「サラ?」メナは、レッドの発した言葉に顔をしかめ、「レッドはインカナディアに知り合いがいるの?」とポリコックを見て言った。
「どうかな。だいたい、あの赤い髪は、確かシーベル・ベクターと言う名のハズだ」
ポリコッックが言った。
「さすが事情通!」
ビンクルが感心して言った。
シーベル・ベクターは、グリナーシャ親衛隊の先頭の機体にゆっくりと近づきながら、ちょうどメナたちの脇を通り抜けざまに言った。
「ヴァリアボマーのクルーは下がれ。ここからはインカナディア情報局が対応する」
「下がれって!?この状況が分かって言ってるの!」
メナはシーベルを睨み返した。ポリコックとビンクルは、メナを制して、シーベルに作り笑いを向けた。シーベルは、それを無視するかのように脚を進めた。
「なにするのよ」とメナ。
「気持ちはわかるが、インカナディアを怒らせたら商売上がったり、コンサートだってできなくなる」
ビンクルが、我ながら情けないという表情で言った。
「その者たちも宮殿に来てもらいたい」
機械兵の声が響いた。
「彼らは、プローバーでございます。宮殿に立ち入るなど、はなはだ失礼かと」
シーベルの台詞は、いちいちメナの気に障った。
レッドは、そのやりとりを、目を凝らして見ていた。
「サラ……ではないのか。当たり前だ。ここは別な世界――それに、あんな怖い顔はしていないよな」
レッドは、その人物が、自分の恋人サラ・コネリーではないことを納得しようとしていた。
「――詳しいことは宮殿でお話しする。先ほどの力が、今のオガーナには必要なのだ」
機械兵は重圧感のある声で言った。
「……あいわかりました」シーベルは、メナたちのアクティブシートがうずくまり、ケッシの機体を抱えるようにするのを見ながら、表情を変えずに、「そういうことだ。機体を立て直して親衛隊の指示に従うのだ」と言った。
「いいざまだわ」
メナは、シーベルに向かって小さく舌を出した。
「どうするポリコック?」
ビンクルが解決策を問うた。
「俺たちを“命の恩人”と言っていた。ケッシの様態もよくなさそうだ。ここは、機械兵の言うことを訊いたほうが良いだろう。それに、“青の森”の宮殿には、そうそう入れるモンでもないしな」
「女王グリナーシャにも逢えるかしらね」
メナは目を輝かせて言った。
「それは、わからんがな」ポリコックはそういうと、アルファガインの操縦席で、シーベルに目を釘付けにされているレッドに声をかけた。「レッド。もう一度、森の中に行く。アルファガインは、あの機械兵に任せるんだ」
レッドは、ポリコックの身振り手振りで、状況を把握し、アルファガインを直立させ、操縦席から駆け下りた。
「ちょっとは、通じるようになったね」
メナは、レッドとのコミュニケーションがだんだん取れはじめていることが嬉しかった。
ヴァリアボマーの甲板には、ブリアト・フォルゲンの新型アクティブシート“ジーニア”の勇姿があった。
ブリアトは輸送艇を“青の森”にほど近い平地に着陸させ、現場に向かう途中、ヴァリアボマーに合流していた。
ヴァリアボマーの一室では、ブリアトとカノスがソファーに座り話をしていた。
「博士、シーベルに宮殿の様子を探らせるとは言っても、新しい発見があるとは思えないのだが……」
ブリアトは、ソファーに腰を深く埋め、くつろいだ姿勢でカノスに訊いた。
「我々は、カルマシェル鉱脈を抑えたものの、グロフライン力線の効果が確認できただけで、いまだに、オンブライトシェルとの相乗効果による高出力エネルギーの発生は推論の域を抜け得ない。“青の森”は、その技術を持っていた歴史的に貴重な存在でござる。些細な機会でも利用しなければ」
「しかし、伝説の機械兵にしろ、“青の森”は、あのような旧世代の骨董品ばかりで、今更、オンブライトシェルを定常発生させる方法など叩いても出てはこないだろうに」
「確かに“青の森”は、両者を安定させる技術を自ら放棄してしまった。グリナーシャも、インカナディアに隠し事をするとは思えないでござるからな」
「しかし、機械兵の言っていた“世界に迫る闇”は、気になるところだ。これはどう考えるかだが――」
「――ワタシの個人的見解からすれば、彼らの言う闇とは、先ほどのワーカーシートに起きた超常現象に関係があると思えるでござる」
「なるほど、おもしろい話だ。ビーラム、いや、アルファガインが重力異常とともに出現し、“青の森”ではワーカーシートが怪物になる。充分、闇がせまっていると納得できるよ」
ブリアトは、インカナディア情報局の警備部長として、この状況を鼻で笑うことで、人ごとのように現状認識をしてみたが、事実は、自分が解決しなければならない問題の不可解さから逃れることはできなかった。
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