確かに自分は、この業界に憧れて入った。当初は、それなりに楽しさもあった。
でも実際は、中身はそれほど輝かしいものではなかった。よく見てみれば、すでにこの業界は、輝かしさの最盛期はとうに過ぎ、内部では陳腐化と劣化が進んでいた。だからこそ、自分がこの業界を欲していたのではなく、「この業界が」、自分のような安く働く若者を欲して、そんな若者に依存していただけだと気づく。
そこで、若者はこう告げる。
「もうここにはいたくないんだよ」
かつては夢と憧れだった。自分の人生のすべてだった。でも違った。その世界も、結局は自分と同じ、つたない人間がささやかに動かしているだけの世界だった。それは神ではなかったし、そこに神はいなかった。
先に「神が死んだ時」と書いたが、正確には「神も自分と同じ人間に過ぎなかったと判って、メッキがはげる時」といったところだ。
似たような連想は、ほかにも応用ができるだろう。
子供にとって、親は一時は神に等しい。しかしいつか、自分と同じ人間にすぎないと悟る時が来る。
スピリチュアルが流行る世の中だが、ある宗教に飛び込んで、幻滅して脱退する人もいるだろう。
あんなに憧れていたはずのブランドものに、いつしか心が冷めてしまった時を迎えるとか。
なんでこんな事を考えたかというと、これからしばらくの間、日本の様々な組織や人物に、「神の死」が訪れて、「もうここにはいたくないんだよ」と、そこから別れを告げて、自分自身の道を歩き出し始める事が増えるんじゃないかと思ったから。
例えてみれば、戦後の天皇の人間宣言みたいな、メッキのはげる時といったものか。
「神の死」と言うと悲劇みたいだが、幻想が壊れて自分自身に戻るという事は、悪い事ではないだろう。