがいいぜ」

 ビンクルは、自分のアクティブシート“ブラウマン”の装甲が溶けてしまったのを思い起こしながら言った。

「そなたたちには、カルマシェル鉱脈の封鎖をお願いしたい」

「なんだい、そんなことかい。なら、インカナディアだけでやればいい。オガーナ中の鉱脈は全部、役人が独占しているからな」

 ポリコックは、嫌味気にシーベルに向かって言った。

 シーベルは、知らん顔をした。

「問題は簡単ではない。カルマシェル鉱脈にはマカルマ石が無数に埋もれている。鉱脈の上には今や大きなシティーがあり、大勢の民衆が暮らしている。しかも、カルマ石は、ケッシのような子供も身につけるような装飾品として散在しているのだ」

 ゼレは、一つひとつ整理するように言った。

「ってことは、怪物がウジャウジャ出る可能性があるってことじゃない」

 メナが声を上げた。

「おいおい、やっぱり怪物退治じゃないか」

 ビンクルが言った。

「――承りました」シーベルは、いとも簡単に返答した。「“青の森”の女王直々の懇願を聞かぬインカナディアではございません。まして、オガーナ中にあのような怪物騒ぎが起ころうとしている矢先、どうして逃げることなどできましょうか」

 シーベルの台詞を聞いたポリコックは、

(この女、出世するよ)

 と、思った。

「プローバー艦ヴァリアボマーは、遺跡発掘の任を解き、本日より、カルマシェル鉱脈封鎖の護衛を命ずる。――よろしいか」

 シーベルの目には、またしても薄笑いが潜んでいた。

「よろしいか、って言われても。おれたちはただのAS乗りだ。艦長に言ってくれ。――だいたい、こっちで怪物に対抗できるのは、宇宙人一人とそいつの乗ってきたASだけだ。シーベルさんは、そういうことわかってて言ってるの?」

 ポリコックが突きつけるように言った。

「アルファガインの威力は見たとおりだ。レッド・ローガンも充分攻撃力になる。他のASは援護に回れば良い。――鉱脈封鎖に同行するならば、レッドの身柄はヴァリアボマーの自由にさせよう。異星人の研究は、鉱脈封鎖後でも可能だからな」

 シーベルは居丈高に言った。

「くーッ、痛いとこ突いてきやがる」

 ビンクルが顔をしかめた。

「いいわ。受けるわよ、その仕事。その代わり、新しいASは欲しいわね。それから、シティーでのコンサートは開かせてもらうわ」

 メナが威勢よく言った。インカナディアがやると言った以上、父ドルマンが断るとは思えなかったからだ。ならば、ここで、最低限の条件提示をしておくべきと判断したのだ。

「その約束。果たさせてもらうことにしよう」

 シーベルが相変わらず冷静に言った。

「――では、交渉成立だ。まず最初の目的地だが、オンブライトシェルの発生地域は、ここから、オガーナの自転方向に拡大していることが分かっている」

「そりゃ、なぜだい?」ポリコックがゼレの説明を遮ったが、ゼレは「例によって、未解明事項だ」と言い、続けた。「――その点から、第一の鉱脈があるリクロス・クロス・シティーに向かってもらいたい。次は……」

「とりあえず、退屈しない世界のようだな……」

 レッドは、皆の表情をみながら、久々の高級料理を口に運びながら呟いた。

 

 


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