青空の下、砂煙を巻き上げて移動するホーバークラフト艦が一隻。
遺跡発掘用大型プローバー艦のヴァリアボマーである。
ヴァリアボマーのブリッジ。
ドルマンの座る艦長席の隣には、惑星オガーナを統治するインカナディアの情報局警備部長ブリアト・フォルゲンが、たいそうなロングコートをまとい座っていた。急遽設置した席ではあったが、ブリアト用とあって、なかなか豪華な作りになっていた。
ブリアトの隣に立つ女性士官シーベル・ベクターは、小脇に薄いファイルを抱え居住まいを正していた。
艦長として威厳を放っていたドルマン・リジェロだったが、インカナディアの役人たちを乗せて、カルマシェル鉱脈の封鎖に赴くことになってからは、ヘビに睨まれたカエルとはいかないまでも、おとなしくなっていることは確かだった。
「リクロス・クロス・シティーは、銘酒の産地だ。楽しみなのではないか」
ブリアトが、いっこうに変化のない荒野に飽きたのか、リジェロに話しかけた。
「リクロスの酒は甘口でしてね。わたしには合いません」
「ドルマン・リジェロらしい、といったところか」
ブリアトは、その後続ける言葉もなかったので、また黙り込んだ。
ヴァリアボマーの格納庫は、なにやら騒がしくなっていた。
ヴァリアボマー専属のアクティブシートと並んで、インカナディア情報局のそれらが並んで収容されていた。
男たちの罵声とともに、積んであった木製の大箱が吹き飛んだ。
飛んできたインカナディアの情報局員がぶつかったからだ。
「へ、ざまないな。インカナディアって言ったって、大したことないぜ」
上半身の衣服を脱ぎ捨て、肩で息をしているのはポリコック・キンバレンだ。
「ほう、やるじゃないか」腕組みをして感心しているのは、別の情報局員だった。「AS乗りにしちゃ、良い動きだ」
「当たり前よ。ポリコックはもともと、ブエヌス軍の隊長だったんだから」
メナが自慢げに言った。
「なるほどな」投げ飛ばされた情報局員が埃を払いながら立ち、納得したような台詞をはいた。「ブエヌス・シティー独立防衛軍のキンバレンか、そういや噂で聞いたことがある」
「そうか、そのキンバレンがおまえなのか」
情報局員たちは、珍しいように言った。
「昔の話だ。おれは、ヴァリアボマーのAS乗り、ポリコック・キンバレンだ」
ポリコックは、傍らの上着を拾い、袖を通した。
「どうだいレッド、凄いだろ。ブエヌスの格闘技は――」
ビンクルが、レッドに語りかけた。
レッドは、退屈しのぎにはもってこいと言うそぶりで応えた。
「はい。じゃ、集金ね」
メナが、微笑みながら、小さな麻袋を情報局員たちに突き出して言った。
「仕方ないなぁ。次は、ハーブベイに戻ったら、湾内ボートレースで勝負だな」
情報局員たちは、苦笑いをしながら、麻袋に銀貨を入れた。
「楽しみだな」
ポリコックが両腕に拳をあてて言った。
「ヒエロントでは、コンサートが出来なかったんだから、インカナディアがカンパするのは当然よね」
メナが麻袋の口を搾りながら言った。
「それは、おれも残念だ。ヴァリアラバーズのライブはそう見れるもんじゃないからな」
情報局員の一人が言った。
「リクロスでもOKが出てるわ。そのときは、ちゃんとお代をいただきますからね」
メナのあっけらかんとした態度に、格納庫には笑いが響いた。
相変わらずの空気が流れるヴァリアボマーのブリッジ。
ヘッドセットをつけた通信員が振り向いた。
「旦那。リクロス・クロスから遠距離通信です」
「よし、つなげ」
リジェロが、ブリアトをチラリと見て言った。
「正面モニターに画像、出ます」
画像は出たが、インカナディアの無線設備の例にならい、ノイズがひどいものだ。
「ようこそ、リクロス・クロス・シティーへ」細身で甲高い声の男が、高価な正装で映し出された。「市長のオコナーです。インカナディア様のご来訪、大変にお待ち申しておりました」
その映像を見たシーベルは、小さく鼻で笑うと、
「警備部長、カノス博士の部屋に行って参ります」
と言い、ブリアトが頷く前にブリッジを後にした。
ブリッジを出たシーべルは、「フェルド・オコナーか。身内にしておくのも恥ずかしい男だ」と吐き捨てるように言った。
オガーナの夕陽が、ヴァリアボマーの陰を長く大地に焼き付けるころ、甲板でアルファガインを整備するレッド・ローガンの頬を通り過ぎる風が吹いてくる方向には、“青の森”の願いであるカルマシェル鉱脈封鎖の第一地点リクロス・クロス・シティの色とりどりの明かりが見えていた。
「見知らぬ星で怪物退治か……スティングレーのみんなはどうなったんだろうか」
レッドは、遙か遠い昔に別れたかのような宇宙軍の仲間の身を案じた。
アルファガインの白い機体が夕陽にそまり、オレンジ色に輝いた。
次回予告ビンクル 「今回は、さすがに疲れたよ。なんたって、ややこしかったな」 メナ 「オンブライトシェルとカルマシェルをくっつけてシェルデザイア……もう@@@」 ポリコック 「カルマシェルの結晶がマカルマ石、って言うんだったな」 ドミニコ 「でも、“闇”と闘うんだろ、僕たち。アルファガインは大丈夫かな」 ブリアト 「心配はいらん。インカナディアの最新式ASジーニアもある」 シーベル 「ワタクシのフームビィも完璧だ」 レッド 「というわけで、次回『光輪伝承アルファガイン』 第9話 「アルファガインの涙」 カノス 「研究の成果は間違っていなかったでござる」 |