光輪伝承アルファガイン

シェルデザイアの秘密 4


 青空の下、砂煙を巻き上げて移動するホーバークラフト艦が一隻。

 遺跡発掘用大型プローバー艦のヴァリアボマーである。

 ヴァリアボマーのブリッジ。

 ドルマンの座る艦長席の隣には、惑星オガーナを統治するインカナディアの情報局警備部長ブリアト・フォルゲンが、たいそうなロングコートをまとい座っていた。急遽設置した席ではあったが、ブリアト用とあって、なかなか豪華な作りになっていた。

 ブリアトの隣に立つ女性士官シーベル・ベクターは、小脇に薄いファイルを抱え居住まいを正していた。

 艦長として威厳を放っていたドルマン・リジェロだったが、インカナディアの役人たちを乗せて、カルマシェル鉱脈の封鎖に赴くことになってからは、ヘビに睨まれたカエルとはいかないまでも、おとなしくなっていることは確かだった。

「リクロス・クロス・シティーは、銘酒の産地だ。楽しみなのではないか」

 ブリアトが、いっこうに変化のない荒野に飽きたのか、リジェロに話しかけた。

「リクロスの酒は甘口でしてね。わたしには合いません」

「ドルマン・リジェロらしい、といったところか」

 ブリアトは、その後続ける言葉もなかったので、また黙り込んだ。

 

 

 ヴァリアボマーの格納庫は、なにやら騒がしくなっていた。

 ヴァリアボマー専属のアクティブシートと並んで、インカナディア情報局のそれらが並んで収容されていた。

 男たちの罵声とともに、積んであった木製の大箱が吹き飛んだ。

 飛んできたインカナディアの情報局員がぶつかったからだ。

「へ、ざまないな。インカナディアって言ったって、大したことないぜ」

 上半身の衣服を脱ぎ捨て、肩で息をしているのはポリコック・キンバレンだ。

「ほう、やるじゃないか」腕組みをして感心しているのは、別の情報局員だった。「AS乗りにしちゃ、良い動きだ」

「当たり前よ。ポリコックはもともと、ブエヌス軍の隊長だったんだから」

 メナが自慢げに言った。

「なるほどな」投げ飛ばされた情報局員が埃を払いながら立ち、納得したような台詞をはいた。「ブエヌス・シティー独立防衛軍のキンバレンか、そういや噂で聞いたことがある」

「そうか、そのキンバレンがおまえなのか」

 情報局員たちは、珍しいように言った。

「昔の話だ。おれは、ヴァリアボマーのAS乗り、ポリコック・キンバレンだ」

 ポリコックは、傍らの上着を拾い、袖を通した。

「どうだいレッド、凄いだろ。ブエヌスの格闘技は――」

 ビンクルが、レッドに語りかけた。

 レッドは、退屈しのぎにはもってこいと言うそぶりで応えた。

「はい。じゃ、集金ね」

 メナが、微笑みながら、小さな麻袋を情報局員たちに突き出して言った。

「仕方ないなぁ。次は、ハーブベイに戻ったら、湾内ボートレースで勝負だな」

 情報局員たちは、苦笑いをしながら、麻袋に銀貨を入れた。

「楽しみだな」

 ポリコックが両腕に拳をあてて言った。

「ヒエロントでは、コンサートが出来なかったんだから、インカナディアがカンパするのは当然よね」

 メナが麻袋の口を搾りながら言った。

「それは、おれも残念だ。ヴァリアラバーズのライブはそう見れるもんじゃないからな」

 情報局員の一人が言った。

「リクロスでもOKが出てるわ。そのときは、ちゃんとお代をいただきますからね」

 メナのあっけらかんとした態度に、格納庫には笑いが響いた。

 

 

 相変わらずの空気が流れるヴァリアボマーのブリッジ。

 ヘッドセットをつけた通信員が振り向いた。

「旦那。リクロス・クロスから遠距離通信です」

「よし、つなげ」

 リジェロが、ブリアトをチラリと見て言った。

「正面モニターに画像、出ます」

 画像は出たが、インカナディアの無線設備の例にならい、ノイズがひどいものだ。

「ようこそ、リクロス・クロス・シティーへ」細身で甲高い声の男が、高価な正装で映し出された。「市長のオコナーです。インカナディア様のご来訪、大変にお待ち申しておりました」

 その映像を見たシーベルは、小さく鼻で笑うと、

「警備部長、カノス博士の部屋に行って参ります」

 と言い、ブリアトが頷く前にブリッジを後にした。

 ブリッジを出たシーべルは、「フェルド・オコナーか。身内にしておくのも恥ずかしい男だ」と吐き捨てるように言った。

 オガーナの夕陽が、ヴァリアボマーの陰を長く大地に焼き付けるころ、甲板でアルファガインを整備するレッド・ローガンの頬を通り過ぎる風が吹いてくる方向には、“青の森”の願いであるカルマシェル鉱脈封鎖の第一地点リクロス・クロス・シティの色とりどりの明かりが見えていた。

「見知らぬ星で怪物退治か……スティングレーのみんなはどうなったんだろうか」

 レッドは、遙か遠い昔に別れたかのような宇宙軍の仲間の身を案じた。

 アルファガインの白い機体が夕陽にそまり、オレンジ色に輝いた。

次回予告

メナ    「また4部構成ね!」
ビンクル  「今回は、さすがに疲れたよ。なんたって、ややこしかったな」
メナ    「オンブライトシェルとカルマシェルをくっつけてシェルデザイア……もう@@@」
ポリコック 「カルマシェルの結晶がマカルマ石、って言うんだったな」
ドミニコ  「でも、“闇”と闘うんだろ、僕たち。アルファガインは大丈夫かな」
ブリアト  「心配はいらん。インカナディアの最新式ASジーニアもある」
シーベル  「ワタクシのフームビィも完璧だ」
レッド   「というわけで、次回『光輪伝承アルファガイン』

第9話 「アルファガインの涙」

      に『グラビティー・ソード、重力解放!』
カノス   「研究の成果は間違っていなかったでござる」
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