光輪伝承アルファガイン

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「旦那、あれは、インカナディアの輸送艇ですよ」

 ヴァリアボマーの乗組員の一人が、空を指さした。

 ブリッジを腕を組み、右往左往していたドルマン・リジェロは、その声で、窓枠に飛びつき、空を見上げた。

「貸せィ!」と、隣にいた乗組員の首から、双眼鏡を奪うと、目を凝らすように、それを構えた。その視点は、輸送艇の翼を捕らえた。リジェロには見慣れた、ワシをモチーフにしたデザインのマークが描かれていた。

「ブリアト様だ――まったく間が悪い、ビーラムを盗まれたというときに」というと、振り向きざまに操舵席のマリー・リジェロを見た。「マリー、ブリアト様だ。ヴァリアボマーを出せ!」

「なんでさ。出ていったって、ポリコックたちは出てっちまってるじゃないか」

「探しているフリが大事なんだよ。盗まれて、じっとしているとわかりゃ、契約金の払い戻しだってあるかもしれんからな」

「メナはどうするんだい。メナを待ってるから動かないんだろ」

「さっき、うちの信号弾が上がった。そっちの方向に向かって動き出せばいい」

「メナが帰ってきたらどうするんだい」

「いいから出せ。ブリアト様に見切られては、どのみちやってられないんだ」

「ちッ、仕方ないね」マリーは、舵の手元にあるハンドマイクを手にとった。「ヴァバリアボマー発進するよ。機関室、いいかい!」

「どうぞ、おかみさん。いつで行けます!」

 ドミニコ・ワンマークの声が、素早く帰ってきた。



 アルファガインは、グラビティーマグナムの発射準備を整えていた。

 吸血鬼は、空に浮かぶアルファガインをモノ珍しく見るように、口を開いたまま、静止していた。

「いただきだ!」レッドは、トリガーに指をかけた。「グラビティー・マグナム、シュートォー!」

 アルファガインの構えた銃から、青い光が発ちはじめた。

「ホントに撃つの!」

 メナは、吸血鬼の中にいるケッシの身を案じた。

  ブワオーーーーン

 アルファガインから、空気をゆがめる光が放たれた。

 レッツォーも、ゲルドランドのブリッジからその光景を見た。

 ゲルドランドから出撃した、ケリソンも、アクティブシート“ジョッシュワイ”の操縦席から、間近に、アルファガインの威力を見て、「あ、あんなやつは、つ、捕まえられねぇ」と、声を震わせた。

 光は、吸血鬼に命中した。

 吸血鬼の皮膚=装甲は、見る見るうちに、塵と化して、光の圧力で後方に流れた。

「レッドぉ、もういい!ケッシが死んじゃうよォ」

 メナが、ガロックの操縦席で、ポリコックに泣きつくようにしながら叫んだ。

 吸血鬼の装甲には異変が起こっていた。

 ヌメヌメとした、有機的な部分は、ワーカーシートのそれらしく、鉄の肌に戻っていくのだった。

「やれたか?」レッドは自問した。「シンディ、目標の生体反応は?」

「パイロットが一名。体温38度。脈拍80毎分、生存の可能性85パーセント」

「よし!」レッドは、満足そうに頷くと、吸血鬼、いや、すでにワーカーシートに姿を戻しつつある機体に近づいた。

「大丈夫なのか?」

 ビンクルは、腹部の装甲が、吸血鬼の体当たりで溶解しているブラウマンを、直立の姿勢にしながら、アルファガインを見守った。

 アルファガインは、ワーカーシートの操縦席のハッチをこじ開けた。

「もう、大丈夫だよ」

 レッドの視線は、操縦席で膝を抱えてうずくまる少年ケッシを抱擁するように微笑んでいた。

「いいぞ!看病してやれ」

 レッドは、そう言うと、ポリコックの機体に向かってアルファガインの手を振らせた。

「助けた、というのか……」

 ポリコックは驚いた表情を隠せなかった。

「いいぞ。いいぞ、宇宙人。おまえはやっぱり友達だ!」

 ビンクルは嬉しくなって、ブラウマンをレッドのもとに走らせた。

「ここはひとまず撤退だな……」ケリソンは、つぶやくと、機体をゲルドランドに向けた。

「ドルマンめ、とんでもないモノを拾いやがったな」レッツォーは、そう言うと、「ゲルドランドは“青の森”から撤収する。ケリソンを引き上げて、全速後退するぞ」と、きびすを返した。

 

 

 空から、パラシュートが3つ、アルファガインめがけて降って来ていた。

 そこに吊されているのは、インカナディアの警備局用アクティブシート、シーベル・ベクターの専用機“フームビィ”と、一般警備員用の“ティングサー”だった。

「混乱は収束したか」シーベルは、表情を変えずに続けた。「――警備部長、戦闘は終了しました。任務を現状確認に変更します」

「あれはインカのASだ。こりゃ、とっちめられそうだな」

 ポリコックは、しかめ面で言った。

「異星人の力……なんという威力だ」

 ブリアトも、吸血鬼には驚いていたが、それよりもアルファガインの機能に興味を惹かれていた。

「警備部長!“青の森”から熱源反応あり」

 輸送艇の通信士が、計器を見ていて急に叫んだ。

「なんだと。まだ、潜んでいたか!」

「――ン?あ、し、失礼しました。“青の森”の専用信号を確認。識別信号は――グリナーシャ親衛隊です」

「親衛隊だと。“青の森”から出てくるのか、親衛隊が?」

 ブリアトは慌てて聞き返した。

「間違いありません。境界線に向かっています」

「クッ、シーベル、聞こえるか。グリナーシャ親衛隊が出てきた。丁重に対応しろ。私もジーニアで直ぐ出る」

「――イエッサー」シーベルは応えると小さく、無線には入らないように言った。「グリナーシャ親衛隊か。生きてるうちに逢えるとはな……」

 シーベルのフームビィら、3機はパラシュートを切り離し、着地すると、右腕を高くかざし、森の境界に近づいていった。敬意を表するポーズだ。

 

 “青の森”の深い森林の切れ間から、巨神が出てくるのが分かった。

「新手なのか?」

 レッドは、アルファガインを、ワーカーシートのハッチをこじ開けたままの姿勢で固定して、コックピットのキャノピーを跳ね上げていた。

 ポリコック、メナ、そしてビンクルは、機体から降りて、ワーカーシートから、ケッシを抱きかかえて、地べたに横にしてあげていた。ケッシは、肩で小さく息をしていたが、生命に別状はないようだった。 

「おいおい、ありゃ、グリナーシャ親衛隊じゃないのか」

 ビンクルが、目を丸くして言った。

「そ、そうだな。写真で見たことがある」

 ポリコックが相づちを打った。

「女王グリナーシャの親衛隊――伝説の機械兵の?」

 メナが目を輝かせて言った。 

 伝説の機械兵5機は、森から荒野に踏み出すと、ゆっくりとアルファガインに近づいた。威圧感というよりは、威厳が漂っていた。

「まて、レッド。動くんじゃない!」

 ポリコックは、コックピットに滑り込もうとするレッドを制した。

「今度は、何が起こるんだよ」

 レッドは、キャノピーに手をかけたまま、動くのをやめた。

 機械兵――グリナーシャ親衛隊は、停止すると、アルファガインを挟んだ向かいから進んでくるインカナディアのアクティブシートに向けて、右手を掲げ、一呼吸置いたように見えた。

「インカナディアは失態を起こした」

 それが、機械兵の第一声だった。

「――しかし、我が森の子の生命を救った。礼を言わせてもらう」

 その声は、機体の威厳に負けず、より深い響きを持っていた。

「――女王グリナーシャより、懇願の言い渡しがある」

 それを聞く誰もが静寂を保っていた。

「オンブライトシェルの力が、シェルデザイアと融合し、闇の世界を呼び覚まそうとしている。――子を救ったように、闇からオガーナを護っていただきたい」

「どういうことよ」

 メナは、ポリコックにささやくように訊いた。

「わからん」

 ポリコックは大きな体を無理にかがめながら言った。

「でも、なんか、やばそうな感じだぜ。闇の世界だってよ」

 ビンクルも、小声で言った。

「私は、インカナディアのシーベル・ベクターです」シーベルは、凛とした声で応えた。「女王のお言葉、確かに賜りましたが、何より身分低き故に、お答えには即答あいなりませぬ。とりまくご様子と、詳しき話しをお聞かせ願いたいと存じます」

「よかろう。宮殿に案内しよう。アクティブシートを降りられたい」

 機械兵の声が言った。

「あいわかりました」

 シーベルの声がスピーカーから聞こえると、フーブビィの胸のハッチが開いて、中から、白い操縦服を着たシーベルが出てきた。操縦用のヘルメットを被っていた。

 シーベルは、着地するとヘルメットを取った。

 長い赤い髪が、風に揺れた。

 レッドは、それを見て驚いた。

「う、うそだろ――サラ、サラ・コネリーじゃないか!」

 それは、レッドの恋人と、うり二つだったのだ。

 

次回予告

メナ    「シーベルって女、私嫌い!」
ビンクル  「どうしたいきなり」
メナ    「だって……美人だからって、いい気になってるのよ」
ポリコック 「レッドの彼女にそっくりだっていうじゃないか」
ドミニコ  「そうか、ヤキモチだ(^^)
ブリアト  「貴様ら、宮殿の中だ。私語を慎め!」
メナ    「あんたに命令される筋合いなんて、ないんですからね!」
レッド   「というわけで、次回『光輪伝承アルファガイン』

第8話 「シェルデザイアの秘密」

ドルマン  に『ヴァリアボマー緊急発進!』
マリー   「そんなの契約外ですからね!!」
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